4 上部と下心ー2
「あのさ、土曜日って予定入ってるかな?」
「え? 何々、デートのお誘い?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど…」
話し合い早々に出鼻を挫かれる。外出してくれるんじゃないかという期待はあっさりと打ち砕かれてしまった。
「はぁ…」
また以前のようにバイトでもしていてくれたら良かったのに。2人揃って働いたら休みを合わせにくくなるからという理由で彼女はバイトしない宣言を出していた。
「土曜日に何かあるの?」
「どこかに出掛けてくれないかなぁと思って…」
「ん? どうして?」
「え~と、友達を家に招待する事になっちゃった」
「あら、珍しい。春休み中は一度も連れて来なかったのに」
「み、みんな忙しかったみたいなんだよね…」
「ふ~ん」
本当は目の前にいる人物が邪魔だっただけ。かといってそんな言葉を口に出来るハズもなかった。
「い、良いかな?」
「良いんじゃない、いちいち私に許可とらなくても。ここアンタの家なんだし」
「……そうだね」
「新しいクラスの人?」
「まさか。まだほとんどのクラスメートの顔と名前も把握してないよ」
「なら前のクラスの人かな。私も知ってる人とか」
「いや、学校は別々。だから華恋があんまり知らない人」
予想通りの展開を迎える。相手を調べる為の質疑応答が開始。
「つまりあの馬鹿じゃないのか…」
「颯太? 違うよ。そういえばまだこっちに帰って来た事言ってないよね?」
「当然じゃん。一生バラすつもりないし」
「ひっでぇ…」
「だってさ、最後にあんな別れ方しちゃったのよ? どの面下げて会えっていうのよ」
「颯太はそんな事気にしてないって。別の意味で気にしてたけど」
あのビンタのせいで益々華恋にご執心に。ドM属性が覚醒してしまっていた。
「どっちにしろ顔は合わせたくないかな。罪悪感とか感じるもん」
「華恋にもそういう感情があったのか」
「何か言った?」
「いえいえ、何も言ってませんよ」
慌てて口を塞ぐ。機嫌を損ねては通る話も通らなくなってしまうから。
「中学の時の友達?」
「いや、あのさ……前にショッピングセンターで会った子って覚えてる?」
「ん? 誰?」
「背が小さい子。これぐらいの…」
伸ばした右手を肩と同じ高さに移動。頭一つ分小さい身長を示した。
「あぁ、あのバイト先の後輩って言ってた子か」
「そうそう」
「……ん? 連れて来るのって女の子なの?」
「まぁ…」
空気が微妙に変化する。穏和な物から張り詰めた物へと。
「ダ、ダメ……ですかね」
「う~ん…」
低い唸り声が発生。目を閉じた華恋が腕を組んで熟考を始めた。
「良いわよ」
「え!?」
「今週の土曜日なのよね? その女の子を連れて来るの?」
「そ、そうだよ。昼過ぎに駅まで迎えに行く予定」
「ふむ」
反発を覚悟していると予想外の答えが返ってくる。まさかの来訪許可が。
「お昼とか用意しなくて良いのかな?」
「あぁ、いらないいらない。何か食べてから来るって言ってたから」
「そっか。なら晩御飯はどうしよう」
「夕方には帰るって言ってたし大丈夫。本当に何もしなくて良いよ」
「ん~、残念」
彼女は妙にやる気満々だった。どうやら抱いていた不安は杞憂だったらしい。こうして無事に障害を乗り越える事に成功した。