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25 春と空ー3

「うぉっ!?」


 自問自答を繰り返していると突然スマホが震える。強制的に切り替わった画面には呼び出した連絡先と同じ人物の名前が書かれていた。


「……華恋」


 まさか向こうからかかってくるなんて。しかもタイミングを見計らったかのように。


「あっ!」


 すぐに受信しようと指を動かす。しかし操作ミスでうっかり切ってしまった。


「やっちまった…」


 画面が待ち受けに切り替わる。バイブやメロディーも停止。


「……どうしよう」


 こちらからかけ直した方がいいのだろうか。ただ入れ違いの可能性を考えて数秒間だけ待機。画面を凝視していたが再着信は行われなかった。


「なんだったんだろう…」


 もしかして大切な用事でもあったのかもしれない。忘れ物をしていたとか。それは充分に有り得る話。だとしたなら間違いとはいえ切ってしまったのはマズかった。


「ん…」


 慌てて端末を操作。通話機能を使って連絡をとった。


「……あっ、もしもし」


『ん…』


「華恋?」


『……久しぶり』


「う、うん」


 しばらくするとコール音が鳴り止む。懐かしい声と入れ違いに。


『ごめん。いきなり電話しちゃって』


「いや、こっちこそごめん。間違えて切っちゃった」


『あぁ、やっぱり。突然切られたからビックリしちゃった』


「悪い。パニックになってうっかり」


 どうやら怒ってはいないらしい。穏やかな様子に安堵した。


『……元気だった?』


「まぁ。そっちは?」


『元気……っちゃ元気かな、多分』


「そ、そっか」


 久しぶりのやり取りだからか上手く会話が出来ない。ぎこちなさがヒシヒシと伝わってくる。


『何してたの?』


「え~と、出掛けてて帰って来たとこ」


『ふ~ん…』


 時間が経つにつれ緊張感が増幅。親しい人物のハズなのに人見知りが発動していた。


『どこに出掛けてたの?』


「特に目的もなくブラブラと街を徘徊」


『怪しい奴…』


「自分でもそう思った。怪しいよね」


 電話越しにクスクスと声を出して笑い合う。姿は見えないが頬を緩ませている彼女の姿がイメージ出来た。


『で、本当はどこに行ってたの?』


「え?」


 リラックスしていると答えたハズの質問を再び投げかけられる。真面目さと明るさを混在させたトーンで。


「いや、だから街を徘徊してたんだってば」


『いくら私でもそんな嘘には騙されない』


「本当なんだってば。信じてくれよ」


『……そんなに言いたくないんだ』


「えぇ…」


 何故ここまで疑うのか。確かに用もなく街中を歩き回る人なんて滅多にいない。けど嘘偽りない事実だった。


「……華恋は何してたの?」


『え? 私?』


 軽く尋問みたいで気まずかったので話題を転換する。今度はこちらから同じ疑問を尋ねてみた。


『何してると思う?』


「わからない」


『諦めるの早すぎ。ちょっとは考えなさいよ』


「ん~、そんな事言われても…」


 的中率の低い無理難題なクイズを出される。しかもノーヒントで。


「住宅街を徘徊」


『まぁ正解。そんなとこかしら』


「え?」


 適当に言ったら見事ゴールに到達。ふざけて答えただけに彼女の反応に驚いてしまった。


「ほ、本当に正解なの? からかってるんでしょ」


『からかってないわよ。事実だもん』


「嘘くさ…」


 その言葉を鵜呑みに出来る訳が無い。数秒前にこちらが同じ事を言った時は信じなかったから余計に。


『じゃあ、どうしてたと思うのよ』


「バイト?」


『仕事中に電話かけちゃマズいでしょうが。残念、ハズレ』


「なら……親戚の家?」


『ハズレ~。ヒントは外』


「……外」


 もしかして本当に街を散歩していたというのだろうか。だとしたら兄妹揃って同じ行動をとっていた事になる。


 そもそもこうして久しぶりに連絡を取ろうとしてきた目的が不明。ひょっとして電話かけようとしていた事まで偶然だというのか。


『分かった?』


「分からない」


『ギブアップ?』


「ギブアップ」


 電話越しに聞こえてくるのは楽しそうにハシャぐ声。それはまるでプレゼントを買い与えられた子供のようなテンションだった。


「正解は?」


『ふっふ~ん、正解はねぇ……アンタの後ろ』


「え?」


 耳に入ってきた言葉に反応して体を回転させる。振り返った道路の先には1人の人物が立っていた。


『久しぶり…』


 風になびく綺麗な髪。見慣れてしまった端正な顔。首からかけられたハート型のペンダント。すぐそこに立っている人物は、今ここにいるハズのない女の子だった。


「ちょっ…」


 彼女がケータイを持つ手を下ろす。もう片方の手を使って接続を切りながら。


「なん……で」


 そんなハズはない。何ヵ月も前に旅立ってしまったのだから。ずっとずっと遠くに。


 それでもその人はすぐそこに立っていた。自分の視界の先に。やがて彼女は息のかかる距離まで近付いてきた。


「……帰って来ちゃった」


「え?」


 目の前でイタズラっぽい笑みを浮かべる。甲高い声と共に。


 それは間違いなく自分の知っている女の子。偽物でも幻でもないずっと会いたいと思っていた人物だった。


「んっ…」


 なんて言えば良いのだろう。どんな言葉で今の心境を表せば良いのかが分からない。


 ただ胸の中に熱い何かが込み上げてくるのが分かる。嬉しさを飛び越えた感情が。


 まるで夢を見ている気分だった。同時に願い続けてきた夢が叶った瞬間でもあった。


 恋しかった人がすぐそこにいる。優しくて憎たらしい笑顔を浮かべた妹が。戸惑っていると彼女が大きく口を開いた。


「ただいまっ!」

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