三幕【襲撃】
【前回のあらすじ】
姫野川ありすの色んな顔を見て、どれが本当の彼女なのかわからなくなった悠真。
そんな中いつもの縷々と君丈を見ていつもの日常を過ごすのも悪くないと思う。
だが、そう思った次の日に縷々が何者かの襲撃によって倒れてしまう。
病室に現れた姫野川が語るのは神の仕業と言う到底信じられない話し。
協力を求める姫野川を今度は断る悠真だったが……。
「おはよう~」
いつもの日常。
いつもの学校生活。
「昨日のドラマ見た~?」
日常に刺激が欲しかった。
「駅前のパフェ美味しいんだって~!今度行こ~?」
でも日常を守りたかった。
「えぇ~!いこいこ!今日行こうよ!」
だが、世界は自分の思った様に進んではくれない。
俺は本当は何を求めていたんだろうか。
「今日の体育だるい~。休もっかな~」
日常は音を立てて壊れていく。
俺の意志とは正反対に。
「あ、宿題忘れた!」
変わったのは日常だったのだろうか。
本当に変わったのは自分の方だったんじゃないだろうか。
―ヴァルハラの戦神―
一章 三幕【襲撃】
「お、おはよう……桂木……君………」
昨日とは違い、声をかけてくる姫野川。
その顔は申し訳なさそうな表情をしていた。
明らかに元気がなく、少し眼元が腫れているようにも見える。
昨日の姫野川の顔がちらつき、少し胸がチクリとした。
だがそんな痛みと共に俺は姫野川を無視した。
「悠真おはよう。今日は早いんだな」
君丈はいつも同じ時間に登校してくる。
部活の朝練があるからだろう。
いつもと変わらない君丈に安堵したが、心のつっかえは取れない。
昨日の夜、君丈から電話が来た。
俺とはすれ違いだったようで、俺と姫野川が話している間に縷々のお見舞いに来ていたらしい。
姫野川の話しなんか聞かず、君丈と犯人捜しをしていた方が何倍も有意義な時間の使い道だっただろう。
「……おはよう。まぁ、あんまり寝付けなくってな」
「縷々の事か……」
俺は軽くうなづく。
目線の先で、姫野川の肩がピクリと震えたのが見えた。
「ま、すぐ目を覚ますさ。縷々は意外と頑丈にできてるしな。あいつの事だ、何かあったの~?ってとぼけた顔で起き上がってくるよ」
「そうだな……そう信じてるよ……」
縷々は今でこそ大人しいが、昔は俺らの誰よりも活発で、女の子らしさなど微塵もなかった。
いつからだろう、縷々が女の子っぽく振舞うようになったのは。
君丈の言葉が本当に縷々が言いそうで想像ができた。
いつものような朗らかな笑顔で。
何も心配なさそうににへらと笑うのだ。
成長すれば誰だって変わっていく。
あんなに破天荒だった縷々が変わるくらいだ。
次第に意識していくものなんだろうか。
まぁ俺だって昔は……。
考えるのをやめ、頭を振る。
君丈はとっくに自分の机に戻っていた。
俺の事を心配して来てくれてただけだろう。
「お前だって……俺と同じくらい心配してるくせに……」
◇◇◇
「悠真、お前さ」
俺と君丈はいつものように屋上で昼ごはんを食べていた。
今日は部活のミーティングがあると言っていたが、俺の為にすっぽかしたらしい。
もしかしたら、君丈も不安で誰かといたいだけなのかもしれないが。
「ん……なんだよ」
サンドイッチを頬張りながら君丈の話に耳を傾ける。
今日はさすがに弁当を作る気にはなれなかった。
「姫野川と何かあったか?」
おもわず食べる手を止める。
相変わらず鋭い。
だが朝の光景をもし見ていたのだったらそれも納得する。
昨日とは明らかに反応が違った。
君丈でなくとも気づくだろう。
「なんで俺となんかあったって思うんだよ」
「お前に挨拶してた時だけ元気なさそうだったからな」
「しらねぇよ。あいつが個人的になにかあったんじゃねぇの」
そっけなく俺は返してまたサンドイッチを頬張る。
昨日の事があったとはいえ、姫野川の事を喋る気にもなれなかった。
話しが本当だろうが、嘘だろうが、君丈を巻き込みたくはない。
縷々の事は改めて俺と君丈で調査すればいい。
そこで何かが起こるなら、それは俺と君丈の問題だ。
それに君丈がいればなんでもできる気がする。
「んー……なんかお前、姫野川が来てから変だよな」
「そんなことねぇよ」
誰が見ても最近の俺はおかしいと思う。
それと比例して今日の姫野川だ。
俺と姫野川に何かあると思うのは当然の反応。
だが君丈も否定したことに深くは突っ込んでこない。
「まぁ人の恋路にうんぬんいうつもりはないけどよ」
だが変な方向に話は逸れていった。
本気なのか冗談なのか。
この前縷々と話していた時もまさか本気で言っていた節もあるのか?
