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8 オマケとマヌケー3

 しかし翌日、朝から妨害の情報が届いた。用事が出来たから昼間だけヘルプに入ってほしいという店長からの電話が。


 悪いとは思いながらも先約があったので断る事に。けれど店長との会話の後、その遊び相手からも電話がかかってきた。


『……という訳でスイマセン。予定の時間には行けなくなっちゃいました』


「は、はぁ…」


『2時か3時には終わると思うのでそれからでも良いですか?』


「もちろん。バイト頑張ってね」


『ありがとうございます。それでは』


 彼女の返事を確認して通話を切る。グチャグチャに散らかったベッドの上で。


「……マジかぁ」


 続けて受け身を取るように背中から倒れ込んだ。上手く断れたと思ったのにまさか優奈ちゃんの方に連絡がいくとは。


 店長から電話がかかってきた時点で彼女にも打診しておくべきだったのかもしれない。真面目な性格を考慮したら予め知らせておいてもバイトに出向いていた可能性が高いけれど。


「まだ9時前か…」


 壁にかかった時計で時間を確認する。せっかく早起きしたのに莫大な空白が生まれてしまった。


「ぐわあぁあぁぁっ!?」


 ドアを開けて廊下へと出る。階段から転げ落ちながら一階へと下りた。


「お、おはよ」


「はよ」


「いちちちち…」


「何か食べる?」


「ん~、どうしよっかな」


 リビングにやって来ると先客を見つける。カーペットの上で足の爪を切っていた華恋を。


「父さん達は?」


「ん? 2人で映画観に行くって」


「仲良くデートか…」


「私達もデートする?」


「え~と、何を食べようかなぁ」


「無視すんなや、コラ」


 彼女には外出予定を話していない。バレたら付いて来そうな予感がしていたので。


 空腹を訴えるとシェフが冷蔵庫を漁って2人分の焼きうどんを作成。テレビを見ながら仲良く頬張った。


「ぐわあぁあぁぁぁっ!?」


「おはよう、マイシスター」


「お、おはよう。ていうかたまには私の体の心配してくれても良くない?」


「あぁ、うん。そういえばこの前のテストめちゃめちゃ悪かったけど頭大丈夫?」


「うぅ…」


 正午過ぎになるともう1人の妹も起床する。寝過ぎなのか目の下が腫れ上がった状態で。彼女は大急ぎでシリアルを食べると大慌てで外出。再び華恋と2人で取り残された。


「ちょっと出掛けて来る」


「ん? どこに行くの?」


「颯太の家。一緒に行く?」


「い、いや……いい」


 そして頃合いを見計らって自分もソファから立ち上がる。バツの悪そうな顔をする妹を横目に。


 よっぽど天敵と顔を合わせるのが嫌らしい。今だけはその抵抗感がありがたく思えた。


「いい天気…」


 外に出た後はゆっくり歩く。駅とは反対方向に当たる道を。


 目的は市内散策。普段見ている景色をカメラに納めようと考えていた。


 街中の写真なら無断で掲載しても誰も怒らないし気軽に撮影が可能。なにより汚い男の部屋に比べたら100倍マシだった。


「春だなぁ」


 お年寄りにも抜かれそうなスローペースで進む。やがて遊具が多く並べられた大きな公園へと着いた。


「人、すご…」


 休日なので利用者が多い。子供の群れや親子連れがあちこちで蠢いていた。


「何してるんですか」


「え?」


 シャッターを切っていると背後から声をかけられる。髪を両サイドで縛った小学生ぐらいの女の子に。


「えっと…」


「落とし物でも探してるんですか?」


「いや、違うよ」


「じゃあ1人で鬼ごっこしてるとか」


「そんな淋しい人間ではない」


「分かった。恋人との待ち合わせですね」


「……だったら良いなぁ」


 初対面のハズの彼女は何故か質問を連発。辺りの様子を窺うが友達らしき子は見当たらなかった。


「写真を撮ってるんだよ」


「小さな女の子を?」


「そうそう……って違う違う」


「へぇ、カメラマンさんなんですか」


「いや、素人だけど」


 どうやら1人で遊んでいた様子。暇でやる事がないから、たまたま姿を現した人間に声をかけたのだろう。


「良い写真は撮れましたか?」


「ど、どうかな…」


「私、まだスマホ持ってないんですよ。お父さん達が買ってくれなくて」


「ふ~ん、そうなんだ」


「私も欲しいなぁ。カメラとか使えたら楽しそう」


 女の子から離れるように公園の奥に向かって歩き出す。しかし何故か彼女も後ろから付いて来てしまった。


「あっ、ネコ!」


「お?」


「あ~あ、中に入っていっちゃった」


「惜しい…」


 道路を横切る茶色い毛並みの物体を発見する。フレームに収めようとするが民家の塀の中に逃げられてしまい失敗。


「こんなもんかな…」


 人がいる場所をなるべく避けて公園を1周する事に。遊具や木々を適当に撮り終えると散歩に復帰した。


「あ、あの……君の家はこっちの方なのかな?」


「違いますよ。私、この街の住人ではないので」


「へ?」


「今度ここに引っ越してくる予定なんです。だから今日はその下見というか見学というか」


「あ……そう」


 何故か女の子までもが道路に出てくる。猜疑心ゼロの様相で。


「お兄さんはこの辺りに住んでる人なんですか?」


「ま、まぁ…」


「へぇ。ならご近所さんになるかもしれませんね」


「え~と、お父さんかお母さんは?」


「はい?」


「君はこの街に遊びに来たんだよね? ならお父さん達がどこかにいるんじゃないの?」


 住宅見学に来たのか引っ越しの手続きに来たのかは分からない。ただどちらにしろ小学生の子が1人で足を運んだという事はないハズだ。


「お父さん達は業者の人と話があるって言ってました。だから私は退屈なので1人で公園で遊んでる事にしたんです」


「なら道路に出てきたらマズいじゃないか…」


「それは大丈夫です。後でお姉ちゃんと駅で合流する約束してますから」


「駅ってあそこの?」


「はい、そうです」


 いつも通学に利用している場所を指差す。後で自分も向かう施設を。


「次はどこに行くんですか?」


「ん~、その辺を適当にブラブラと」


「ふふふ。なんだか街の探検みたいで楽しいですね」


「こっちは通報されないかとヒヤヒヤ物なんだけどね…」


「はい?」


 追っ払おうかとも考えたが邪険に扱って叫ばれる方がマズい。混乱しながらも名を知らぬ子供と地元を徘徊し始めた。


「わぁ、凄~い」


「よっと」


 当てもなく進むと街を分断する場所へと辿り着く。市内を流れる大きな川に。橋を上がった後は頂上部分で停止。落ちないようにバランスを取りながら身を乗り出した。


「押しましょうか?」


「や、やめてくれ!」


「絶対に飛び降りたりしないでくださいね。落ちたら危ないですよ」


「分かってるって」


「そういえば深さはどれぐらいあるんでしょう。何かで試してみたいかな」


「……そんなに突き落としたいのか」


 妙なやり取りをしながらも川を撮影する。太陽光が反射している巨体な水面を。


「綺麗に撮れました?」


「多分。帰ってから確認してみないと分からないけど」


「もし良かったらお兄さんも写してあげますよ」


「いや、それは大丈夫」


「私も隣に並んだ方が良いですか?」


「え、え~と…」


 なぜ知らない児童と街を歩き回っているのか。頭の中は疑問で埋め尽くされていた。

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