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10 決断と決別ー3

「はあぁ…」


 翌日は重たい足取りで通学路を歩く。バイト先に向かう時よりも大きな緊張感を抱きながら。


 鬼頭くんとは顔を合わせたくない。だけど会わなければ新しい情報が得られない。辛い気持ちを堪えてでも話を聞かなければならなかった。


「あ…」


 そして教室へとやって来るとすぐに本人を見つける。席に座って頬杖をついている姿を。


「行こ、雅人」


「……うん」


 目が合ったがそれも一瞬だけ。華恋に促されたので席へと移った。


「ふぅ…」


 今日も放課後はバイトがある為、話をするなら休み時間中しかない。妹を連れて行くとまた喧嘩になりそうなので1人で行くしかなかった。




「え~と……今、時間あるかな」


「……ん」


「廊下……いい?」


 そして1時限目の終わりに彼に声をかける。教室の外を指差すと2人で移動。人が少ない中庭へとやって来た。


「一昨日はごめんね。変な事になっちゃって」


「どうして謝るの?」


「どうしてって…」


 話し合い早々に睨み合いを開始する。険悪なムードの中で。


「謝らなくちゃいけないのは俺の方だよ。また赤井くんに迷惑かけちゃった」


「え?」


「どうもダメなんだよな。感情のコントロールが苦手というか、下手くそというか」


「あ、あの…」


「本当は話し合うつもりだったのに。やっぱダメだわ、すぐ頭に血が上ってしまう」


「はぁ…」


 怯んでいたら予想外の展開に発展。対話相手の口からは謝罪の意志を示した言葉が飛び出した。


「いや、こっちこそ突き飛ばしたりしてごめんね」


「アレは掴みかかった俺が悪いよ。殴られて当然だわ」


「そんな…」


「あ~あ、何やってんだよ全く」


「はは…」


 どうやら彼は口論する気は無いらしい。ずっと抱いていた緊張感は瞬時に崩壊した。


「顔は大丈夫だった?」


「あぁ、平気平気。あれぐらい何て事ないから」


「怪我とかさせたらどうしようかと思ってたよ」


「う~ん……殴られた痛みより驚きの方が大きかったかな」


「た、確かに…」


 いきなり乱入してきた女に拳を振るわれたら驚きもするだろう。それが恋い焦がれている相手なら余計に。


「ちなみにあの人ってお友達?」


「へ?」


「声から予想するに女性っぽい気がしたんだけど。なかなか強い人だったね」


「え、えっと…」


「あの人にも謝らないとな。申し訳ありませんでしたって伝えておいてくれないかな」


「……うん」


 しかし彼の口からは理解不能な言葉が飛び出す。ワザとなのか天然なのか分からない台詞が。


「ただどこかで見た事あるんだよな、あの女性。赤井くんのお姉ちゃん?」


「いや、姉はいないよ。妹ならいるけど」


「じゃあ彼女?」


「それはないね」


 どうやら本当に気付いていない様子。嬉しい誤算が発生していた。


「そういえば優奈ちゃんってどうしてるの?」


「え?」


 砕けた雰囲気になってきた所で話題を切り替える。ずっと気になっていた喧嘩の進展具合に。


「う~む、アイツか…」


「あれから一度も連絡取ってないからどうしたのかなと思って」


「実は俺もあれから口を利いていない」


「えぇ…」


「ずっと無視されててさ。話しかけてもスルーされちゃうんだよね」


「そんな…」


 話を聞くとまだ仲直りしていないとの事。距離を置かせる為の彼の嘘という可能性もあるが。


「嫌われちゃったかもしれないぜ。多分だけど」


「……あはは」


「どうしよう、俺?」


「さ、さぁ…」


「弱ったなぁ。絶縁状態のままってのは耐え難いし」


 鬼頭くんが顎に手を当てて思案を開始。それは芝居とは思えないナチュラルな態度だった。


「しばらく放置してみたらどうかな。積極的に関わろうとすればする程、避けられる気がする」


「しばらくってどれぐらいの間?」


「1週間とか?」


「あっ、無理」


「そ、そう…」


 2人が元通りになる為の方法を提案する。けれどその意見に対してアッサリとした否定の言葉が返ってきた。


「ふぅ…」


 過剰なシスコンっぷりはともかく話し合いは平穏無事に終了。相変わらず仲は悪いみたいだが深刻な事態にはなっていないみたいで一安心。


 教室に戻ってくると華恋にも仲直りした事を報告する。『あっそ』という素っ気ない台詞だけが返ってきた。

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