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ヴァルハラの戦神  作者: 零楓うらん
第四章 【夏休み】
20/20

ヴァルハラ外伝2 ロキの企み


神。

神とは、英知を司り万物を創造する者。


「ひとつくださーい」


「300円」


だが、俺様が知っている神と言う存在はそんなものではない。

確かに万物を創造できる神は知っている。

だが、俺様達の事ではない。


「これとこれください」


「500円」


俺様はロキ。

悪名高いトリックスター。

紛れもない神の一人だ。


「ちょっと遼平(りょうへい)!もっと愛想よくしてよ!」


「……へいへい」


そんな神である俺様が現在、何をしているのかと言うと……。


「年に一度のお祭りなんだよ!?ここで稼いで少しでもシスターを助けたいと思わないの!?」


「……助けるねぇ」


俺様は今、山の中にある教会に住んでいる。

その協会は孤児院となっており、複数の子供とシスターが一人いるだけだ。

教会がある山は所謂子捨て山で、捨てられた子供を保護しているのが教会、そしてシスターである。


「別に助けなんて必要としてないだろ」


そんな山の中の孤児院がどうやって生計を立てているかと言うと……。

なんてことはない、今までこの孤児院から出ていった子供達の支援で賄われている。

つまり、ここで稼い所で孤児院の運営が良くも悪くもならないのだ。


「なんでそう言う事言うの!お世話になってる自覚とかないの?」


確かに世話にはなっている。

だが頼んだわけでもない。

俺様は飲まず食わずだろうが生きていける。

それが神である証拠でもあった。


そしてその事をシスターは知っている。

俺を神と知っているのはシスターを含め四人。

横でさっきからあーだこーだとうるさい椿(つばき)もその一人だ。


「むしろ俺様は世話している側だろ」


俺様を神と知って以降、一度は教会を出ていこうとした。

だがそれを止められ、今では有事の際の守りをしてやっているのだ。

そもそもこんな山中に入ってくる不埒な輩などそうそういないがな。


「まあ、大した儲けも出ないのによくもまあ毎年こんなことを思うがな。そこだけは称賛してやってもいい」


今日行われているのは所謂お祭りの一種だ。

山の麓には小さな村がある。

そこで毎年行われるお祭り―と言えるほどの規模でもないが―に俺達は参加していた。

ちょっとした出店を開いているが、来る人も多くない。

下手したら赤字だ。


「またそうやって意地悪言う。遼平なら儲けを出すこともできるでしょ?」


「できるな。だがいいのか?神の力を使って洗脳しろと言っているようなものだぞ?」


「え……それは……駄目だけど」


反論できなくなったようで、黙ってしまう椿。

そもそもこれは儲けを出すための物ではない。

シスター的には子供達に色々な経験をさせるための行事の一つだろう。


「りょうへ~。そろそろ変わるぞ~」


ひょこひょことやってきたのは那覇(なは)だ。

こいつも俺様が神だと知る一人。

身長が低く、女のように可愛らしい顔をしている。

ぱっと見ただけでは女に思うだろう。

だがこいつはれっきとした男だ。


その見た目を自分でもわかっているのか、普段は内気で弱弱しい態度を取っているが、その本性は陰湿と言わざるを得ない。

他の子供と協力し、俺にいじめをしかけてきた張本人だ。

もちろん俺様にそんな物は通用しない。

毎度やり返してやったがな。


そんな那覇も俺が神と知ってからは態度を改めたらしい。

俺様の前では本性を隠さないようになり、最近では俺の事を敬っている感じも見受けられる。

椿と違って格がわかっているようだ。


「ちょっと那覇!仕事中に食べないでよ?」


那覇は出店で買ってきたであろうフランクフルトをもぐもぐと食べている。

そもそもこれは仕事ではない。

ボランティアと言った方が幾分か正確だ。


「いいじゃん別に。あ、椿姉も食べたいの?買ってこようか?」


「っ……い、いらないわよ!!」


内心では食べたいらしい。

ただの嫉妬か。

子供らしくしてればいいものを。


椿は昔からお姉さんぶりたい所がある。

そのせいで損をする事もあるが、本人はそれをよしとしている。

いつだかシスターみたいになりたいとか言っていたから、シスターの影響だろう。


「いぇーい!盛り上がってるー!?」


遠くでは歓声が響いている。

そこには皆の注目を浴びる一人の少女がいた。


「ところで、あいつは何してるんだ?」


見ればわかるのだが、あえてその滑稽な行動が俺の思っている事と一緒か椿に尋ねてみる。

だが答えは俺様の想像した通りだった。


「あいつ?……あぁ葉月(はづき)?……曲芸……かな?」


一体何を目指しているのか。


葉月も俺様を神と知っている一人。

男勝りな行動や発言が目立つが、ボーイッシュと言う程度で収まっている。

那覇と葉月を並べれば性別が混濁しそうだが。


そんな葉月は広場で飛んで跳ねて好き放題している。

その動きは新体操のオリンピック選手かと疑うほどだ。

もちろん本来の葉月にそんな身体能力はない。


俺様達は世間で中学生と言われる年になっていた。

もちろん、中学生でも練習すれば似たような動きは出来る可能性はある。

だが、葉月は普段からそう言った練習をしているわけではもちろんない。


葉月、那覇、椿。

この三人は俺様と眷属契約をしている。

眷属契約すれば常人離れした身体能力が身につくかと言われればそれはNОだ。

どんな契約をするかにもよるが、葉月の能力は俺様、ロキと眷属契約をし、フェンリルの力を手に入れた結果である。


フェンリルは人狼の姿で、強靭な肉体と素早さを手にできる戦闘特化の眷属。

それは普段の身体能力にも反映され、今の葉月の身体能力はそれを利用していると言うわけだ。


「ねぇ遼平。葉月止めなくてもいいの?」


心配そうにするのは椿だ。

俺様の事情も知り、世間常識もある程度学んでいる彼女には、葉月の行動はやりすぎ感があるのだろう。

確かに目立ちすぎるのは問題だ。

だからと言って止めるほどでもない。


「こんな小さい村での祭りで何やったところで問題ないだろ」


結局認知されなければ何も問題はない。

俺様がこんな所で大人しくしているのも、あまり目立って矛盾が発生しすぎると天界の神に目を付けられるからだ。


「でも遼平。動画とか取ってる人もいるよ?さすがにまずいんじゃない?」


はむはむと小さくフランクフルトを齧りながら問いかける那覇。

食べ方まで乙女である。


「どうせ合成とかに思われるのが精一杯だ。多少信じた所で田舎の子は凄いなくらいだろ」


もし仮に世間に広まっても問題はない。

その時は俺様が神の力で多少の心象操作をするだけだ。

人の関心などいつまでも保てない。


「そんな事より貴様ら。俺様の事はロキと呼べと言ってるだろ」


何度も遼平遼平と。

もちろん俺様の名前でもある。

勝手に名付けられた名だがな。

特に不便があるわけでもないので人間の時の名を遼平とはしている。

だが、眷属となったこいつらはロキ様と呼ぶのが普通だろう。


「こんな人前で呼べるわけないでしょ!私達が変な人だと思われちゃうじゃない!!」


別に子供が多少変な呼び名で呼び合っていても誰も気にしない。

そもそも普段から俺様への敬意が足りない。

だからこそロキと呼べと言っているのに。

こいつらときたら。




かくして、俺様達はなんだかんだおちゃらけた毎日を送っていたのだった。











挿絵(By みてみん)

