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ヴァルハラの戦神  作者: 零楓うらん
第一章 【始まり】
4/14

四幕【神々の意志】

【前回のあらすじ】

姫野川を逆にあしらい、先日とは逆の立場になった悠真。

君丈にも心配されるが、犯人を捕まえるために決意を固める。

だが事態は悠真の思った様に動かない。

突然の敵の襲来に駆け付けたのは仲違いしたはずの姫野川ありすだった。

姫野川の協力もあり、少し話を聞く気になった悠真。

荒唐無稽な神の話しだったが、目的はオーディンと言う神を探す事。

本格的に探そうと思った次の日、二人の前に現れたのは……。


「ちょっと!優斗!どういう事!ちゃんと説明して!」


昨日探すと決めた神、オーディンが次の日にうちの学校に転校してきた。

ずっと探してた人物が突然目の前に現れたんだ、ありすの反応は当然だろう。


「まぁまぁ、説明は後だ。ほら、クラスメイトが困惑してるぜ?」


時間はHR。

突然に大声をあげたありすに、先生も困惑していた。


「あ………失礼しました………」






挿絵(By みてみん)

―ヴァルハラの戦神―

一章 四幕【神々の意志】






「さて、今度こそは説明してもらうわよ」


時間は飛んでお昼時。

俺とありすと転校生、【蒼希優斗】は屋上にいた。

今日は部活の集まりがあると言っていたから君丈がここに来ることもないだろう。


「わかったから落ち着け。まずは昼飯でも食おうぜ」


転校生の手には購買で買ったパン。

すでにその封は開けられ、パンをむさぼっていた。


「昼ごはんなんて後よ!説明が先!」


「せっかちだなぁ。それにそいつは誰なんだ?なんでついてきたのか、俺はそっちを説明してほしいんだが」


転校生は厳しい目で俺を指さした。

そりゃあ神の話しを一般人に聞かせるわけにはいかないだろう。

どこまで重要な話しかもわからないが、俺は一旦席を外した方がいいかもしれない。


「邪魔なら俺は席を外すが?」


「いいのよ。この人は桂木悠真。私が今回の騒動に巻き込んだ節があるから、協力してあんたを探してもらおうとしてたのよ」


「という事は大体の話しは聞いてるわけか」


話しを知っているなら消す。

そんな展開も想像していたが、そういうわけではないらしい。

案外神の話しは普通に知っている人もいるのだろうか。


「まぁあんたがオーディンって神って事くらいはな」


「……そうか。まあとりあえず了解だ。よろしくな、悠真。俺の事は蒼って呼んでくれ」


「わかった蒼。よろしく」


神って言うから厳格な雰囲気を想像していたが、思っていたよりもフランクだ。

というか雑だ。


「仲良く挨拶してる場合じゃない!早く説明して!」


一人取り残されたありすは顔を真っ赤にして怒っていた。


「説明って何の説明だよ」


「全部よ全部!唐突にいなくなった事とか、兵装の事とか、ロキの事とか!」


「わかったわかったうるせぇなぁ。とりあえずロキが敵だって事は気づいたのはさすが俺の眷属と言った所だな」


少し自慢げな蒼。

俺は冷静に二人を見つつ、少しこの転校生を警戒していた。

ありすの事も完全に信用したわけじゃない。

もしかしたら全ての黒幕はこの神、オーディンかもしれないのだ。


「ほんと大変だったんだから。昨日だってフェンリルに襲われて……」


「あぁ~昨日のな。あの状況でよく持ちこたえたな」


「え……もしかして見てたの?」


「途中からな」


「じゃあなんで加勢してくれなかったのよ!」


昨日の戦闘を見ていた。

その一言で俺の警戒度はあがる。

だが、それもすぐに霧散していった。


「無理。俺神器盗られてるし」


「はぁ!?なんで!?」