いや、もはやその話でごまかしてもいいと思える。
これ以上君丈を姫野川に近づけさせない為なら。
「悠真はこれ以上姫野川と関わらない方がいいと思うんだよ」
その言葉に俺は驚愕を隠せなかった。
思わずまた手を止めて君丈を見る。
君丈はと言うと、こちらを見るでもなく、屋上の下、グラウンドで部活なのか遊びなのかわからない連中を見ていた。
まさか同じような事を考えているとは思わなかった。
だが君丈は姫野川の秘密を知らないはずだ。
だからきっとそれとは関係なく忠告してるんだと思う。
いや、それとももう接触していたと言うのか?
昨日の今日。
そんな時間はなかったと思う。
だが病室に来る前に何かを話した可能性もある。
なんにせよ、俺は聞き返すしかなかった。
「……なんでだ?」
「んー……別に確証とかあるわけじゃないんだけどよ。どうしても縷々が倒れた一件と無関係にも思えないんだよな」
「姫野川が……何か言ってたのか?」
「そういうわけじゃねぇよ。勘と言うか……胸騒ぎがするんだよ。」
どこまで勘がいいのやら。
姫野川の話は要領を得なかった。
というか絵空事だ。
だがしかし関与しているのはほぼ間違いないだろう。
「不良狩りの女神の話しは覚えてるだろ?」
「あぁ」
「目撃情報では髪の長い女生徒で、うちの生徒だって話も出てんだよ。この前までそんな話はなかったはずだ。姫野川の転校と繋がるだろ?」
「まぁ…それはそうだけどよ……それが縷々の話しとどう繋がるんだよ」
「わかんね。でも姫野川が噂の女神さまなら、なんらかの復讐で見せしめって事も考えられるだろ?」
確か昨日、姫野川は俺を助けた一件で縷々が狙われたとか言っていたはずだ。
あいつの話しを本当だとするならその線は繋がる。
だが、謎の手紙の事もある。
そう考えると、あの手紙は俺が姫野川と一緒に会った轟からという事になるだろう。
だが姫野川ではなく、なぜ俺なんだ?
そもそもうちの学校に成神工業高校の奴が来たら目立つはずだ。
話題に上がらないわけがない。
誰かに頼んだとか?
