2 先輩と後輩ー4
「行ってきま~す」
翌日、正午頃に華恋と自宅を出発する。予定通り2人で遊びに行く為に。
先に約束していた颯太との遊びはキャンセル。悩んだ末に久しぶりに帰ってきた妹のワガママに付き合ってあげる事にした。
「……何これ」
「ん? どしたの?」
左腕に華恋がベッタリまとわり付いてくる。腕を絡めるというより、もたれかかってくる感じで。
「な、なんでこういう体勢なの?」
「だってデートじゃん。普通、デートは腕組むもんでしょ?」
「とても歩きにくいのですが…」
「気にしない気にしない。じゃあ行くよ~」
「えぇ…」
不慣れな姿勢で住宅街を移動。駅まで歩くと電車を利用して大型のショッピングセンターへとやって来た。
「おぉ、結構広いじゃない」
飲食店や雑貨屋だけでなく映画館やゲームセンターも完備されている施設。時間を潰すにはうってつけの場所だった。
「ね、ねぇ……そろそろ離れない?」
「はあぁ!? なんでよ」
「だって…」
自由を求めて解放を懇願する。周りを見回せば家族連れやカップル、学生のグループなと様々な人達が蠢いていた。
こういう場所で男女が手を繋いで歩いてる光景は珍しくないだろう。けれどこれだけ数多くの人がいるならば知り合いに遭遇する可能性も考えなくてはならなかった。
「文句ないならこのままで行くわよ。良いわね?」
「だ、誰かに見られちゃったらどうするのさ。うっかり出くわしちゃったら」
「あん? 別に普通に声かければ良いだけじゃないの」
「嘘ぉん…」
彼女の発言が信じられない。以前は抵抗の様子を見せていたのに。
「さ~て、一階から順番に回っていこうかしらね」
「うぅ…」
過剰に辺りの様子を警戒する。逃亡者にでもなった気分で。
一番見つかりたくないのは颯太だ。彼には昨日『風邪を引いて遊べなくなった』と嘘をついている。こんな現場を目撃されたら絶交されてしまうかもしれない。
「美味しい~」
それから2人でフラフラとブティックや飲食店を巡った。途中で買った粒々アイスを買い食いしたり。
腰を下ろしたいがどこのお店も人で溢れかえっている。ベンチには常に誰かが座っていてフードコートもほぼ満席状態。生半可な覚悟で足を運んだ事を後悔し始めていた。
「人、多いねぇ」
「だって春休みだもん。皆、考える事は一緒なんだよ」
「あっ、あれ可愛い」
華恋が近くにあったファンシーショップへと駆けて行く。店頭のディスプレイに並べられたクマのヌイグルミが視界に飛び込んできた。
「モフモフ~」
「商品に抱きつくのはやめようか」
「ねぇ、これ買って」
「やだよ。誕生日でもないのに」
「お兄ちゃ~ん、お願ぁ~い」
「……うっ」
甘ったるい声を飛ばしてくる。聞いていて恥ずかしくなるよう台詞を。
「7800円…」
返事は返さずに首元についた値札を確認。予想を遥かに上回る金額が目に入ってきた。時給の10倍近い値段が。
「欲しいなら自分で買いなよ」
「えぇ、良いじゃん良いじゃ~ん」
「ダメ。ワガママ言わない」
「ちぇっ……ケチ」
いくらバイトをして金銭的に余裕が出てきたからといって得体の知れない物にお金を注ぎ込む気にはなれない。どうせ飽きたら部屋に放置して、汚れたらゴミ箱行きが関の山だから。
「はぁ…」
ブーブー文句を垂れながら店の中へと入って行く背中を見送る。店内は女の子しかいなかったので自分は外で待機する事に。
「ん?」
入口付近の商品と睨めっこしていると肩に異変を察知。誰かに叩かれていた。
「げっ!」
「あーーっ、やっぱり先輩だぁ」
反射的に後ろに振り返る。そこにいたのは小柄の女の子。バイト先の後輩だった。