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9. 竜魔

『ショセン……コノテイドダ』


 ブルーメネシスの言葉に、白波は顔をしかめた。

 彼の前には、穴だらけとなったバケモノがグッタリと力なく横たわっている。

 右腕、両足を削がれ、全身をハチの巣にされた姿は痛々しく、とても直視できたものではない。


『カンタンナハナシダ。サイセイニヨウスル、マリョクノキョウキュウミャクヲタテバ、ボロガデル』


 ビクビクと痙攣するバケモノの脳天に、銃口を突きつけたメネシスは躊躇いなく引き金を引いた。

 鈍い衝撃と同時に大きく震えたバケモノは、グリンと目をむき絶命する。

 それを見た白波は呟いた。


「……これは、ハズレ……か」

『ドウイウイミダ?』

「なに、これはちょっとした実験らしくてな。……まぁいいや。いちいち解説してやる義理もないしな」


 メネシスの問いにそう答えた白波は、小さくため息をつく。

 そして、不意にそれまで煌々と燃やしていた炎を一切消した。

 

「さぁて、俺の分はダメだったということは、野放しの一体か、寧音子が連れてる連中かな?」


 言うなり白波は、左手のグローブを外した。


 !


 そこにあったのは、眩い閃光を放つ金色の紋章。


『キサマァ……ソイツハ』


 ブルーメネシスは、息をのむ。

 そんな彼に、白波はニンマリとほほ笑み左手の甲を天にかざした。


融装(ゆうそう)


