10 決断と決別ー4
「昨日はズル休みっすか?」
「……ズル休みっす」
更に放課後のバイトで後輩とも顔を合わせる事に。駅前で別れて以来の再会。声を聞くのも生存確認するのも2日ぶりだった。
「何してたの? どこかに出掛けてたの?」
「まさか。大人しく家で病人のフリしてましたよ」
「そうなんだ。てっきり友達と外で遊んでたかと思ってたのに」
「見つかったらヤバいですよ。うち、ここから近いんですから」
「あ、そっか」
気兼ねなく言葉を交わす。今朝までの落ち着かない気持ちは何だったのかと思える距離感で。
「お兄ちゃんを無視してるって本当?」
「まぁ…」
「仲直りしてあげないの?」
「ん…」
「やっぱりまだ怒ってるんだ?」
「決めたんです。もう二度と口利いてあげないって」
「ええぇ…」
どうやら鬼頭くんの語っていた話は真実らしい。すぐ隣には唇を尖らせた不機嫌面が存在していた。
「そ、そこまで嫌わなくても…」
「先輩だって見てたじゃないですか。あのアホの軽率な行動を」
「でも今日、謝ってくれたよ。反省してるみたいだった」
「今だけですよ。またすぐ暴走しますって。昔からそうだし」
「へ、へぇ…」
思っていたよりも短気な性格なのかもしれない。根は悪い人ではないと理解しているが。
「あの、先輩」
「ん?」
「今日この後……は時間がないからダメか。明日の放課後、暇ですか?」
「へ? 何で?」
「大事な話があるんです。良かったらスケジュール空けといてもらえませんか?」
「まぁ……いいけども」
「ありがとうございます」
翌日は店が休み。ついでに夕方の予定は埋まっていない。
話し合った結果、槍山女学園近くのファミレスで落ち合う事で決定。バイトが終わった後はいつものように駅での解散となった。
「ぬおおぉおぉぉっ!!」
帰宅後は自室に籠もる。枕を抱きしめながらベッドの上で悶絶。
まさか放課後に女の子からの呼び出しを受けるなんて。しかも大事な話があるという条件付き。
具体的にどんな内容を告げられるかは知らない。ただ頭の中ではとてつもなく都合のいい妄想が広がっていた。
「ふっふっふっ」
更に起き上がって枕に何度も拳を振り下ろす。瓦割りをする空手家のように。
「ん?」
喜びに浸っていたらドンという大きな音が反響。隣の部屋で何かが壁にぶつかった音だった。
「いけね、暴れすぎちゃったか…」
騒ぎすぎて迷惑をかけてしまったかもしれない。今の自分はいつになく気分が高ぶっているから。
謝罪をする為に部屋を出て廊下に出る。そしてノックをしないままノブを捻った。
「あのさ…」
「ぬおおぉおぉぉっ!!」
しかし扉を開けた瞬間に異様な光景が飛び込んでくる。床に転がる謎の物体が。
「えぇ…」
そこには抱き枕にしがみついて悶えている義妹が存在。ただし描かれているのは濃いヒゲの生えたオジサンだった。
「……うん」
どうやら謎の衝突音の原因はコレらしい。趣味は人それぞれなので深入りはしない。何も見なかった事にしてゆっくりと扉を閉めた。