表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴァルハラの戦神  作者: 零楓うらん
第一章 【始まり】
3/14

三幕【襲撃】

【前回のあらすじ】

姫野川ありすの色んな顔を見て、どれが本当の彼女なのかわからなくなった悠真。

そんな中いつもの縷々と君丈を見ていつもの日常を過ごすのも悪くないと思う。

だが、そう思った次の日に縷々が何者かの襲撃によって倒れてしまう。

病室に現れた姫野川が語るのは神の仕業と言う到底信じられない話し。

協力を求める姫野川を今度は断る悠真だったが……。



「おはよう~」


いつもの日常。

いつもの学校生活。


「昨日のドラマ見た~?」


日常に刺激が欲しかった。

でも日常を守りたかった。


「駅前のパフェ美味しいんだって~!今度行こ~?」


だが、世界は自分の思った様に進んではくれない。

俺は本当は何を求めていたんだろうか。


「今日の体育だるい~。休もっかな~」


日常は音を立てて壊れていく。

俺の意志とは正反対に。


「あ、宿題忘れた!」


変わったのは日常だったのだろうか。










本当に変わったのは自分の方だったんじゃないだろうか。






挿絵(By みてみん)

―ヴァルハラの戦神―

一章 三幕【襲撃】




「お、おはよう……桂木……君………」


昨日とは違い、声をかけてくる姫野川。

その顔は申し訳なさそうな表情をしていた。

明らかに元気がなく、少し眼元が腫れているようにも見える。


少し胸がチクリとしたがそんな痛みは無視した。


「悠真おはよう。今日は早いんだな」


君丈はいつも同じ時間に登校してくる。

部活の朝練があるからだろう。

いつもと変わらない君丈に安堵したが、心のつっかえは取れない。


昨日の夜、君丈から電話が来た。

俺とはすれ違いだったようで、俺と姫野川が話している間に縷々のお見舞いに来ていたらしい。

姫野川の話しなんか聞かず、君丈と犯人捜しをしていた方が何倍も有意義な時間の使い道だっただろう。


「君丈……おはよう。まぁ、あんまり寝付けなくってな」


「縷々の事か……」


俺は軽くうなづく。

目線の先で、姫野川の肩がピクリと震えたのが見えた。


「ま、すぐ目を覚ますさ。縷々は意外と頑丈にできてるしな。あいつの事だ、何かあったのってとぼけた顔で起き上がってくるよ」


「そうだな……そう信じてるよ……」


縷々は今でこそ大人しいが、昔は俺らの誰よりも活発で、女の子らしさなどはなかった。

いつからだろう、縷々が女の子っぽく振舞うようになったのは。

成長すれば次第に意識していくものだろうか。

まぁ俺だって昔は……。


考えるのをやめ、頭を振る。

君丈はとっくに自分の机に戻っていた。

俺の事を心配して来てくれてただけだろう。


「お前だって……俺と同じくらい心配してるくせに……」




◇◇◇




「悠真、お前さ」


俺と君丈はいつものように屋上で昼を食べていた。

今日は部活のミーティングがあると言っていたが、俺の為にすっぽかしたらしい。

もしかしたら、君丈も不安で誰かといたいだけなのかもしれないが。


「ん……なんだよ」


