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8 オマケとマヌケー5

「ただいま~」


 1人になった後は漫画入りの紙袋を携えて自宅を目指す。ダラダラと歩きながら20分程の時間をかけて帰宅した。


「あ、あれ…」


 靴を脱いでいる最中、異変を感じる。期待していた挨拶が返ってこなかったので。


「出かけちゃったのかな…」


 他の家族が全員外出したのでその可能性はなくもない。ただ玄関の鍵は開いていたし、下駄箱には靴も存在。なのにリビングにもトイレにも、客間にさえ華恋本人はいなかった。


「……どこに行ったんだろう」


 頭の中で様々なイメージが錯綜する。どこかで倒れていたり、家に押し入った強盗に刺されているような場面が。


 あんな乱暴な人物でも姿を見せないと不安で仕方ない。そして諦めて自室に戻って来た時、ようやくその鬼胎が解消した。


「どうしてここで寝てるんだ…」


 ベッドに異様な膨らみがあるのを見つける。近付いて覗いてみると案の定そこに妹の寝顔を発見。


「……にへへ」


「ま、いっか…」


 揺り起こそうとしたが途中で手の動きを止めた。気持ち良さそうな表情を見ていたら妨害するのが忍びなくなって。


「ふぅ…」


 椅子に腰掛けるとスマホを取り出す。今日撮った写真の確認。ぼやけているのもあったが大半はしっかりと撮れていた。


 全て見終わった後はサイトへとアクセス。早速、今日の日記を作り始めた。


「人が写ってるのはマズいよなぁ…」


 掲載出来そうな画像を抜粋していく。アングルや見栄えも考慮しながら。適当な文章も放り込むと思いきって投稿。ほとんどが写真の説明文だった。


「う~ん…」


 内容を客観的に見てみたがイマイチ納得が出来ない。完成度が低すぎて。


 まるで小学生の絵日記レベル。センスと語彙力の無さを痛感した。


「ま、いっか」


 別に誰かに評価してもらう訳でもない。なので全力の妥協を決意した。


「うぅん…」


「お?」


 微妙な達成感に浸っていると隣から寝言が聞こえてくる。その声に反応して視線をベッドの方に移した。


「起きた?」


「……あれ、いつの間に帰って来たの?」


「さっき。と言っても30分ぐらい経ってるけど」


「そうなんだ」


 話しかけた瞬間に返事が返ってくる。立ち上がった彼女は瞼を擦りながらこちらに駆け寄ってきた。


「今日早くない? いつもならもっと遅いのに」


「予定がすぐ終わっちゃってね。真っ直ぐ帰って来ちゃった」


「とか言って本当は私の為に早く帰って来てくれたんでしょ。ね?」


「いや、そんな事はないです」


「んにゃ~ん」


「ひゃああぁあぁぁ!?」


 続けて後ろから首を締める形で腕を回してくる。顔を近付けてきたかと思えば猫のような頬擦りを開始した。


「そういえば何でここで寝てたの?」


「ん? だって空いてたし」


「いや、それ答えになってないんだけど。眠たいなら自分の部屋で寝なよ」


「良いじゃん、別に。私だってたまにはベッドで寝たいわよ」


「あぁ、なるほど」


 彼女はいつも布団を敷いての睡眠生活だった。普段は味わえない贅沢を堪能したかったのだろう。


「よだれは拭いた?」


「え?」


「さっき寝てる時に口から垂らしてたよ」


「う、嘘!」


 首を曲げて下から顔を覗き見る。指摘に対して返ってきたのは口元を拭うリアクションだった。


「顔洗ってきたら?」


「そ、そうね。そうしようかしら」


「いてら~」


 彼女が大慌てで部屋を出て廊下へ。そのまま転げ落ちてしまいそうな勢いで階段を下りていった。


「ふぁ~あ…」


 入れ違いに自分の口から欠伸が漏れ出す。いつもの休日より早起きしたせいと、街をあちこち歩き回ったせいで眠たい。


「おやすみ…」


 仮眠をとる為にベッドへと移動。布団を捲りながら中へと潜った。


「ん…」


 ウトウトし始めた時にドアを開ける音が聞こえてくる。華恋が戻って来たと思われる音が。何かイタズラでもされるのではないかと覚悟していたが無言で退出してしまった。


 その後、数回のまどろみを繰り返して起床。顔に西日が当たって眩しかった。


「……あれ」


 どれぐらい寝ていたのかは分からない。認識出来るのは夕方という点だけ。


「そうだ、スマホ」


 机の上に置きっぱなしだった事を思い出す。また華恋に盗られてしまったのではないかと不安になったが無事に机の上に置かれていた。


「ほっ…」


 ついでにいつものSNSサイトにアクセス。すると日記にコメントが来ているとの表示があった。その数2件。


 自分の知り合いは2人しかいないから誰なのか確かめるまでもない。けれど更新されたページに出現したのは予想していた人物ではなかった。


「……誰、これ」


 Yu-naのすぐ下にあったのはReinaというアカウント。書かれていたコメントは『とっても綺麗だね』という簡素な文章とハートの絵文字のみ。プロフィールを見てみるが有益な情報が得られない。画像も初期設定のままだった。


「女の子かな…」


 頭の中で様々な憶測を巡らせる。年齢や性別を推理するように。相手の顔が見えないのでイメージとしか対話出来ない。ただその状況が却って妄想を際立たせてしまった。


「う、うわあぁあぁぁっ!?」


 適当な返事を返すと部屋を出る。階段で足を滑らせながら一階へと不時着した。


「うおあぁ、背中超いたいぃ…」


「大丈夫だった? また派手な音させてたけど」


「もうダメかも。死ぬかもしれない」


「私より先に逝くとか絶対に許さないからね。もし死んだら全力でブン殴るから」


「いや、殴るより先に救急車を…」


 床を這いずってリビングへとやって来る。そこでソファに座ってテレビを見ていた華恋と遭遇した。


「ん? 何、ニヤニヤしてんの?」


「いや、実は知らない女の子からコメントが来てさぁ」


「女の子?」


「あ…」


 会話中にふと口を噤む。自身の軽率さを嘆きながら。


「なんて名前の子?」


「レ、レイナ…」


「それ、私だよ」


「へ?」


「昨日、登録して雅人を発見したんだよね。探し当てるのに苦労しちゃった」


「ど、どうやって見つけたのさ!」


 怯えていると予想外の反応が返ってきてしまった。叱責ではなく笑顔が。


 話を聞くと同級生検索を利用したらしい。学校登録を解除するのを怠っていた結果がこれだった。


「私からのコメントに鼻の下伸ばしてたとか可愛いじゃん」


「ひいぃ、恥ずかしすぎる…」


「よしよし」


 子供のように頭を撫でられてしまう。マヌケ過ぎて抵抗する気も起きない。


「じゃあ私も写真とか投稿してみよっかなぁ。コスプレは専用サイトでやってるからこっちは普通のにしよう」


「た、例えば?」


「う~ん、お兄ちゃんとキスしてる所とか」


「やめてくれよっ!」


 彼女の事だからきっと監視目的で使うに決まっていた。確かめるまでもなく。


「はぁ…」


 交友関係を増やしたくて登録したのに。早くも交流を遮断したくなってしまった。

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