12 人見知りと核弾頭娘ー1
「んしょっ…」
昼休み後の清掃時間、ガムテープを何度も床に張り付けて剥がす。カーペットに付着したゴミを集めていた。
「あそこってどうやって先に進むの?」
「あれ、中に入れないんだよね。ただの扉らしい」
「え? あんな意味ありげな場所に設置されてるのに!?」
「うん。だから無視しちゃって構わないよ」
丸山くんと作業とは無関係の話題で盛り上がる。趣味全開の内容で。
現在の担当場所は音楽室だった。月が変わって席替えしても班は変わらないのでメンバーは同じ。
鬼頭くんは委員会の用事で遅刻なのでいない。女子2人はピアノを演奏して遊んでいた為、2人だけでの清掃活動となっていた。
「アイテムコンプは1周じゃ無理なんだっけ?」
「だね。2周目じゃないと出現しない物もあるから」
「うひぃ、しんどそう……そこまでやり込むのキツいなぁ」
最近は休み時間になる度にクラスメート達とゲームに没頭している。彼以外にも趣味が近い人間が何人かいたので皆で集まって対戦やら共同プレイ。華恋も女友達を作ったので別行動が多い。リア充グループからは程遠いオタクな毎日を過ごしていた。
「そういえばバイトどう? 楽しい?」
「……うっ」
「どうしたの?」
「い、いや……別に」
「そう?」
脳内でゲーム映像をリプレイしていると無関係の話題が飛んでくる。あまり思い出したくない放課後の予定についての質問が。
「やだなぁ…」
時間が過ぎ去るのが億劫で仕方ない。その原因はバイト先の新人の子。顔を合わせるのが嫌なので店に向かう足取りが重くなっていた。
「悩みがあるなら聞くけど」
「え~と、丸山くんってバイトした事ある?」
「ん? ないよ」
「そっか…」
労働経験が無いなら彼からの共感は得られないかもしれない。ただ優しい言葉をかけてくれただけでも感謝をしたくなった。
「……今日は何時までかな」
学校を出るといつも通りバイト先に向かう。すっかり見慣れてしまった住宅街を歩いて。
「ちぃっす」
「あ…」
その道中で自転車に乗っている女子高生に遭遇。セミロングの女の子が後ろからベルを鳴らしてきた。
「ど、どうも」
「今日暑いっすね。汗かいちゃった」
「そうかな。割と涼しい気がするけど」
「あ~、腹減った。ここ来る前に何か食べてくれば良かったわ」
「……頑張って」
微妙に成立していない会話を交わす。どっちが目上の人間かが分からないやり取りを。
「おはようございま~す」
合流した後は挨拶をしながら2人して裏口から入店。鞄をロッカーに突っ込んでエプロンを身に付けた。
「今日は何やるんすか?」
「基本的にはこの前と一緒かな。お客さんが来たら席まで案内して、注文した物をテーブルまで運んで、帰ったら後片付け」
「了解っす」
元気良く返事をする新人の子と一緒にフロアへと飛び出す。そこそこに人がいる現場へと。
「雅人、紫緒ちゃんの世話よろしくね」
「……は~い」
同時に店長からの指令を受ける事に。乗り気ではないが当たり障りのない返事をした。
「先輩、よろしくどうも」
「あ、うん。こちらこそ」
仕事をこなしながら後輩への指示も出すのが最近の日課となっている。一応は先輩という括りになるので。
紫緒さんは言われた通りに動いてくれるのだが動作が全体的にやや遅め。まだ不慣れだから仕方ないのだが少々やる気がない様にも感じ取れた。
「先輩、言われたテーブル片付けてきました」
「あぁ……じゃあ他のテーブルもお願い」
「もう全部片付けましたよ。食器置きっぱなしの席、もう無いっす」
「……あ、そう。ならそこの棚に砂糖入ってるからテーブル回って補充しておいて」
「了解~」
本棚の前に立つとバラバラに並べられた雑誌を整頓する。相棒の動作に目を配りながら。
「んんっ…」
やはりどうも俊敏さが感じられない。移動中も地面を擦るように歩いているし、声に宿る覇気も皆無。
彼女も優奈ちゃん同様に先輩と呼んできた。ただその呼称からは年上に対する敬愛さは微塵も感じられなかった。
「先輩、砂糖の補充終わりました」
「お疲れ様。今は他にやる事ないからその辺で休憩してて」
「は~い」
待機命令を出すと紫緒さんがその身を翻す。小さく手を振るリアクションと共に。
「はぁ…」
悪い子ではないのだけれど前回の後輩と比較せずにはいられない。態度から器量から何から何まで。そして一番キツいのが彼女が最も苦手とするタイプという点だった。