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9 仲裁と制裁ー2

「やだ」


「だよね…」


 帰宅すると客間を訪れる。対面早々に要求を告げたが一蹴する言葉が返ってきた。


「それってさ、私に犠牲になれって事でしょ?」


「違う違う。飛躍しすぎ」


「じゃあ、どういう意味なのよ?」


「ちょっとだけ鬼頭くんと仲良くしてもらって意識を惹きつけてくれないかなぁと思って」


「それが犠牲でなくて何だって言うんだ、コラァッ!」


「ひいぃぃ!?」


 華恋が握り拳で机を叩く。破壊してしまいそうな勢いで。


「私にあの男と付き合えっての? 冗談でしょ」


「別にそこまでしろとは言わないけどさ」


「似たようなもんじゃない。そもそも私に得する事がないし」


「僕からのお願いって事ではダメ?」


「ダメ。いくら何でも理不尽すぎるわ」


「だよねぇ。はぁ…」


 好きでもない相手にアプローチしろなんて不条理でしかない。自分がその立場に立たされたらやはり拒むハズだ。


「絶対に協力しないからね。やるなら1人でやりなさいよ」


「……分かってるってば」


「つか何でそこまで肩入れすんの? 放っておけば良いじゃない」


「う~ん、でも可哀想な気がするんだよね」


「どっちが? 妹ちゃんの方?」


「どっちも」


 しつこく付きまとわれる優奈ちゃんも可哀想だけど、妹に邪険に扱われている鬼頭くんにも同情。他人事とは思えなかった。


「お人好しだね、アンタも」


「そ、そうかな」


「でもさっきの作戦には協力出来ないからね」


「はい…」


 誉められた事は嬉しいが心の底から喜べない。人間関係の複雑さだけが身に染みてきた。


「あの男ってそんなにシスコンなの?」


「かなり。2人が直接会話してる所は見た事ないけど、優奈ちゃんの話を聞く限りは」


「心配なのね、可愛い可愛い妹が」


「その度合いがオーバーなのが問題なんだよなぁ」


「アンタもちょっとは見習いなさいよ」


「……どうしてそういう話になるのさ」


 華恋が椅子の上で足を組む。腕も交差させながら。


「明日、本人に話を聞いてみようかな」


「シスコン兄貴の方に?」


「うん。とりあえず鬼頭くんを何とかしないと問題は片付かないっぽいし」


「ついでに妹に対する属性をどうやったら身につけられるのかも聞いておきなさい」


「やだよ…」


 目の前にいる人物も中々に理不尽極まりない。唯我独尊で傍若無人。


 優奈ちゃんが言っていた通り、自分達が入れ替わったら全て丸く収まるだろう。シスコンの兄にブラコンの妹の組み合わせで完璧だった。




「ちょっと良い?」


「ん?」


「優奈ちゃんの事で話があるんだけど」


 翌日、休み時間の教室移動中に鬼頭くんに声をかける。華恋がいないタイミングを見計らって。


「昨日さ、仲良くしてる男の子の話を聞いてみたんだよね」


「で、どうだった?」


「そういう相手はいないって」


「……ダメかぁ。やっぱり教えてくれなかったか」


「そうじゃなくて本当にいないんじゃないかな? 嘘を付いてるようには思えなかったよ」


「そんなハズはないんだよな。この前出かけた時もうっすら化粧してたし」


「この前っていつ?」


「先週の土曜日」


「へ、へぇ…」


 それは以前に後輩と遊んだ日。駅前でマンガの貸し借りや、ファミレスで食事をした日だった。


「昔は出かける時も行き先教えてくれたのに」


「昔って中学生の時だよね?」


「あの頃は純朴だったなぁ。今も可愛いんだけどさ」


「き、きっと高校に入ったのをキッカケに大人になりたかったんだよ。化粧を始めたのもそれが理由なんじゃないかな」


「そうなのかなぁ…」


「だよ、多分」


 話を無理やり別方向にねじ曲げる。自身の潔白を証明するように。


「アイツ、今度はいつ出掛けるだろ」


「どうして?」


