1話 帰国
「一体どういうことだ!こんなことは前代未聞だぞ!」
一切の装飾がない部屋---病室であるので当たり前であるが、それにしても殺風景な部屋---に男の怒鳴り声が響きわたる。その声に、慌てて何人かの医師が返事をする。
その光景を見ながら、騒ぎの原因であるまだ小学生の少年は、ああ、やはりか、と考える。やはり自分は他のみんなとは違うのだと。
思い返せば、自分は常にみんなと違った。
魔法の才能があったこと、才能があったにも関わらず、魔法師を育てるための小学校ではどれだけ頑張っても基本の魔法も使えなかったこと、魔力量だけが多かったこと、両親がいないこと。
そして、ついに学校が少年を検査に出したのが、今朝。その結果が、これだ。病名は難しくて覚えていないが、今までにないものだったという。なんでも、魔法を使う際のプロセスの一つである“放出”が行えなくなるのだという。
この事実は、少年を絶望させる。また、周りと溝が出来てしまったのか、と。そして、同時に感じる感情もある。
その一週間後、少年はほとんど来なかった見舞いの一人に思いもよらぬ言葉をかけられる。
「あなた、今悔しいかしら?」
突然のことに驚いたが、少年は先ほどまでの全てを諦めたような表情をわずかに消し、呟いた。
「悔しい」
悔しかった。努力しても満足に使えない基本の魔法球。不公平にも、自分だけが神から致命的なものを奪われたこと。
そう答えた少年に向かって僅かな微笑を向けると魔女は言った。
「なら、私の弟子になりなさい」
これが少年の人生にさした微かな光であり、見舞いにきた見知らぬ魔女の計画の大きな一歩になる。
***
ドッ、という鈍い音と共に身長二メートルをあろうかという大男が倒れる。
「これで終わり、かな?」
俺、江島栄司は手を払うと、ポケットから携帯電話を取り出し、師匠に連絡をする。
「もしもし、師匠終わりましたよ」
すると、すぐさま声がかえって来て、俺に凄まじい衝撃を与える。
『そう、なら今すぐ空港に向かって。今から日本に行きなさい』
不意を突かれてしまい、思わず間の抜けた声を漏らす。
「………は?」
『荷物は用意してあるわ。ただ、あと三十分で離陸するから急いでね。それじゃ』
俺の返事を待たずして電話を切られる。あまりの事態に、しばしフリーズし、脳が内容を理解すると同時に絶叫する。
「はああああああ!?」
師匠は昔から突然命令を言うことがあったが、今回はあまりにも唐突すぎた。そしてそのどれもが、断った場合恐ろしいことになるため、断るわけにもいかない。
そのため、俺は文句を言うことを諦め、三十分で空港に行くべく走り出した。
***
飛行機内にて、俺は荷物と共に入れられていた手紙を読んでいた。
手紙には、住所と、そこに向かえということだけが書いてあった。明らかな面倒事の予感と多くの疑問を抱えたまま、俺を乗せた飛行機は日本に着陸した。