「まぁ詳しい話は後で話す。とりあえず今しなきゃいけないのは、悠真のお友達を起こす事じゃないか?話しはその後だ」


俺の友達。

縷々の事だろう。

ありすはオーディンがいれば縷々を目覚めさせることが可能だと言っていた。

警戒は必要だが、縷々が目覚める可能性があるなら俺は信じてみたい。

どのみち、本当にこいつが神で、ありすのような力を持っているとしたら俺には対抗手段はないのだから。




◇◇◇




その日の放課後、さっそく俺達は縷々の病室に訪れていた。


「悠真。このお友達の事は聞いてるのか?」


「ありすから少しだけな。俺には縷々が神だなんて信じられないが」


「まぁ、そこら辺の説明はいずれするとして……。まずはこの封印を解くとするか」


そう言うと、蒼は縷々に手をかざした。

蒼が何かを唱えると、その場に魔方陣のような物が浮上し、しばらくしてからそれはガラスの割れるような音と共に消え去った。


「これで封印は解かれたはずだが……」


一歩引いた蒼と正反対に、俺は縷々に駆け寄る。

何の後遺症があるかわからない為、体などを揺らす事は出来ない。

だが、縷々は数秒で瞼を開け始めた。


「ん………あれ………」


「縷々!大丈夫か!」


起き上がろうとする縷々に手を差し伸べ、起き上がるのを手伝う。

まだ本調子ではないのか、ただ寝ぼけているだけなのか、少しふわふわとしている。


「えっと……悠真君、おはよう?」


「あぁ……おはよう……身体は大丈夫か?」


「大丈夫だけど……あれ?なんで病院にいるの?あと……姫野川さんと……………どちら様??」


まだ寝ぼけ眼で周囲を確認する縷々。

俺は縷々が目覚めて少し涙目になっていた。


「とりあえず一件落着だな」


「それで?埜口さんを起こしたら詳しい説明をしてくれるんじゃなかったの?」


「あぁー………そうだな……」


少し歯切れが悪くなる蒼。

蒼はそのまま縷々に近づき、話しやすいように腰を落とした。


「えっと、埜口縷々ちゃん……でいいんだよな?」


「縷々でいいよ~?」


いつもの朗らかな返事で返す縷々。

その光景には安心するが、俺は蒼が心配していることが少しわかった。

俺は縷々が神だという事を知らない。

おそらく蒼は俺と縷々の関係性について気にしているんだと思う。


「………まぁ考えても仕方ないか……。俺は蒼希優斗。神の名をオーディンと言う」


蒼がそう言った瞬間、一陣の風が吹く。

それは正確には風ではなかった。

圧、とでも言うのだろうか、縷々を中心として空気感がガラッと変わったのだ。


「オーディン?………なるほど、こちらで波動を確認した。ずいぶんと久しいではないか」


変わったのは空気感だけではなかった。

縷々のおっとりとした雰囲気は微塵もなく、喋り方、目つき、雰囲気から歴戦の女戦士の風格を感じる。

縷々がふざけているのでなければ、縷々が神だと言うのは信じなければいけない事象だ。


「俺も色々合ってな。しばらく顔を見せないですまなかった」


縷々、もとい縷々の中にいた神がこちらを向く。

そして俺の目をまっすぐ見てから申し訳なさそうに頭を下げてきた。


「すまないな悠真……今まで隠していて……」


「いや……別にいいけど……」


俺の中でも縷々が神だったと言う話はすぐには消化できない。

自分でも曖昧な返事を返してしまったと思うが、今の俺にはこれが精一杯だった。


「とりあえず二人の問題は後回しにさせてもらうぞ。フレイヤ、神器は持ってるか?」


フレイヤ、それが縷々の神としての名らしい。

ありすから三神の話しを聞いた時から予想はしていた。


「神器……ふむ……なるほど、理解した。オーディンの予想であっている。今現在、私の元に神器【スキーズブラズニル】は存在していない」


「やっぱりか……」


蒼はそれを聞いて考え込む姿勢を取った。

