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11 手錠と鎖ー5

「ただいま」


「おう、おかえり」


「ゲームどうなった?」


「たった今、自己破産の手続きが済んだ所だよ」


「……ムチャクチャだね」


 リビングに戻って来ると1人で黙々とゲームを続けている友人の姿が飛び込んでくる。ついでにデカデカと表示された破産という文字も。


「いやぁ、楽しいですね。華恋さん」


「そ、そうですね…」


 それからレンジで温めたパスタで昼食を開始。一足先に食べ終えた妹には颯太の対戦相手を務めてもらった。


 楽しそうに話しかける友人に対して彼女は明らかに顔が引きつり気味。趣味は合うハズなのに生理的に受け付けないらしい。


「華恋さんは交際してる男子とかいないんですか?」


「え……急に何ですか?」


「いや、ちょっと気になったんで。いるんですか?」


「んん…」


 CPUの行動中に2人が興味深い話を始める。色恋沙汰についての話題を。


「い、いません…」


「本当に? いやぁ、そうなんだ」


「……はい」


 華恋からの返事を聞いた颯太が大喜び。きっと下の名前で呼ばれたから好意を寄せられていると勘違いしたのだろう。


「挽き肉おいしいな…」


 彼女の転校する日に告白して玉砕したハズなのに。意識の中ではビンタされた過去も照れ隠しな行動として美化されているのかもしれない。


「俺、今までに誰かと付き合った事ないんすよね」


「そ、そうなんですか…」


「華恋さんは彼氏いた事ありますか?」


「え?」


 颯太が調子に乗ってプライベートな質問を連発。2人のテンションの差は傍から見て笑えるぐらい滑稽なものだった。


「……言って良い?」


「な、何を?」


 華恋が問い掛けに対する答えを何故かこちらに振ってくる。意味深な目付きも付け加えて。


「まさか…」


 すぐさまその真意を理解。同時に嫌な予感が心の中を覆い尽くした。


「……私は今までに男性と付き合った事が一度だけあります」


「え?」


「去年の話です。前にこの家に住んでいた時に…」


「待って待って、ストーーップ!」


「ん…」


「一体、何を言うつもりなのさ!?」


 思わず立ち上がって叫ぶ。緊急事態を防ごうと。


「別に。ただ質問に答えようとしただけ」


「へ、変な事言わないよね?」


「変な事って?」


「いや、だから…」


 問い詰めようとしたが慌てて口を塞いだ。自分でバラしてしまっては意味がないので。


「な、何々。なんなの…」


 間に挟まれていた友人もパニック状態へと陥る。視線を左右に何度も動かしていた。


「私が付き合っていた方は颯太さんとも顔見知りの方で、今も仲良くさせてもらっています」


「ちょ…」


「いろいろあって別れてしまった事になっていますが、私は今この瞬間もその人の事を愛しています」


「や、やめてくれ!」


「私が付き合っていたのは……そこにいる雅人くんです!」


 必死に言い訳を繰り広げるが間に合わず。隠し事が水泡に帰す瞬間が到来してしまった。


「……は?」


「今まで黙っていてごめんなさい。私達、ずっと付き合っていたんです」


「ひいいぃ!」


「さっきは交際してる男性はいないと嘘をつきましたが、本当は今でも特別な関係なんです。少なくとも私の中では」


「や、やめてくれぇ…」


 自分でも情けないと思うような声が口から漏れる。不良にカツアゲされているイジメられっ子のような弁明が。


「もう良いよねバラしちゃっても。ずっと内緒にしておくなんて良くないし」


「な、何言ってるのさ。バラすも何もそんな事実なかったじゃないか。嘘つかないでくれよ」


「嘘じゃないもん。ちゃんと告白もされたし、デートもしたし、ほっぺにキスだってしたもん」


「う、うわああぁあぁぁ!!」


 両手で頭を押さえて喚いた。本心を表した台詞を。


「あ、あの……今、華恋が言った事は全部嘘っぱちだからね」


「へ?」


「僕達が付き合ってる訳ないじゃん。だって兄妹なんだし」


 怒鳴り付けようと考えたが別の行動をとる。友人に対する言い訳を。


「はぁ? 兄妹?」


「……あ」


「兄妹ってどういう事だよ。雅人と華恋さんは親戚同士なんじゃ…」


「いや、そうじゃなくて…」


 だがその行動は新たな誤解を生む羽目に。自分で自分の首を絞めてしまっていた。


「兄妹みたいに仲の良い恋人同士って意味だよ。ね? 雅人」


「だ、だから違うんだってば。頼むからこれ以上、混乱させるような発言はやめてくれ」


「なんでよ。私は事実を有りのままに述べてるだけじゃない」


「どこがさ!」


 説明中に華恋が横から割り込んでくる。虚偽を助長しようと。


「颯太、実は今まで内緒にしていた事があるんだ」


「え?」