だがそんな回りくどい事をあの轟がするだろうか。
「後は縷々がなんで倒れたかだ。昨日聞いてきたが、医者にも原因不明と言われた。外傷も特に目立ったものはないらしいし、俺は強力な睡眠薬のような毒物でも飲まされたんじゃねぇかと思ってる」
原因不明の昏睡状態。
頭の打ち所が悪かっただけの可能性は十分ある。
まだ昨日の今日だ、普通に起きあがってきても不思議ではない。
だが俺には昨日の姫野川の言葉がずっと引っかかっている。
神うんぬんの話だ。
仮に神様的ななにかが縷々を襲って、その影響なら普通の医者にわかるはずがない。
………いや、そんなわけないんだ。
神のせいだなんて頭のおかしい発想、信じる方がどうかしてる。
姫野川がやった可能性も捨てきれないが、だとしたら姫野川の意図が読めない。
自分で仕込んだ手紙をわざわざ届けた事になるんだから。
「なんにせよ、俺は縷々をこんな目に合わせたやつを許さない。絶対にぶっとばしてやる」
誰が犯人だとしても俺のやる事は変わらない。
神だろうがなんだろうが俺の力でぶん殴ってやる。
「さっきも言ったが気をつけろよ。悠真の気持ちはわかる。だから俺も止めはしない。だが一人で先走るな」
「………わかってる」
危険な相手な事は重々承知だ。
姫野川が犯人だとしても俺が敵う相手だとは思えない。
でも、君丈が居たらそれすらも覆せる気がしてくる。
「犯人に知らしめてやる。俺らの絆を……」
◇◇◇
授業が終了すると、俺は速攻で病院に向かった。
もう目が覚めていて、「おはよう悠真君」などとのんきに言うんじゃないかと少しは期待していた。
だが結果は何も変わっていない。
縷々は昨日、俺がお見舞いに来た時と微塵も変わっていなかった。
しばらく縷々の病室で過ごした後、俺は帰路についた。
ずっと犯人について考えているが、情報が無さすぎてこれ以上は直接乗り込むしかなさそうだ。
「轟の復讐か、姫野川の自演か……それとも第三者か……なんにせよ君丈と一緒に行動した方がいい……。今週の土日までに縷々が起きなかったら君丈と調べてみるか……いや、もし君丈の予想通り毒物だったら……」
猶予はもしかしたらないのかもしれない。
一見何も変わっていなさそうに見えるから安心してしまってるだけだ。
もしかしたら縷々は症状と戦っているかもしれない。
「なら明日……学校を休んで君丈と……」
どれくらい考えていただろう。
考え始めると周りが見えなくなるのは俺の悪い癖だ。
「……ひとけがない……」
まだ夕方の住宅街だ。
誰もいないなんて事はめったにない。
人が見えないとしても、声くらいは聞こえてくる。
「もしかして……縷々の時もこんなんだったんじゃ……」
それなら犯人が俺を襲いに来たという事だ。
俺にはSAもある。
簡単にはやられないはずだ。
(貴様には死んでもらう)
突如、脳内に声が響いた。
聞き覚えはない。
というより、変声器のような変えられた声に聞こえる。
「誰だ。お前が縷々をやったのか?」
(そうだと言ったらどうするんだ?僕を倒してみるか?)
「お前が犯人なら、俺はお前を許さない。ぶん殴って縷々に謝罪させてやる」
(面白い。じゃあやってみろ)
キンッ!
背後からでかい金属音が鳴る。
その音には聞き覚えがあった。
振り向くとそこには予想していた人物、【姫野川ありす】がいた。
「姫野川、てめぇ……」
「桂木!敵は私じゃない!集中しろ!」
姫野川は俺を守るように背を向けていた。
そしてその前には轟との戦闘で見た何かを弾いているような火花。
「……まさか守ってくれたのか?」
「話しは後だ!今は自分の身を守る事に専念しろ!私だけで守りきれるとは限らん!」
姫野川が何かを弾くように腕を振った。
すると金属音は止み、先ほどまでは目の前の衝撃で見えなかった敵の正体が見えてくる。
その人物は夕日をバックにしていて、顔などは判別できない。
だが短髪で俺よりも身長は高いのだけはわかる。
男の様にも見えるが、それにしては身体が華奢だ。
「本当に釣れるとはねぇ。君がそいつを守る意味はあるのかい?」
「私が巻き込んだんだ。理由はそれで充分だ」
「へー。それって人情ってやつ?僕そういうの詳しくないんだよねぇ」
敵の声は楽しげだった。
どこか子供のような、それでいて残忍さをはらんだ声。
一方姫野川は真剣そのもの。
昨日の事があったと言うのに俺を守るのか?
