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21 現実と現在ー2

「じゃあ今の家族の中に雅人と血が繋がってる人はいないんだ」


「そういう事になるね。あんまりショック受けてないから良いんだけどさ」


「ふ~ん、逞しい発想」


「ただ代わりに新しい家族を見つけたよ。長い間、側にいたのにずっと気がつかなかった」


「どういう事…」


 悔しさを堪えるように地面に生えていた草を握る。そのまま力任せに引っこ抜いた。


「言われてみたら納得だったよ。誕生日まで同じなんだもん…」


「……何言ってるの、アンタ」


「でも指摘されなきゃ気付かないよ、普通は」


「さっきから何の話をしてるのよ。私にも分かるように説明して」


「華恋は……お母さんから自分の父親について聞かされた事ある?」


「え?」


 少しだけ横にいる彼女の顔を見る。投げかけられた質問を濁すように。


「あんまり無いかな。興味なかったし」


「そっか」


「今どこで何してるの分からないけどさ、知らない女と再婚でもしてるんじゃない? 勝手にそう思ってるわよ」


「そっちこそ逞しい発想だよ…」


 自分も産みの親に関してはあまり興味がなかった。それは母親が欲しくなかった訳ではなく過去の経緯を尋ねるのが怖かったから。


「なら出生の秘密を知ってしまったから話を切り出せなかったって事?」


「……だってさ、言える訳ないじゃん。好きになった相手が家族だなんて」


「それは前から分かってた事でしょ。ずっと一緒の家に住んでたんだから」


「そうじゃない。そういう意味じゃないんだよ…」


「何? どういう事なの」


 苦しんでいると見当違いの意見が飛んでくる。勘違いしている人間の発想が。


「華恋を産んでくれたお父さんとお母さんは、僕の父親と母親なんだ」


「は?」


「華恋を育ててくれた母親は僕にとっての本当の母親。そしてさっき言った死んでしまった父親っていうのは……華恋のお父さんなんだよ」


 けれどいつまでも隠し続けても意味がない。決意を固めて真実を語り始めた。


「母さんが産んだ子供は双子で、その時に産まれたのが僕と華恋なのさ」


「なんで…」


「つまり僕達は最初から家族だったんだ。血の繋がった」


「……なんでそんな嘘つくのよ」


「え? いや、嘘じゃないよ。全部本当の事だし」


「違うじゃない。私とアンタは今の家で知り合って、それから…」


「だから産まれてから別々に育てられたって事なの!」


 告白に対して当然の答えが返ってくる。狼狽えている反応が。


「僕達の父親はもうこの世にいなくて、華恋のお母さんと僕達2人が本当の家族だったんだ」


「……違う」


「違わない。それが真実」


「違うっ! 私はただの居候でおばさん達にお世話になってるだけ。アンタとはただの同居人」


「ならお父さんはどこにいるんだよ。今の話が嘘なら父親がいるハズでしょ、華恋には」


「そ、それは…」


「信じたくない気持ちも分かるよ。こんな突拍子もない話」


 全てが空想だったらどんなに良かった事か。このやり取りも昨日の会話も。


 もちろんそんな願いが叶わないと承知していた。心は子供でも社会の残酷さは理解していたから。


「おじさんの言ってる事が嘘って可能性もあるんじゃない。証拠とかないんだし」


「何の為に嘘つくのさ。意味がないじゃん」


「けど…」


「とにかくこれは本当の話なんだ。僕も父さんも嘘なんかついちゃいない」


 反論に反論を重ねる。現実と絶望を受け入れるように。


「じゃあ…」


「え?」


「じゃあ私、どうすれば良いの? アンタのこと好きになって、なのにその相手が兄妹だったなんて」


「……ん」


「初めてだったのに……こんなに誰かを好きになったの初めてだったのに」


「ごめん…」


「どうすれば良いのよ。そんな話を聞かされて私は…」


「……どうしようも出来ない」


 ずっと前を見ていた。景色だけを見ていた。夕日に照らされ光っている川を。茜色に輝く空を。


 隣にいる彼女の顔を直視出来ない。泣きそうな声で喋っているその表情を視界に入れる事が怖かった。


「ねぇ、雅人」


「む…」


「どうすれば私達、付き合っても良い事になるの?」


 黙り込んでいると肩を掴まれ揺さぶられる。不安な気持ちを体越しに伝えるかのように。


 この場から逃げ出す事は容易だった。立ち上がって全力で走れば良いだけ。今の彼女相手なら簡単に振り切る事が出来るだろう。そうすればこの耐え難い状況から脱出する事が出来た。


「前にさ、家を出て行ってでも構わないから僕と付き合いたいって言ってた事あったじゃん」


「え?」


「もしかしてその時には親戚の家に行く話を聞かされてたの?」


「うん…」


「……そっか」


 問い掛けに対して彼女が頷く。小さくゆっくりと。


「私はこれからもアンタの事を好きでいて良いのかな…」


「え?」


「今まで通り、ずっと両思いでさ…」


「ダメだよ、そんなの。言ったじゃないか。家族なんだって」


「家族だから何? 兄妹だから何? 親が同じだと分かったら好きになったらいけないの?」


「当たり前じゃん。だって兄弟で付き合ってる人、見た事ある?」


「ないよ。でも…」


 そして穏やかな空気は再び修羅場に突入。互いに声を荒げる口論に発展した。


「結婚だって出来ないでしょ? 法律上でも無理なんだよ、僕達が付き合うのは」


「そんなの関係ないっ! それは大人が決めたルールだもん」


「その大人の決めたルールがあるから付き合えないんだよ。僕達だってその世界の中で生きてるんだから!」


「雅人だって言ってくれたじゃん、私の事が好きって。アレは嘘だったの?」


「嘘じゃないよ……嘘じゃ、ない」


「だったら…」


 泣きそうだった。今すぐ大声で叫んでやりたかった。


「誰も悪くないよ。父さん達も、華恋のお母さんも」


「……う」


「ただ組み合わせが悪かったんだ。出会い方と別れ方が」


「あ、あぁ…」


「華恋?」


「……うあっ、あぁあ」


 現実を認識していると隣から言葉になっていない台詞が聞こえてくる。息を詰まらせた嗚咽が。


「私、何にもしてないのに…」


「ん…」


「まだキスだってしてないのに……なんで、なんで」


「うん…」


「……あ、うあぁ」


「そうだね…」


「うああぁあぁぁぁっ!!」


 そして何かがはちきれたように彼女が喚き出した。今までに聞いた事がない程の大声で。


「んっ…」


 一瞬、頭を撫でてあげようか迷う。抱き締めてあげようかと。でもそれは出来ない。もしそんな真似をしたら再び勘違いさせてしまうだけだから。

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