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2話目「カップ焼きそばを食べたい後輩と阻止したい先輩」

色音いろねちゃ〜ん、今日も来てくれてありがとう」


「別にいいですけど、先輩たまには教室で食べようとは思わないんですか?」


「教室もいいんだけどさ、やっぱ部室が落ち着くんだよね」


「先輩、友達いないんですか?」


「おい、失礼だぞ! 二人組作れ〜って言われた時、焦らないくらいには友達いるし!」


「なら安心しました」


「そういう色音ちゃんこそ、友達いないんじゃないの?」


「いますよ。先輩が一人で部室でお弁当食べるって言うから、後輩として来てるだけです」


「なに? 義務的なかんじで来てんの?」


「まあ、そうですね」


「ひぃゃあ〜」


「ひぃゃあ〜って何ですか?」


「私にそんな情けはいらないんだよ! そんなつもりで来てるなら、もうけっこう」


「あっ、じゃあ教室戻りま〜す」


「あっ、すごいあっさり」


「もう来なくていいんでしょ?」


「まあ、まあ、部長。そう言わずに、席戻って下さいよ」


「部長は先輩でしょ?」


「教室戻る間に昼休み終わっちゃいますよ」


「終わらないですよ。教室遠すぎでしょ」


「とりあえず、今日のとこはここで食べましょうよ。ね?」


「いいですけど、どうせ教室じゃ食べれないし」


「あっ、やっぱボッチなんだ?」


「違いますよ。今日は部室で食べるつもりだったんで、カップ焼きそば持って来たんです」


「ここお湯沸かせるからね」


「はい。じゃあ、お湯沸かして来ます。ていうか、ここ理科準備室ですよね? 部室として使ってていいんですか?」


「一応、許可は取ってるよ」


「へえ〜廃部寸前の部によく部室なんか提供してくれますよね」


「そこは私の力よ。生徒会長を金で買収したのさ」


「汚職みたいなことしないでくださいよ。お小遣い月千円の人が、どうやって買収するんですか?」


「分割で支払ってるからね」


「買収をローンで!?」


「しかも無金利」


「無金利!?」


「金利は生徒会が負担してます」


「通販番組じゃないんですから。どうせいつもの泣き落としでしょ?」


「よく分かったな」


「よくやりますよ、ホント」


「まあね。おい、ちょっと、どこ行くの?」


「だからお湯を沸かしてくるんです」


「ていうかさ、お昼にカップ焼きそばはないわ」


「なんでですか? いいじゃないですか」


「いやいやいや、歯に青のり付くじゃん」


「食べた後にちゃんと歯磨きします」


「部屋にカップ焼きそばの匂いが充満するじゃん」


「窓開けて食べます」


「お湯入れた後に、ソース入れちゃうじゃん」


「それは気をつけますよ。ていうか、関係ないし」


「カップ焼きそばってさ、やっぱり夜に食べるもんでしょ?」


「そうですか?」


「そうだよ。夜中にちょいお腹空いたな~って時に食べるもんだよ」


「そうとは限らないでしょ?」


「いや、絶対にそうだって。カップ焼きそばは夜食専用なの」


「夜中にカップ焼きそば食べるから太るんですよ」


「なにか言った?」


「なにも」


「とにかく、カップ焼きそばはやめなさい」


「やだ。絶対に食べます」


「今日の夜にでも食べればいいじゃん」


「嫌です。今食べたいんです。そもそも私がなに食べようが勝手でしょ?」


「頑固だね~」


「先輩もね」


「じゃあさ、どん兵衛にしなよ」


「はっ?」


「どん兵衛は美味しいよ~特に厚揚げ。噛むと中から汁がじゅんわ~と出てくるの」


「何ですかそれ?」


「えっ? どん兵衛知らないの?」


「いや、どん兵衛は知ってますよ。なんでカップ焼きそばからどん兵衛になるんですか?」


「どん兵衛の方が美味しいから」


「カップ焼きそばの方が美味しいですよ」


「いや、どん兵衛だね。そこは譲れない」


「ていうか、どっちも美味しいです」


「まあ、確かに」


「そもそもどん兵衛今ここにないですよね?」


「あるよ。ここに」


「あるんだ」


「どうぞ召し上がれ」


どん兵衛は食べません「から! 私は、今日のお昼はカップ焼きそばを食べる! って決めてたんですから」


「いつから?」


「昨日の朝から」


「そんなに前から?」


「はい。明日はカップ焼きそばだぁ~って思うと、夜眠れなかったんですから」


「どんだけだよ」


「そんだけ楽しみにしてたんです」


「なんでそんなにカップ焼きそばを食べたいの?」


「逆になんでそんなにカップ焼きそばに反対なんですか」


「食べたくなるからだよ」


「えっ?」


「あのソースのかほり」


「かほりって何ですか?」


「食感に飽きがこないようにと入れられたシャキシャキの野菜。青のりとかつお節のハーモニー」


「ハーモニー?」


「ソースかける時、あれ? これじゃあ少しソース足りないんじゃない? って思いながら混ぜると、けっこういいかんじに馴染むというフェイント」


「フェイント?」


「お湯を捨てる時に、ベッコッって音をたてる流し」


「それ関係なくないですか?」


「お湯を捨てる時、中身が飛び出すかもしれないという緊張感」


「緊張しませんよ」


「そんなの見せられてさ、他の食べ物が口に入ると思う?」


「入るんじゃないですか?」


入らねえよ。もう口の中が焼きそばでいっぱいになるんだよ。私の口が、『焼きそば以外は受け付けません。ご了承ください』って言うんだよ」


「言わないです」


「言うんだよ。だから、カップ焼きそばは食べちゃダメなの」


「それなら、私がカップ焼きそばを作り出す前に部室出ればいいじゃないですか」


「気になるじゃん」


「気になる?」


「カップ焼きそばを作る行程を見たいじゃん」


「見なくていいですよ」


「見ずに外へ出たとするじゃん? 気になって仕方なくなるじゃん。いろいろ良からぬことを想像してしまうじゃん」


「なにを想像するんです?」


「お湯を捨てるその華奢きしゃな手。ソースを混ぜる妖艶ようえんな指先。カップ焼きそばを頬張る口」


「いやらしい言い方しないで下さい」


「ていうか、お昼にカップ焼きそばを食べるっていう発想がすごいじゃん」


「すごいですかね?」


「すごいよ。お昼はだいたいお弁当か、どん兵衛でしょ?」


「どん兵衛推しすごいですね」


「そんなの見せられたら、私も明日からカップ焼きそばにしよ~って思ったじゃん」


「あの、先輩」


「なに?」


「結局、先輩もカップ焼きそばを食べたいってことでいいですか?」


「そうなるじゃん」


「あの、もしよかったらカップ焼きそば一緒に食べませんか?」


「えっ?」


「もう一個あるから」


「ありがたいじゃん」


「その言い方気に入ったんですか?」


「うん」


「はい、どうぞ」


「お礼にどん兵衛あげるよ」


「いや、いりませんよ」


「まあまあ、遠慮せずに」


「いらないです」


「どん兵衛とカップ焼きそば一緒に食べる?」


「そんなに食べられないです」


「カップ焼きそばとどん兵衛混ぜちゃう?」


「混ぜません!」





おわり

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