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23 郷愁と追憶ー2

「雅人、久しぶりに女子校行かない?」


「行かないよ。もう二度と行きたくない」


「お前がいつも断るから俺1人で行く羽目になるんだぞ。先週、沖縄に行った時も1人だったし」


「どこまで遠征してるのさ…」


 学校の昼休みに颯太と2人でパンをむさぼる。彼の顔は日焼けの影響で黒みを帯びていた。


「硬派を気取ってないで一緒に行こうぜ。な?」


「別に気取ってる訳ではないんだけど」


「とりあえず新潟に1校、岡山に1校、佐賀に1校可愛い制服があるんだよ」


「どこも遠すぎるってば…」


 くだらない話で盛り上がる。華恋に聞かれたら怒られそうな話題で。


「そういえばお前、槍山に知り合いいない?」


「前に行った女子校? 悪いけどいないよ。1人も」


「なら妹をあそこに転校させるってのはどうだ? 学祭に行ってみたい」


「む、無理だよ。香織、あんまり頭良くないし」


「俺達に不可能な性別の問題をクリアしているんだぞ。貴重な人材じゃないか」


「別に女子なら誰でも入れる訳じゃないからさ」


 友人が無理難題を要求。しかも動機が不純すぎた。


「やっぱりダメかぁ。良い作戦だと思ったんだけどなぁ」


「智沙がいるじゃないか。智沙に頼みなよ」


「アイツ、無理じゃん。中身オッサンだもん」


「うちの妹も同じようなものだよ」


「華恋さんは……ダメだな。別々の学校になるとか考えられん」


「華恋が一番お嬢様学校に入れそうな気はするけど」


「いいや、ダメだ。華恋さんを行かせるぐらいなら俺が行く!」


「……どういう事なのさ」


 主張内容がハチャメチャ。でもその考えられない現実がもうすぐそこまでやって来ていた。華恋のいない生活が。


「雅人」


「ん、何?」


 感傷に浸っていると後ろから名前を呼ばれる。命令でもするかのような強い口調で。


「アンタ、最後に何かしてあげないの? もうすぐお別れなんでしょ?」


「いや、あの…」


「ん? 何の話?」


 友人と友人に板挟みの状態に。状況を理解していない颯太が視線をキョロキョロさせた。


「プレゼント買ってあげるとかさ。どこかに連れて行ってあげるとか」


「う~ん、何かやってあげようとは考えてるんだけど…」


「考えてる間にいなくなっちゃわないと良いけどね」


「……うっ」


 その可能性はなくはない。優柔不断な自分の事だから大いに有り得た。


「ちゃんとお礼しなさいよ~。何もしてあげないとか淋しすぎるじゃない」


「お前ら、さっきから何の話してんの? 俺にも教えてくれ」


「うるさい、黙れ。アンタには関係ない話してんだから」


「なんだよ。良いじゃん、教えてくれよぉ」


 拗ねた颯太がこちらに振り向く。何かを求めているかのような表情を浮かべながら。


「どういう事? 誰かいなくなるの?」


「え~と…」


「雅人達の共通の知り合いなんだろ。そのいなくなる人」


「まぁ…」


「じゃあ俺も知ってる人じゃないの。まさか…」


「え?」


 白状するべきかどうか心の中で葛藤。しかし答えを出す前に本人の方に視線が送られてしまった。


「いや、違う。華恋ではないよ」


「え? でも…」


「華恋はいなくならないから、多分」


「嘘だ。だってお前さっきチラチラ向こう見てたじゃないか」


「ぐっ…」


 とぼけた性格して洞察力が鋭い。無意識で彼女の方を見てしまっていたらしい。


「華恋さんなんだろ、いなくなるの。どういう事なんだよ」


「いや…」


「あぁああぁあぁっ! 女神様がいなくなったら俺はどうやって生きていけば良いんだぁぁぁぁ!!」


 壮絶な悲鳴が反響する。それは芝居ではなく本気のリアクションだった。


「ち、違うよ! いなくなるのは華恋じゃない」


「はぁ? なら誰だって言うんだよ」


「こ、こっち…」


 咄嗟に見当違いの方向を指差す。すぐ横に立っている人物の顔を。


「え? アタシ?」


「なんだ、智沙か」


「……あ?」


「なら何ともないな。心配して損したわ」


「んだとコラァァァァ!」


「ギャーーッ!!?」


 突っ伏していた颯太が起き上がってふんぞり返った。その直後に響き渡ったのはガラスでも割れそうなぐらいの断末魔。


「最後の思い出か…」


 やっぱり何か贈ってあげたい。荷物としてかさばらない程度の物で。


「死にさらせぇぇっ!!」


「ぐ、ぐわぁぁぁぁーーっ!?」


「う~ん…」


 その後の授業中もずっと考えていた。何をしてあげたら良いのか、どんな物をプレゼントしたら喜ぶのかを。


 彼女の趣味は把握しているが具体的なアイデアが出てこない。最初で最後の贈り物になるかもしれないので慎重に選びたかった。

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