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6 メガネとイケメンー5

「あ、あの…」


「ん?」


「聞きたい事あるんだけど良いかな?」


「……何」


 翌日に本人に話しかける。教室ではなく周りに人がいない清掃場所で。


「君って妹いるかな? 1個下の」


「いるけど…」


「あっ、やっぱり。もしかしてその子って槍山に通ってたりする?」


「はぁ?」


 対話開始早々に敵意剥き出しの目を向けられた。威圧感な態度や口調も。


「お前、何が言いたいんだよ? どうしてそんな事知ってんだ」


「あ……いや、君の妹とバイト先が同じかもしれない。多分だけど」


「は?」


「向こうの方にある喫茶店で働いてたりするかな。君の妹は」


 彼の言動に足が竦んでしまう。もしかしたら思ったが、どうやら目の前にいる人物は後輩のお兄さんで間違いないらしい。


「違うって言ったらどうする?」


「え?」


「うちの妹はバイトなんかしてないって答えたら」


「え~と…」


 しかし瞬時に期待外れの言葉を返されてしまった。否定を意味した内容を。


「だったらゴメン。勘違いだったみたいだ…」


「違わないよ。合ってる」


「へ?」


「優奈だろ? 一緒に働いてる女子高生って」


 謝罪している途中で彼の口からよく知っている単語が飛び出す。頭の中にずっと浮かべていた人物の名前が。


「そ、そうなんだ。やっぱり君は優奈ちゃんと兄妹だったんだね」


「俺はアイツと違って頭悪いからな。だからこんな学校にしか来られなかったんだけど」


「別に頭悪いとかは…」


「それで何? アイツと兄妹だと分かったからなんかあんの?」


「えっと、特には…」


「言っとくけど優奈に手ぇ出したら許さねぇからな。ブン殴るぞ」


「い、いやいや。そんな事はしないよ」


 手を振りながら慌てて後退。何故か言い争う形になってしまった。


「えぇ…」


 助けを乞うように辺りを見回す。危機的状況を察したのか近くにいたハズの丸山くんは既に遠く離れた場所へと移動。巻き込まれないように避難していた。


「お前、彼女いるんだろ? 他の女に手ぇ出すなよな」


「え?」


 ショックを受けていると鬼頭くんから別の話を振られる。身に覚えのない話題を。


「いないよ、彼女なんて。誰とも付き合ってなんかない」


「嘘つけ。ならどうしていつもあの子と一緒にいるんだよ」


「……あの子」


 脳裏にある人物が思い浮かんだ。恋人と間違えられるほど常に行動を共にしている女子生徒の顔が。


「あれは違うよ。恋人じゃなくて家族なんだ」


「家族?」


「妹というか従兄妹というか…」


 事実を告げるべきか、親戚で通すべきなのか。頭の中で思考が大混乱になった。


「でも名字違うじゃん」


「そ、それは…」


「しかも何で同じ学年で同じクラスなんだよ。んなの有り得ないだろうが」


「……普通はそうだよね」


 下手なごまかしは通用しない。直感的にそう理解。なので去年のクラスメート達にもバレるのを覚悟で真相を語り始めた。


「え~と、実は僕達は双子でして…」


「はぁ?」


 今までの経緯を簡潔に話す。親の離婚で別々に育てられ、知り合ったのは最近だという事を。周りの人達にはからかわれたくないから内緒にしている点も説明。鬼頭くんは半信半疑といった様子で耳を傾けていた。


「……それマジ?」


「本当だよ。誕生日も同じだし」


「じゃあ白鷺さんとは付き合ってないの?」


「もちろん。いつも一緒に登下校してるのは同じ家に住んでるからだね」


「そ、そっか」


 彼が小さく返事をしながら頷く。ホウキを持つ手の動きを止めた状態で。


「なんかゴメンな。いろいろ疑っちまって」


「いや、平気平気」


「そういえばずっと喧嘩腰の態度で話しかけてたな。悪い」


「だ、大丈夫だから。謝らなくても良いよ」


 どうやら今の叙説をすんなり受け入れてくれた様子。その素直な態度が少し意外だった。


「あ、華恋」


「へ?」


 妹の話題で盛り上がっていると本人を見つける。鬼頭くんの肩越しにこちらに向かって歩いて来る姿を。


「終わった?」


「いや、まだ」


「もしかしてサボってたの?」


「ま、まぁ…」


 昨日同様に様子を見に来てくれたと理解。ただお喋りしていたせいで作業がまるで捗っていなかった。


「はぁ……ならもう今集めた分だけ回収しちゃいなよ。時間ないからさ」


「そだね。そうしようか」


 視線をズラして鬼頭くんの方を見る。今の考えに同意してくれたのか黙ってチリトリを持ってきてくれる事に。


 足元に僅かに溜まった木屑を素早く回収。更に丸山くんが1人で黙々と集めてくれたゴミも袋の中に入れた。


「ごめん。これお願いしても良いかな?」


「あ、うん」


 持っていた竹ぼうきを丸山くんに預けると歩き出す。彼を除いた3人で。


「やっぱり似てるかな。2人」


「そう?」


 集積所にゴミ袋を入れた後は清掃場所を退散。その途中で鬼頭くんが顔を覗き込みながら話しかけてきた。


「え? な、何が?」


「実は僕達が双子だってバラしちゃったんだよ。鬼頭くんに」


「えぇえぇえーーっ!?」


 数分前の出来事を素直に暴露する。直後に驚いた華恋の叫び声が響いた。


「なんとなくそういう空気になっちゃって」


「ぐっ…」


「ダメ……でしたか?」


「……別に」


 彼女の態度が不機嫌に。口では平静を装っていたが怒っている心境は容易に察知できた。


「あの、他の人には内緒にしておいてね。この事は」


「分かってるって。俺、口は堅い方だから」


「ありがと…」


 クラスの全員が初対面なら双子だとバラしても構わない。けれど1年前のクラスメート達には従兄妹だと説明している。辻褄が合わなくなるのでいつまで経っても打ち明けられないでいた。


「白鷺さんって去年転校して一時期いなかった時あるよね?」


「へ? あ、はい」


「やっぱり。隣のクラスに凄ぇ可愛い子がいるって噂になっててさ、でもまた転校したって聞いてショックだったんだよね」


「は、はぁ…」


 鬼頭くんが上機嫌で喋りかける。先程までの寡黙キャラが別人のように。


 彼の話によれば華恋が転校してきた事は隣のクラスでもかなり話題になったんだとか。特に男子生徒の中で。


「見た目通り優しそうな人だよね。白鷺さんって」


「あ、ありがとうございます」


「いやぁ、一緒のクラスになれて良かった」


「え? あの…」


「……ん」


 遠慮がちに会話する2人を見ていて気付いた事があった。鬼頭くんが最初不機嫌だったのは恐らくコレが原因なんだろうと。


 それは何の根拠も無い憶測でしかない。ただ華恋の双子の兄として当たっているという自信は大いにあった。

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