―ヴァルハラの戦神―

外伝 【ロキの企み】











悪名高い俺様だが、普段の生活はごく一般的、いや、侘しい生活をしているといっても過言ではない。

俺様としては不本意ながら、俺様は世間から見たら教会に養われている孤児の一人にすぎないからだ。


教会には大人がシスター一人の為、孤児たち皆で家事もしている。

掃除、洗濯、料理。

シスターを助ける為というのもあるだろうが、この教会の昔からのやり方でもあるのだろう。


もちろん日々の生活は家事だけではない。

勉強もそれなりに行っている。

教えているのはもちろんシスターだ。

シスター一人で子供全員を教えるのは大変だろうが、そんな事は俺様にはどうでもいい事だ。


そんなつまらなくも変わり映えのしない日々で俺様が満足できるわけもない。

度々森に来た奴を驚かしたり、食材をふんだんに使ってフレンチを作ってみたり。

どこからか持ちだしたパソコンを設置してはシスターに怒られるような日々を送っていた。

そもそもシスターもそろそろ俺様の行動に慣れて欲しいものだが、いつまでもお節介をやいて来る。

パソコンに関しては返してこいと言う話で一日中言い合っていたくらいだ。

どこから持ちだしたのかもわからず、次第に諦めてはいたが。


人間風情に何を言われようが気にはしない。

だがこのシスターはどうにも苦手だ。


「ねぇ遼平」


三人が眷属になった時など鳥肌ものだった。

あれが慈愛というものなのだろう。

だが俺様はそういうのが一番嫌いだ。

人間はどこまで行っても醜い。

自己保身に走り、自分可愛さで相手を傷つける。

だからこそ面白く虐めがいがあると言うものだが―――


「…………ねぇってば」


さっきから雑音がうるさいな。

俺様が考え事をしているというのに。

そもそも俺様は遼平なんて名前ではない。

悪名高いトリックスター、ロキ様だぞ。

それなのにこいつらもいつまでも遼平遼平と。


「………………ねぇロキ」


「なんだフェンリル」


俺様をロキと呼ぶのなら反応くらいはしてやろう。

まあ普通なら【ロキ様】と呼ぶのが当たり前だが、こいつは俺様の眷属。

これくらいの粗相は見逃してやろう。


「別に名前で呼んでもよくない?」


「俺様の名前はロキだ。名前を間違える相手に反応してやる気はない」


ひどくめんどくさそうにこちらを見るフェンリルこと葉月。

その瞳の中には可哀想な者を見るような哀愁が見て取れる。

俺を哀れむな。

貴様の毛皮を剥いで絨毯にでもしてやろうか。


「って、そうじゃなくて『なるかみし』って知ってる?」


「なるかみし?」


どこか有名な町なのだろうか。

そもそも俺様が俗世に興味があると思っているのか?

有名だろうとなんだろうと俺様には興味がない。

俺様がいる場所こそが世界の中心なのだから。


「神にるって書いて成神市なるかみし


それだと神成市かみなりしだろ。

めんどくさいので突っ込むことはしないが。


「そのまちがどうした」


人間共の町の事など微塵も興味は湧かないが、そんな事は葉月もわかっているだろう。

という事は何かしら俺様が興味を惹けるものがあるに違いない。


「んっとね。昨日のお祭りで話してる人がいたんだけどさ。その成神市って所が今話題らしいの。なんだっけな……えす……えすえー?とかって言う機械がどうたらって」


期待していたよりだいぶ俗っぽい話だった。

そんな最新の機械ができたのかあるのかは知らんが、そんな程度じゃ俺様の興味は惹かれない。


「それがなんなんだ」


「えぇ!?すごくない!?」


「興味ないな」


葉月は頭がよくない。

俺様が本気で食いつくと思っていたんだろう。


「まあその話もしたかったけど、私がりょうへ……ロキにしたいのはそこじゃなくてさぁ」


「名前の事か」


「そう!」


成神市。


神に成る。


確かに言葉だけ聞けば神に関係ありそうだ。

だがそんな名前珍しくもないだろう。

神とついた地名など人間界にはゴロゴロとしている。

確かに神に成る、なんて大層な名前だが、その場所由来の神話でもあるのだろう。


確かに神と名前がつく地名、その場所の逸話や神話は俺様達神が関わっている事が多い。

というかそのほぼ全てに何かしらの神の存在があったのだろう。

だがそんな物は大昔の話で、今の話ではない。


神と言う地名など関係なくそこら辺に神はいるし、案外普通に生活しているものだ。

二百年くらい遡ればまだ神として名を明かして活動していた奴もいるだろうが、今この現代において神と名乗るような物はほぼ皆無だ。


それ故に地名に神がつく程度の話じゃ微塵も興味が湧かない。


「成神市には神が生まれる街っていう神話があるんだって!ロキも気になるでしょ!」


「気にならん。別にそんな話珍しくもない」


「えぇー--!?もっといい驚いてもいいじゃん!!」


そういえばこいつらはまだ中学生だったな。

自分達が神の関係者という事もあり、その手の話に敏感なんだろう。


「それにロキだってサイボーグとかロボットとか憧れるでしょ!男の子なんだし!」


まるで自分が男の子のような発言をする。

貴様は性別的には女だろうが。


「興味ねぇよ。っていうかなんで機械からサイボーグだのロボットだのって話になるんだ」


「え?そのえすえーとか言うのがそういうのなんだって言ったじゃん」


「言ってねぇよ」


人類の科学もそこまで来たか。

そこは感心してやらんでもないが、どのみち俺様には関係のない事だ。

機械なんぞに頼らなくても俺様には神の力がある。

サイボーグなんかよりもよっぽどすごい事ができるのに何を気にしろと言うのだ。

その点で言えば葉月も俺様の眷属なのだから一緒のはずなのだがな。


「ちぇ~。遼平に話したら連れてってくれるかなって思ったのに」


ただ自分が行きたかっただけらしい。

要するに暇を持て余しているんだろう。




―――――




それから数日。

葉月に言われたからと言うわけでもないが、俺様は成神市の事についてパソコンで情報を集めていた。

サイボーグも神に成ると言う名前に興味があったわけでもない。


成神市。


なぜだかその街を知っている気がする。


軽く調べるくらいならただの暇つぶしだ。

そう思って調べ始めたのだが、意外と面白い結果になった。


SA。

正式名称『System Armor』。

人類の粋を集めた最新科学技術。

成神市だけで試験的に運用しており、町の外では使えないように制限されていると言う。


改造手術を高額で受け、身体の一部を機械化する。

これが葉月の言っていたサイボーグだろう。

専用のチップスロットにSAチップを挿入することでチップの性能毎のシステムを使う事ができる。


筋力増強、多段階アーム、簡易バーナー。


その用途は多岐にわたる。

主な用途は一般的な生活用に留まっているが、一部では改造チップと言うのも流通しているらしい。

政府から出されている危険な改造チップの可能性があるリストの中にはおよそ日常生活に必要なさそうな機能も見かけた。

レーザーやジェット、果てには重力操作。

どういう技術で再現しているのかは謎な物もあるが、レーザーなんか日常生活には絶対に使わないだろう。


そんな使い方を誤れば人もたやすく殺せるような危険な技術が成神市限定とはいえ解放されている。

しかも成神市は何があるわけでもない普通の田舎町だ。

田舎の方が何かあった時に被害が少ないとか、そんな理由も考えられなくはない。

爆発くらいSAを使えば起こせそうだからな。


だが本当にそんな理由だろうか?


俺様が知っている気がしたその町でそんな危険な最新科学技術を試験的に運用?


