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1 帰還と奇観ー1

挿絵(By みてみん)


「……ったく、ビックリしたよ。連絡も無しにいきなり現れるもんだから」


 2人でリビングのソファに座って寛ぐ。久しぶりに顔を合わせる双子の妹と。


「何度思い出しても笑えるわぁ、雅人の驚いた顔。エサを欲しがってる鯉みたいに口をパクパクさせてたよね?」


「う、うるさいなぁ。だって本当に驚いたんだもん」


 心の中には嬉しさ以外に緊張感が存在。対面するのが数ヶ月ぶりなので冷静になれなかった。


「ねぇ、嬉しかった? 私に会えて」


「まぁ……うん」


「ならもっと喜んでよ。涙流して崩れ落ちるとか」


「どこのロミオっすか」


「思い切ってガバッと抱きつくとか。こう思い切り」


「妹相手にそれはちょっと…」


 久しぶりに顔を合わせた華恋は以前と変わらない饒舌ぶり。ここに帰って来れた事が嬉しかったからかテンションが異様に高かった。


「教えてくれたら駅まで迎えに行ったのに」


「雅人をビックリさせようと思って内緒にしてたからね。おばさん達には言ってあるけど」


「ちぇっ……なら1人だけ知らされてなかったのか」


「ううん、香織ちゃんにも言ってないわよ」


「あ、そうなんだ」


 テレビは点いていない。なので聞こえてくるのは互いの喋り声だけ。


「皆はいないの?」


「ん? 父さん達は仕事で、香織は遊びに行ってるよ」


「そっか。なら今この家にいるのは私とアンタだけって事か」


「な、何さ…」


「雅人と2人っきり…」


「いや、華恋が想像してるような事は絶対に起きないからね? 変な考えを起こすのはやめてくれよ」


「ちっ、つまらん奴」


 妄想を繰り広げだしたのでツッコミを入れる。何故か不機嫌さを表した舌打ちを飛ばしてきた。


「またこっちの学校に通うの?」


「当たり前じゃん。あんな遠い所までわざわざ通えないし」


「じゃ、じゃあ本格的にこっちに住む事になったんだよね?」


「そうよ。だから最初にそう言ったじゃない」


「そっか……良かった」


 彼女の帰還は一時的な旅行ではなく完全な物。どうやらまた一緒に生活が出来るらしい。


「制服とっといて良かったぁ。処分してたらまた買い直さなくちゃだもんね」


「そだね。華恋が置いてった漫画も全部残してあるよ」


「お、マジか。やっふぃ~」


「僕の部屋に置いてある。ベッドの下に積み重ねてあるから」


「わ~い。なら後で運ぶの手伝って」


「へいへい」


 残していった私物はほとんどがそのまま。もし華恋が帰ってきた時の為に。そう考えて大切に保管していた。


「ねぇ、またあの客間借りちゃっても良いのかな…」


「良いんじゃない? 別に誰も使ってないし。それにあそこ使えないと寝泊まり出来る場所なくなるじゃん」


「ならまた使わせてもらおうかな……遠慮なく」


「うん。遠慮なんかいらないよ」


「まぁ使えなかったら使えなかったで、雅人の部屋で寝泊まりさせてもらえば済む話なんだけどね」


「いやいや…」


 客間の布団をいつ干したか思い出せない。最近触れた記憶が無かった。しかし母さんは華恋が帰って来る事を把握していたハズ。なら事前にそれぐらいやっているかもしれない。


「また一緒に寝られるね、お兄ちゃん?」


「またって一緒に寝たの1回だけじゃん」


「あぁ……あの夜は幸せだったなぁ」


「お、思い出さないでくれ…」


 きっとあの日は頭がどうかしていたのだろう。二度と会えなくなるかもという淋しさが原因で。だがこうして再会した今となっては消し去りたい黒歴史となっていた。


「雅人がどーーしても私と寝たいって駄々こねるから一緒に寝てあげたんだったわよね」


「いや、違うって。そっちが僕の部屋に来たんだよ。捏造しないで」


「あら? そうだったかしら」


「そうだよ…」


「ん? 何?」


「い、いや……別に」


「ふ~ん…」


 会話中に彼女がスカートを穿いた足を組み替える。遠慮なく豪快に。


「……見たい?」


「な、何を?」


「この中」


 慌てて目線を逸らすと意味深な台詞を発してきた。スカートの裾を持ち上げながら。


「ちょっ…」


「どうしてもっていうなら見せてあげない事もないけど」


「やめようよ、そういうの。自分が何を言ってるか分かってるの?」


「もちろん。で、見たい?」


「……う」


 その二択を問われれば間違いなく実行案を選ぶだろう。目の前で素肌を露出されたんじゃ意識するなという方が酷な話だ。しかし相手は妹。双子の片割れ。義理ではなく血の繋がった身内だった。


