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別視点

『目標発見、目標発見、ポイント2-13-5、待機員急行せよ』


 フルフェイスヘルメット状のヘッドピースのヘッドフォンから、無線独特のノイズ混じりの指示ガイダンスが流れる。

 大平美雪は音量調節の設定を後で見直さなきゃ、と甲高いノイズにしかめ面をしながら、短く「了解」と返事をする。

 全身を戦闘用スーツとヘッドピースに包み、システムをスタンバイ状態にして、待機用の腰掛けに腰を下ろしていた美雪は、右耳側のヘッドピースの縁下部にある電源ボタンを軽く押した。

 『スタンバイ解除、アクティブモード移行』とアナウンスが流れ、透過バイザーが非透過モードに、つまりバイザーの向こうが見えないようになり、バイザーがスクリーンモニタに切り替わった。

 モニタには白い画面の中に、いくつかのメニュー項目が現れ、視点ポインターが、美雪の視線に連動してフラフラと動いている。

 項目から《高機動モード》を選んでポイントすると、二重構造になった戦闘スーツの内部に注水された、可変液体筋肉と呼ばれる特殊な液体が、徐々にその形体を変え、関節の動きを補助するような形になった。

 外見は一見細身だが、膝や股関節周りが隆起した体型に見える。


『目標ポイントへのゲートオープン、出撃オーケー』


 美雪は細く長く息を吐き出すと、今度は大きく息を吸って止め、一気に走り出した。

 軽く足を動かすだけで、液体筋肉の大きな補助動力を得て、驚くほどの速さで走っている。

 地下に張り巡らされたルートは、ゲートの開閉で目標値点までの最短ルートを迷いなく選択できるようになっている。

 美雪はおよそ1kmほどを駆け抜け、最後のゲートを抜けると、交差点下の地下道に躍り出た。

 このようにして、ありとあらゆる箇所に高速移動できるようになっているのだ。


 ヘッドピースのモニタには、前面と側面の様子が大きく投影されており、中央上付近の小窓には背面の映像、右上付近の小窓にはナビゲーションマップが表示されている。

 ナビゲーションマップによると、目的地は300mほど先、田畑の間の小道あたりだ。


 美雪は視点ポインターを操作して《格闘モード》をポイントした。

 すると、液体筋肉が移動してマッシブな外見に変化した。

 高機動モードではなくなったため、移動速度は落ちるが、いつ戦闘状態になるかわからないため、即応できるようにして、ゆっくりと目標地点に向かう。

 これは、先行した指揮車からの指示でもある。

 現場はほぼ視界の利かない暗闇だった。

 美雪はカメラ設定を呼び出し、暗視モードを起動する。

 これは、いわゆるスターライトスコープで、わずかな反射光を増幅して暗部での視認性を向上させるもので、わずかでも外部の光が期待できる場面ではパッシブ運用を、全くの暗闇では、不可視光線を照射し、反射光を可視化するアクティブ運用も可能な、優れ物である。


 美雪は注意深く辺りを見回した。

 すると、大型の銃器を構えた人影を発見、さらにその背後十数メートル辺りに、ターゲットを見つけた。

 ターゲットは、人影を今まさに襲撃しようと飛びかかる瞬間だった。

 美雪は戦闘モードの瞬発力を最大限に発揮し、人影の頭上に跳び上がったターゲットに急襲、体当たりで吹き飛ばす。

 ターゲットの鋭い爪が、人影の頭をかすめるギリギリのところで、これを阻止した。

 すぐに体制を立て直し、ターゲット補足のためにモニターを確認する。


 そのとき、小道に停車していた自動車が急にヘッドライトを点灯させた。

 美雪は突然のことに目をつむった。

 暗視モードに対し、ヘッドライトの光は光量が多すぎて目視が困難となっのだ。


『通常モードに戻すぞ、ターゲットも動いていない、見失うな』


 指揮車からの操作介入で、カメラモードが通常に切り替わる。

 美雪はすぐにターゲットを捕捉、向こうも目が慣れたようで、こちらに向き直る。

 ターゲットがじりじりと弧を描くようにこちらの出方を覗うので、美雪も対角線上を同じように回転し、間合いを計る。


『来るぞ!』


 指揮車の指示が早いか、ターゲットの動きが上回ったか、正確なところはわからないが、美雪はどちらかに背を押され、ターゲットめがけて素早く跳躍した。

 ターゲットとの距離が一瞬で縮む中、空中で右脚を素早く回転させ、ターゲットの腹部に回し蹴りを炸裂させた。

 ターゲットは呻き声をもらしながら、必死に振り上げた腕を斜めに振り下ろす。

 ターゲットの鋭く大きなかぎ爪が、美雪の頭すれすれのところを大きく空振りする。

 すさまじい風圧に、少し体制がぶれるも、美雪はさらに止まらない体軸の回転の勢いにまかせ、左足の踵側を、後ろ回し蹴りで腹部にさらにたたき込む。

 ターゲットの体は衝撃に耐えきれず、腰から真っ二つに裂け、上半身と下半身が別々の方向に飛び散った。


 美雪は着地すると、膝に手をついて大きく息を吐き出した。

 モニタを確認すると、水温計がかなり上昇している。

 それは体感でももちろんわかる。

 体が熱くなっている。

 慌てて周囲を見回し、ターゲットの残骸を視界に捉え、再び息を吐いた。


 今回もすぐに退治することができたが、今後もっと敵が強くなっていったとき、私は勝ち続けることができるのだろうか。

 不安に駆られながら、いつものように死骸の回収を行おうとすると、指揮車から指示が飛んできた。


『よし、今日はここまでで良い、撤退だ。ちなみに襲われたのは警察官のようだ。まだ接触には時期尚早だ、行くぞ』

「了解」


 指揮車の指示に従い、美雪は高軌道モードに切り替えると、撤退用ルートを帰還するのだった。


 指揮車では、指揮官の大島直人が映像記録データ、音声データ、その他の記録をまとめ、戦闘データのバックアップを取っていた。


 大平美雪は良い働きをした。

 システムへの適性も悪くない。

 しかし、年齢的にはそろそろ厳しい頃かもしれない。

 後続の育成を急がねばなるまい。

 美雪は優等生である。

 彼女と同じように、というのは、なかなか難しい、今のメンバーを考えると、酷な注文だとも思う。

 しかし、ターゲットの生命体は、日に日にその数を増している。

 のんびりと状況に任せて育つのを待っているわけにもいかないのだ。

 また、ターゲットの組織サンプルも欲しかったが、警察が出張っている現場ではどうしようもない。

 今回は譲るとしよう。


 指揮者はとあるビルの地下駐車場に入ると、秘密の通路を抜け、拠点に戻るのだった。

 

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