4 上部と下心ー5
「先輩の家、綺麗ですね」
「そうかな。普通だと思うけど」
「いえ、かなり片付いてますよ。友達の部屋とかヌイグルミだらけですから」
「あ~、妹のベッドとかそんな感じかも」
それからは普通の日常会話を交わす。おかしかった一連の流れを軌道修正するように。
「優奈ちゃんの家も物多いの?」
「うちはあんまり。両親が物を欲しがらないタイプなのでサッパリしています」
「ふ~ん、そうなんだ」
「あっ、でも私の部屋は散らかってますよ。いろいろ物で溢れてます」
「ヌイグルミとか?」
「そうですね。ゲームセンターで取った景品とかたくさん」
「へぇ、ゲーセン行くんだ」
グラスに注がれた烏龍茶を口の中に投入。キンキンに冷えていて乾いた喉に染み込んでいった。
「そろそろゲームやる?」
「はい、やりましょう」
一段落した所で本来の目的を実行する。箱からゲーム機を取り出してコードを繋いでいった。
「私もやって良いですか?」
「あ~、これ最大2人用だからどうしよう」
「……ダメですか」
「ダメっていうか、3人では出来ないっていうか」
「ダメ……ですか」
やり取りの最中に華恋が割り込んでくる。何かを訴えかけるような目つきで。
「……3人で交代しながらやろう。1回ずつローテーションで」
「わ~い」
「はぁ…」
やむを得ず妥協する事に。元々一緒に遊ぶ約束をしていたから仕方ないだろう。何よりいつもみたいな喧嘩越しの態度を見られたらお客さんの心証が悪くなる可能性があった。
「じゃあ、まずは…」
「先輩達、先にやってください。私、見てますから」
「え? でも」
「あの……お手洗い借りちゃっても良いですか?」
「あっ、そっち入った所にあるよ」
「すいません。お借りしますね」
配線を完了させると後ろに振り向く。同時に優奈ちゃんがスカートを押さえながら廊下の奥へと移動。気を遣って行動してくれたのは聞かなくても分かった。
「……で、これどういう事?」
トイレのドアが閉まる音を確認して声をかける。人への配慮より己の欲を優先させてしまっている人物に。
「何がです?」
「ごまかさないでよ。分かってるでしょ?」
「ぜ~んぜん分かりません」
「その喋り方だよ! 何なのさ、それっ!」
「はい?」
「……っと」
ついカッとなって声を荒げてしまった。勢い良く立ち上がって。
「この喋り方がおかしいですか? 普段通りですけど」
「いつもはもっと荒々しい口調じゃん。アンタ~とか」
「やだ、お兄様ったら。いつ私がそんな喋り方をしたって言うんですか」
「……とぼけるつもりかい」
彼女が口元に手を当ててクスクスと笑いだす。せっかく2人きりになったタイミングで話しかけたのに。
これはいくら問いただした所で正直に白状する気なんか無いのだろう。猫被りモードに入っていた。
「やってますか?」
「あ、うん。これ終わったら交代するから待っててね」
「頑張ってください」
敬語の件は不問にしてゲームを手をつける。しばらくするとトイレから戻ってきた後輩も合流。
「はい、次やっていいよ」
「ありがとうございます」
ステージをクリアした後はコントローラーを手渡した。隣に座る女の子に。
「はい、お兄様」
「え? いや、いいよ。華恋がやりなって」
「大丈夫です。私はお兄様がプレイしてる姿を見ていますから」
「……そうですか」
しかし自分の前に別のコントローラーが登場する。一緒にプレイしていた相方が差し出してきたので。
「んっ、んっ」
ステージやキャラクターを選択してゲームをスタート。普段やり込んでいると言っていただけあって優奈ちゃんはかなりの上級者だった。
ただ集中し過ぎているのかついつい声が漏れてしまってる。ゲームより彼女の声に意識が奪われた。
「あの、お茶のおかわり要りますか?」
「あ、うん。お願い」
「わかりました」
横から華恋が声をかけてくる。用事を頼むと彼女がグラスを回収してキッチンに向かった。
「サンキュー」
「はい、お兄様」
「え?」
「あ~ん」
「んぐっ!?」
まだプレイ中なので画面から目が離せない。前を向いたまま礼を告げると口元に違和感が発生した。
「な、何するのさっ!」
「あっ、ごめんなさい。喉が乾いてると思ったからつい」
「……飲みたい時は自分のペースで飲むから」
「本当にごめんなさい…」
咄嗟に大声で怒鳴り散らす。グラスを振り払いながら。
「はぁ…」
説教してやりたいが出来ない。状況か状況なので。目は合わせないようにしていたが隣にいる後輩がギョッとしたような顔付きでこちらを見ているのが確認出来た。