真意はわからない。
だがわからずとも状況は進む。
ゆっくりと近づいてくるその敵からは明らかに敵意を感じる。
姫野川の事はまだ信用はできない。
だが、警戒しつつも今は目の前の敵に集中した方がよさそうだった。
「まあお互い眷属同士、仲良くしようぜ?なぁ!」
少し離れた所で立ち止まったかと思えば、そいつは苦しみ始めた。
姫野川が何かをしたのかと思ったが、姫野川は相変わらず敵を凝視している。
敵に視線を戻すと、信じられない事が目の前で起き始めた。
苦しんでいると思っていた敵の身体が、ドクンドクンと言う鼓動と共に大きくなり、体中から銀色の長い毛が生え始める。
鼻は伸び、口からは獰猛な牙が。
獣の耳が頭から生え、目は影になっていて見えないはずなのに、ギラリとこちらを睨んでいるのがわかった。
「貴様、フェンリルか」
目の前の光景が姫野川には普通の事の様に冷静だ。
姫野川は今フェンリルと言った。
フェンリルは確か北欧神話の狼の怪物だ。
確かに目の前の敵が変身した姿は狼そのもの。
二足立ちしていることから、人狼と言った所か。
「いかにも!わが名はフェンリル!気高き狼だ!」
叫んだ次の瞬間、フェンリルは姿を消す。
それと同時に周りから金属音がけたたましく鳴り響いた。
おそらく姫野川が相手の攻撃を防いでるんだろう。
「おい!姫野川!どうなってんだ!」
「うるさい!死にたくないなら黙ってて!私も手いっぱいなんだから!」
姫野川も相手の動きは読み切れていないらしい。
俺も目を凝らして集中すると、フェンリルが高速で攻撃しているのが一瞬見える。
おそらく狼に変化した爪で攻撃しているんだろう。
それと一緒に姫野川が見えない武器を構えてるのに気づく。
おそらく槍のようなものを持っているんだろう。
隙を見て攻撃するつもりなのだろうが、この速さで動くものに果たしてそれは可能なのだろうか。
ピキッ
金属音にガラスにひびが入ったような音が混ざりはじめた。
姫野川が盾のような物を展開しているのだとしたら、それが破られようとしているのかもしれない。
「ちっ……やっぱり兵装じゃないと守りが薄いか……」
そう言うと姫野川は目を閉じはじめた。
目で追えないと判断したのだろう。
達人には気配で敵を察知する者がいると言う。
だが姫野川は本当にそんなことができると言うのだろうか。
「そこっ!」
鮮やかに回転し、槍のような物を突く。
今までで一番の激しい金属音が鳴り、同時に激しい火花が散る。
そして数秒ののち金属音は止んだ。
「やったのか?」
「まだだ」
姫野川の視線を追うと、いつの間にか最初に立っていた位置にフェンリルが立っていた。
「所詮その程度か。がっかりだぜ」
返ってくる言葉は無く、姫野川は相手の様子を窺っている。
あまりにも戦闘の次元が違いすぎて俺は見ているだけだ。
俺と君丈でどうにかできると思っていたが、かなり甘い考えだった。
こんな相手に対処できる方が間違っている。
「これで終わりにしてやる。疾風―――」
(戻れ、フェンリル)
また脳内に声が響く。
先程の声の主は目の前にいる。
フェンリルに命令している所を見ると、親玉かもしれない。
「ちっ。命拾いしたな。次は殺す」
そう言い残すと、フェンリルは風と共に消えた。
空気が変わっていくのを感じる。
遠くから雑踏のような物も聞こえ始め、不思議な空間も無くなったようだ。
自然と安堵のため息が二人から出た。
「終わったのか……?」
「今回は……とりあえずと言った所ね」
姫野川の手にはもう武器は握られていない。
そして数秒の沈黙。
お礼を言うべきだろうか。
だが、俺の口は開かなかった。
姫野川も俺に背を向けたまま言葉を喋らない。
声をかけようかと迷っていたが、沈黙を破ったのは姫野川の方だった。
「巻き込んでごめん……」
そのまま立ち去ろうとする姫野川を、俺は引き留めた。
「待て。その……なんだ……さっきはありがとう。正直、姫野川の事はまだ信用しきれてない……でも、俺も部外者じゃないなら昨日の話しの続きを聞かせてくれないか」
口から出たのはそんな言葉だった。
俺には情報が少なすぎる。