神器というのはおそらく名の通り、神にとって大事なものに違いない。

蒼はそれを【盗られた】と言っていた。

おそらく縷々、いや、フレイヤも何者かに【盗られた】のだろう。


「ほら、今説明するタイミングよ」


「わかってるよ。そう急かすな。まずはラグナロクと言う言葉に聞き覚えはあるか?」


「ラグナロク?確か北欧神話の戦争……だったか?」


「まあその認識でおおよそあってる。正確にはラグナロクってのは終末の日の事だ。遥か神話の話し、ロキが起こした世界の終わりの日だな」


「ロキが起こした……。じゃあ今回のも?」


「悠真、飲み込みが早いな。ありすはある程度予想がついていただろうが、ロキの狙いは俺達の神器を奪い取ってラグナロクを起こすことにある。まぁ……今更ラグナロクを起こして何の意味があるかは知らんが……これも神の習性ってやつかもしれんな」


神の習性……確か三神、オーディン、フレイヤ、トールが集まるのも神の習性だとありすは言っていたはず。

となると、神と言う存在の大方の行動予想はできるかもしれない。


「理由はとりあえずいい。蒼はこれからどうする気なんだ?そっちが本題だろ?」


「そうだな。悠真の言うとおり、俺達は早急に行動に移さなきゃいけないことがある。俺達には欠けてるピースがあるからな」


欠けてるピース。

それは間違いなく三神の事だろう。


「当面の目標はトールの捜索だ」


トールは三神で、それぞれが惹かれあうならこの町にいる可能性が高い。

敵の目標もトールではないかとありすが言っていた。


「ロキの方はほっといていいのか?」


「ロキは……まあとりあえずはな。あっちもトールを探してるだろうから、先手を取った方が有利になる」


「ねぇ優斗、トールの場所はわからないの?」


「それがわかれば捜索なんて言わないだろ……まぁ、その手がかりとしてフレイヤを起こしたんだ。どうだ?心当たりは」


フレイヤは少し悩んだ後、蒼の方を見た。


「すまないが、私にはわからない。力に慣れなくてすまない」


「そうか……まあトールは完全に気配を消してるみたいだからな。おそらくこの町にはいると思うんだが……」


神は意外と接触がない。

ありすはそう言った。

惹かれあう運命の三神でもその存在は認知できないという事なのだろうか……?


「とりあえず方針はそんな所だ。悠真……も、協力してくれるって事でいいんだよな?」


「あぁ。俺に出来る事は少ないかもしれない。でも縷々をこんな目に合わせたやつを放っておけるかよ」


「わかった。だが無理はしないでくれ。これは元々俺達神の問題だからな」


「善処するよ」


そこで話しは終了。

今日は解散。

と言う雰囲気だったが、ありすが口を挟んできた。


「ちょっと待って。話しが終わりそうな雰囲気だけど、私は大事な事を聞いてない」


「大事な話?今後の話しはしただろ。まぁありすが言うように目途が立ってるわけじゃないが……」


「違うわよ!」


ここは病院だ。

もう少し静かに、と言いたいところだが、ありすは鬼の形相で蒼を見つめていた。


「私の前からなんでいなくなったのか!それを説明してもらってない!」


ありすは蒼を探してこの町に来たのだ。

それを説明してもらわないと納得はできないだろう。

だが後にしてほしかった……。


「なんだ、察しの悪いやつだな……俺が神器を盗られたからだよ。少し探しに行って戻ったらいなかったのはありすの方だろ」


「………少し?少しって言った?私は一か月も待ったのよ!?」


「少し声を抑えろ……ここ病院だぞ……」


ごもっとも。

だがありすの言い分もわかる。

目の前からいきなり一緒にいた人がいなくなったら心配するだろう。

………と言うか今更だが、この二人ってどういう関係だ……?恋人か?

それとも神と眷属ってのは皆こんな感じなのか?


