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10 決断と決別ー1

「何か食べる?」


「……ん~」


「ジュースばっかりだとお腹空いちゃうでしょ? ご飯食べようよ」


「どうもねぇ、食欲が湧かないんだよねぇ」


 地元の駅にあるファミレスに入店する。雨が予想以上に降ってきてしまったので避難する為に。


 グラスに刺さったストローを吸ってはみたものの口に流れ込んできたのは底に溜まった水だけ。立ち上がって新しいドリンクを補充してくる気力すら無かった。


「私、お腹空いてきちゃったんだけど」


「なら何か注文すると良いよ。ステーキでもパスタでも好きな物を頼むといいさ」


「むぅ……けど1人だけ食べるのは嫌だし」


 華恋がメニュー本を何度も開く。ドリンクバーだけで粘る事、約30分。何もせずただ座り続けているだけ。


「ふにゃあぁ…」


 そして空腹が限界にきたのか彼女はヘナヘナと机に突っ伏してしまった。熱で溶けたバターのように。


「我慢しないで何か食べなって。別に気を遣わなくても良いからさ」


「う~ん、でもなぁ…」


「無理なダイエットは体に悪いよ」


 どうやら1人だけ食事を始める事に抵抗があるらしい。たまに見せる優しさの表れだった。


「……腹ペコぉ」


「ねぇ、どうして付いて来てたの?」


「え?」


 落ち着いたタイミングで本題を切り出す。目の前にあるオデコを指で突っつきながら。


「ずっと尾行してたんだよね? 家からなの?」


「は、はい…」


「あんな変装してまで僕の行動を調べたかったのか」


「……えへへ」


 追及の言葉に対して彼女が照れくさそうに笑った。反省のまるで見えない態度で。


「どうしてるかな…」


 視線を窓の外に移す。車が激しい水しぶきをあげている道路へと。


 走り去ってしまってからの彼らの行方を知らない。鬼頭くんはもちろん、優奈ちゃんからも音沙汰がなかった。


 ファミレスに来てから一度だけメッセージを送信。しかし返事は無し。まだ家に帰り着いていないのか、それとも単純に無視しているのかは不明だが。向こうから連絡が来ないのなら何をしても結果は同じだろう。残された選択肢は待機だけだった。


「だあぁあぁぁっ! もう無理!!」


「何々。どうしたのさ、急に?」


「お腹空いた。肉食う」


「そ、そっか…」


 考え込んでいると華恋が起き上がる。怪獣のような低い声で喚きながら。


「これとこれと、それからこれと」


 そして店員さんを呼ぶと次から次へと指差し注文。よほどお腹が空いていたのか普段では考えられない程の数を頼んでいた。


「ちょ……こんなにたくさん大丈夫なの?」


「大丈夫じゃないに決まってんじゃん。私1人で食べれる量だと思ってんの?」


「ならどうしてそんなに注文したのさ」


「雅人の分も頼んであげたんじゃない。さっきからずっと暗い顔してさ」


「いや、だって…」


「空腹だとやる気出ないわよ。いっぱい食べて元気出しなさい」


「……ん」


 子供を諭す母親のような一言が飛んでくる。気を遣ってくれている事が窺える台詞が。


 しばらくすると注文したメニューを持った店員さんが登場。2人分だとしても多すぎる程の品数でテーブルが埋め尽くされた。


「……これヤバくない?」


「だね。残すともったいないから頑張って消費しなさいよ」


「うへぇ…」


 視覚だけで満腹中枢を刺激される。咀嚼もしていないのに食欲が激減してしまった。


「……ねぇ、怒ってる?」


「え? 何が?」


「さっきの……無理やり割り込んじゃった事」


「あぁ…」


 ポテトを口に入れていると彼女が話しかけてくる。しおらしい態度で。


「ん~、特に怒ってはいないかな」


「ほ、本当!?」


「暴力が許される行為とは思わないけど、悪気があった訳ではないだろうし」


 もしあの場で華恋が飛び出してこなかったら鬼頭くんに殴られていたかもしれない。助けてくれた恩人を責め立てるのは間違えていた。


「な~んだ。なら心配して損した」


「ただし尾行してた事に関しては別! あれはダメだよ!」


「す、すんません…」


 帽子にサングラスという古典的な変装に呆れる。それを行動に移そうと考えた思考にも。


「しかし華恋の本性バレちゃったね、あの2人に」


「……別にいいもん。他の誰に嫌われたって構わないし」


「でも僕に嫌いって言われると?」


「やだあぁぁっ!」


「……ってなるんだよね」


 2人で顔を見合わせて苦笑した。漫才のようなやり取りがおかしくて。


「ふぅ…」


 鬼頭くんと口論になってしまった事は心苦しい。少しずつ打ち解けてきたのにたった一瞬で崩壊してしまったから。けれど心のどこかで安堵している自分がいた。


 彼は走り去ってしまった妹を追跡。仮に追いつけなかったとしても2人が帰る家は同じ。もし許しを乞おうとするなら考えられる行動は一つだったからだ。


「んむ、んむっ」


 怒られる不安から解放されたからか華恋の食欲は旺盛に。まだ口に唐揚げが入っている状態でピザを頬張っていた。


「美味しい?」


「んん、おいひぃ~」


「よく噛まないで食べると消化に悪いよ。あと過剰なカロリー摂取は脂肪になるから」


「たまに贅沢したぐらいじゃ大丈夫だわよ。平気、平気」


「しかしこれがキッカケで大食いファイターへと転身する華恋」


「ふ、太ったとしても嫌わないよね? 今まで通り接してくれるよね?」


「いや、ポッチャリしすぎた人は女性としての魅力が激減するよ。兄貴より重たい妹とか嫌だなぁ」


「……え」


 和んできた場でジョークを投下する。その言葉がショックだったのか目の前の人物は呆然としたまま手に持っていたピザを皿に落としてしまった。


「うぇえ~ん」


「んっ、むっ…」


 それから顔を押さえて泣き出した相方の代わりに孤軍奮闘する羽目に。いくら心配して出た台詞とはいえ失言だったと激しく後悔。無理やり口の中に押し込んで食べきった。


「うっぷ…」


 食事を済ませた後は満腹になった体を休ませる為に休憩。そして雨が小降りになってきた所でコンビニで傘を買って帰った。

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