「もし外出するなら後をつけて現場を押さえる」


「そ、それはやめようよ! マズいって」


「でももうこれしか方法ない気がする」


「いやいや…」


 そんな事をされたら彼女とバイト以外でも会っている事が発覚。3人でバッタリ遭遇なんて状況だけは何としても阻止しなくてはならなかった。


「でも俺だと追跡は難しいよな。同時に家を出たら怪しまれるし」


「そうだね。だから尾行なんて真似は…」


「赤井くんに頼んでも良いかな?」


「……えぇ」


 ゴツゴツした手がソッと肩に置かれる。すぐ目の前には爽やかな笑みが存在していた。




「という訳でスパイに任命されました」


「はぁ……っとにもう」


 放課後のバイトで休み時間中の出来事を本人に報告する。食事休憩中に。


「どうして信用しないかな、人の言う事を…」


「もはや病気の域に達している気がする」


「何か硬い物で頭を殴らないと治らないかもしれません。ガツンと一発」


「うえぇ……いくら身内でもそれは犯罪になっちゃうよ」


「そうなんですよね。だから代わりに先輩お願いします」


「い、嫌だよ。例え捕まらないにしても血を見るのには抵抗がある」


 彼女がテーブルに置かれていた灰皿を移動。差し出されたが慌てて元の位置に戻した。


「で、先輩はこれからどうするんですか?」


「どうしよう。尾行するって言っても容疑は晴れてるし、本人にはバラしちゃってるし」


「男と会ってなかったと報告しても、お兄ちゃんがそれで納得するとは思えませんしね」


「そうなんだよなぁ…」


 やはり問題を解決させるには鬼頭くん自身が考えを改めないと駄目だろう。かといって何を言っても彼は聞く耳を持たない。


「いっそ開き直っちゃおうかな」


「え? どういう事?」


「たくさんの男性と仲良くさせてもらってますって嘘情報をバラまくわけですよ」


「それは……また大胆な」


 引いてダメなら押してみろという理論らしい。考えていなかった方法だった。


「でもそんな事言ったら怒らないかな?」


「怒るでしょうね。でも別に構わないです」


「何で?」


「だって怒りをぶつけたくても、その相手の男性は存在していないじゃないですか」


「……なるほど、確かに」


 どれだけ疑おうとも証拠なんか出てこない。無い物を見つけだすなんて不可能だから。


「ただ1つだけ問題があって…」


「何?」


「そんなふざけた嘘を流したらお兄ちゃんは余計に私を束縛するようになりますよね?」


「あぁ、だね」


「そうすると先輩と一緒に遊んだり出来なくなります」


「は、はぁ…」


 互いに顔を近付ける。内緒話でもするかのように。


「あとお兄ちゃんが私を尾行したとするじゃないですか?」


「うん」


「もしその時に私が会ってたのが先輩だとしたら…」


「……ヤバいですな」


 それは疑惑の人物が自分だと思われても仕方ない状況。実際その通りなのだが鬼頭くんの怒りを全て受けきれる自信も度胸もなかった。


「さすがに先輩にそこまで迷惑はかけられませんからねぇ」


「う~ん。いや、でも…」


「どうかしましたか?」


「1つアイデアを思いついたんだけど」


「何です?」


 咄嗟に考えた作戦を打ち明けてみる。身内を1人巻き込んだ内容を。


「……それ、上手くいきますかねぇ」


「ダメ元でやってみよう。何もしないで手をこまねいてるよりはマシだもん」


「でもその作戦、先輩の妹さんに迷惑がかかる気が…」


「問題はそこなんだよね。協力してくれるかどうかがさ」


 昨日は聞く耳を持たず跳ね返されてしまったぐらい。力を貸してくれる可能性は低い。


 ただ華恋を上手く誘導させる作戦も考えていた。鬼頭くん共々、2人揃って騙す方法を。


 帰ってから早速本人の部屋に突撃。秘密の会議を始めた。

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