サンドイッチを頬張りながら君丈の話に耳を傾ける。

今日はさすがに弁当を作る気にはなれなかった。


「姫野川と何かあったか?」


おもわず食べる手を止めた。

相変わらず鋭い。


だが朝の光景をもし見ていたのだったらそれも納得する。

昨日とは明らかに反応が違った。

君丈でなくとも気づくだろう。


「なんで俺となんかあったって思うんだよ」


「お前に挨拶してた時だけ元気なさそうだったからな」


「しらねぇよ。あいつが個人的になにかあったんじゃねぇの」


昨日の事があったとはいえ、姫野川の事を喋る気にもなれなかった。

話しが本当だろうが、嘘だろうが、君丈を巻き込みたくはない。

縷々の事は改めて俺と君丈で調査すればいい。

そこで何かが起こるなら、それは俺と君丈の問題だ。

それに君丈がいればなんでもできる気がする。


「んー……なんかお前、姫野川が来てから変だよな」


「そんなことねぇよ」


誰が見ても最近の俺はおかしいと思う。

それと比例して今日の姫野川だ。

俺と姫野川に何かあると思うのは当然の反応。

だが君丈も否定したことに深くは突っ込んでこないだろう。


「まぁ人の恋路にうんぬんいうつもりはないけどよ」


本気なのか冗談なのか。

いや、もはやその話でごまかしてもいいと思える。

これ以上君丈を姫野川に近づけさせない為なら。


「悠真はこれ以上姫野川と関わらない方がいいと思うんだよ」


その言葉に俺は驚愕を隠せなかった。

同じような事を考えていたからだ。

だが君丈は姫野川の秘密を知らないはずだ。

それとももう接触していたと言うのか?


「……なんでだ?」


「んー……別に確証とかあるわけじゃないんだけどよ。どうしても縷々が倒れた一件と無関係にも思えないんだよな」


「姫野川が……何か言ってたのか?」


「そういうわけじゃねぇよ。勘と言うか……胸騒ぎがするんだよ。不良狩りの女神の話しは覚えてるだろ?」


「あぁ」


正直その話が出てくるとは思っていなかった。

確か昨日、姫野川は俺を助けた一件で縷々が狙われたとか言っていたはずだ。

相変わらず鋭いと言うかなんというか。

もはやどこかで見ているのではないかと思うくらいだ。


「目撃情報では髪の長い女生徒で、うちの生徒だって話も出てんだよ。この前までそんな話はなかったはずだ。姫野川の転校と繋がるだろ?」


「まぁ…それはそうだけどよ……それが縷々の話しとどう繋がるんだよ」


姫野川は自分のせいだと言っていた。

あいつの話しを本当だとするならその線は繋がる。

だが、謎の手紙の事もある。


「わかんね。でも姫野川が噂の女神さまなら、なんらかの復讐で見せしめって事も考えられるだろ?」


そう考えると、あの手紙は俺が姫野川と一緒に会った轟からという事になるだろう。

だが姫野川ではなく、なぜ俺なんだ?

そもそもうちの学校に成神工業高校の奴が来たら目立つはずだ。

話題に上がらないわけがない。

誰かに頼んだとか?

だがそんな回りくどい事をあの轟がするだろうか。


「後は縷々がなんで倒れたかだ。昨日聞いてきたが、医者にも原因不明と言われた。外傷も特に目立ったものはないらしいし、俺は強力な睡眠薬のような毒物でも飲まされたんじゃねぇかと思ってる」