「違和感を感じるな」


「「じゃあ行こうよ!」」


いつの間にか背後には葉月と那覇がいた。

俺が興味を持ったのを見て俺が行くと言うのをずっと待っていたんだろう。

相当に暇を持て余しているのはわかった。

目がこれでもかと言うくらいキラキラしている。


うぜぇ。


多感な時期と言うのもあるだろうが、ここには刺激が少なすぎる。

教会の暮らしも飽き飽きしているのは俺様も同意だ。





 いつの間にか背後はいごで見ていたらしい葉月と那覇なはは、声をそろえてまで暇を持てあましているらしい。


 俺にう事で刺激的しげきてきな事にれすぎたのだろう。

 もうこの教会での日々はりている。


 まあそこにかんしては俺様も同意どういはするが。


「駄目よ!ここを離れたら誰がシスターと教会を守るのさ!」


俺様的には守ってるつもりはないがな。

ここにいる椿、そしてシスターは一度野盗に襲われている。

その事件こそが俺様とこいつらが神と眷属になった事件のわけだが、その話は今はいいだろう。


椿的には俺様がいる事でここが平和だと考えているに違いない。

確かに俺様はあの事件以降一種の結界を張った。

それはあのような事件がまた起きて俺様の手を煩わされるのがめんどくさかっただけだ。

所謂意識操作の魔法の類だが、教会近辺で悪さをしようとは思えなくなっている。


神であればこんな結界は簡単に打ち消せるが、ド田舎の山中にある教会に誰が注目すると言うのか。

普通は気にも留めないはずだ。

ならば、この場所が脅かされる確率はほぼないと言える。


故に俺がここを離れても何の問題もないわけだ。

それでもずっと教会に滞在していた理由は単に年齢的なものに過ぎない。

今は一人で町を歩いていても不信に思われないような中学生と言う年齢だ。

今時の中学生がどんな生活をしている鎌では興味がないが、俺様の知る限りの知識では現代ならば問題がない。


つまり、もうこの教会に厄介になる理由はない。


「別に守る理由はねぇがその心配はそもそもいらない心配だ。そんな事よりもこの町の事の方がよっぽど重要だろ」


「そんな事って……」


椿はシスターと他の孤児たちの事が気になるのだろう。

だがそんな椿の悲しみに付き合ってやる義理はない。


「じゃあ行くの!?行くんだよ!!」


葉月が前のめり気味に近づいて来る。

俺様は葉月の頭をがしっと掴んで静止して答えた。


「あぁ。この町には何かがある」


暗雲うずまく中心こそが俺様にふさわしい。


やったぁと騒がしい二人。

椿は困った顔になりながらも諦めがついたようだ。

ため息一つついて二人のはしゃぎっぷりを見ていた。


「行くつもりなら早く準備して来い。ここにはもう戻ってこないつもりで用意しろよ」


「はい!このフェンリル、最速さいそくで準備をすすめてまいります!」


そう言うと人間業ではない速さでその場から飛び去る葉月。


「くぅ~~!わくわくしてきた!」


テンションがあがり、若干頬を染め上げる那覇。


「遼平が言うなら大丈夫なのかもしれないけどさ……。どうしても行かないと駄目なの?しかも戻ってこないって……」


戻ってこないという発言に懸念を表す椿。


「逆に聞こうヘルよ。もうすでに用もない教会に残る理由がどこにある」


眷属としてヘルの力を与えられている椿。

死者の国、冥界を束ね、現世から一番離れている存在ともいえる。

そんなヘルがどうしてここまで真面目であろうとするのかがわからない。


俺様の眷属は野蛮な者や非常識な者が眷属になる確率が高い。

自分の姿を改変するくらいだ。

俺様の眷属の素質があるという事はつまりそれに耐えられる人間。

ここまで真面目な考えを持っているやつなど、今までの眷属にはいなかった。


俺様が眷属と認めたからにはこの椿もヘルとしての素質は絶対にあるはずだ。

現にこうやって契約を済ませている。

この時代のヘルとしての素質を持つのは椿で間違いはない。


だがなぜこうも俺様のヘルのイメージとかけ離れている。

むしろヘルの素質を持つ者は陰湿で陰険、周囲を引かせるほどの事をやらかす奴が多い。

俺様の眷属の中では一番周りになじめない性格と言っても過言ではない。


フェンリルになる者は活発で好奇心旺盛。

まさに犬のような性格をしていて従順かつ突進的。

知能は低いが、それ故のカリスマ性を持っているやつもたまにいる。

今の葉月など違和感を感じる隙もないくらいにフェンリルの性格をしている。


ヨルムンガンドだってそうだ。

時代によって性格は陰気だったり陽気だったりは違う。

だがおちゃらけていたり変な所にこだわりがあったり、とにかく変な奴が多い。

那覇も男なのに女のような見た目を使って行動したり、腹黒な所があったり。

ついでに言うとヨルムンガンドは一番ロキに近い雰囲気や性格をしている事が多い。


ヘルだけだ。

ヘルだけが今までの眷属と違う。

いや、違いすぎる。

むしろ俺に反旗を翻す勢いすら感じるほどだ。


「遼平はさ、平和な日常って嫌い?」


唐突に椿はそんな事を言い始めた。

俺からしたら日常など一番遠い存在だ。


「俺様の眷属なのにそんな事もわからないのか?日常よりも非日常。混沌こそが俺様の好むところだ」


「今の生活じゃ満足できないんだね……」


「できないな」


「そっか………」


調子が狂う。

本当に何なんだこいつは。


この時代はバグっているとでもいうのか?

それともこいつだけがおかしいのか?


どちらにせよ異常なことには違いない。

だがそれもまた混沌。


俺様には些細なことだ。







――――――――――――







俺達はイスターに軽く別れを告げ、成神市を目指した。

別れる時もドラマのような一幕があったが、思い出したくもない。

椿がついてこない可能性も考えたが、さすがにそこまで異常ではなかったらしい。

だが不満顔なのはいまだ継続されている。


俺様的に眷属が減るのは痛手だが、そんなに嫌なら無理に突いて来る必要もない。

強制はしていないんだ。

それなのに椿は俺様達に着いて来る決断をした。

やめるように説得はしてきたが、自分が行かないとは一言も発しなかった。


まあ今椿の事を考えても仕方があるまい。

今は成神市だ。


いざ成神市に着くと異常性を肌で感じる。


「そうか………。【成神市】……通りで」


「どしたの遼平?」


「フェンリルよ、何度も言っているだろう。俺様の事はロキと呼べ」


「はいはい」


成神市の異常性。

いや、正確に言えばこれは異常ではない。


長い月日を経て俺様が忘れていただけだ。

この町に神が集まるのは至極普通。

ここは成神市。

そういう場所。

そういう風にできている。


とりあえず俺様は力を使って神の気配を調べた。

すると俺の察知能力では三柱の神がいることがわかる。

だがそれがどの神かまではさすがの俺様ではわからない。

さすがに気配を隠している神を見つけることは無理だ。

結界内ならまだしも、神の気配を駄々漏らしにしている奴なんかがいれば、俺様が速攻で消し炭にしてやる。


本来ならこの町に三柱の神がいるという事すらわからない。

これは完全に俺の力を使った応用技だ。

そして三柱。

三柱と聞けば俺様には縁のある神の可能性が高い。


オーディン、フレイヤ、トール。


三神と呼ばれるこの神達は、俺様と縁が深い。

そしてこの三神は惹かれあう習性がある。

必ず一緒に行動しているわけではないが、三柱の神がいるならその可能性が高い。

そもそも三神は生まれも近くで転生することが多い。

運命力、いや、因果力とでもいうべきか。

そういう因果にある神達なのだ。


それは俺様も例外ではないが。


俺様はこの成神市に留まる事にした。

SAと言うのも気になるが、それよりも三神がいるなら俺にはここに留まる理由がある。

少し調査して大したことが無ければ教会に戻る事も考えていたが、もうその考えは完全に消え去った。


くくく……これは面白くなりそうだ……。




―――――――――――



成神市に滞在して約二年。


衣食住には困らなかった。

そんな物は意識操作の魔法でどうとでもなる。

普通の神であれば有事の時にしか使わないだろうが、俺様には関係ない。

いくらでも魔法を使って食料も住居も人間共から提供してもらう。


葉月と那覇は感心して喜んでいたが、真面目な椿だけは文句を言い続けていた。

だが最終的にはその恩恵に甘んじているのだ。

嫌なら勝手に飢え死にでもしていろ。


そしてこの二年間で俺様は力を最大限使って情報収集をした。

それでもわかった事は少ない。

普通なら少しくらい隙があるもんだ。

だがここにいる神は非常に警戒心が高い。

もしくは力を使わないよっぽどの理由があるんだろう。

だがその真意はどうでもいい。


わかった事は三つある。


一つ目は成神市にいる三柱の神の一人は、オーディンでもトールでもないという点だ。

これは元より予想はしていた。

三柱は一緒に居ることが多い。

だが現在においてはそれが少し崩れている可能性は高い。


二つ目は三柱の一人はフレイヤと言う事。

こいつだけはなぜかちょいちょいと俺の察知に引っかかった。

何か理由があるのかは知らんが、注意散漫なだけの可能性もある。

だがフレイヤがいるなら三柱の一人はトールだろう。


なぜオーディンではないのか?

