4 上部と下心ー6
「はい、交代」
「ありがとうございます。華恋、頑張るから見ていてくださいね?」
「はいはい…」
ステージをクリアすると妹にコントローラーを返す。呆れる態度を前面に押し出しながら。
切り替わった画面の中で女性陣がそれぞれ使用キャラを選択。広大な大地に飛び出していった。
「ふ~ん…」
即席のコンビだったが普段やっているだけあって彼女達の息はピッタリ。まるでお互いの心を読みあっているような連携を披露。
てっきり客人に喧嘩を売って邪魔するんじゃないかと予想していたがその心配は不要らしい。もしかしたら純粋に一緒に遊びたかっただけなのかもしれない。
「もしかして…」
以前に3人でショッピングセンターで鉢合わせした時の事を思い出す。腕を組んでいる現場を見られ恋人と間違われてしまった時のやり取りを。
恐らくその時の事がキッカケで華恋の中での優奈ちゃんの印象が格段に高い位置に設定されているのだろう。だとしたらこうして女の子を家に招き入れる事に反対しなかったのも頷けた。
「お?」
意識をテレビ画面に戻すと2人がステージのボスを撃破。一度も全滅する事なくクリアしていた。
「ふぅ、倒せた」
「お疲れ様でした」
彼女達がお互いに頭を下げる。労いの言葉をかけながら。
「じゃあ次は先輩と妹さんの番ですね」
「いや、やりたかったらやってても良いよ。見てるだけだと退屈でしょ?」
「そういう訳にはいきません。私だけやり続けるとか、そんなのダメです」
後輩に続投を助言。けれどその発言はアッサリと突き返されてしまった。
「あっ、なら私がお兄様と交代しますよ」
「え?」
「はい、どうぞ」
「いや、2つもいらないから」
躊躇っていると今度は反対側からもコントローラーを差し出される。対抗心むき出しの態度と共に。
「優奈さんはこのまま続けてくれて構いません。私がお兄様と交代しますので」
「いえ、そんな……それじゃあアナタに悪すぎますよ」
「いえいえ、そんな…」
自分を挟んで2人が軽い口論を展開。誰も得をしていない攻防戦を始めてしまった。
「やっぱり最初の順番通りやろう。優奈ちゃんのコントローラーを使わせてもらおうかな」
事態を収集する為に間に割って入る。左側から差し出されていた黒い物体を受け取った。
「これで良いよね?」
「……えぇ~」
「僕と一緒にプレイするのがそんなに嫌なの?」
「いえいえ、そんな! お兄様と一緒に出来るとか余りある幸せです」
隣から垂れ流される文句を理屈で封殺する。得意気な気分に浸りながら。
それから3人で交代しながらゲームに没頭した。飽きてきたら違うゲームにチェンジ。また飽きたらチェンジ。だが3時間も過ぎた頃にはゲーム自体に飽きてしまった。
「なんか疲れちゃったね」
「そうですね。交代しながらとはいえ、ノンストップでやり続けてますから」
「ちょっと休憩しよっか」
「はい」
手の動きを止めて小休止する。ほとんど空になったグラスに手をかけて。
「いつもこんなに長時間やってるんですか?」
「ん~、どうだろ」
後輩からの質問に対して視線を反対側に移動。華恋に意見を求めた。
「普段はそこまで長くやりません。せいぜい2時間ぐらいですね」
「へぇ、そうなんですか」
「うちってテレビはこの1台しかないからさ。家族がいない時しかゲーム出来ないんだよね」
「先輩の部屋にはテレビないんですか?」
「無いよ。欲しいとは思ってるけど」
友人宅には結構な頻度であるので憧れた事はある。ただ値段が値段なのでねだったりはしていない。
ちなみにテレビが1台しかないのは母親の方針。食後に寛ぐ時間ぐらいは家族で一緒に過ごしたいという考えからだった。
「欲しいならお金貯めて買えば良いじゃないですか。バイトしてるんだし」
「あっ、そっか」
「先輩の部屋って二階にあるんですか?」
「そうだよ。行ってみる?」
「え?」
「い、いや……まぁ冗談なんだけどね」
調子に乗って攻める発言をしてしまう。面白い物なんか何も無い無音空間に連れて行ってどうするというのか。アルバムを見せるような間柄でもないのに。
「先輩の部屋って何があるんでしょう」
「え~っと、ベッドと机と本棚と…」
「漫画もそこにあるんですか?」
「そうだよ。200冊ぐらい持ってるかな」
「おぉ~」
「へへへ…」
「なら少しだけ見せてもらって良いですか?」
「ん? 良いよ良いよ」
どうごまかそうか考えていると彼女の方から提案を受諾。床に手を突いて勢いよく立ち上がった。
「一緒に行くでしょ?」
「はい。お供させていただきます」
隣にいた華恋にも声をかける。むしろこの状況では同行してほしかった。部屋に女の子と2人きりとか恥ずかしすぎるから。
3人で階段を上り二階へ。途中、優奈ちゃんだと思って話しかけたら華恋だったというミスが発生。2人に声を出して笑われてしまった。