「そんな経ってたか?それはすまん」


「すまんじゃないわよ……!!」


病院と指摘された事で声を抑えながら怒るありす。

だが、その怒りの度合いは震える手のひらで十分に計り知れた。


「まあなんだ。ありすがこの街に来たおかげで神器の手掛かりも見つかった。よくやった、褒めてやろう」


ありすの頭をぽんぽんと叩く蒼。

それをありすは苛立ちの勢いのまま払いのけた。


「そんな事はどうでもいいのよ!いや、神器が盗られたのはどうでもよくないけどっ!」


「なぁ、蒼はなんでありすがこの街にいるってわかったんだ?」


あまりにも話が終わらなそうなんで助け船を出すことにした。


「ありすは俺の眷属だからな。ある程度の位置把握はできる。まあ少し遠いと、それもできないんだが、今回はありすが力を使ったからな。その波動を辿ってきたんだ」


力を使ったと言うのは不良狩りの事だろう。

ありすが蒼を探すための行動だった訳だし、ある意味それが役立ったわけか。


「じゃあ学校に転入してきたのはなんで?」


「あの学校には何かがある。ありすもそう思って転入したんじゃないのか?」


その場はそれでお開きとなった。

蒼が言うには、俺達の通う学校には神の気配がうっすらとあるらしい。

それはフレイヤの物とは違い、学校になんらかの結界が張ってある気配がするという事だ。

それがロキの物なのか、トールの物なのかはわからないらしい。

だがそうなると、俺は縷々をはじめ、最初から神の世界に足を突っ込んでいたのかもしれない………。




◇◇◇




次の日から俺達はトールの情報を集めていた。

だがろくな手がかりもない為、捜索は難航していた。

一週間が経ったが、何の情報も得られていない。

その間、ロキの襲撃にも警戒していたが、そちらも特に動きはなかった。

捜索中も学校は休むことは無く、今俺は君丈と屋上で昼ご飯を食べている。


「よかったな~縷々が無事そうで。明日から学校にも来れるんだってな」


「そうだな」


「一時はどうなる事かと思ったが、何事もなかったみたいだし。お前ももう無茶なことするなよ~?」


「あぁ」


「……………」


正直俺の心境は複雑だった。

幼馴染の縷々が得体の知れない神だったのだ。

それで俺と縷々の関係が崩れるわけではない。

だが、煮え切れない思いはどうしても残るものだ。


トールの捜索中、縷々と話す機会もあり、そこで俺は少し詳しい話しを聞いた。

正確に言うと縷々は神様ではないらしい。

縷々とフレイヤは二重人格のようなもので、言うならば神が憑りついている状態だと言う。

縷々はありすと一緒でフレイヤの眷属であり、人なんだそうだ。

俺と出会った時にはすでにフレイヤと縷々は一緒にいて、ずっとその事を言えずにいたみたいだ。

何度も二人から謝られた。


だがそれを気にしているわけではない。

正確には隠し事をしていた事もショックだが、俺は縷々を守るために力を、SAを身につけた。

だが実際には縷々はそんな力など必要のない存在で、むしろ俺は今まで守られていたかもしれないのだ。


それが悔しくてたまらない。


「悠真、お前なんか疲れてるか?」


「………別に」


君丈はどうなのだろう。

もしかしたら君丈も神と言う可能性は……。


俺は君丈を見つめた。

縷々が神だったんだ、その可能性も十分にある。


「……………」


いや、それはありえない。

だとしたら蒼や縷々と接触した時点で何かしらの反応があってもいいはずだ。

