表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/354

21 現実と現在ー3

「あぁあぁぁっ!」


「……ん」


「うっ、んぐっ…」


「はぁ…」


「……まさと」


「ん?」


 どれぐらいそうしていたかは分からない。しばらくすると隣から弱々しい声で名前を呼ばれた。


「どうしてアンタは泣かないのよ…」


「もう昨日いっぱい泣いたから」


「部屋で?」


「……うん」


 決して強がっている訳ではない。平静を保っていられるのは既に絶望を受け入れた後だから。


「今日、学校行くの嫌だったもん。朝起きたくなかった」


「そうなんだ…」


「もう良いの? 割り切れた?」


「んんっ…」


 質問に対し彼女が首をブンブンと横に振る。駄々をこねる小学生のように。


「無理。まだ全然これっぽっちも納得出来ない」


「なら気の済むまで泣けばいいさ。家に帰ったら涙も流せなくなるんだから」


「だって私ばっかりグズってるとバカみたいなんだもん…」


「別に周りに誰もいないんだから気にしなくても」


「アンタも泣け。そしたら許してあげる」


「……何を?」


「私を慰めてくれなかった事」


「えぇ…」


 励ましていると理不尽な要求を突き付けられた。何一つ理に適っていない意見を。


「前だったらもっと優しくしてくれたのに…」


「もう今は華恋の知ってる奴じゃないからね」


「この薄情者ぉ…」


「知らなかったの? 本当は情の薄い人間だって事を」


「バカ」


「嫌いになりたかったらなっても良いよ。その方がお互いに楽だし」


 突き放すような一言を口にする。その言葉に反応して彼女の肩がピクリと震えた。


「そんなの無理に決まってるじゃん。だからこうして泣いてるのに…」


「……うん」


「アンタはもう私のこと好きじゃないの?」


「さぁ、どうだろうね」


「教えてよ。気になるんだから」


「嫌いって答えたらどうする?」


 その時、初めて泣き止んでからの華恋の顔を直視した。瞳が充血している表情を。


「殴る」


「な、何でさ!」


「殴って殴って殴りまくる。んでもって抱きつく」


「……意味わからないよ」


「アメとムチで虜にするの。私以外の人を好きになれないようにしてやるんだから」


「ひえぇぇ!」


 咄嗟に身構える。ヤンデレ女に暴力を振るわれない為に。


「だから殴られたくないなら冗談でも私の事を嫌いなんて言ったらダメ」


「は、はい…」


「ねぇ」


「ん?」


「キス……したらダメかな」


「は!?」


 怯えていると突飛な意見を持ち出された。呆れるような声を出してしまう程の提案を。


「だって両思いなのにまだ一度もしてくれてないし…」


「あのさ、今までの話聞いてた? 僕達は兄妹だって言ったでしょ?」


「そうだけどさぁ、いきなりそんな事言われても実感湧かないし……それにしたいし」


「キス?」


「……うん」


「はぁあ…」


 大きく溜め息をつく。対話相手に聞こえるようにワザとらしく。


「もういい加減諦めてくれ。そういうの出来なくなっちゃったって言ったじゃないか」


「まだ皆にはバレてないよ、私達がお互いに好きなんだって。だったら良いじゃない」


「そういう事じゃなくてさ、現実的にやっちゃいけない関係なんだよ。分かる?」


「……じゃ、じゃあコレで最後にするから」


「え?」


「ワガママ言うのはコレで最後にする。もう絶対これ以上は迷惑かけない」


 説教をするも言葉が途中で停止。その原因は目の前にある儚げな表情だった。


「これからはちゃんと兄妹だって割り切るよ」


「最後の思い出にって事?」


「うん…」


 彼女の言葉に決意が鈍る。胸に抱いている理性をひっくり返してしまいそうな勢いで。


「もし今しなかったら、私は一生後悔して生きる事になると思う」


「……した事で後悔が生まれたとしたら?」


「そんなの関係ないし。未来の私の事情なんか知ったこっちゃないわよ」


「主張内容がメチャクチャ…」


 口では拒絶していたものの同意し始めていた。常識を大きく逸脱した要求に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング 面白いと思ったらクリックしてもらえると喜びます(´ω`)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