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5 尾行と追跡ー4

「電車に乗るみたい。私達も行くわよ」


「よっしゃ」


 ICカードを使って改札をくぐる。定期にも使っている便利品を。


「あれ? 家の方角と違う」


「どこかに遊びに行くんだよ。どうするの? まだ尾行するの?」


「当たり前じゃん。最後まで追うわよ」


「へ~い」


 主従関係がハッキリしていた。自分が助手で華恋が探偵。


「こっちの方角って何があったっけ?」


「水族館にショッピングセンターに工場地帯」


「こんな時間から水族館は無いし、やっぱりショッピングセンターかな」


「いや、友達と仲良く工場見学かもしれない」


「はいはい」


「……ツッコミ無しは淋しいよ」


 ターゲットに見つからないように違う車両に乗り込む。しばらくすると彼女達はショッピングセンターのある駅で下車した。


「ほらね。だから言ったじゃん」


「くっ、絶対に工場だと踏んでたのに…」


「男と会うなら友達と別れた後かな。解散した後にひっそりと顔を合わせるとか」


「はっ!? もしかして相手は工場勤務の男とか!」


「私達も降りるわよ。ほら、早く早く」


「あの……今の聞いてました? ボケたんですけど」


「知らん。聞いてない」


「そ、そんな…」


 間隔を空けて再び尾行を開始する。空しい気分に苛まれながら。


「今日は腕繋がないの?」


「繋いでほしいの?」


「い、いや…」


 頭を振って相方と半歩距離を置いた。春休み中にここでバイト先の後輩に出くわしてしまった時の記憶が甦ってきたので。


「今から遊んで行くんでしょうね。人が多いから見失わないように気をつけなくちゃ」


「まだ続けるの? もう正直どうでもよくなってきたんだけど」


「なら私とのデートに変更する?」


「嫌です」


「なんでよっ!!」


「ぎゃっ!?」


 追跡中止の申し立ても早々に却下されてしまった。耳を引っ張る手洗い攻撃と共に。


 その後は100均やファンシーショップを徘徊する。彼女達はお店で買ったアイスを片手にずっと歩き回っていた。


 買う気も無い場所によく堂々と入り浸れるなと感心したが、一番驚いたのは学校から一度も会話が途切れていなかったという点。見た目が若いだけでやっている事は大阪のおばちゃんと変わらない。将来の姿の片鱗を垣間見た気がした。


「あっ、メールだ」


「お~い、音切っといてくれよ」


「悪い悪い。忘れてたわ」


 尾行を続けるとフードコートへと辿り着く。その瞬間に華恋のポケットから受信音が反響した。


「誰?」


「香織ちゃん。今日も外食してくるから晩御飯いらないってさ」


「ここで食べていくって事かな」


 彼女達の方を見るとファーストフード店付近をウロウロしている。並んでいるのか立ち話をしているだけなのか判断が難しい微妙な距離で。


「どうする? もう帰る?」


「そうね。ここで食事していくのならしばらく動かないだろうし」


「こんな時間から男とデートしようだなんて思わないでしょ」


 週末ならともかく明日はいつも通りの平日。夜遊びする可能性は低かった。


「はぁ~あ、収穫なしかぁ」


 ターゲットと鉢合わせしないように一足先に帰宅する。乗客がそこそこいる電車に揺られながら。


「今日はたまたま会う約束してなかったのかな」


「どうだろ。平日だからじゃない?」


「なるほど。週末にしか会わないとかそういう可能性もあるわね」


「住んでる場所が遠くてさ、頻繁には会えないとか」


 今はネットを通じて見知らぬ人間とも知り合う事が出来る時代。接点の無い相手とも親しくなれた。


「なら今日私達がしてた事ってまるっきり無意味じゃない」


「いや、相手が遠くに住んでるってのは僕の勝手な憶測だから。華恋の言った通り、今日はたまたま会わなかっただけかもしれないし」


「ならまた明日尾行してみましょ。同じ学校の生徒ならさすがに1週間で一度も接触しないなんて事は無いハズだもん」


「いや、明日は無理だよ」


「どうして?」


「バイト」


 明日だけでなく明後日も。毎日監視を続けるというのは不可能だった。


「あぁ、くそっ……忘れてたわ」


「ごめん。さすがにこんな理由で休むわけにはいかないし」


「う~ん……1人でやるのは嫌だしなぁ」


「颯太は? 基本的に放課後はヒマだから付き合ってくれると思うよ」


「嫌だ、死んでも嫌だ」


「……そこまで力強く拒否しなくても」


 あまりにも酷すぎる台詞が炸裂する。友人に同情せずにはいられない言葉が。


「アイツにお願いするぐらいなら女子に頼む」


「智沙はダメだよ。放課後は忙しいから」


「そういえば智沙ってグラウンドの方をボーっと眺めてる事あるけど、あれ何してるの?」


「さぁ、何だろうね」


 理由を知っているがバラしたくない。触れられてほしくない部分は誰にだってあるだろうから。


「あ~あ、一緒に付き合ってくれる人がいないなら明日は諦めようかなぁ」


「女子1人なら付きまとっても怪しまれないと思うけど」


「嫌よ。だって淋しいじゃない」


「前から思ってたけどさ、華恋って案外淋しがりやだよね」


「……うっさいなぁ。誰かさんも同じでしょうが」


「うん。同じだ」


 なんやかんやで今日付き合ってくれたのも助かっていた。1人だったらやっぱり心細かったハズ。


 家に帰って来ると先に帰宅していた両親と遭遇する羽目に。予め連絡を入れておかなかった事を咎められたが、そこまで遅い時間ではないので怒られはしなかった。


 それからは不在の妹を除いて4人で食事。冷蔵庫の余り物で作った野菜炒めを食べた。

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