怪しい話だとしても、今の俺には聞く価値があると思えた。
先程のフェンリルへの変身、姫野川との攻防、それらは確実に人外の力だ。
俺は知らないといけない。
例えそれが戻れない道だとしても。
「………でも……」
「今日の事を見る限り俺には出来る事は少ないと思う。だけど、何も知らないで守られてるだけにはなりたくない」
「………わかった」
◇◇◇
昨日の公園が近かったため、そこで話す事になった。
俺はベンチに座り、一呼吸置く。
姫野川はすぐに話し始めた。
「改めて最初から話そうか。私はこの町にとある神を探しに来た。名は………【オーディン】。」
「オーディン?また北欧神話か。さっきのフェンリルと何か関係があるのか?」
「関係……ないことはない……と思う……」
「思う?」
「そこの関係性については私も詳しくは知らないの。神って言うのは別に北欧神話の神達の事じゃない。世の中にはいろんな神様がいる。でも、神話にあったような話と同じような出来事を起こす習性みたいのがあるみたい」
習性……逆に言えば使命みたいなものだろうか。
ならばさっきの声は……。
「おそらく今回の敵はロキ。あいつは何かとオーディンにちょっかいをかけてるみたいだから」
「逆を言えば、そのオーディンとやらはこの町にいるって事か」
「……多分」
また歯切れが悪くなる。
姫野川も結構知らないことが多いのだろうか。
それでも俺よりは事情を知っているはずだ。
洗いざらい話してもらわなければならない。
「手掛かりとかあるからこの町に来たんじゃないのか?」
「ううん……その人……オーディンは突然私の前から姿を消した。ずっと待ってたんだけど、一向に帰ってこないから探しに来ただけ」
手がかりが何もなく探しに来た?
一向に話が見えない。
というか真面目に聞いてる自分にも頭が痛くなってくるが、そうも言ってられないのだ。
「この町に来たのは偶然なのか?」
「最初は神の伝承が多いって噂を聞いて。でもこの町に来てから私はここにオーディンがいるって確信してる」
「確信?そもそもお前はそのオーディンの何なんだ」
「私は…………オーディンの眷属よ」
眷属?配下って事か?
じゃああの人間離れした防御や攻撃もその眷属の力って事か?
それなら確かに納得できる。
いや、理解はできないが……。
フェンリルも眷属がどうとか言っていたはずだ。
「この町には神が多い。正確な位置とかはわからないけど、複数の神の気配がある」
「…………その内の一人が縷々だってことか?」
「そう。私が気づいたのは倒れてからだけどね。今の彼女は神として気配を隠す力を失っている。多分……あれは力を封印されてるんだと思う……」
封印されているから謎の昏睡状態って事か?
縷々が神ってのは、にわかには信じがたいが話の筋は通っている気がする。
「じゃあまず縷々の封印を解いてくれよ。お前はオーディンの眷属なんだろ?」
姫野川が縷々の封印を解いてくれれば、少なからず姫野川への警戒はなくなるだろう。
だが話はそう簡単ではないようだった。
「それは……無理……前にも言ったけど、オーディンがいたらそれも可能だと思う。あの人は……色々と規格外だし……。私は眷属であって神じゃないの。さっきのフェンリルや私みたいなのは従属とか眷属って言って、あくまで神の力を借りている人間」
そりゃあ眷属って言うくらいだしな。
できるならもうしててもおかしくはない。
話が本当なら、だが。
「………ならそのオーディンを探すしかないわけか……。だけど……ちょっと待ってくれ……相手の目的は何なんだ?縷々が邪魔なら殺すとかそういう話になるんじゃないのか?」
「私もそこまではわからないわ。でも埜口さんを生かす理由には見当がつく。」
普通なら敵は排除するだろう。
わざわざ封印だけする理由がわからない。
だが姫野川には確信があるらしい。
俺の顔を真剣な目で見つめた。
「埜口縷々は餌なのよ」
「餌?」
「そう。そしてそれは貴方も同じよ、桂木悠真」
フェンリルが最初に釣れたと言っていたことを思い出した。
つまり俺や縷々は何か……いや、オーディンを探す餌、という事か?