トールはこっちの味方、声をかけない理由がない。

それに君丈まで神だったらそれこそ俺の存在意義を失いそうだ。


「なんかあるんだったら言えよ?いつでも助けになるからな」


君丈はいつでも俺と縷々の味方だった。

こいつの人脈を使えばもしかしたらトールも……。


「………いや、大丈夫だ。いつか話すよ」


そう思いかけてやめた。

君丈を巻き込むのも気が引けるし、なにより縷々が神だったなんて話を信じてもらえるとも思えない。

そもそも神というのが突拍子も無さすぎるんだ。


「そんな事よりサッカーの大会近いんだろ?俺にかまってる場合か?」


「それこそ余裕だよ。俺を誰だと思ってんだ?」


サッカー部のエースの名は伊達じゃない。

自分の好きな事に打ち込んでいる君丈の邪魔もしたくない。

やはりこの話は伏せておくべきだ。


「悠真こそ姫野川と進展はあったのか?」


「うぐっ……ごほっ……ごほっ……なんでありすが出てくんだよ……。別に俺とあいつはなんもねぇよ」


いきなりありすの話しを出すもんだからパンがのどに詰まってしまった。

君丈は俺とありすがただならぬ関係になっていると思っているようだ。

まぁ……ある意味ただならぬ関係だが……。

だがあいつには蒼と言う存在がいる。

あの二人こそ、ちょっとした関係ではないはずだ。


「それにありすに気をつけろって言ってたのは君丈の方だろ」


「まあそりゃな。でも下の名前で呼び合ってるし、お前は信用したんだろ?じゃあ俺だって姫野川の事は信用するさ」


君丈のこういう所が俺は好きだった。

切り替えの早さもそうだが、俺の事を全面的に信用してるって事だ。

だからこそ神の事を隠すのは心が痛い。

もしかしたら縷々もこういう気持ちでいたのかもしれないな……。


「ありがとな。でも俺とありすは別に何もない。そこも信用してくれ」


「悠真がそういうなら信じてやるよ。でも気が変わったら言ってくれよ?いくらでもサポートするぜ?」


「いらねぇよ」


いつもの日常に戻った気がした。

ここ数日はずっと張り詰めていたのは自覚している。

君丈はそれもわかって場を和ませてくれたんだろう。

やっぱりこいつは俺の親友だ。




◇◇◇




その日の放課後、俺とありすと蒼は縷々の病室に集まっていた。

この一週間毎日行われている報告会だ。

だがその進展はやはりない。


「なぁ、トールなんて本当にいるのか?気配も掴めないなんてことあるのかよ。ロキもこの一週間動きはないみたいだし。もう撤退したんじゃないのか?」


探すのが疲れたわけではない。

だが、このまま闇雲に探すのは明らかに効率が悪い。


「トールに関しては本当にわからん。あっちから接触して来てもいいと思うんだが……。だがロキに関しては動いているのは確実だ」


「どこからその確証を得てくるんだよ。そもそもフェンリルの時だって唐突に引いたんだぞ?この街にいない可能性は充分にあるだろ」


フェンリルを撤退させたのはロキだろう。

あの時俺とありすは明らかに不利だった。

にも関わらず撤退せざる負えない何かがあったはずだ。


「あれは……俺がいたからだ。あの戦いは俺も見てたって言ったろ?ロキが俺の事を補足して、フェンリルに追わせたんだよ」


敵であるオーディンを排除するため。

だがその必要はあったのだろうか?

そもそも蒼は神器と言うのを奪われている。

神器の力がないからあの戦いにも加勢しなかった。

そんな弱っている奴をわざわざ追うだろうか?


