7 叱咤と嫉妬ー2
『どうしました?』
「な、何でもない。悪いけど用事が出来ちゃったから切るね」
『あ、はい。ではまた明日』
挨拶を聞き終わる前に通話を切断する。その様子を見て覗き魔が部屋の中へと入ってきた。
「誰と電話してたの?」
「優奈ちゃん…」
「ふ~ん、随分と楽しそうに喋ってたじゃない」
「え? そうかな」
ベッドの端に腰掛けると彼女も隣に座る。肌と肌が触れ合う程の密着状態で。
「何の話してたの?」
「バイト先や学校の事を…」
「へぇ。妹がどうとか言ってたからゲームか漫画の話なのかと思った」
「あ、ゲームや漫画の話もしてたかな……はは」
慌てて喋ろうとした影響が声が上擦ってしまった。しゃっくりでも発生したかのように。
「何の漫画? 私も知ってるヤツ?」
「いや、多分知らないんじゃないかな。多分、華恋は知らないよ、多分」
「タイトルだけ教えて。分かるかもしれないし」
「多分、言っても分からないよ。あんまり有名じゃないから、多分」
「……ふ~ん」
「ははは…」
「ちぇ~」
彼女が不満を垂らすように唇を尖らせる。足を前後にバタバタと動かしながら。
「……ん」
もしかしたら先程の会話を聞かれていなかったのかもしれない。命拾いしたような気分で安堵した。
「ち、ちなみにいつ頃からいたの? 部屋の入口に」
「え? 何でお兄さんいる事黙ってたのってとこら辺」
「げっ…」
けれどその静的はすぐに消滅。油断大敵の良い例が到来してしまった。
「ねぇ。妹がウザイとか聞こえたけど、あれ誰の事なの?」
「さ、さぁ……覚えてないや」
「雅人の妹って2人いるけど私と香織ちゃん、どっちの事を言ってたのかな?」
「え~っと…」
もう今さら漫画の話だなんてごまかしは通用しない。彼女は会話の内容をほぼ全て盗み聞きしていたのだから。
「華恋の話をしていました」
「え? 私?」
「華恋の事が好きすぎて嫌われたりウザイと思われても構わないから、腕を繋いで歩いたり一緒にお風呂入りたいなぁというような話をしていましたっ!」
「やっだぁ、恥ずかしい」
「いった!?」
照れくささを隠す行動なのか肩を叩かれてしまう。いつものように力強く。
「そんなに私の事が好きなら良い物あげるね」
「へ?」
「……歯ぁ食いしばれ。じゃないと舌噛むかもしれんぞ」
「え、えぇーーっ!?」
そして立ち上がった彼女が隣から正面に移動。続けざまにとんでもない台詞を口にした。
「ふふふふ…」
「ま、ままま待ってくれ。何する気さっ!」
「だから素敵なプレゼントだってば。可愛い妹からお兄ちゃんへのささやかな贈り物」
「い、いらないいらない。いらないからやめてぇっ!」
指の関節を鳴らしながら迫ってくる。恐ろしい表情も付け加えて。
「手どけないと危ないわよ。指に当たったら痛いかも」
「いや、違うんです。別に華恋の事が嫌いとかそういうんじゃなく、ただ単に女の子とお喋りしててテンションが上がりすぎただけというか…」
「おらぁっ!!」
「ぎゃぁーーっ!?」
必死の懇願も虚しく暴力を振るわれる結果に。顔面に凄まじい破壊力の拳が飛んできてしまった。
「いててて…」
「ふんっ!」
激しい痛みが残る頬を手で擦る。少しでもダメージを緩和しようと。
まさか悪態をつく現場を目撃されていたなんて。部屋を一瞥した華恋は乱暴にドアを閉めて出て行った。