原因不明の昏睡状態。

頭の打ち所が悪かっただけの可能性は十分ある。

まだ昨日の今日だ、普通に起きあがってきても不思議ではない。


だが俺には昨日の姫野川の言葉がずっと引っかかっている。

神の仕業。

本当に神が縷々を襲って、その影響なら普通の医者にわかるはずがない。


………いや、そんなわけないんだ。

神のせいだなんて頭のおかしい発想、信じる方がどうかしてる。


姫野川がやった可能性も捨てきれないが、だとしたら姫野川の意図が読めない。

自分で仕込んだ手紙をわざわざ届けた事になるんだから。


「なんにせよ、俺は縷々をこんな目に合わせたやつを許さない。絶対にぶっとばしてやる」


誰が犯人だとしても俺のやる事は変わらない。

神だろうがなんだろうが俺の力でぶん殴ってやる。


「さっきも言ったが気をつけろよ。悠真の気持ちはわかる。だから俺も止めはしない。だが一人で先走るな」


「………わかってる」


危険な相手な事は重々承知だ。

姫野川が犯人だとしても俺が敵う相手だとは思えない。

でも、君丈が居たらそれすらも覆せる気がしてくる。


「犯人に知らしめてやる。俺らの絆を……」




◇◇◇




授業が終了すると、俺は速攻で病院に向かった。

もう目が覚めていて、「おはよう悠真君」などとのんきに言うんじゃないかと少しは期待していた。

だが結果は何も変わっていない。

縷々は昨日、俺がお見舞いに来た時と微塵も変わっていなかった。


しばらく縷々の病室で過ごした後、俺は帰路についた。

ずっと犯人について考えているが、情報が無さすぎてこれ以上は直接乗り込むしかなさそうだ。


「轟の復讐か、姫野川の自演か……それとも第三者か……なんにせよ君丈と一緒に行動した方がいい……。今週の土日までに縷々が起きなかったら君丈と調べてみるか……いや、もし君丈の予想通り毒物だったら……」


猶予はもしかしたらないのかもしれない。

一見何も変わっていなさそうに見えるから安心してしまってるだけだ。

もしかしたら縷々は症状と戦っているかもしれない。


「なら明日……学校を休んで君丈と……」


どれくらい考えていただろう。

考え始めると周りが見えなくなるのは俺の悪い癖だ。


「……ひとけがない……」


まだ夕方の住宅街だ。

誰もいないなんて事はめったにない。

人が見えないとしても、声くらいは聞こえてくる。


「もしかして……縷々の時もこんなんだったんじゃ……」


それなら犯人が俺を襲いに来たという事だ。

俺にはSAもある。

簡単にはやられないはずだ。


(貴様には死んでもらう)


突如、脳内に声が響いた。

聞き覚えはない。

というより、変声期のような変えられた声に聞こえる。


「誰だ。お前が縷々をやったのか?」


(そうだと言ったらどうするんだ?僕を倒してみるか?)


「お前が犯人なら、俺はお前を許さない。ぶん殴って縷々に謝罪させてやる」


(面白い。じゃあやってみろ)


キンッ!


