3話目「ノンアルコールビールの運命」
「早く大人になりたいな」
「また変なこと言い出したよ」
「変なことではない! 私は、いつだって本気なんだ!」
「その本気が変なんですよ! 先輩、いい加減に部員集めしないとヤバいですよ?」
「その部員ってさ、あと何人集めればいいわけ?」
「あと3人です」
「3人集まれば、ミス研は継続して活動できるわけだな?」
「それだけじゃありません。活動してるっていう、実績を残さなきゃダメなんです」
「具体的に何をすればいいの?」
「今度の学祭で、何かするとか」
「何をするのさ?」
「例えば、ミステリークイズ大会をやるとか、流行りの脱出ゲームをするとか」
「なるほどね〜なんかめんどいね」
「めんどいとか言ってる場合じゃないです! 先輩は、ミス研が無くなってもいいんですか?」
「それは困るな。放課後の憩いの場は、なんとしてでも守らなければ」
「そもそも先輩は、ミステリーが好きなんですか?」
「好きだよ。こう見えて、めっちゃ本読むし」
「それは知ってます」
「あっ、休み時間にボッチだから仕方なく本読んでるわけじゃないぞ」
「分かってますよ。とにかく、部員勧誘を頑張らないと」
「一応、掲示板に勧誘ポスター貼ってるんだけどな」
「もうちょっと積極的に勧誘した方がいいんじゃないですか?」
「放課後に正門で勧誘する?」
「それもいいですけど、やっぱ入りたいと思える魅力的な何かが必要なんじゃないですか?」
「ん〜そうだな、入部してくれたら特典を付けるってのはどうだ?」
「どういう特典ですか?」
「入部してくれたら、お菓子をプレゼント!」
「小学生じゃあるまいし、そんなんじゃ食いつきませんよ」
「じゃあ、ジュースは?」
「一緒でしょ」
「カルピスソーダだよ?」
「種類の問題じゃないです」
「いっそのこと、ビールとか?」
「ちょっと! 未成年ですよ!」
「ノンアルコールのやつだよ」
「それもらって嬉しいですか? まだジュースの方がいい気がする」
「酔っ払えるんだよ?」
「ノンアルコールでしょ?」
「いや、ノンアルコールにちょっとアルコールを混ぜるんだ」
「じゃあビールじゃないですか」
「ちょっとだけだよ?」
「ダメです。バレたら部活どころじゃなくなります」
「ちょっと、色音ちゃん! あんたノンアルコールビールの気持ち考えたことあるの?」
「1秒もないですけど」
「ノンアルコールだってさ、本当はアルコールを入れたいわけだよ。けど、そこは心を鬼にして、アルコールを拒否するわけだ」
「先輩、酔っ払ってるんですか?」
「酔ってない! ノンアルコールっていうのは、ノン! アルコールくるな! 近寄るな! 拒否するのノンなんだ」
「ノンアルコールビールがアルコールを拒否してるってことですか?」
「けどさ、やっぱビールにも情みたいなものが沸くじゃない? アルコールとは、短い付き合いじゃないないんだし。口ではノン! って言ってるけど、ちょっとだけならいいかって思うわけよ」
「ビールとアルコールの物語が始まってないですか?」
「すまねえ、恩に着るぜビールの旦那!」
「なんでアルコール江戸っ子なんですか?」
「君とは長い付き合いだからね。なにも気にすることはないさ、セニョリータ」
「ビールはビールでちょっとおかしなキャラですね」
「しかしいいのかい? 旦那はノンアルコールが売りなんだろ?」
「まだ続けるんですか?」
「な~に、分かりはしないさ。君はなにも心配することないさ、セニョリータ」
「いや、分かるでしょ。あと、アルコール男っていう設定でしょ? 男にセニョリータって言うのおかしいから」
「うるさい! 今いいとこなんだから邪魔すんな!」
「いいとこなんだ」
「ホントにビールの旦那には世話になりっぱなしだな~頭が上がらねえぜ」
「ちゃんと終わるんですか?
「しかし! そのことがバレてしまう!」
「えっ? 誰に?」
「ワイン伯爵」
「また変なキャラ出てきた」
「知っているぞよ。お前、ノンアルコールビールのくせに、アルコールを入れたそうじゃないか?」
「ていうか、なんでバレたんです?
「ヤバイ! ワイン伯爵にバレてしまった! セニョリータ、君は早くここから逃げるんだ」
「私の質問無視ですか」
「てやんでえ、べらもうめ! ビールの旦那を置いて逃げられるかってんだ」
「なんか展開ベタだな~」
「せ、セニョリータ…………」
「アルコールって呼んでやってくださいよ」
「ありがとう。それなら僕と一緒に来てくれるかい? 共に普通のビールとして生きていこう!」
「先輩、小説家目指したらどうです? たぶん売れないでしょうけど」
「ビールの旦那! 一生着いていきやす!」
「そろそろ終わりかな?」
「しかし!」
「まだあるんだ」
「ワイン伯爵がそれを許すはずがなく、ワイン伯爵の手下、おつまみ軍隊がビールとアルコールの後を追った!」
「おつまみ軍隊って、チーズとか冷奴のことですか?」
「冷奴は、焼酎軍曹の手下だよ」
「そうなんだ」
「ダメだ、旦那。きっと捕まっちまう。もう諦めようぜ」
「そうした方が私もいいと思います」
「なにを言ってるんだセニョリータ! いや、アルコール!」
「アルコールって呼んだ!」
「捕まるくらいなら私は死ぬ! 君にはその覚悟はないのかい?」
「なにも死ななくてもいいでしょ」
「び、ビールの旦那…………すんません。あっしが間違ってやした。死んだら、負けですもんね!」
「死んだら負けって話ししました?」
「分かればいいんだよ、セニョリータ」
「結局セニョリータに戻るんだ」
「命からがら逃げる二人。果たして、行き着く先はどこなのかぁぁぁぁ~?」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「えっ? 終わり?」
「うん。終わりだよ」
「ビールとアルコールはどうなったんですか?」
「気になる?」
「…………そこまで話したなら、最後まで聞かせて下さいよ」
「続きは、ミス研に入ったら、お話しします」
「あっ、そういうことですか!」
「どう? ミス研勧誘作戦」
「ぜんぜん駄目ですね」
「やっぱり?」
「真面目に考えましょう」
「はい」
おわり