「僕と華恋は親戚ではなく、血の繋が…」


「せいっ!」


「ぐっほ!?」


 まずは双子だという関係性をバラしてしまった方が良いかもしれない。その意見を実行ようとしたが強烈なミドルキックが腹部に飛んできてしまった。


「ゲホッ、ゲホッ!」


「ちょっと、それはまだ内緒にしておくって約束でしょ。次の誕生日を迎えてから皆に言うって決めたじゃない」


「はぁ?」


「私達が結婚するって発表はダメだよ。バラすには早すぎるってば」


「い、いきなり何を言いだしてるの!?」


「あっ、いっけな~い。私、自らバラしちゃった」


 華恋が頬を手で押さえながら赤らめる。棒読みな台詞と共に。どこからどう見てもそれは芝居でしかない。けれど彼女の発言を真に受けている人物が約1名存在していた。


「け、けけけけ結婚!?」


「はい。私達は昔から婚約を定められた許嫁だったんです」


 友人が大声で発狂する。奇形な絵画のように歪みまくった表情で。


「ち、違うから。今のは冗談だから」


「ふぇ? 冗談?」


「当たり前じゃん。まだ高校生なのに結婚とか有り得ないよ」


「むぅ、確かに…」


「ね? 華恋?」


 話題を正しい方向へと軌道修正。しかし声をかけた本人は不満タラタラの顔をしていた。


「……どうしてそんな嘘つくのよ」


「う、嘘じゃないし!」


「全部ホントの事だもん! 付き合ってる事もデートやキスの事も結婚の約束の事だって」


「さっきから大丈夫? ちょっとハシャぎすぎだよ」


 意見を真っ向から対立させる。それぞれハッタリと真実を武器に。


「そんなに認めたくないの? 私達が付き合ってる事」


「当たり前じゃん」


「絶対の絶対?」


「しつこいよ。何回聞いても答えは同じ」


「なら思い出させてあげる」


「え?」


 突然、彼女が目の前まで近付いてきた。視界を覆い尽くす勢いで。何をするかと思えば首に腕を回してくる。そのまま顔と顔を急接近させてきた。


「……っ!?」


 全身が硬直する。唇に違和感が発生したせいで。


「な、何するのさ!」


「きゃっ!?」


 咄嗟に肩を強く突き飛ばした。大声で叫びながら。


「ちょっと押す事ないじゃない!」


「だって!」


「ふっふ~ん、しちゃった。唇と唇のキス」


「うっ…」


 必死で口元を拭う。今のトラブルを無かった事にするように。


「もうこれで言い逃れ出来ないわね。決定的証拠を見られちゃったんだもん」


「どうしてこんな…」


「まだ言い訳すんの? 男のクセにみっともないわよ」


「気持ち悪い…」


 なぜ妹とキスなんかしなくてはならないのか。家族間での恋愛行為は世間的にタブーのハズだった。


「……気持ち悪い」


「あ、いや…」


「……うっ」


「あの…」


 不満をぶつけるように犯人の顔を睨みつける。ただその表情はみるみるうちに歪んだ物へと変化していった。


「あっ、あぁ…」


「待って待って」


「ああぁ……うわああぁぁぁぁぁ!」


「う、うるさっ…」


「あああぁぁぁん、やだぁぁぁぁ!!」


 更には両手で顔を覆い大声で喚き始めた。スーパーで駄々をこねる子供のように。


「気持ち悪いって言われたぁぁぁぁ!」


「ちょっ…」


「雅人に言われた、気持ち悪いって!」


「静かにしてくれぇ…」


 つんざくような叫び声に思わず耳を押さえる。口を塞ごうと手を伸ばすが振り払われてしまった。


「うわあぁぁ、うああぁあぁっ!」


「ひぃ~、うるせ…」


「あぐっ、うあぅっ…」


「ごめん。気持ち悪いなんて言って悪かったです」


 戸惑いながらも必死に宥める。場を収束に向かわせようと。


 ついでに華恋の背中越しに友人の姿を確認。そこにはショックで固まっている無表情があった。


「ああぁぁぁ、うあぁっ!」


「ご、ごめん。言い過ぎたよ」


「うぇえっ、ひぐっ…」


「気持ち悪いってのは嘘です。だから泣くのをやめてください」


「うぁ…」


 颯太に言い訳しようとしたが今はそれどころではない。優先順位を妹への謝罪に切り替えて行動開始した。


「……あとでコロす」


「へ?」


 頭でも撫でようかと考えているとドスの利いた呟きが耳に入ってきた。耳を疑うような台詞が。


「んん?」


 恐る恐る彼女の顔を覗き込む。その瞳からは涙の一滴すら流れてはいなかった。


「えぇ…」


 どうやらまた騙されていたらしい。卑怯とも思える手口によって。


「ぐっ…」


 泣きたいのはむしろこっちの方だった。妹にキスされ、その現場を親友に見られ、反論したら黙殺されて。


 動揺も悲しみも止まらない。手錠のような作り物の鎖が比べものならない程、強力な権力で縛り付けられた気分だった。

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