2 先輩と後輩ー1
「ありがとうございましたぁ」
会計を済ませて退店するお客さんをレジで見送る。店内から人がいなくなったのを確認すると定位置であるカウンターへと戻った。
「……ふぅ」
バイト中なのに大袈裟な溜め息をつく。ストレスを空気に変換するように。
昼間のランチは戦争だった。次から次へとお客さんが入って来て立ち止まる暇がなかったほど。
注文を聞いては料理を運んで、精算を済ませた後はテーブルの片付け。まだ食器が残っているのに来店したおじさんが勝手に座ったりするから大変だった。
「片付け終わりました」
「お疲れ~」
小柄な女の子が食器を乗せたトレイを運びながら話しかけてくる。肩ぐらいまでの髪に、サイドに結んだシュシュが特徴的な人物が。
「はぁ、しんどかった」
「昼時にフロア2人は無理だよね。誰か追加してほしいや」
「そうですね。でも普段私達は夕方からなので、たまには辛いランチを担当しないとダメだと思います」
「そ、そうだね…」
女の子が運んできた食器を次々に厨房にいるパートさんに渡していた。手慣れた様子で。
「先輩、ボーっと突っ立ってないで砂糖の補充してきてください。結構減ってましたよ」
「へ~い」
指示された通り棚からスティックシュガーが入った袋を取り出す。近くの席から順に筒状の入れ物の空間を埋める作業を開始。
「ん…」
働き始めたバイト先は海城高校から徒歩で行ける場所にある喫茶店だった。割と最近出来たお店でスタッフも若い人が多い。
従業員は全部で10人ほどいるのだが最低3人いればお店は回せてしまう。なので同じ店に勤めていながら顔をほとんど合わせた事がない人もいた。
「よっと」
働き始めは失敗の連続。指示されないと動けないし、教えてもらった事も満足に出来ない毎日。何より一番の難点は人見知りいう性格だった。
それでも辞めずに続けられたのは双子の妹に負けたくなかったから。そして一緒に働く年下の女の子に会えるのが楽しみだったからだ。
「終わりました?」
「はい。全部のテーブル廻ってきました!」
「なら次はトイレの確認とフロアの掃除お願いします」
「……はい」
任務を従順に遂行して戻って来た所で次なる指令が下される。雑用の仕事が。
「ひぃい…」
彼女と働く時はいつもこんな感じ。下っ端の自分があれこれ動くだけ。
勤めたのが後なので仕方ないといえば仕方なかった。けれど呼称は先輩という矛盾した関係。
通っている学校も違うので学業においても敬われる存在ではない。彼女が通っているのはこの近くの女子校。以前に颯太と女の子観察に行った事がある槍山女学園だった。
「終わりましたか?」
「はい!」
「じゃあ私達もお昼にしましょうか」
「イエッサー」
全ての作業を完遂した所でようやく休憩となる。店長が作ってくれた焼きそばを持つと2人で空いている席に座った。