これは一つ目の理由と繋がるところだ。


オーディンは数百年前から転生をしていない。

理由も手段も知る由はないが、転生をしていないという事は三柱の近くにいない可能性は充分にある。

のちに合流はするだろうが、それはまだのようだ。

今までも三神が合流するのは成人後の事が多い。


この町にフレイヤとおおらくトールがいる。

三神の内二人がわかっているに等しい。

場所がわかっているなら今はむしろオーディンを探すべきだろう。


そして三つ目のわかった事がオーディンの居場所だ。

これは眷属の力も使って探させた。

この情報を得るのに一年近くもかかってしまったが。

だがその価値はある。


しかし俺様が得た情報でもまだ噂話程度だ。

だが俺様には確信がある。

そこにオーディンはいる。




「本当にオーディン居るのかなぁ~」


「あぁ。おそらくな」


長い旅路に飽きたのか、那覇が暇そうに腕を頭に回しながら問いかけて来る。


「ってかさ~。なんで成神市の時はこっちで移動しなかったの?こっちの方が早く着いたじゃん」


前方を注意する必要もない事がわかっているからか、後ろ歩きになって歩き始めた。

前方どころかここには人すらいないのだから警戒心が無くなるのも当然だ。


「最初から冥界を通って移動してたら、貴様らつまらないとかほざいていただろ」


俺達は今冥界にいる。

移動するだけなら冥界ほど都合のいい場所はない。

誰の目に着くこともないからな。


だが冥界は太陽も月もない紫色の空。

自然はあるがどれも薄気味悪い植物。

俺様達には問題がないが見た目も味も悪い毒の果実。

しまいには気持ち悪い冥界の獣だ。

物珍しさと言う意味では確かに興味を引くが、長居したい場所ではないだろう。

俺様ではなくこいつらが。


「ロキにしては気を使ってくれてたのか~。まぁ確かに超絶暇だしな~」


俺様の調教の甲斐あって、三人はロキと呼ぶのに抵抗がなくなってきた。

まあ元から那覇はロキと呼ぶことも少なくなかったが。


「そもそもなんでオーディンって言う人を探さないといけないの?」


二年たっても不満を言い続けている椿。

こいつに至っては抵抗感は薄れたのだろうが名前を呼ばれることがそもそも少なくなった。

それは遼平と言う名前もだ。

まあ俺様が遼平と言う名前では反応しないからだが。


「オーディンに用があるわけではない。奴の神器を奪うためだ」


「はぁ……また盗るのね……」


呆れ半分諦め半分。

文句は言うがもう止める事はしなくなった。

何を言っても無駄だという事がわかったのだろう。


「【じんき】ってなに?」


椿は食いつかなかったが那覇は神器が気になったようだ。


「神が持つ武器だ。武器じゃない時もあるが、その神をその神たらしめるのが神器だ」


「へぇ~。じゃあロキの神器ってどんななの?」


「俺様に神器はない。オーディン、フレイヤ、トールの神器を掛け合わせて初めて俺様の神器は完成する」


三種の神器を合わせるのだ。

その分力は強力だ。

神器一つでも世界を左右できる力を持つ物が多い。

そんな神器を三つ合わせるわけだ。

条件が難しい分俺様にふさわしい威力と効力を発揮する。


その名も【レーヴァテイン】。


火で出来た大剣。

大きさは変える事ができるが、その威力は火を起こし、雷を降らせ、大地を割る。

完成さえすればほぼ全ての神器や神を打倒できるだろう。


「……神器が無いならロキって神様って言えるの?」


那覇の言う通り、本来なら神器のない神など神たりえない。

と言うより、神なのに神器がないと言うのはかなり重大な問題になる。

神でなければ転生もできない。

力も相当に落ちる。

そもそも眷属だって契約はできないだろう。


だが、どこにだって例外はいる。


俺様は正確には神ではない。

どちらかと言うと堕天や神殺しの英雄と呼ばれる存在に近い。

だがそれでも神として存在しているのは他の神と誕生した経緯が違うからだ。

認めたくはないが神としての年齢で言うと俺様はオーディン達の後輩にあたる。

だからと言ってあいつらより弱いという事はないが。


そもそも強い弱いで言えば三人も固有の眷属を作れる時点で俺様の方が上だ。

神器が無かろうと神として数えられていたり、転生ができたり、俺様の特殊性は多岐にわたる。


「俺様は神だ。俺様は俺様だから神と言える」


「ふーん」


こいつらに詳しく説明してやる必要はない。

というか教えても理解しないだろう。

今も興味あるんだかないんだか微妙な反応をするくらいだ。


だがまあ無理もないだろう。

これはただの暇つぶしの会話に過ぎない。

俺達が目指しているのは外国だ。

いくら冥界の方が移動手段が優れていても遠い物は遠い。

しかもオーディンが今いるのは名も知らないような国だった。


普通の飛行機で行けるかも怪しいし、そもそも俺様達だけで飛行機に乗るのも不審がられる可能性はある。

俺様の力を使えば隠蔽することも可能だが、目立つところで使えば天界から目を付けられる可能性もある。

今見つかって使者でも送られ、力が制限されてみろ。

ただでさえ力が育ち切っていないのに何をすることもできなくなる。

それこそ教会に帰るしかない。


その点、冥界での移動は優秀だ。

そもそも冥界内は天界の管轄から外れている。

本来はヘルの固有結界程度の物だったが、だいぶ昔にゼウスによって別世界へと構築されなおしている。

元の関係性からヘルであれば行き来できるが、人も神も基本的に立ち入らないのが冥界だ。


それに冥界は人間界と繋がっているので、冥界内で移動さえしてしまえば人間界のどこへでも実質的に移動可能なのだ。

さらに言えば地球の大きさよりも冥界の広さは小さい。

短い距離で遠くにでも移動できる。


だが遠い物は遠い。


一日二日でつくような物でもない。

空中を移動できればそれも可能かもしれないが、今の俺様には到底無理な話だった。

力が完全に戻れば話は別だが、そもそも俺は飛翔系の能力を持っていない。

天界の神であれば必ず持っているが、俺様は天界などに属する気はないからな。


とにもかくにも。

そんな長い道のりを歩いていれば暇にもなると言うものだ。


「あった!!あったよ目印!!」


先行している葉月が喜びの声を上げる。

似たような景色が続く冥界にもある程度目印はある。

地上の近い所にさえ着いてしまえば後はどうとでもなる。


長い道のりもようやく終わりのようだ。


「ご苦労だフェンリル。ではヘルよ、人間界への通路を作れ」


「はいはい」


もう呆れるのにも疲れたのか素直に冥界門を開く椿。

文句は言うが意外にも命令には素直に従う。

反抗的な態度も俺の眷属らしからぬ性格も、異端児ならぬ異端眷属なのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