 刹那。

 激しい爆炎が白波を包む。

 白炎は滾り、渦巻き、そして圧縮される。

 圧縮された炎は竜の形をとると、その顎を大きく広げた。

 爆炎の咆哮。

 轟く竜音と、飛び散る火の粉の中で、炎が白波に纏わりつく。

 次の瞬間、

 弾けた白炎の中から、姿を変えた白波が現れる。

 白炎の翼と尾を生やし、繊細な装飾の鎧に覆われた白銀の身体。皮膚に浮かび上がる竜鱗。

 白波は嬉しそうに、舌なめずりをした。


愛サレシ竜魔女ノ纏威シャンヴェルド・ドレゴ・マキナ


 口にするなり、白炎を纏う腕を振り下ろした白波。

 ブルーメネシスは、瞬間的に地面を撃ち大きく後方に飛び退いた。

 直後、大地を一瞬にして灰に変えた銀炎。

 振り下ろされた瞬間に色を変えた凄まじい業火は、回避したと言えど凄まじい威力を誇る。その余波にあてられたブルーメネシスは大きく吹き飛ばされた。

 メネシスはそのまま民家に突っ込み、大きく崩れた瓦礫の下敷きにされてしまう。


 暫しの静寂。


瓦礫の下から反応が無いことを確認した白波は、小さくため息をついた。


「これだけかよ……」


その時だった。


《《BREAK・BLIZZARD――THE・FINISH・STORM》》


突然白波の周囲に激しい吹雪が巻き起こり、一切の視界が白一色となる。

振り返った白波は、「あぁ。そう言えばそうだった」と呟く。

そこに立つブルーメネシスは、粒子化した体を再生させているところだった。

白波の脳裏には、ガイアフィリップが矢田村の攻撃を避けた時のことが思い出されている。

ブルーメネシスは、言った。


『コレデオワルトハオモッテイナイ。ユエニコノイチゲキハ……』


 言葉の途中で引き金を引いたメネシス。

 途端にライフルの銃口から放たれた氷礫の竜巻が、白波を襲う。


「なめんなよ?」


 竜巻が接触する瞬間、そう口にした白波は大きく振りかぶり、右手に纏う竜爪の形をした銀炎を突き出した。


 ぶつかり合う二つのエネルギー。

 せめぎ合い相殺されるかと思われた二つであったが、制したのは白波の炎であった。

 まるで煙を風が吹き抜けるように、一瞬で貫かれたメネシスの攻撃は四散し周囲の結界ごと粉々に消し飛んでしまう。

 白波は、腕を突き出した状態のまま静止し、じっとその先を睨む。


「なぁーるほど。そういうことか」


 淡々とした口調でそう言った白波の声は、攻撃のどさくさで姿を眩ませたメネシスへと向けられる。

 しかし、既にその場を相手にこの言葉は届くはずもなく、小さく放たれた白波の声は無音へと帰す。



×××××



『危なかったなぁ? えぇ?』


 どこか嬉し気な口調でそう呟いたガイアフィリップに、ブルーメネシスもといグレイデル・ゲインズレイド大尉はその場に腰を下ろした。

 変身を解除し、その場にぐったりと横たわるグレイデル。

 ガイアフィリップは、笑う。


『さっすがぁに。マジェストランサーシステムでは、完全状態の融装化には勝てねぇかぁ』


 苦し気に呻くグレイテルに、ガイアフィリップはポーションドリンクを飲ませる。


「わかっていたのか……勝てないことを」

『いやぁ。そうじゃぁない。可能性の一つとして、予想していたまでだ』


 ガイアフィリップはコキリと首を鳴らすと、グレイデルの傍に落ちている「SNOW・EDITION」のフォースレコードを拾う。


『マジェストランサーシステムは、大気中の魔力を無限に使用することが出来るシステムだぁ。だぁが、融装は契約者の魔力と使用者自身の魔力を融合させ増幅させる。たしかに一見、俺たちの方が強い能力に見えるがぁ、あくまで長期戦の場合だぁ。短期戦となると、一瞬の出力が高い向こう様が勝る。……まぁ、相性が悪かったってことだぁ。それよりも、白波の野郎が魔女と契約してた方が驚きだけどなぁ』


 そう言ってガイアフィリップは、大きく伸びをする。

 すると、様態の落ち着いてきたグレイデルが問う。


「で、この後は……どうするつもりだ?」


 それを聞いて、ガイアフィリップは「SNOW・EDITION」をしまうと透明色のブランク体フォースレコード、そして灰色のドライバーを取り出した。


『どの程度使いこなすかは分からねぇがぁ、ちょっと遊びがてらに試してやろうと思ってよぉ』


 取り出されたドライバーを見たグレイデルは、目を見開く。


「……完成していたのか」

『まぁなぁ。俺天才だからよぉ』


 そう言って、ガイアフィリップはドライバーを見つめる。


『あのガキは、てんで力の使い方を知らねぇ。かといって、アイツに力の使い方を教える奴なんていない。それじゃぁ、あんまりにもフェアじゃないだろぉ? だ・か・ら、チャンスをやるんだ。……まぁ、使えるかどうかは別だがなぁ』



×××××



 俺は走った。

 あらん限りの全力で。

 少女を抱いたまま駆ける俺は、背後に迫るバケモノの影に冷や汗をかく。

 あの後、戦況から考えて逃走に踏み切った俺は、ヘレッゼの乗る馬車とは反対方向へと走った。

 これ以上、彼女に迷惑はかけられない。ただでさえ、俺の勝手で飛び出しているのだ。ここで危険に巻き込むことは許されないだろう。たとえ、それを彼女が望んだとしても。


「ギョギュギュギュギュオゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!」


 背後のバケモノが訳の分からない声で叫ぶ。

 俺は、脚部に流れ込む紋章からのエネルギーを糧に大きく跳躍した。

 先の一撃で理解したのだが、以前は腕だけに集中されていたエネルギーが意識的に別の部位へと移せるようになっているのである。

 建物の屋根を左右に跳ね距離を稼ぐ俺に対して、バケモノは建物を破壊しながら追いかけて来る。

 敵が再生する以上、攻撃の持久力に劣る俺が生き延びるには、相手の視界から逃れ諦めされる他ない。

 現時点で俺の武装は、あの太刀のみである。しかし、その太刀も一撃振るっただけで実体化が維持できなくなった。

 感覚でわかるのだが、この流れているエネルギーの圧縮率によってあの太刀の実体化維持時間が制限されている。

つまり、再びある程度のエネルギーをため込まなくては太刀を顕現させられないのだ。

エネルギーそのものは、驚くほどに内から無限に湧き上がってくる。だが、肝心な俺のエネルギー使用キャパが少なすぎるのである。結果として、太刀一振り分のエネルギーしか一回のキャパで放てない。

