23 郷愁と追憶ー5
「前にも聞いたけど欲しい物ある?」
「ん~、やっぱりアクセかなぁ。ネックレスとかブレスレットとか」
「た、高くないかな。それ系のは」
「別にブランド物じゃなかったら安いわよ。2~3000円ぐらいであるし」
「それなら何とか…」
頭の中で財布の中身と睨めっこする。中古のゲーム並の金額なら買ってあげられるだろう。
学生の自分には手痛い出費だがこれが最初で最後の贈り物になるかもと考えたら苦ではない。全財産を放出しても構わないと覚悟していた。
「用も済んだし濡れる前に帰る?」
「いや、このまま電車に乗って繁華街に行こう」
「何しに?」
「だからプレゼント買いに」
「……本当に買ってくれるの?」
「え? いらない?」
「い、いる! 欲しい」
彼女の返事を聞いて次の目的地を定める。すっかり邪魔になってしまった自転車を押して駅までやって来た。
「どこに置いておくの?」
「スーパーの駐輪場。やっぱりあそこぐらいしか置いておく場所ないし」
「有料の駐輪場はいっつも埋まってて止められないもんね」
「うん」
ズラリと並べられた無機質な物体の中に突撃する。通行人にぶつからないように気を付けて。
ロックをかけると身軽になった体で駅へと移動。普段は利用しない路線を使って繁華街へとやって来た。
「ここ来るの久しぶりだね」
「そうだね。颯太達と来て以来かな」
「私はあれからも友達と何度か来てたけどね」
「え? なら久しぶりじゃないじゃん」
「雅人と2人っきりがって意味よ」
「そっか…」
頭上を見上げると先程よりも空が暗雲状態に。なので急いで目的を達成させる事にした。
「どれが良いと思う?」
「ん~、よく分からないや」
目についた店に入って物色する。小物がたくさん並べられた雑貨店を。
「いっぱいあるから迷っちゃうなぁ。どれにしよう」
「言っておくけど1つだけだからね。2つも3つもは無理だよ」
「言われなくても分かってるわよ。アンタ、バイトしてないんだからあんまりお金持ってないでしょうが」
「な、なら良いけど」
多少のワガママなら目を瞑ってあげたい。ただたくさんの商品をレジに持っていってキャンセルなんて状況は避けたかった。
「ねぇ、せっかくだから選んでよ」
「え? 自分で決めなよ。華恋が身に付ける物なんだから」
「でも雅人からのプレゼントなんでしょ? ならアンタが選んでくれた方が良いじゃない」
「ん~、ならこれとか…」
リクエストを出されたので適当に目についた物を手に取る。ドクロの形をした不気味なペンダントを。
「デザインが格好いいなぁ」
「……私にそれを首からブラ下げろってか」
「え? ダ、ダメ?」
「私のイメージや好みとかけ離れすぎてるからダメ! もうちょっと可愛いのにしてよ」
「人の好みなんか知らないし…」
しかし本人から即座に否定。仕方ないので隣にあったピンクのハートを手に取った。
「ならこれとかは?」
「あ、可愛い」
「で、でしょ?」
何も考えずに選んだらまさかの好反応。誘導された感は否めないが。
「ねぇねぇ、どう?」
「似合ってるんじゃない?」
「へっへ~、じゃあこれにしちゃおっかな」
「え? もう決めちゃうの?」
「ん~、ならもう少し探してみる」
試着してみたがとりあえず保留という事に。商品を元に戻すと再び人混みが激しい通りへと突撃した。
目についた店に入って様々な商品を物色。アクセサリーだけでなく部屋に置いておけそうな小物を見て回ったり。
基本的に華恋が気に入った物を手に取り自分はそれに頷くだけ。彼女の態度は終始ご機嫌だった。
「……あ」
そして1時間近く経った頃、頭に当たる妙な異変に気付く。空からポツポツと水滴が落下していた。
「降ってきちゃった」
「だねぇ…」
「どうしよう。まだ進む?」
「むぅ……とりあえず駅の方に戻ろっか。もうほとんどの店は見て回れたし」
「了解」
進めていた足の向きを反対側へと変える。周りにいた大勢の人達も天候の変化に気付いたらしく様子が変化。歩みを進めていくほど水滴の量は増大する事に。そして10分も経たないうちに本降りとなってしまった。
「うひゃあっ、冷たい!」
「雅人、こっちこっち」
シャッターが閉まっている雑居ビルを見つける。2人してそこに突撃した。
「あ~あ、間に合わなかったかぁ」
「ツイてない。あと30分待ってくれたら良かったのに」
「傘持ってくれば良かったね。うっかりしてたわ」
「私もうっかりしてた」
目の前を傘を差した人達が行き交っている。中には衣類へのダメージも恐れずに走っている強者も存在した。
「やっぱり最初に行った店のにしようかなぁ」
「ドクロのヤツ?」
「ハートのよっ! アホか!」
「なら帰りがけに買っていこっか」
「うん…」
購入するプレゼントは決定。だが不運にもこの場所から動けない。
近くのコンビニまで傘を買いに行こうか。そんな事を考えていると隣にいる相方が小さく口を開いた。
「でも一番欲しいのはペンダントじゃなくてアンタなんだけどね…」
「……まだ諦めてなかったのか」
「私、しつこいわよ。欲しい物を手に入れる為なら法だって犯してやるんだから」
「だいたいどうやって持っていくつもりなのさ。ダンボールに詰めるの?」
「あ、それ良いわね。荷物として持っていけば料金あんまりかかんないし」
「いやいや、死んじゃうから」
いつもみたいなくだらない会話を交える。こんなやり取りもあと少ししか出来ない。そう考えると寂寥感が込み上げてきた。
「私がいなくなったらアンタも彼女とか作っちゃうのかな…」
「どうだろうね。作れる気がしないけど」
「前に住んでた場所にね、仲の良い子が何人かいたんだ」
「女友達?」
「……うん。最初は何度か連絡のやり取りをしてたんだけど、だんだん返事が返ってこなくなっちゃって」
「それは……悲しいね」
「あ~あ、また最初からやり直しだ。転校生は辛いなぁ」
「ん…」
自分はそんな事ない。そう慰めてあげたかった。でもこの繋がりを断ち切りたくて転校する決意をした彼女にその言葉を口にするのは疑問でしかない。
「……はぁ」
お互い無言のまま立ち尽くす。しばらくその場所で雨宿りを続けた。