12 人見知りと核弾頭娘ー2
「……あれ?」
雑務を終えると店内を見回す。そこに本来いるハズの人物がどこにも見当たらない。
トイレにでも行っているのだろうか。そう思いカウンターの方へ戻ろうとしたら意外な場所で遭遇してしまった。
「ちょ、ちょっと!」
「はい?」
「こんな所で何やってんの!?」
空席に座っている紫緒さんを発見。ついでにのんびりと寛ぎながらスマホを弄っている姿も。
「友達からメッセージ来てたんで返信を」
「サボってるのはマズいよ。こんな現場を店長に見つかったら怒られちゃう」
「でもさっき先輩が休憩してろって言ったじゃないすか」
「いや、そういう意味で言ったんじゃなくてさ…」
解釈が酷すぎる。知能指数を疑ってしまうレベルで。
周りの人間に気付かれないように内緒話を開始。彼女を立たせた後は強制的に入口近くのカウンターへと動かした。
「やっぱり仕事中にメールとかやったらいけないもんなんすか?」
「そりゃ当然だよ。お客さんへの印象が悪くしちゃうもん」
「ならアプリは?」
「スマホを弄るの自体アウト」
「ちぇ……つまんないの」
「えぇ…」
説教に対して不服さを表した舌打ちを浴びせられる。隠す様子を微塵も感じさせる事なく。
「はぁ…」
それから2時間近くこんな状態が続く事に。あまり戦力にならないパートナーとフロアを駆けずり回った。
「お疲れさんっした! また明日!」
シフトが終わると紫緒さんが店を出て行く。威勢のいい挨拶を付け加えながら。
「雅人。アンタ、明日も来れる?」
「え? どうしてですか?」
「瑞穂ちゃん、急用入っちゃったの。だからアンタ明日も来てくれない?」
「は、はぁ……そういう事なら」
入れ違いに店長からシフト変更の要望が飛んできた。さすがにフロアを新人の子1人に負担させる訳にはいかないのでしぶしぶ承諾。貴重な自由時間が潰れてしまうが仕方ない。元々、休みを多く貰っているので文句なんか言えやしなかった。
「ただいま」
労働が終わると自宅に帰還する。暗い夜道をタラタラと歩いて。
「おかえり。アンタ、ご飯は?」
「食欲ないからいらない。帰りにコンビニのおにぎり食べたから良いや」
「ちゃんと食べないと体壊すわよ。まったく…」
母親の注意から逃げ出すようにリビングを移動。そのまま洗面所へとやって来た。
遅い時間なのに両親揃って香織と一緒にテレビを視聴中。明日は仕事が休みなのかもしれない。
「ん?」
「……フンフンフ~ン」
洗顔しているとバスルームの方から鼻歌が聞こえてくる。消去法で華恋であるとすぐに判明。磨り硝子の向こう側に肌色のシルエットを見つけてしまった。
「うぐっ…」
更にカゴの中に彼女の着替えを発見。しかも白いブラジャーが無防備に垂れ下がっているというオマケ付き。
ごまかすように視線を逸らす。急いで顔を洗うと慌てて洗面所を飛び出した。
「……あぁ、もう」
どうも最近調子がおかしい。華恋を女の子として意識してしまっている。その原因は先日のアクシデントだろう。家族として接する為に距離を置いていたのに力ずくで唇を奪ってくるなんて。戸惑いばかりが溢れてきた。
そしてそれは颯太も同じ。あの場に居合わせた彼の心は破滅寸前に。そのせいで自分達が双子であるという真実は告げていない。キス現場を見られた今となっては隠しておかなくてはいけない極秘事項となってしまっていた。
「疲れた…」
自室にやって来ると刀で斬られた侍のようにベッドに倒れ込む。着替えが面倒なので制服姿のままで。
「はぁ…」
無地の壁に向かって溜め息を吐いた。同時に頭の中に1人の人物の姿を思い浮かべる。心に発生したモヤモヤを解消する為にポケットからケータイを取り出した。
「……どうしてるだろ」
あの日から一度も連絡を取っていない。バイトも辞めてしまったから顔を合わせる機会がゼロに。
SNSの日記も更新が停止中。無論、自分のページにも足跡すら付いていない。以前の宣言通りに連絡を断とうとしているように感じられた。
「嫌われちゃったかな…」
最後にあんな別れ方をしたのだから仕方ない。けれど自分には彼女を忘れられない理由が存在した。
1つは兄である鬼頭くん。もう1つは去り際に残してくれたバイト先の新人の子。翌日もその後輩と共にバイトに精を出す事になった。