もしかしたらツンデレと言う奴なのかもしれない。

まあどうでもいいがな。





―――――





無事に外国にはついた俺達だったが、そこからオーディンの居場所を探すのに三日ほどかかってしまった。

三日で見つかったのだから早いとも言えるが。


オーディンが居たのは村はずれの小屋だ。

うっそうとした森の中、ひっそりと建っている小屋。

おそらくオーディンが作り、村の人間からも距離を取る為にこんな立地にしたのだろう。

だが俺からしたら見つけやすいことこの上ない。

俺様の察知能力は正確な位置はわからないが、さすがに村はずれの方に痕跡があれば探すのに苦労しないと言うものだ。


「よう。久しぶりだね、オーディン」


「………誰だ」


オーディンが小屋を離れた隙を伺い、接触を試みた。

眷属には手を出されたくはない。

力が完全でない以上、リスクは減らしておきたいからな。


「まさかこの僕を忘れたのかい?優秀活天才的なこの僕を」


「あー、その感じはロキか。久しぶりだな」


顔見知りと知って一気に警戒心を解くオーディン。

その余裕、すぐに踏みにじってくれる。


「またラグナロクごっこか?まだ俺達は三人揃ってないぞ」


今までは三人揃ってから接触していた。

それは場所がわかっていなければ下手に手を出しても先手を討たれるからだ。

だが今世は違う。

こちらの方が一歩上だ。


「ふん。すでにこちらで補足済みだ。ならばわざわざ三人が揃うのも待つ必要はない」


今まで俺様の計画が上手く行かなかったのは三人が揃ってからじゃないと行動しずらいという一点のみだ。

一人ずつ対処できるならば当たり前のように一人ずつ対処する。


「お、まじか!さすがロキだなぁ~。で、どこにいるんだ?俺も早く合流しときたいんだよ~」


「言うわけないだろ」


なにさも当然に聞こうとしてるんだ。

やはりこいつと話していると調子が狂う。

転生していれば少しは緊張感もある。

記憶は同じでも中身は違うから実質的に初めてになるからだ。

だがこいつは転生をしていない。

数十年ごとの遊びだと思ってる節がある。


だがいつまでもやられてばかりだと思うなよ。




今回こそは奪わせてもらう。




「いいじぇねぇか。ケチだな~」


「ちっ。いいかオーディン。今回の僕は一味違う。貴様からさっさとグングニルを奪ってレーヴァテインを完成させてもらう」


「じゃあまずは俺を倒さないとだな」


どこまでも軽い調子で戦闘態勢を取る。

手にはすでにグングニルを持っていた。







「我が眷属よ!今だ!!」


掛け声と共に現れるフェンリル、ヨルムンガンド、ヘル。


そこからは壮絶な戦いが始まる。


オーディンは槍を手に一人奮戦した。



どこまでも余裕に俺達を相手取る。





その戦いは実に三時間にも及んだ。















「という夢を見たわけだ。いい夢を見れたか?」


「なっ…………」


戦いなど起こっていない。

周りに眷属の三人が待機しているのは事実だ。

だが飛び出してもいなければそもそもそんな命令すら出していない。

時間にして三十秒。

それが今起こった事だ。


「幻術か」


「その通りだとも。ヨルムンガンドの力を間借りした。俺様が幻術を使うなんて想像していなかっただろう?」


眷属の能力は基本的に主である神の劣化版。

だが俺様の眷属達は違う。

これは俺様の悪い方での特殊性の一つだ。


俺様にはフェンリルの速さも、ヨルムンガンドのような幻術能力も、ヘルのような固有結界や低級眷属の召喚もできない。

だが、真似事だけなら可能なのだ。


しかし、今回使ったのは真似事なんてレベルではない。

本来使えないはずの俺様の眷属の力を完全再現した。

一時的だが眷属の能力を間借りできる。

これも俺様の特殊性。

というより本来眷属が別の能力を持っている事がない為、俺様のというよりも俺様だから、という感じだが。


だがそういう状況であろうと本来能力にない力など発揮できない。

俺様の特殊性の一つ、やろうと思ったらできる天才力、とでも言える力だ。

オーディンを出し抜くために研鑽を重ねた結果ではあるがな。

今世ではなく、今までのロキとしての研鑽だが。


だがこんなものは自慢にもならない。

特に目の前のこいつには。

このオーディンはなんでもありの超人、ならぬ超神。

俺様の事など本当に児戯に等しい。


だからこその油断。

俺は見事に作戦を成功させた。


手にはオーディンの神器、【グングニル】を手にしているのだから。


「グングニルは頂いていく。言っただろう?今回の僕は一味違うって」


「くそっ!待て!」


俺様に駆け寄ろうとしてもすでに遅い。

オーディンの焦る顔ににやけ顔を返し、ヘルからの間借りした能力、影移動で俺様はその場から消える。


オーディンの伸ばした手は空を切る。

移動する瞬間、悔しそうに叫ぶ声が聞こえた。





―――――






「案外オーディンてやつはちょろいんだな」


口を動かさずに那覇は言う。

今俺達はヨルムンガンドの大蛇の姿となった那覇の上にいる。

目的も達成したため、冥界を通って即刻移動していた。

さすがのオーディンでも冥界まではやってこないだろう。

だがすぐ撤退することに越したことはない。

行きでは力を温存していたが、帰りなら速さの方が重要だ。


「まあな」


余裕ぶって答えるが、この中にその余裕を信じる者はいない。

なんせ大蛇の背中の上で俺は横たわっていたからだ。

能力による疲労で指一本動かせないのが今の俺の姿だ。


神器もなく、能力も不完全。

そんな状態で本来できないような眷属の力の間借りだ。

無理をしていないわけがない。

だがあのオーディンを出し抜くには半端なやり方では駄目だ。


それくらいに今のオーディンは脅威。

天界でもさぞ問題視されているに違いない。


そもそも今のオーディンは脅威故に力を制限されているはずだ。

俺も本来の力の時に苦汁を舐めさせられた経験がある。

あの時のオーディンは荒れていたのもあって一瞬であしらわれた。

そんなオーディンを力が制限されている程度で油断できようもない。


今のオーディンをまともに出し抜けるとしたら、英雄の力を持っている神殺しの連中くらいか。

あいつらは神に対する優位性があるからな。

だがそもそも滅多に敵対してくる連中でもない。


「ロキ~この後はどうするのー?」


葉月が俺と同じく寝っ転がりながら質問してくる。

こいつの場合はただ日まで寝そべっているだけだが。


「次はフレイヤの神器を奪う。その為の準備だ」


「準備って?具体的には?」


「そうだな……。まずは不良達の頂点に立つ」


「え、なにそれ……」


困惑するのも無理はない。

だがちゃんとした理由はある。


「不良は裏事情に通じているやつがいるからな。荒事を命じるにもちょうどいい。トールを探す為にフレイヤを襲わせるのにも使える。不良ごときじゃフレイヤの相手にはならんが、隙は作れるからな。隙さえあればフレイヤから神器を奪うのはたやすい」