今は、回復を試みつつ脚力にエネルギーを回しているが、果たして逃げ切れるのだろうか。

 俺はそんなことを考えつつ、建物の間に飛び降りると裏路地を走った。

 裏路地を経由することで敵を翻弄するつもりなのだが、バケモノはおおよその方角を予測し無差別に建物を破壊してくるからあまり意味はない。


「おねぇちゃん。こわいよ……」


 腕の中の少女が、俺にそう言ってギュッと胸に顔をうずめる。

 おねぇちゃんじゃ、ないんだけどなぁ……。

 ちょっと悲しくなりつつも、俺は少女の頭を撫でた。


「大丈夫だからっ!」


 その時だった。


「ギュゴゴゴゴガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 突然すぐ横の壁が破壊され、そこからバケモノが飛び出して来た。

 

「先回りかっ!?」


 叫んだのもつかの間、俺の身体をバケモノの巨大な手が掴む。


「にげてっ!!」

 

 瞬間的に少女を突き飛ばした俺は、バケモノに大きく振り上げられる。

 突き飛ばされた少女は、びっくりしつつも俺の言ったとおり走って逃げだした。

 つかの間の安心感を覚えつつ、次の瞬間俺は地面に激しく叩きつけられる。


「あっ!!」


 内側から爆ぜるような言い表せようのない激痛が、上半身に走る。

 しかし、バケモノは俺を掴む手を放さず、何度も何度も俺を地面に叩きつけた。


「あぁ……」


 もはや呼吸とも、声とも判別しがたい音を漏らす俺。

 意識もハッキリしない。

 痛みも遠い。

 苦しみも情けなさも、惨めさも、全てが一緒くたになったような強烈な絶望感だけが、俺を包み込む。

 

 これほどにまでに無力なのか……。


 全身の骨や臓器が砕け破裂する感覚がわかる。

 辛い。苦しい。


 リフリア……呪いの力を……。


《無理だ。さっきの腕に大半が持っていかれて、貴様の魔力が足りん。無理にやれば、本当に死ぬぞ》


 でも、このままじゃ……。そんなことに関係なく、死――――――――――――――。

 

 そう思った時だった。


《《GAIA・STING――THE・FINAL・CRASH》》


 どこかで一度聞いたことのある機械音声が、周囲に響く。

 刹那。

 俺は宙に投げ出され、民家の壁に叩きつけられてしまう。

 そのまま俺は、力なくグシャリと地面に崩れ落ちる。


『これはぁ。見てられねぇなぁ』


 鼓膜が弾けたせいでよく聞こえないが、俺の傍に誰かがいて何か言っている。


《こやつは……》


 かろうじて意識を保っている俺の精神に、リフリアの声が響く。


 すると、俺の傍に立つ人物が何やら懐から取り出し……


《《HEALING》》


 何やら音が反響したのを理解したと同時に、俺の肉体が再生していくのを感じる。


「こ、これは……」


 全ての感覚を取り戻し、体を起こした俺。

 少し離れたところには、腹部に大きな穴を開けられ建物にめり込んでいるバケモノがいる。しかし、その腹部の穴が徐々に縮まっているのを見るに、回復するのも時間の問題だろう。

 そして、俺の横には――――。


『はじめましてだなぁ? 柚賀辰海ぃ』

「誰だ。アンタ」


 俺は、すぐそこに立つ赤き鎧騎士に目を向ける。

 装甲のベースが酷似していることや、SFチックな各部位を見るに、おそらくブルーメネシスの関係者なのだろう。だが、どういうわけか俺を助けたところから、今は敵と判断するには材料が少ない。