「じゃあ相手もオーディンを探してるって事か……」
「………おそらくだけど、それは違うと思う。確信はないし、今言っても私がそれを証明する手段がないから今は教える事ができないけど……。多分ロキの狙いはこの町にいるもう一人の神だと思う」
「もう一人?複数いるって言う他の神か?」
「オーディンと対を成す存在。三神と言ってもいい。オーディン、フレイヤ、トールは惹かれあう習性があるのよ。と言っても私も聞いただけだからこれも詳しくはわからないんだけど……」
オーディンと聞けばその名前にも見当がつく。
北欧神話では有名な名前だ。
確かフレイヤってのは女神だったか。
なら縷々が神ならフレイヤだろう。
つまりフレイヤがいるからトールもこの町にいる可能性が高い。
さらにはオーディンも来ている可能性もある。
という事だろうか?
姫野川にはまだ何かを隠している節があるが、証明する手段がないと言っている以上、姫野川にはわからない部分の話なんだろう。
……というか………。
「姫野川……お前わからないことが多くないか?」
「…………神同士ってそんな頻繁に合うわけじゃないのよ……なんなら、眷属にだってまともにあったのは今回が初めてだし」
よくわからないが、神っていうのは俺の想像しているものとだいぶ違う印象がある。
そもそも縷々が神だとか言われてもピンとこないし。
だが与太話と切り捨てるにはさっきのフェンリルの説明がつかない。
「初めてって言う割にはさっきも動じてなかったじゃねぇか」
苦戦はしていたみたいだが、フェンリルの変身にも動じていなかった。
俺からしたら慣れているように見えたが……。
「そりゃあ冷静に対処する訓練とかもしたからね。とにかく、その三つの神は惹かれあうわけ。ロキもいる以上、この町に三神がそろってる可能性は非常に高いわ」
よくわからないことだらけだ。
わからない。
わからないが。
今は問題把握が先だろう。
全てが終わってから神云々の話は詳しく聞けばいいんだ。
「……じゃあそのトールってのをロキは探してるのか?」
「多分としか言えないけど。オーディンを探しているって話よりは可能性が高い。でも私達はトールよりも先にオーディンを探した方がいい。トールが味方とも限らないから」
「オーディンは信用できる人……神、なんだな?」
「………少なからず私にはね」
俺は姫野川を完全に信用しているわけじゃない。
オーディンを信用に値する神だと信じるという事は姫野川の事も信じるという事だ。
だがここで信用しないと切り捨てては何の意味もない。
縷々の事もあるし、とりあえずは賭けるだけの価値はあるだろう。
「そうか。とりあえず探すのには協力する。縷々の症状が治せるなら俺にも関係があるからな。その後の事はその後決める」
「ありがとう……。」
深く安堵したような声と表情だった。
ひとまず信用は勝ち取れた。
そんな気分だろうか。
だがその緩んだ表情はすぐに真剣な表情に戻った。
「じゃあとりあえず聞いておくことがあるわ。【蒼希優斗】。この名前に聞き覚えは?」
「………ないな。誰なんだ?」
少し考えてみたが特に思い当たる人物はいなかった。
「オーディンよ。オーディンが人として生活する時の名前」
人として生活する……?
