俺は刺された、助けてくれと言われながら。
思いついたので、投稿します。
「避けるなよ!」
「避けるに決まってるだろ!」
叫び返して、睨み返す。
「そんなもん、振り回れたら誰だって逃げるだろ!!」
心臓がバクバクする。
お世辞にも優しい顔立ちとは言い難い。
目つきも悪い。
そんな俺が、睨み返す相手の手には、
包丁が握られていた。
しかも、僅かに血が付いている。
俺の血だ。
「時間がないんだよ!」
対して、相手の声は切迫していた。
焦っている、明らかに。
「いいから、黙って刺されろよ!!」
「お断りだ!」
断固拒否。
「……っ大体、」
血が滲む腕が痛い。本気で痛い。
苦痛と怒りと、
同じくらいのある感情が、
俺を叫ばせた。
「なんで俺の顔してんだよ!!」
困惑だ。
包丁を向ける相手の顔は、俺の顔をしていた。
気色悪いやら何やらで、
できれば消えてほしいぐらいだ。
「そんなもん、」
相手は、俺以上の眼光と、気迫で、
言い放った。
「そんなもん、どうでもいいだろ!!」
刹那、駆けた。
「!」
逃げようとした時、
「あいつの命が懸ってんだ!!」
切実な声が響く。
「俺なら分かるだろ!?」
「何言って……」
「青木だよ!」
「!」
――青木葵。
殺された、幼馴染みの名前。
その名前を出された瞬間、一瞬反応が遅れた。
それは相手は見逃さない。
躊躇なく、俺の胸を、突き刺した。
「!」
痛みより衝撃が。
衝撃の次に痛みが。
「俺じゃ無理だった……」
悲痛な声。
「だから、頼む。俺じゃ無理だから、俺に頼むんだ」
何を言っているのか。
人を殺しておいて、頼むって何なんだ。
「あいつを、葵を、助けてくれ……」
何を言って――
俺は、あいつを、助けるって、
何なんだよ……。
「 」
声がまともに出ない。
俺はそのまま倒れ込んだ。