「だとしたら尚更襲って来ないのはなんでだ?ロキにとって蒼は邪魔な存在なんだろ?」


俺がロキなら徹底的に叩く。

こんなに動いてるんだ、この前みたいにすぐ捕捉されてもおかしくない。

だが実際は見逃されている。

ここに明らかに違和感があった。


「私は悠真君やありすちゃんが襲われないならその方がいいけどな~」


ベットの上でにこにこと話す縷々。

検査入院で残っているだけで体調は万全らしい。


「あれあれ~?縷々ちゃんは俺の事は心配してくれないのかな~?」


「蒼君はオーディンでしょ~?じゃあ心配する必要ないと思うな~?フレイヤもそう言ってるよー?」


縷々は蒼とありすにすぐ馴染んだ。

今では二人を俺と同じようにありすちゃんと蒼君と呼んでいる。


「俺も神器盗られて弱くなってるんだけどなぁ……」


そんな話をしていると、不意に病室の扉が開いた。

入ってきたのは君丈だった。


「お?なんか勢揃いだな。縷々も仲良くなったのか?」


「あ~君丈君~!二人とはすっかり仲良しさんだよ~!」


「そっかそっか。ならよかった。縷々も明日から出られそうなんだろ?」


「うん~。明日の朝に退院だから学校に行けるのは昼くらいだけどね~」


「あんまり無茶すんなよ?別に休んでたっていいんだぞ?」


「え~やだよ~、つまんないじゃん」


「学校を楽しんでるようでなによりだよ……」


君丈と縷々の会話を聞いていると安心する。

そこには確かに日常があった。

俺のいつもの日常だ。

少し日常は変化してしまったけれど、でも変わらないものもある。

俺はこの時間を大事にしなきゃいけない。

その為ならなんだってしてやるさ。


「じゃあ俺達はそろそろお暇するかな。幼なじみの邪魔になるだろうからな」


ありすと蒼は帰り支度を始めた。

大した荷物は持ってきてなかった為、学生バックを」持ったくらいだが。


「なぁ悠真。お前は後悔してないか?」


そんな時だ、君丈が俺に話しかけてきたのは。


「どうしたんだよいきなり。後悔って言うなら俺は縷々をこんな目にあわせた奴を許さないくらいだが」


何を言い始めたのかわからなかった。

だがそれが何かの合図のようで、俺は奇妙な不安感を感じてしまう。


「そうだな。俺もそうだ。だけどよ、縷々も無事なわけだし、お前はもう何もしなくていいんじゃないか?」


君丈は何を言っている。

それでは俺が縷々の為に今も動いているのを知っているみたいじゃないか。


「それは……」


君丈が何を知っているのかわからない。

でも俺が何かをしようとしているのはとっくに感づかれていたのかもしれない。


「俺は俺の信念を貫くためにSA手術を受けた。俺は二人を守る為ならなんだってする」


「……そうか……。お前はそういうやつだよな、悠真」


何かを決意した声だった。

俺の不安は収まるどころかどんどんと膨らんでいく。


「悠真が俺達を心配するように、俺もお前が心配なんだ。だから、ごめんな」


「……何を謝ってんだよ……」


わからない。

わからないが、どうしても悪い方向に賽が投げられた気がした。






これは本当に俺が願った結末なんだろうか。






「まあ待てよ転校生。そんな気を使わなくてもいい。なんてったって俺達は旧友だろ?」


呼び止められた蒼とありすはお互いの顔を見つめて疑問の顔だ。

俺にもなぜ君丈がそんな事を言ったのかわからない。

少なからず君丈はありすを警戒していたはずだ。

だが今の言い方では君丈と蒼が知り合いという事になる。


だが、今までそんなそぶりは一切なかった。






「なぁ?オーディンとその眷属さんよ」






一瞬で空気が変わる。

蒼とありすは一瞬で警戒態勢だ。


俺は君丈にその話をしていない。

じゃあなんで君丈はその事を知っているんだ?


君丈に聞きたい。

でも、それを聞いてはいけないような気がしてならない。

じわじわと俺の背筋を這うように汗が流れる。


「悠真、すまん……ずっと隠してた事がある」


重い空気の中、君丈は続けてこう言った。






「俺がトールだ」






俺の日常は、最初から非日常だったのかもしれない。






一章

 四幕【神々の意志】

    ―完―



どうも零楓うらんです。

明かされるトールの正体。

縷々に続いて君丈までも神だった悠真の心境やいかに……。

関係性や今までの価値観を変えてしまう一話でした。

これを受けて悠真はどう行動するのか……。

ぜひ次の話しをお待ちください!

書き溜めた物が増えてきたので、来週は残りの一章を全て公開できると思います。

もしくは今日も夜にでも……。

ではでは次のお話でまたお会いしましょう。

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