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20 過去と真実ー2

「ただいま」


「おかえり。父さんは?」


「今日は寮に泊まるって。母さんだけ帰って来ちゃったわ」


「そ、そうなんだ」


 妹が目覚めるのを待っていると階段を下りたタイミングでバッタリ遭遇する。帰宅した母親に。


「あの、後で話があるんだけど良いかな?」


「何? 大事な事?」


「まぁ割と。時間とれそう?」


「じゃあ着替えてくるからリビングに行ってて」


「いや、夕御飯の後でも構わないよ。急ぎではないし」


「ご飯食べた後だと母さんそのまま寝ちゃうかも。すぐ眠たくなっちゃうから」


「そ、そっか」


 2人揃うのを待とうと思ったが勢いで話し合いを提案。寝室に入っていく後ろ姿を黙って見送った。


「ふうぅ…」


 もうこうなっては逃げ出す事は出来ない。引き返す事も。


 言われた通り一足先にリビングへと移動する。テレビも照明も点いていない静かな空間に身を置いた。


「駅から自転車漕いできたから喉乾いちゃった。アンタも何か飲む?」


「あ、うん。なら烏龍茶」


「ほい」


「ありがと」


 しばらくすると母親が姿を現す。部屋着に着替えた状態で。


「で、話って何? 雅人がこうして改まって言い出すって事はよっぽどの内容なのよね?」


「いや、どうかな」


「学校の事?」


「え~と…」


 少しでも心証が良くなる話し方をしたい。切り出し方は大切だった。


「華恋の事なんだけど…」


「あの子がどうかしたの?」


「え~と、その……うちに来てから結構経つよね」


「……そうね。初めてうちに連れて来たの何ヶ月前だったかしら」


 母親が視線を逸らす。西日が射し込む窓の方へと。


「最初はビックリしたもん。いきなり知らない女の子と生活するとか言い出したからさ」


「まぁ事情が事情だったし。それにアンタ達には話してないけど特別な理由もあったからね」


「特別な理由…」


「そういえば話って何なの? あの子の事についてな訳?」


「あぁ、うん。華恋を預かるのは母親が帰ってくるまでなんだよね。それっていつ頃なのかなぁと思って」


 とりあえず遠回しに本題に触れていく事に。けれど質問に対して返ってきたのは暗い表情だった。


「その事についてなんだけど、そろそろアンタ達にも話しておかなくちゃいけないな~とは思ってたのよ」


「何を?」


「華恋ちゃんの親戚の人がね、華恋ちゃんを引き取ってくれる事になったの」


「……え」


「元々はその方の所で引き取ってもらうハズだったのよ。でも住んでる場所がここから遠くて、それで一旦うちで預かる事になったってわけ」


 衝撃的な報告が耳に入ってくる。唐突で予想外な情報が。


「向こうの親戚の人達も誰があの子を引き取るかで揉めたみたいで、それで今まで長引いちゃったの」


「ん…」


「アンタ達にはいろいろ迷惑かけちゃったけどようやく華恋ちゃんの居場所も決まったわ。今までありがとうね」


「居場所…」


 何を言われたのか分からなかった。目の前の人物が何を語っているのかも。


 告げられた言葉自体は理解できる。いくら何でもそこまで愚鈍じゃない。ただその意味までは受け入れていなかった。


「華恋ちゃんには少し前に話したんだけどね、時期を見てアンタ達にも教えようと思ってたのよ。けど雅人がこうやって切り出してくれたおかげで助かったわぁ」


「そ、それって決定事項なの?」


「え? もうほとんど決まっちゃってるわよ。あとは引っ越しと転校の手続きをして…」


「このままずっとうちで預かっててあげようよ。何度も転校させたら可哀想だよ」


 思わず反論する。机に手を突いて立ち上がりながら。


「確かにね。ようやくこの家にも慣れてきたのに、また違う環境で生活しろってのは酷な事よね」


「でしょ? なら…」


「でも先方ともそういう話で決まっちゃったから仕方ないのよ」


「……そんな」


 とはいえその行動で結果が変わるハズもなく。自分の発言は子供のワガママにすぎなかった。


「華恋は何て言ってるの。その事について」


「もちろん了承してくれたわよ。今までお世話になりましたって」


「えぇ…」


 居候させてもらってる身だから文句を言えないのは分かる。でもなら何故に黙っていたのか。


「どうしてもダメなの? このままうちで引き取り続けるのって」


「アンタが淋しい気持ちも分かるわよ? でも大人の事情ってものがあるの。親権とかいろいろ」


「じゃ、じゃあ華恋が嫌だって言ったらどうする? 本人が拒否しても無理やり転校させるの?」


「だから華恋ちゃんはもう了承してるんだってば。アンタ、母さんの話聞いてた?」


「もちろん聞いてるよ。でも華恋はきっとこの家から離れるのを嫌がる。断言してもいい」


 あれだけ離れるのを頑なに拒絶。表面上では受け入れていても本心では居候の継続を願っているに決まっていた。


「アンタ……どうしてそこまであの子にこだわる訳?」


「ん?」


「最初は嫌がってたじゃない、うちに住まわせる事」


「どうしてだと思う?」


 本心を打ち明ける絶好のチャンス。そう覚悟を決めた時だった。


「もしかしてお父さんから聞いたの? 華恋ちゃんの事」


「え? 何を?」


「もう聞いたからそういう事を言い出したんじゃないの?」


「親戚の家に行っちゃう話? それなら今、母さんが教えてくれたじゃないか」


「……そう。何も聞いてないのね」


 目を合わせた母親がゆっくりと机の方に俯く。意味深な台詞を口にしながら。


「どういう事? まだ何かあるの? 華恋の事で」


「お父さんが言ってないなら母さんからも言えない。ごめんね、変なこと聞いちゃって」


「ちょ、ちょっと待ってよ! ちゃんと教えてよ」


「もう話はここでお仕舞い。さぁ、夕御飯作らなくちゃ」


 理由を尋ねるもスルーの連続。歯牙にも掛けない対応ばかり。


「まだ話終わってないよ。隠さないで教えてってば」


「しつこいわね、アンタも。終わりったら終わりなの」


「そんな言い方されたら気になるじゃん。質問に答えてよ」


「どうしても知りたいなら明日お父さんに聞きなさい。母さんはもう知らないから」


「えぇ…」


 強く食い下がるが取り合ってもらえない。母親はグラスの中身を飲み干すとキッチンへと入っていってしまった。


「どうしよう…」


 自分達の関係を打ち明けるハズだったのに。覚悟も無しに聞かされた話は今の繋がりに終止符を打つような内容だった。しかもまだ華恋の事で隠している事があるらしい。


 ただこの場所でこれ以上粘っても無駄だろう。詳しい事情は父親に聞こうとケータイを取り出した。

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