4 上部と下心ー4
「ここが先輩の家ですか」
「そう、先輩の家です」
日常的な会話を交わしていると目的地に到着した。数十分前に出発した我が家に。
「おかえりなさいませ」
「おわっ!?」
鍵が開きっぱなしの扉を開けて中へと入る。その瞬間に有り得ない物が視界に飛び込んできた。
「お疲れ様でした。お迎えご苦労様です」
「……な、何やってんの」
「何って、いつも通りの出迎えじゃないですか」
「はぁ?」
廊下にいた華恋が挨拶を飛ばしてくる。何故か足拭きマットに正座した状態で。
「どうしたんですか?」
「いや、何でもないから」
「ん?」
戸惑っているとすぐ後ろから後輩が接近。咄嗟に腕を伸ばして彼女の視線を遮った。
「あっ、アナタがお兄様の御友人の方ですね。ようこそいらっしゃいました」
「ど、ども…」
「雅人お兄様の妹です」
「はぁ…」
けれど奮闘も空しく間に合わず。互いに存在を認識した2人が頭を下げ合った。片方は困惑気味で、もう片方は満面の笑みを浮かべながら。
「……お兄様」
意味が分からない。突然のハプニングも妹の愚行も。
「あの……とりあえず上がって」
「お、お邪魔します」
「えっと、コレが僕の妹で名前は…」
「以前お会いしましたよね? 覚えてらっしゃらないかもしれませんが。では改めて自己紹介させてもらいますね」
いつまでも無言でいる訳にはいかないので簡単に紹介する事に。だがその言葉を遮って本人が喋り出した。
「白鷺華恋と申します。名字は違いますが、ここにいる雅人お兄様の妹です」
「華恋…」
「よろしくお願い致しますね?」
「こちらこそ……よろしくお願いします」
華恋がにこやかな笑顔を浮かべる。事情を知っている人間からしたら気持ち悪いとさえ思える表情を。
「この子はバイト先の知り合いで名前は、き……優奈ちゃん」
「ふむふむ」
「歳は僕達の1個下だから」
「なるほど。年下の方なんですね」
彼女達の間に立って中継ぎを開始。異質なシチュエーションを前に後輩は戸惑っていた。
「そこにいると中に入れないんだけど」
「あ、ごめんなさい。私とした事が」
スニーカーを脱ぎながら廊下に上がる。進路妨害している邪魔者に動くよう促して。
「こちらです。どうぞ」
「は、はい」
「靴はそこで脱いでから上がってきてくださいね」
「分かりました…」
「そんなのいちいち言わなくても良いから」
空気が微妙に気まずい。原因がハッキリしているが対処の仕様がなかった。
「喉乾いてらっしゃいますよね。何かお飲みになりますか?」
「いえ、大丈夫です。そんなに気を遣ってもらわなくても平気ですよ」
「遠慮なんかなさらなくても。紅茶かコーヒーならどちらが良いですか?」
「え~っと…」
3人で並んで歩くとリビングにやって来る。いつの間にか隅々まで整頓されていた空間に。
「お茶で良いよ、お茶で。烏龍茶あったよね?」
「はい、ありますよ。お兄様もお茶で良いんですか?」
「良いよ。このグラスに入れて持っていこう」
「あっ、私が持って行きますからお兄様は先に座ってらしてください」
「……分かった」
不可思議な状況に疑問が止まらない。今更ながらに今回の提案を後悔していた。
「はい、お待たせしました」
「あ、ありがとうございます」
一足先にソファに座って寛ぐ。しばらくするとお盆を持った華恋も登場。
「ストローは使いますか?」
「いえ、大丈夫です」
「お茶なんだからいらないでしょ…」
「あっ、いっけな~い」
「ぐっ…」
テーブルに3つのグラスが並べられた。その直後に妹が頭に拳を当てる仕草を披露。舌をペロリと出した表情に一瞬だけ殺意が湧いた。