 微妙な面持ちの俺に対し、戦士は『ふはははぁ!』と元気よく笑う。


『まぁ、そんな警戒すんなよぉ。俺はガイアフィリップって言うんだぁ。以後お見知りおきを』


 そう言って、わざとらしくお辞儀して見せるガイアフィリップに、俺はますます怪訝な表情になる。

胡散臭い。

何か根拠があるわけではない純粋なる懐疑の念が、俺の全身を強張らせた。

何故俺を助けたのか、何故リフリアが妙な反応を見せたのか、何故俺の名を知っているのか……。

正直、状況的に鑑みて一々考える時間は無いのだが、俺の脳内センサーが危険信号を放っている。


「……で、なんなんだ」


 俺の言葉にガイアフィリップは、懐から20cmほどのデバイスを取り出す。


『ほぉれ』


 言いつつガイアフィリップは、俺に向かってそのデバイスを投げてよこす。

 慌ててそれを受け取った俺に、ガイアフィリップは言った。


『これはプレゼントだぁ。別に深い意味はない。お前の可能性ってものが気になってなぁ』


 手にしたデバイスは色や形状こそ異なるが、つい先刻ブルーメネシスの左腕に装着されてモノに酷似している。


「これって……」


 俺の言葉に、ガイアフィリップは低い親父声を響かせる。


『そぉ。これはブルーメネシスと同じマジェストランサーシステムの新型だぁ。お前にやるから、好きに使ってみろ』

「は? なんで俺に……」

『だからぁ。深い意味なんてねーよぉ。ただ、目に付いたから、試してみたくなっただけだぁ。……お? そんなことより、急いだほうがいいんじゃねーのか? アレ』


 初対面にして唐突な贈り物をされた俺は、困惑する。

 そして俺は言われるままに、ガイアフィリップの指し示す方に視線を向けた。


!!


 戦慄した。


「おい…………ふざけんなよ……」


 俺はあまりの絶望感に、声がかすれてしまう。

 そこにいたのは、先ほどまで俺の腕の中にいた少女。

 彼女は、バケモノがめり込んでいるところから少し離れた場所にうずくまっている。

逃げろと言ったのに、なぜそんなところに驚いたが、その理由はすぐに分かった。

よく見ると、その腹部からは真っ赤な液体が滴っており、彼女の足元に血だまりを作っている。

 すぐそばには、バケモノの突撃した壁から飛び散ったであろう細かい瓦礫が無数に散らばっていた。

 

 あの破片が腹部に……。


 慌てて助けに飛び出そうとした時、壁にめり込んでいたバケモノがゆっくりと起き上がる。

 再生を完了させたようだ。

 俺は、焦りをにじませつつ身構える。

 ガイアフィリップが笑う。


『おぅい。さっさと使わねーと。あの子が死ぬぜぇ?』

「だったら、てめぇが――」

『俺は別にお前の仲間じゃないし、正義の味方さんでもなぁい。迷える子羊に平等なチャンスを与えるだけだぁ』


 言い切るなり、ガイアフィリップは俺の背中に何か投げあてる。

 カタリと地面に落ちたのは、カセットテープ型のガジェット。色は無色透明であるが、先ほどブルーメネシスが装填していたガジェットと同系統のものに見えた。


『このフォースレコードは、サービスだぁ。上手に使えよぉ?』


 ガイアフィリップは、その言葉を最後にバチバチと放電しその場から消えていった。

 残された俺は急いでそのフォースレコードを拾い上げ、のっしのっしとこちらに向かってくるバケモノを睨む。

 どう考えても、乗せられているということはわかる。

 考える時間はない。考えれば間に合わない。

 バケモノは俺の方にゆっくりと向かってくる。その眼球には俺のみがうつり、少女のことはまるで見えていないようだ。

 しかし、このまま進めばバケモノの進行方向にうずくまる彼女は、踏みつぶされてしまう。

 俺はグッと歯を食いしばると、決心を固めガジェットを構えた。


「まぁ、背に腹は代えられねーよなっ!!」


 言うなり俺は、記憶にあるブルーメネシスの動作に倣いフォースレコードのボタンを押し込んだ。




遅くなりました。

久しい投稿でございます。

急いでいたり、精神不安定であったりするので、誤字など多いと思います。見つけたら教えてください。

今後ともよろしくお願いします!


Twitter→甲賀 蔵彦@ラノベ作家志望(@soltdayo117114)


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