フレイヤの問題点は神器を使われることだ。

あの神器は有用性が高い。

逃亡に使えるのはもちろん、防御も攻撃にも使える。

攻撃は穴を作れば回避し放題、死角から攻撃するのだって簡単だ。

完全に使いこなせばあれほど優秀な神器もそうないのは間違いない。


「次は一般人を巻き込むんだね………」


真面目な椿は相も変わらず文句を垂れる。

もう考えるのもやめたのか上の空で呟いている。

何かを考えているのか、何も考えていないのか。

本格的にこいつの考えがわからない。


「今更だな。貴様はまだそんな事を言ってるのか」


返すのもめんどくさいが、気まぐれで返答してやる。

すると何故か眉を顰められた。


「……あんまりやりすぎないでよね……」


「別に誰を殺すでもなし。フレイヤの奴が一般人相手に危害を加えるとも思えん。貴様が心配しているような事には微塵もならん」


「………なら、とりあえずいいけど……」


本当に何がしたいんだこいつは。

嫌ならついてこなければいいだろう。

一緒に行動は共にするのに俺様の行動には文句があるわけか。

心底わからん。


「ところでさ、ロキ」


椿の態度に苛立ちを感じている所に、葉月が声をかけて来る。

まあ今はあいつのことなど放っておこう。


「なんだフェンリル」


「さっきのロキさ、俺様じゃなくて僕って言ってたよね?」


「………………」


「あんんで僕だったの?」


「………………」


「ねえロキー?」


「………油断させるための演出だ」


「そうなの?」


「あぁ」


「そうなんだ~♪やっぱりロキって色々考えてるんだね~♪」


「当たり前だろ」


「フレイヤの神器もこの調子でさくっと手に入るといいねぇ~♪」


「そうだな」


……………………………







――――――――――







それから約一か月。

成神市の不良をほぼ取り込むことに成功した。

だが一か月もかかったの誤算だ。

本来ならもっと早く終わる予定だったと言うのに。


「それにしてもSAって色んなことできるんだね~」


不良の一部はSAを使ってきた。

どこからその手術費用を持ってきたのか。

チップをどこから入手したのか。

おそらくはどちらも非合法だろう。

明らかに正規のチップではないものばかりだった。


「SA二つも使ってきた時は焦っちゃった。あいつとんでもない速さのパンチだったし、フェンリルの力でも避けるのが精一杯だったよ」


あいつの名前は確か……轟とか言っていたか。

フェンリルの速さと互角の速度など、身体が持たないはずだ。

そもそもそんな出力が出る時点でやはりおかしい。

改造チップにも色々あるが、あそこまで極端な出力の物は轟のチップしか見ていない。


しかも今の俺様達は完全な力を取り戻しているとは言えないが、それでもオーディンのグングニルを奪ったおかげでかなりの力を出せる。

そのフェンリルの速さと互角だった。

言ってしまえばそれだけの力が出せるようにSAは設計されている。


一般生活を豊かにする為?