縷々みたいなものだろうか……。
だが人の名前があるなら探しやすい。
少しは縷々を助けられる光明が見えてきた。
「じゃあ俺はその名前を探せばいいわけだな」
「そうね。桂木には人の名前での捜索をお願いしたい」
「わかった。………ところでよ……。」
話がひと段落した所で、俺はずっと気になっていた事を話すことにした。
大した話でもないし、今までの姫野川とはこんな話すらできなかったからだ。
「名字で呼ばれるのあんまり慣れてないんだ。俺達はとりあえずは協力関係だし悠真って呼んでくれ」
周りの奴らは皆、下の名前で呼んでいる。
姫野川の事を信頼したわけではない。
だけど、一緒に行動するなら、少しでも信用しようと思うなら。
俺は下の名前で呼んで欲しいのだ。
「………悠真……わかった……。これからよろしく、悠真。私の事もありすって呼んで」
「一時的かもしんねぇが、よろしくなありす」
そうして俺達は握手を交わす。
完全に日は落ち、時間はもう夜になっていた。
まさか握手を交わすことになるとは、昨日の俺では想像がつかなかった事だろう。
こうして、俺達は協力して神オーディンを探すことになった。
今日はもう遅い為、本格的な捜索は明日から。
この事を君丈には……言うべきだろうか……。
巻き込んで君丈が怪我をするくらいなら黙っていた方がいいかもしれない……。
◇◇◇
「おはよう悠真君」
「おはよう、ありす」
昨日とはまた違い、今日の朝は普通に交わす。
下の名前で呼び合ったことで少しクラスにざわめきが起こる。
お互い下の名前と言うのはまずかったかもしれない……。
「おいおい、お前ら毎日ころころ変わりすぎじゃねぇか?」
俺の元にやってきたのは君丈だ。
そりゃあ気になるよな……。
「まぁ……あの後色々あってな……」
「……昨日の話し、忘れたわけじゃねぇよな?」
ありすには聞こえないように耳元で君丈が話しかけてくる。
そりゃあ警戒しろ、関わらない方がいいって言った次の日にこれじゃ心配にもなるだろう。
「わかってる。とりあえずは上辺だけだが仲直りしたんだ。警戒はしてるよ」
「それならいいが……本当に気をつけろよ?俺は今でも反対だからな」
そう言うと君丈は自分の席に戻って行った。
俺が君丈の立場なら俺も同じことを言っただろう。
だが俺は君丈を巻き込みたくない。
本当は全てを話して君丈の協力も得たかったが、君丈にまで被害が及ぶと俺は暴走して何をするかわからない。
その自覚はあった。
横を見るとありすが朝の準備をしている。
その横には座るものがいない席。
(縷々……必ず助けてやるからな……)
「はーい、HR始めますよ~」
いつものように担任が入ってきた。
俺はそこでようやくいつもの光景じゃない物を発見する。
(前の席が空いてる……欠席、じゃないな。移動したって事はまた転校生か?)
一週間に二回も転校生が来ることなんてあるだろうか?
他のクラスならまだしも、うちのクラスに?
「はい、今日も転校生がいますよー!」
俺が一人考えていると、すでに転校生は教室に入ってきていた。
教壇に立っていたのは一人の男子生徒。
背丈は俺より少し高そうだ。
男子の平均くらいだろうか。
「静かに。では自己紹介をしてください」
顔は割と整っている。
皆が振り向くイケメンというわけではないが、好きな人は多そうな顔立ちだ。
だけど何気にこういう奴がさらっと女の子の好感度を上げていくんだよなぁ……。
君丈みたいなスポーツバリバリのイケメンって言うより、言葉巧みに女の子を口説いていく。
………まあまた一人イケメンが増えたと。
「蒼希優斗だ。よろしく」
転校生が自己紹介をした瞬間、隣の席から立ち上がる声が聞こえた。
隣の席は今はありすが使っている。
立ち上がったのはもちろんありすだ。
俺はびっくりして転校生よりありすの方を見た。
だが俺よりも遥かにびっくりしている顔がそこにはあった。
「ぁ……な…………なん……なんで………」
ありすが驚いた表情で口をパクパクとさせていた。
何を驚いているのかわからない。
だが俺もなんだか一瞬引っかかった物があった。
(転校生の名前……最近どこかで聞いたような……)
「よ、ありす」
転校生がありすに声をかける。
それで俺はどこでその名前を聞いたか思い出した。
蒼希優斗。
その名前は昨日ありすから聞いた【オーディン】の名前だった。
一章
三幕【襲撃】
―完―
どうも零楓うらんです。
ありすと和解した悠真、だが事件の真犯人はわからずじまい……。
そんな中現れたのは!?
今回の話しでやっと物語が本筋に進んでいきます。
オーディンの存在がどう影響していくのか……。
それは次回の四幕で!
ではまた次の話しで会いましょう!