背後からでかい金属音が鳴る。

その音には聞き覚えがあった。


振り向くとそこには予想していた人物、【姫野川ありす】がいた。


「姫野川、てめぇ……」


「桂木!敵は私じゃない!集中しろ!」


姫野川は俺を守るように背を向けていた。

そしてその前には轟との戦闘で見た何かを弾いているような火花。


「……守ってくれたのか?」


「話しは後だ!今は自分の身を守る事に専念しろ!私だけで守りきれるとは限らん!」


姫野川が何かを弾くように腕を振った。

すると金属音は止み、先ほどまでは目の前の衝撃で見えなかった敵の正体が見えてくる。


その人物は夕日をバックにしていて、顔などは判別できない。

だが短髪で俺よりも身長は高いのだけはわかる。

男の様にも見えるが、それにしては身体が華奢だ。


「本当に釣れるとはねぇ。君がそいつを守る意味はあるのかい?」


「私が巻き込んだんだ。理由はそれで充分だ」


「へー。それって人情ってやつ?僕そういうの詳しくないんだよねぇ」


ゆっくりと近づいてくるその敵からは明らかに敵意を感じた。

姫野川の事はまだ信用はできない。

だが、警戒しつつも今は目の前の敵に集中した方がよさそうだ。


「まあお互い眷属同士、仲良くしようぜ?なぁ!」


少し離れた所で立ち止まったかと思えば、そいつは苦しみ始めた。

姫野川が何かをしたのかと思ったが、姫野川は相変わらず敵を凝視している。

敵に視線を戻すと、信じられない事が目の前で起き始めた。

苦しんでいると思っていた敵の身体が、ドクンドクンと言う鼓動と共に大きくなり、体中から銀色の長い毛が生え始める。

鼻は伸び、口からは獰猛な牙が。

獣の耳が頭から生え、目は影になっていて見えないはずなのに、ギラリとこちらを睨んでいるのがわかった。


「貴様、フェンリルか」


目の前の光景が姫野川には普通の事の様に冷静だ。

姫野川は今フェンリルと言った。

フェンリルは確か北欧神話の狼の怪物だ。

確かに目の前の敵が変身した姿は狼そのもの。

二足立ちしていることから、人狼と言った所か。


「いかにも!わが名はフェンリル!気高き狼だ!」


叫んだ次の瞬間、フェンリルは姿を消す。

それと同時に周りから金属音がけたたましく鳴り響いた。

おそらく姫野川が相手の攻撃を防いでるんだろう。


「おい!姫野川!どうなってんだ!」


「うるさい!死にたくないなら黙ってて!私も手いっぱいなんだから!」


姫野川も相手の動きは読み切れていないらしい。

俺も目を凝らして集中すると、フェンリルが高速で攻撃しているのが一瞬見える。

おそらく狼に変化した爪で攻撃しているんだろう。


それと一緒に姫野川が見えない武器を構えてるのに気づく。

おそらく槍のようなものを持っているんだろう。

隙を見て攻撃するつもりなのだろうが、この速さで動くものに果たしてそれは可能なのだろうか。


ピキッ


金属音にガラスにひびが入ったような音が混ざりはじめた。

姫野川が盾のような物を展開しているのだとしたら、それが破られようとしているのかもしれない。


「ちっ……やっぱり兵装じゃないと守りが薄いか……」


そう言うと姫野川は目を閉じはじめた。

目で追えないと判断したのだろう。

達人には気配で敵を察知する者がいると言う。

だが姫野川は本当にそんなことができると言うのだろうか。


「そこっ!」


鮮やかに回転し、槍のような物を突く。

今までで一番の激しい金属音が鳴り、数秒ののち金属音は全て止んだ。


「やったのか?」


「まだだ」


姫野川の視線を追うと、いつの間にか最初に立っていた位置にフェンリルが立っていた。


「所詮その程度か。がっかりだぜ」


返ってくる言葉は無く、姫野川は相手の様子を窺っているようだ。

あまりにも戦闘の次元が違いすぎて俺は見ているだけだった。

俺と君丈でどうにかできると思っていたが、かなり甘い考えだった。

こんな相手に対処できる方が間違っている。


「これで終わりにしてやる。疾風―――」


(戻れ、フェンリル)


また脳内に声が響く。

先程の声の主は目の前にいる。

フェンリルに命令している所を見ると、親玉かもしれない。


「ちっ。命拾いしたな。次は殺す」


そう言い残すと、フェンリルは風と共に消えた。

自然と安堵のため息が二人から出た。


「終わったのか……?」


「今回は……とりあえずと言った所ね」


姫野川の手にはもう武器は握られていない。

そして数秒の沈黙。

お礼を言うべきだろう。

だが、俺の口は開かなかった。


姫野川も俺に背を向けたまま言葉を喋らない。

声をかけようかと迷っていたが、沈黙を破ったのは姫野川の方だった。


「巻き込んでごめん……」


そのまま立ち去ろうとする姫野川を、俺は引き留めた。


「待て。その……なんだ……さっきはありがとう。正直、姫野川の事はまだ信用しきれてない……でも、俺も部外者じゃないなら昨日の話しの続きを聞かせてくれないか」


口から出たのはそんな言葉だった。

俺には情報が少なすぎる。

怪しい話だとしても、今の俺には聞く価値があると思えた。

先程のフェンリルへの変身、姫野川との攻防、それらは確実に人外の力だ。

俺は知らないといけない。

例えそれが戻れない道だとしても。


「………でも……」


「今日の事を見る限り俺には出来る事は少ないと思う。だけど、何も知らないで守られてるだけにはなりたくない」


「………わかった」




◇◇◇




昨日の公園が近かったため、そこで話す事になった。

ベンチに座り、一呼吸置く。

姫野川はすぐに話し始めた。


「改めて最初から話そう。私はこの町にとある神を探しに来た。名は【オーディン】」


「オーディン?また北欧神話か。さっきのフェンリルと何か関係があるのか?」


「関係……ないことはない……と思う……」


「思う?」


「そこの関係性については私も詳しくは知らないの。神って言うのは別に北欧神話の神達の事じゃない。世の中にはいろんな神様がいるわ。でも、神話にあったような話と同じような出来事を起こす習性みたいのがあるみたい」