あんなのはどう考えても嘘広告だ。

そんな危険な事ができる物が一般生活の為だけなわけがない。


こちらに戻ってきた頃、そもそもそのSAというのに興味があって成神市に来たのを思い出し、少し触ってみたりもした。

簡単なチップを作り、性能試験をする。

チップの制作は知識さえあれば至って簡単。

もちろん人間風情には大変な作業だろうが、俺様には何の苦でもなかった。

だがあれほどに出力を上げることはできなかった。

俺は早々に興味を無くしたが、もう一度調べてみる必要があるかもしれない。


あの轟の持っていたチップは異常すぎた。


ちなみに作ったチップはその辺の奴にくれてやった。

記憶操作もしたため、万が一にも俺が渡したことは気づかないだろう。

どこからか入手した改造チップ。

その程度の認識だろうな。


「ロキ!昨日の不良から報告ほうこく!あの轟って奴!!」


部屋の扉を勢い良く開け、那覇が入ってくる。

噂をすればなんとやらだ。


「俺達みたいな不思議な力を使ってくる女の子と昨日の夕方に戦ったって!」


轟を締め上げたのは昨日の昼過ぎ。

その後すぐに戦ったことになる。

長居していれば見つかっていたわけか。


「オーディンの眷属……案外早かったな」


先日から眷属の気配は察知していた。

勘がいいのかその眷属も不良を倒して回っているらしい。


「俺達の目的がバレてるか……ただの偶然か……。いや、今はそんな事よりも計画変更だ。オーディンに目的がバレている可能性を考えると今すぐに出の動いた方がいい」


今の所オーディンの反応はない。

眷属単独の可能性もあるが、それにしては動きが不信だ。

ならばオーディンが近くにいると考えた方が万が一はないだろう。


「能力を使われたらオーディンより厄介だ。確実に仕留めるぞ」


「ねぇロキ……」


今だに不満顔の椿。

毎度毎度なんだと言うのだ。


「もしその女の子がフレイヤじゃなかったらどうする気……?」


「俺様の力を疑ってるのか」


「別にそうじゃないけど……確実にフレイヤだってわかってからでもいいんじゃないの?そういう作戦だったんでしょ……?」


確かに元々は不良に襲わせ、力を使わせて確証を得るつもりだった。

その作戦を椿に認めさせるために無駄な危害は加えないように不良に命令する事を椿に約束させられたほどだ。

本来はゆっくりと計画を実行する予定だったのだ。

未だにトールの気配は察知できない。

トールをおびき出す為にも計画に性急さを入れたくなかった。


だがオーディンに目的がバレている可能性があるなら話は別だ。

早急に神器を確保しなければ、こちらがまた不利になる。

神器持ち二人と予測のつかないオーディン。

この三人を相手取る余裕は俺様達にはない。


「埜口縷々は確実にフレイヤだ。他の目的があったからまだ計画を実行しなかったに過ぎない。状況は変わったなら計画も変わる」


俺の断言に何を言っても無駄だと諦めたのだろう。

椿は顔を沈めて黙った。

わけのわからないこいつの事は放置だ。

今は即座に行動に移さなければならない。


「作戦内容だが――――」





―――――





埜口縷々。

成神第一高校二年。


普段は同クラスの桂木悠真、新庄君丈と行動を共にすることが多い。

おそらくだがどちらかはトールだろう。

俺様も編入してしばらく捜査した結果、そう確信づけた。

あの三人は幼馴染らしい。

これは年齢的に二年に編入した椿が持ってきた情報だ。


つまり昔から一緒に居るという事。

近くに三神が転生し、惹かれあうならば幼馴染など十中八九三神に違いない。

もしかしたらもう一人も神と言う可能性はある。

トール同様全く尻尾を出さないもう一人の神。

何者なのかは計り知れない。

だが興味があるのはフレイヤとトールのみだ。


「どうもこんにちわ、埜口縷々さん」


放課後の帰り道、埜口縷々は必ず一人になる瞬間がある。

近くに住んでいると言っても家の方角は途中から違う。

それも調査済みだ。


「えっと~………誰かな~?校章を見る限り一年生見たいだけどー……私君と知り合いだったっけ~?」


「えぇ。深い、それはそれは深い知り合いですよ。ねぇフレイヤさん?」


お互いににこにこと腹を探る。

神器を使われれば一瞬で終わってしまう。

これは賭けだ。


「ん~?何の話し~?」


「しらばっくれてもわかってんだ。大人しく神器を渡してもらおうか」


作戦はオーディンの時とさほど変わらない。

俺が幻術を使って敵を油断させる。

だが普通ならばこの作戦は成り立たない。

フレイヤは魔法のプロフェッショナルだ。

幻術が得意でないとしても俺様達の幻術くらいなら容易く見破ってしまう。


だからこそ俺が前に出るリスクを犯した。

幻術は目を見ている状態ならかけやすい。

しかも昏倒させる系の幻術なら特に効果はてきめんだ。

それに加え、俺には一つの仮説がある。


埜口縷々はフレイヤではない。


前提条件が崩れる仮説だが、これで合っている。

神的人格と人的人格の乖離。

これは神の中でたまに起こる現象だ。

人間の中に別人格、または守護霊のような形で転生する。

一種の病気みたいなもんだ。


だがこれは神としての存在を隠すには都合がいい。

どれだけ活動していても、神が表に出て、尚且つ力を使わなければ神の痕跡など残りようがない。

本体は人間でしかないのだから。


逆に言うとこれは慢心も生む。

バレにくいという事は多少の無茶ができる。

フレイヤに見られた注意散漫な気配の露出。

おそらくこれが原因だろう。


だからこそフレイヤの痕跡を辿っても確証が得られなかった。

いくら辿ってもそこには人間の気配しかないのだから。

実際にフレイヤが力を使う所を確認したかったのはこの為だ。


さて、本題に戻ろう。


フレイヤは魔法に特化した神。

だが埜口縷々の中にいるなら話は別だ。

仮に埜口縷々が眷属になっていても所詮ただの人間。

フレイヤよりは格段に幻術がかかりやすいし、かかってしまえばこちらのものだ。

フレイヤが出る前に埜口縷々ごと封印をかける。

そうすれば神器を取り出すのには苦労しないだろう。


問題はその神器、【スキーズブラズニル】だ。

埜口縷々が神器を使えるのか否かで話は変わってくる。

本来は眷属に神器など使えないはずだが、フレイヤの状況は特殊だ。

特殊という事は普通ではない事も可能な可能性がある。


「っっっ!!」


俺様の幻術を受け怯む埜口縷々。

抵抗されている様子から、確実に眷属の力は持っているだろう。

だが作戦は幻術だけではない。

二重三重に罠を張るのは基本だ。


「フェンリル!!」


「はいよ!!」


一瞬できた隙を見逃さない。

俺様に呼ばれたフェンリルは埜口縷々の背後に速攻で降り立つ。

そして手に持っている鉱石を埜口縷々に押し当てた。

時間にして一秒未満の攻防。

目の前の俺に集中していた埜口縷々には背後のフェンリルには対応できないだろう。


「あっ………」


作戦は見事に成功した。

埜口縷々はその場に倒れ、すやすやと寝息を立て始める。


「すげぇな、この魔石ってやつ」


「まあ作るのに何日もかかるうえに一つの魔法、しかも強力な魔法は入れられない。非効率にも程がある代物だがな」


まじまじと石クズになった魔石を見つめるフェンリルと化した葉月。

だがそんな事よりも俺様には気になる事があった。


「それにしてもなんだその口調は」


今までも野性的ではあったが、まだ女の子らしさがあった。

なのになんだ今の男みたいな口調は。


「ん?僕の事?」


「………僕?」


俺様の頬がぴくりと引きつった。


「僕ね、ロキを見習って口調を変える事にしたんだ。僕もロキみたくかっこよくなりたくてね」


口調と正反対に目をキラキラとさせている。

その表情に俺の頬はさらに引きつった。


「悪影響が広がっていく………」


いつの間にか横に立っていた椿は、葉月の様子を見て頭を抱えていた。

一言返してやりたい所だが、これに関してはさすがの俺様も何も言えない。

まさか葉月に自分の行動を考えさせられるとは思ってもみなかった。






―――――






その後、埜口縷々の中、正確にはフレイヤの中から神器、スキーズブラズニルを抜き取った。

そして再度強力な封印をかける。

神器を奪ったとはいえ、フレイヤは厄介だ。

今のフレイヤが魔法で俺を上回る事はないが、使いようはいくらでもある。

それにまだトールの所在が分かっていない。

こいつにはトールをおびき出す餌になってもらうとしよう。


幼馴染の二人の内、どちらかがトールであれば確実に封印を解くだろう。

もう片方が神でそいつが封印を解いてもいい。

力を確認さえできれば何の神かは確認できるうえ、もう片方がトールで確定する。




だが、事はそんなに上手く行かなかった。




病室に運ばれた埜口縷々の元に、桂木悠真も新庄君丈もやってきた。

だがどちらも封印を解くことはしなかったのだ。


まさか……どちらも神ではないと言うのか……?


餌だとわかって警戒している可能性は充分にある。

だが何の反応も見せないのはおかしい。


むしろ俺様は桂木悠真こそがトールだと睨んでいた。

桂木悠真は轟とオーディンの眷属が戦っていた場所にいた。

これは轟の記憶を覗いたから確実だ。

だからこそ正体を見破っていると言う挑発を込めて下駄箱に手紙を残したのだ。


『お前のせいだ。』


桂木悠真がトールだった場合、埜口縷々の被害を見て、自分の正体がバレていると思うはずだ。

そうすれば正体を隠す意味などない。

確実に封印を解いて来るだろう。


オーディンの眷属が転校し、桂木悠真と接触しているならば確実に関係者のはずだ。

だが桂木悠真は悲嘆にくれるのみ。

その後にオーディンの眷属が病室にやって来た事から、関係者なのは疑いようがない。


俺様の考えは間違っていないはずだ。


なのになぜか埜口縷々の封印は解かれない。

桂木悠真はオーディンの眷属共に去ってしまう。

その光景を見張らせていたヨルムンガンドに、二人を追わせることも考えたが、すぐに新庄君丈がやってくる気配がしたのだ。


桂木悠真がトールではないなら確実に新庄君丈がトールだ。

だからこそその場にヨルムンガンドを残らせた。

なのになぜか新庄君丈も封印を解除しない。


何が間違っている……?


なにも間違いなどない。

俺様の予測は正しかったはずだ。

だから俺様は強硬手段に出た。




フェンリルに桂木悠真を襲わせる。




「ねぇ、ロキ!絶対こんなの間違ってるよ!あの人が神じゃなかったら死んじゃうんだよ!」


俺様と椿は魔術研究会の奥の空間に居た。

成神高校に転校した俺達は魔術研究会を勝手に発足し、部屋の中を異空間化した。

部屋の奥にはさらに別の異空間を作り、俺達はここを根城に活動している。

その居住空間内には戦闘の様子を見られるように魔法鏡を設置した。

魔法鏡には今まさにフェンリルが桂木悠真を襲おうとしている所だ。


椿には殺す気でやれと命じてある。

桂木悠真がただの人間であったなら瞬殺されてしまうだろう。

だがそんな事はあり得ない。

桂木悠真は確実に神の関係者だ。


「ロキ!!聞いてるの!?」


椿は状況がわかっていない。

トールが見つからなければやられるのはこちらなのだ。

時機にオーディンはやってくる。

埜口縷々の元に現れなかったことからオーディンが近くにいない事はわかる。

だが眷属がいるのだから確実に奴は来る。

今しかチャンスはない。


それに今更人間一人死んだところでなんだと言うのだ。

そんな事は俺様の知った事ではない。


「喚いてももう止められない。ほら、始まるぞ」


俺様の言葉を聞き、息を飲んで鏡を見る。

結界に捉える事には成功した。

一人で行動するなど、油断もいい所だ。


(貴様には死んでもらう)


フェンリルが念話で桂木悠真に語り掛けた。

その瞬間、椿は顔を伏せたまま部屋から飛び出していく。

そんなに無関係な人間の命が大事だと言うのか。


確かに俺様は昔、椿とシスターの命を救った。

だから椿は勘違いしているのだろう。

俺様は自分以外の事には基本無関心だ。


あの時二人を助けたのは自分の眷属候補だった椿の為だ。

一度はシスターを見殺しにしようともした。

それでも無関係なシスターを助けたのは俺様の活動の為には利点があった事、少なからず今まで俺を養った褒美のようなものだ。

温情と言ってもいい。

なんなら恩義と言い換えても不服だが認めてやろう。

一番の理由はあのシスターが心底気に食わなかっただけだが。


それでも俺にとっては無関係ではない。

じゃあ今目の前で殺されようとしている桂木悠真はどうだ。

俺様にとっては何の関係もない。

自分に関係のない所で人間などいくらでも死んでいる。

結局目の前に人が死ぬのを見たくないだけだろう。

椿はわかってないだけだ。


俺が苛立ちを感じて椿が去った方を見ていた時、状況はすでに動き出していた。

魔法鏡から音がする。

肉が裂かれるような凄惨な音ではない。

金属音に似た魔法の武具同士のぶつかり合いの音。

俺は釣れたと思い、魔法鏡に目を向ける。


だがそこに移っていたのは桂木悠真を庇うオーディンの眷属の姿だった。


「ちっ。余計な事を」


だがオーディンの眷属が助けに来るという事はトールではなくとも関係者であるのは間違いない。

むしろ関係者じゃないならなんだと言うのだ。

だが未だに桂木悠真は力を使う気配はない。

オーディンの眷属が守らなければ桂木悠真の命はもう散っていただろう。


逆を言えば桂木悠真はオーディンの眷属が守らなければいけない存在……?


神であれば守る必要などない。

眷属であっても力を使えば済む話だ。

確かに病室での二人の会話に違和感はあった。

だがここまで関わっていて一般人だと?

