6 メガネとイケメンー1
「雅人、ご飯食べよ」
「あぁ、うん」
昼休みに華恋が席へと近付いて来る。ナプキンに包まれた弁当箱を携えて。
「ここで食べる? それかどっか行く?」
「中庭に行こう。先にベンチ確保してて。飲み物買って行くから」
「ん、了解」
椅子から立ち上がると廊下へ移動。下駄箱で靴に履き替えた所で一旦別れた。
「はい」
「サンキュー」
先にベンチに座っていた彼女にペットボトルを渡す。隣に腰掛けながら。
「また同じの買ってきてる。どうして2本とも一緒の銘柄なのよ」
「だってそうしないと僕のまで飲もうとするじゃないか」
「別々の買えば一度に2種類の味が楽しめるじゃないの。お茶とコーラとか、スポーツ飲料水と水とか」
「だからだよ」
身内とはいえ飲み物を共有するような真似はしたくない。なので毎回同じ物を2本買っていた。
「ん~、良い天気。やっぱりこういう時は外で食べるに限るわね」
「今の時季は良いけど夏場は地獄だよ。直射日光に耐えられなさそう」
「確かに。これでもかっていうぐらい汗だくになるわ」
2人して顔を見合わせて笑う。長閑な昼下がりを堪能するように。
「じゃあ食べよっか」
「あ、うん」
3年生になってからの昼食は毎日彼女か母親の手作り弁当。だから一度も学食のメニューを口にしていなかった。
「ほい」
「ん、いつも悪いね」
「そう思ってんならたまには恩返ししなさいよ。さり気なく頬にキスしてくれるとかさ」
「……あぁ、今日も美味しそうだなぁ」
紺色の箱を受け取ると蓋を開ける。聞こえてくる戯れ言を無視して。
「いただきま~す」
「ちっ…」
校舎を眺めながら卵焼きを口に入れた。チーズ入りの特別版を。
「ねぇ、今度一緒にカラオケ行かない?」
「ん? どうして?」
「雅人の歌声聴いてみたい」
「別に良いけど、あんまり上手くはないよ」
「あれ? 意外。拒否するかと思ったのに」
「カラオケはたまに行くからね。良いストレス発散にもなるし」
「ふ~ん」
他愛ない会話をしながら昼休みを過ごす。今のクラスになってからずっとこの繰り返し。お弁当を持って中庭やら校庭脇に出没。華恋のおかげでぼっちにならずに済んでいた。
「ん? どうしたの?」
「い、いや…」
ただそこに甘えて友達を作ろうとしていなかったのも事実。しかも彼女とは性別が違うので別の問題が発生。
男女が一緒にいれば誰であろうともその関係性を疑うであろう。登下校も行動を共にしているから尚更だった。
「美味しい?」
「うん。絶品」
「え? べっぴん? やだもう、恥ずかしい」
「……聴覚どうなってるの」
自分達が噂になっている事は把握している。従兄妹という情報を知っているのは去年のクラスメートだけなので。
「一個聞いていい?」
「何?」
「いつも2人でご飯食べてるけどさ、たまには違う人とお喋りしたいとか思わない?」
「思わない」
「そ、そうですか…」
嬉しいやら恥ずかしいやら。返ってきた予想通りの答えに照れくさくなった。
「何でそんな事聞くの? 私と一緒にご飯食べるの嫌なの?」
「そうじゃなくて女の子同士で過ごしたいとか思わないのかなぁって」
「あぁ……たまに考えるかな。女同士でくだけた話をしたくなる時はあるわよ」
「ならどうして今のクラスで友達作ろとしないのさ?」
「面倒くさくない? わざわざ新しい友達作るとか」
「いや、そうだけど仲良く出来る人がたくさんいたら嬉しいじゃん?」
「ん~…」
彼女が箸を動かす手を止める。そのまま首を寝かせて視線を頭上に向けた。
「同じクラスに雅人がいなかったら作ってたかな。さすがに教室で孤立するのは嫌だし」
「じゃあ僕が学校休んだらヤバいじゃん。昼休みとかどうするのさ」
「その時は私も休むから大丈夫」
「ダメだよ、それ…」
何やら自信満々に宣言しているが完全にズル休み。しかも2人揃って欠席したら益々誤解が進んでしまうハズだ。