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2 先輩と後輩ー3

「ぐげえぇぇ…」


「どんな声を出してるんですか」


 翌日も日中はバイトに没頭する。1日の労働が終わった後は鬼頭さんと2人で駅までの道のりを歩いた。


「今日は昨日より忙しかった気がする」


「ですねぇ」


「夕方のラッシュは一体なんだったんだ…」


 ランチ終わりの午後、のんびり過ごしていたらユニフォーム姿の男性達が大勢で来店してきたのだ。近所の球場で草野球の試合があり、その打ち上げとの事。パートの女性が帰ってしまった為に店長と鬼頭さんの3人で店中を駆けずり回る羽目に。ランチタイム並の忙しさだった


「どうして喫茶店で打ち上げなんかするかなぁ…」


「普通は居酒屋とか焼き肉ですよね」


「本当だよ。喫茶店でビールの飲み会は合わないや」


「店長さんは喜んでたみたいですけど。あの人達のおかげで今日の売り上げ良かったらしいですから」


「いやいや、嬉しいの店長だけだってば」


 店の利益が高くても手元にくる給料は変わらない。同じ金額を手に入れるなら少しでも楽な道を選びたい。


「でも売り上げが低かったらお店が潰れて私達が働けなくなっちゃいますよ?」


「それは……困るかな」


「はい。それにこうして先輩と顔を合わせる機会も無くなってしまいますから」


「へっ!?」


 口から間抜けな声が出る。言葉の真意を尋ねたかったが実行出来なかった。


「そういえば先輩って明日休みですよね?」


「ん? そうだよ」


「ならたっぷり休めるじゃないですか」


「ん~…」


 休めるだろうか。出かける約束がある。しかも強制連行という条件付きで。


「ちなみに私も明日休みですよ」


「へぇ、そうなんだ」


「気付いてました? 私がいつも先輩のシフトに合わせて休みをもらっている事に」


「うぇっ!?」


 口から再び間抜けな声を出る。何気なく発せられた彼女の台詞に不意を突かれてしまった。


「あそこのお店ってほとんどが私より先に働いてた人達じゃないですか」


「そ、そうだね」


「だから先輩が入って来てくれた時は嬉しかったです。自分にも後輩が出来たって気がして」


「後輩…」


「やっぱりいろいろ指示されるより誰かに命令してた方が気分良いんですよね。先輩、私の言うこと何でも聞いてくれるし」


「は、はぁ…」


 ふとある考えが思い浮かぶ。その疑問を恐る恐る質問へと変換してみた。


「あの……どうしてわざわざ休みや出勤日を同じにしてるの?」


「え? そんなの先輩にあれこれ指示出せるからに決まってるじゃないですか」


「……ですよね」


 落胆とショックが止まらない。都合の良い回答を期待していた事が情けなくなって。


「あっ、でも勘違いしないでくださいね。別に先輩の事をバカにしてる訳じゃないですから」


「うん…」


「なんていうか話しかけやすいんですよ。頼み事をしても聞いてくれそうっていうか」


「……どうも」


「時々、学校の友達と喋ってるような錯覚起こしちゃうんですよね。先輩って年上って感じがしないし」


「はぁ…」


 それは遠回しに威厳がないと言われているようなもの。喜べない賛辞の言葉だった。


「でも2人揃って休んじゃって大丈夫なのかな。パートの人達は春休みだから子供の世話とかで忙しいだろうに」


「明日は瑞穂(みずほ)さんが入ってるから大丈夫ですよ。1人で2人分の働きをしてくれますって」


「あぁ、ならいっか」


 話題を少しずつ移行する。自分達と同じ未成年組で、近くの大学に通ってる女性に。


 その人は清楚な雰囲気に付け加えてとびきりの美人。仕事の要領もよく何でもそつなくこなす完璧超人。彼女と同じシフトに入っている日は凄まじく楽だった。


「瑞穂さんがいるなら大丈夫かな。一緒にフロア入る人が羨ましいや」


「ですね。私もあんな女性になりたいです」


「憧れって事?」


「はい、そうです。私にとってあの人は理想であり目標なので」


「が、頑張って…」


 口では応援したが本心では半信半疑。彼女達ではタイプが違いすぎるので。


 身長が高い瑞穂さんに対して鬼頭さんは小柄。2人並べると親子程の差がある。更に化粧をしている瑞穂さんに対して彼女は常にスッピン。ランドセルを背負わせたら小学生に見えなくもなかった。


「駅に着いちゃいましたね」


「だね。わざわざ付き合ってくれてありがと」


「いえいえ、それでは」


「気をつけて帰るんだよ~」


 元気よくペダルを漕いで走り去る鬼頭さんを見送る。幼女狙いの変質者に遭遇しない事を祈りながら。


「良い子だなぁ…」


 彼女は毎回こうして駅まで同行してくれていた。わざわざ自転車を押してまで。


 自宅は店から見て駅と同じ方角にあるらしいがそれでも遠回りしている点に変わりはない。疲労を我慢してまで一緒に帰ってくれる行動が嬉しくて仕方なかった。

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