習性……逆に言えば使命みたいなものだろうか。

ならばさっきの声は……。


「おそらく今回の敵はロキ。あいつは何かとオーディンにちょっかいをかけてるみたいだから」


「逆を言えば、そのオーディンはここにいるって事か」


「……多分」


また歯切れが悪くなった。

姫野川も結構知らないことが多いのだろうか。


「手掛かりとかあるからこの町に来たんじゃないのか?」


「ううん……その人……オーディンは突然私の前から姿を消した。ずっと待ってたんだけど、一向に帰ってこないから探しに来ただけ」


「この町に来たのは偶然なのか?」


「最初は神の伝承が多いって噂を聞いて。でもこの町に来て私はここにオーディンがいるって確信してる」


「確信?そもそもお前はそのオーディンの何なんだ」


「私は…………オーディンの眷属よ」


眷属?配下って事か?

じゃああの人間離れした防御や攻撃もその眷属の力って事か?

それなら確かに納得できる。

フェンリルも眷属がどうとか言っていたはずだ。


「この町には神が多い。正確な位置とかはわからないけど、複数の神の気配がある」


「…………その内の一人が縷々だってことか?」


「そう。私が気づいたのは倒れてからだけどね。今の彼女は神として気配を隠す力を失っている。多分……あれは力を封印されてるんだと思う……」


封印されているから謎の昏睡状態って事か。

縷々が神ってのは、にわかには信じがたいが話の筋は通っている。


「じゃあまず縷々の封印を解いてくれよ。お前はオーディンの眷属なんだろ?」


「それは……無理……前にも言ったけど、オーディンがいたらそれも可能だと思う……あの人は色々と規格外だし……私は眷属であって神じゃないの。さっきのフェンリルや私みたいなのは従属とか眷属って言って、あくまで神の力を借りている人間」


「………ならそのオーディンを探すしかないわけか……。だけどちょっと待て、相手の目的は何なんだ?縷々が邪魔なら殺すとかそういう話になるんじゃないのか?」


「私もそこまではわからないわ。でも埜口さんを生かす理由には見当がつく。埜口縷々は餌なのよ」


「餌?」


「そう。そしてそれは貴方も同じよ、桂木悠真」


フェンリルが最初に釣れたと言っていたことを思い出した。

つまり俺や縷々は何か……いや、オーディンを探す餌、という事か?


「じゃあ相手もオーディンを探してるって事か……」


「………おそらくだけど、それは違うと思う。確信はないし、今言っても私がそれを証明する手段がないから今は教える事ができないけど……。多分ロキの狙いはこの町にいるもう一人の神だと思う」


「もう一人?まだいるのか」


「オーディンと対を成す存在。三神と言ってもいい。オーディン、フレイヤ、トールは惹かれあう習性があるのよ。と言っても私も聞いただけだからこれも詳しくはわからないんだけど……」