「ねぇ、見たい見たい~?」


「ぐっ…」


 1人で葛藤している間にも太ももが何度も視界に飛び込んでくる。迫られているのは変態か真人間かの線引き。


「……ちなみに何色だと思う?」


「え?」


「ピンクかなぁ、水玉かなぁ。それとも純白かなぁ」


「えと、あの…」


「確認したらすぐに分かるよ。なんなら触らせてあげても…」


「ああぁああぁぁーーっ!!」


「うおっ!?」


 思わず大声で叫んだ。膝に手を突いて立ち上がりながら。


「いい加減にしてくれよ。そういう冗談言うの」


「どうして?」


「もし僕が本気にしちゃったらどうするのさ」


「そしたら普通に見せてあげれば良いだけじゃない。何も問題ないハズよ」


「いやいや、大アリだって…」


 思考回路がおかしい。まるで別人になってしまったかのように。


「良いじゃん。こうして久しぶりに会えたんだしぃ」


「久しぶりに再会した事と下着を見せる事に何の関係があるのさ」


「だって溜まりまくってるんだもん」


「何が?」


「その、いろいろ…」


「……えぇ」


 質問に対して彼女が頬を膨らませる。目線を逸らすと足を前後にバタつかせ始めた。


「そういえば向こうの生活はどうだった?」


「ん~、まぁまぁかな」


「普通って事か」


「ずっとこの家に帰ってきたいって思ってた」


「そ、そうなんだ…」


 空気を変える為に別の話題を振ってみる。だが返ってきたのは予想より鈍い反応だった。


「あ……えと、なんか飲む?」


「ん? じゃあ、お茶ほしい」


「了解」


 微妙に気まずくなった雰囲気に耐えられず移動する事に。立ち上がってキッチンを目指した。


「隙ありっ!」


「うぉっと!?」


 冷蔵庫を目指すがバランスを崩してしまう。背後から強烈なタックルを喰らったせいで。


「ちょっ……何するのさ」


「あぁ、久しぶり。この感じ…」


「離れてくれ。引っ付かないでくれよ」


「雅人の匂い、あぁ~」


「ぎゃああぁあぁっ!!」


 背中に妙な感覚が走った。くすぐったいようなゾッとするような悪寒が。


「こういうのダメだってば。やめようよ」


「にゃ~、にゃ~」


「このっ…」


 マニキュアが塗られている指先に触れる。服を掴んでいた手を強制的に剥がし始めた。


「だってぇ、淋しかったんだもん」


「それは分かったから。早く離れて」


「親戚のおじさんにイジメられたりしてさぁ」


「え?」


「だからずっとこうして甘えられるの楽しみにしてたのに…」


「そうなんだ…」


 互いのテンションが下がる。先程までの盛り上がりが嘘のように。


 やはり向こうで色々あったらしい。親戚とはいえ今まであまり接点のなかったような子。相手からしてみれば他人も同然だろう。そんな環境でこき使われている姿を想像すると手に込めていた力が抜けていってしまった。


「酷いんだよ、おじさんたら」


「うん…」


「私がお腹空いた~って言うと、すぐに車に乗せてきてさ」


「うん…」


「焼き肉やらお寿司屋さんに連れて行って『たくさん食べなさい』って言うの。私を太らせようとするんだよ」


「……メチャクチャ良いおじさんじゃないですか」


 二重の意味で肩を落とす。想像していた内容とまるで違っていたので。


 イメージでは物でもぶつけられたりしていたのかと思っていたのに。脳内に作り出された世界名作劇場を返してほしかった。


「おかげで3キロも太っちゃった」


「大して変わらないよ…」


「3キロ減らすのがどれだけ大変かアンタ分かってんの? 死ぬほど運動しないといけないんだからね」


「なら頑張ってダイエットに励んでおくれ…」


 やっぱり彼女は逞しい。へたれな兄とは違って。話を聞くと向こうの家ではかなり大切に扱われていたとの事。入れ替わりたかったと感じてしまう程に。


「でも雅人がいないのが唯一の不満だったけどね」


「そ、そうですか」


 それからスナック菓子をつまみながら互いの思い出を語り合った。空白の数ヶ月にどんな生活を送っていたのかを。


「へぇ、雅人にしては思い切った事したじゃん」


「誰かさんを見習ってみようかと思ってね。勇気を出してみたのさ」


「やだ、そんな……面と向かって誉められると恥ずかしい」


「ヨダレ垂れてるよ」


「うおっと! ジュルル…」


 彼女からは引き取ってくれた親戚の話を。自分からは家族の近況を伝えた。ついでにバイトを始めたという報告も。

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