「姫野川……お前わからないことが多くないか?」


「…………神同士ってそんな頻繁に合うわけじゃないのよ……なんなら、眷属にだってまともにあったのは今回が初めて……」


「初めて?それにしては動じてなかったじゃねぇか」


「そりゃあ冷静に対処する訓練とかもしたからね。とにかく、その三つの神は惹かれあうわけ。ロキもいる以上、この町に三神がそろってる可能性は非常に高いわ」


確かフレイヤってのは女神だったか。

なら縷々が神ならフレイヤだろう。


「じゃあそのトールってのをロキは探してるのか?」


「多分ね。でも私達はトールよりも先にオーディンを探した方がいい。トールが味方とも限らないから」


「オーディンは信用できる人……神なんだな?」


「………少なからず私にはね」


俺は姫野川を完全に信用しているわけじゃない。

オーディンを信用に値する神だと信じるという事は姫野川の事も信じるという事だ。


「そうだな。とりあえず探すのには協力する。縷々の症状が治せるなら俺にも関係があるからな。その後の事はその後決める」


「ありがとう……じゃあ一つ聞いておくことがある。【蒼希優斗】。この名前に聞き覚えは?」


「………ないな。誰なんだ?」


「オーディンよ。オーディンが人として生活する時の名前」


人の名前があるなら探しやすい。

少しは縷々を助けられる光明が見えてきたかもしれない。


「じゃあ俺はその名前を探せばいいわけだな」


「そうね。桂木には人の名前での捜索をお願いしたい」


「わかった。………そのよ……名字で呼ばれるのあんまり慣れてないんだ。俺達はとりあえずは協力関係だし悠真って呼んでくれ」


「………悠真……わかった……。これからよろしく、悠真。私の事もありすって呼んで」


「一時的かもしんねぇが、よろしくなありす」


こうして、俺達は協力して神オーディンを探すことになった。

今日はもう遅い為、本格的な捜索は明日から。

この事を君丈には……言うべきだろうか……。

巻き込んで君丈が怪我をするくらいなら黙っていた方がいいかもしれない……。




◇◇◇




「おはよう悠真君」


「あぁおはよう、ありす」


昨日とはまた違い、今日の朝は普通に交わす。

下の名前で呼び合ったことで少しクラスにざわめきが起こる。

お互い下の名前と言うのはまずかったかもしれない……。


「おいおい、お前ら毎日ころころ変わりすぎじゃねぇか?」


俺の元にやってきたのは君丈だ。


「まぁ……あの後色々あってな……」


「昨日の話し、忘れたわけじゃねぇよな?」


ありすには聞こえないように耳元で君丈が話しかけてくる。

そりゃあ警戒しろ、関わらない方がいいって言った次の日にこれじゃ心配にもなるだろう。


「わかってる。とりあえずは上辺だけだが仲直りしたんだ。警戒はしてるよ」


「それならいいが……本当に気をつけろよ?俺は今でも反対だからな」


そう言うと君丈は自分の席に戻って行った。

俺が君丈の立場なら俺も同じことを言っただろう。

だが俺は君丈を巻き込みたくない。

本当は全てを話して君丈の協力も得たかったが、君丈にまで被害に会うと俺は暴走して何をするかわからない。

その自覚はあった。


横を見るとありすが朝の準備をしていた。

その横には座るものがいない席。


(縷々……必ず助けてやるからな……)


「はーい、HR始めますよ~」


いつものように担任が入ってきた。

俺はそこでようやくいつもの光景じゃない物を発見する。


(前の席が空いてる……欠席、じゃないな。移動したって事はまた転校生か?)


一週間に二回も転校生が来ることなんてあるだろうか?

他のクラスならまだしも、うちのクラスに?


「はい、今日も転校生がいますよー!」


俺が一人考えていると、すでに転校生は教室に入ってきていた。

教壇に立っていたのは一人の男子生徒。

背丈は俺より少し高そうだ。

男子の平均くらいだろうか。


「静かに。では自己紹介をしてください」


顔は割と整っている。

皆が振り向くイケメンというわけではないが、好きな人は多そうな顔立ちだ。


「蒼希優斗だ。よろしく」


転校生が自己紹介をした瞬間、隣の席から立ち上がる声が聞こえた。

隣の席は今はありすが使っている。

立ち上がったのはもちろんありすだ。


「ぁ……な…………なん……なんで………」


ありすが驚いた表情で口をパクパクとさせていた。

何を驚いているのかわからない。

だが俺もなんだか一瞬引っかかった物があった。


(転校生の名前……最近どこかで聞いたような……)


「よ、ありす」


転校生がありすに声をかける。

それで俺はどこでその名前を聞いたか思い出した。


蒼希優斗。

その名前は昨日ありすから聞いた【オーディン】の名前だった。



一章

 三幕【襲撃】

    ―完―



どうも零楓うらんです。

ありすと和解した悠真、だが事件の真犯人はわからずじまい……。

そんな中現れたのは!?

今回の話しでやっと物語が本筋に進んでいきます。

オーディンの存在がどう影響していくのか……。

それは次回の四幕で!

ではまた次の話しで会いましょう!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