そんな事があるのか?


フレイヤの幼馴染でオーディンの眷属と接触している。


それらが全て偶然だとでも?


情報が足りなすぎる。

桂木悠真が仮に一般人なら、新庄君丈の方をマークした方が良いかもしれないな。

フェンリルとオーディンの眷属の攻防は続いている。

オーディンが神器を失っているせいだろう、眷属のあの少女はろくに戦えていない。


考えがまとまらない。

だが少なからず作戦の見直しが必要だ。

すでに結果の見えている戦闘に興味を無くしながらも目を向けていると、不意に神の気配を察知した。

見つけてくれと言わんばかりの駄々洩れの気配。

間違いなくオーディンの物だ。

これは誘われているな。


だが計画も変更せざるを得ない。

オーディンの邪魔が入る事が決まっているなら一つ賭けでもオーディンを追わせてみるか。


「ふっ……いいだろう……。この俺様を挑発するとはな。乗ってやるよ、オーディン。『戻れ、フェンリル』」


必殺の一撃を放とうとして居た瞬間だった。

俺様の言葉を聞いてフェンリルの動きが止まる。


「『フェンリル、近くにオーディンの気配があるはずだ。そのまま奴を追え。可能なら始末しても構わん』」


(わかったよ!)


鏡越しにフェンリルになった葉月の声が聞こえてくる。

オーディンを始末することはまあ無理だろう。

傷の一つでもつけられたならむしろ褒めてやってもいい。


俺の予想した通り、オーディンはフェンリルを挑発するだけして気配を隠した。

これからはオーディンの邪魔も入るのか。

厄介だな。

だがこちらが有利なことに変わりはない。

すでに神器は二つ。

トールが姿を意地でもあらわさないならば尚更。

結託される前にこちらが見つけ出すだけだ。




―――――




オーディンが現れたなら埜口縷々の封印も意味はない。

俺様は封印が破られるのをそのまま放置した。

埜口縷々には封印の際に記憶操作も行っている。

俺の見た目や成神高校に潜伏している事は万が一にもバレないだろう。


那覇にはそのまま病室を見張らせておく。

葉月にはトール探しを命じておいた。

椿は戻っては来たものの、ろくに口を開こうとしない。


オーディン達もトールを探すようだ。

あいつらにも正体を現さないとは徹底している。

新庄君丈はあれから何度かオーディン達と接触している。

だが反応は一向にない。


新庄君丈もトールではないのか……?


ならばトールはどこにいると言うのだ。


慎重なトール。

ならばこちらも慎重に動くしかない。

オーディン達を襲えば尻尾を出すかもしれないとも考えた。

だが桂木悠真の時も動かなかったことを考えると、トールは出てこないだろう。


そして成果がないままに一週間が過ぎた。


状況は唐突に動き始める。


(見つけた!トールだ!やっぱり新庄君丈がトールだった!)


那覇の声が脳内に直接響いた。

病室に潜伏中の那覇から念話があったという事はトールは病室にいるという事だ。

他の神達が揃っている可能性も高い。

俺様は急いで魔法鏡のある部屋に向かう。

その道すがら、嫌な予感がしたので那覇に釘をさしておく。


「ヨルムンガンド!下手に手を出すんじゃないぞ!トールがいるなら作戦を立ててからだ!」


だが嫌な予感は的中してしまう。


(トール一人くらいどうって事ないよ!今ここで全員仕留めてやるから見てて!)


「やめろ!!……くそ。ちっ」


那覇は言う事を聞かなかった。

椿の言ったように悪い影響が広がっている。

悪い意味で俺様に似てきやがった。


どれだけ威勢がよかろうと、ヨルムンガンドの力が強かろうとトールを含めた三神達に勝てるわけがない。

これがそこら辺の適当な神一人ならば今のヨルムンガンドでも勝てただろう。

神器を二つ、身体も高校生となれば大半の力が戻っている。


だが三神は駄目だ。

あいつらは神の中でも力が強い。

その中でもトールは一番の戦闘向きの能力だ。

葉月ならまだしも魔法寄りのヨルムンガンドでは万の一も勝ち目がない。

戦闘だけならヘルの方が分があるくらいだ。

ヨルムンガンドはそもそも戦闘向きの眷属ではない。


思い通りに行かない。


椿と言い、那覇と言い、今世は何かがバグってやがる。


結局那覇はそのまま負けてしまった。


「くそっ!計画が狂った!ヨルムンガンドの力をオーディンなら取り込んでくるはずだ。神器のアドバンテージがあってもあいつに力を渡すのはまずい」


戦闘だけならまだフェンリルとヘルがいる。

俺様と力を合わせれば勝機はあるだろう。

だが相手の力は未知数な所もある。

辛くも勝利なんて俺様は望んでないんだよ。


ヨルムンガンドを失ったという事は、偵察の目を失ったに等しい。

葉月に見張らせる手もあるが、葉月の顔は一度見られている。

あまり近寄らせたくはない。

椿なら問題ないが、今の椿が俺様の言う事を聞くとは思えなかった。


「………仕切り直しだな」




―――――




俺様は態勢をどう整えようか思案する。

明日には魔術研究会からも撤退した方が良いだろう。


だがオーディン達の動きは早かった。


俺様が考えをまとめ、撤退の準備をしている間に魔術研究会に乗り込んできてしまったのだ。

トールが見つかり、ヨルムンガンドの力を奪ったとしても、もう少し慎重に来ると思っていた。

ここはあいつらからしたら敵の本拠地だぞ?

ヨルムンガンドさえ失ってなければこの状況も把握できたと言うのに。


だが乗り込んできてしまったならしょうがない。

幸いにもオーディンとその眷属だけだ。

この二人になら充分勝機はある。

そう思って魔法鏡を見ていたが、もう一人の存在見て俺様は目を見張った。




なぜ桂木悠真がいる……?




やはりあいつはもう一人の神だったのか?

いや、どう考えてもただの人間だ。

オーディンの眷属に守られていた所も目撃したし、ここ一週間の動向を見ていてもあいつはただの人間だと確信を持っていた。

たまたまフレイヤとトールの幼馴染になっただけだ。

それは病室の会話からもわかる事だ。




じゃあ……なぜただの人間がここにいるんだ……?




関わってしまった以上協力するのはわかる。

だが敵の本拠地に弱っているオーディン達と一緒に乗り込んでくるだと?

イカレてるとしか思えない。


「いや……理由はわからないが、これはチャンスだ。この状況を使わない手はない」


三人が乗り込んできたのを理解した瞬間、葉月は即座に結界を展開させた。

よくできた眷属だ。

これでトールやフレイヤには邪魔できないはずだ。


フェンリルの速さなら今のあいつらを翻弄させることくらい余裕だろう。

しかも桂木悠真と言う枷もある。

万が一にも負けることはない。


「ヘル!お前もフェンリルに加勢しろ!オーディンを達を倒せ!」


椿は葉月の一件からヘルになって無感情のまま部屋の隅で佇んでいた。

俺様にはどこにいるのかがわかるが、他の物には攻撃するまで認知することができないだろう。

フェンリルの速さで翻弄し、ヘルの能力で拘束し叩く。

ヘルなら物量で押し切る事も可能だ。

片方さえ止めてしまえばフェンリルがもう片方を打倒することも容易い。

だが椿から返ってきたのは予想外の一言だった。


(…………嫌)


「まずはオーディンに下級眷属を―――。………あ?今嫌って言ったか?」


今の椿が俺の言葉を聞かないことくらいはわかっていた。

だが目の前で仲間の葉月が戦っているのだ。

下手したらやられてしまう可能性だって無くはない。

万が一にも負けないのはヘルが加勢すると思っていたからだ。

嫌々でもなんでもいい。

目の前で葉月が襲われていたなら椿は動く。

そう踏んでいた。


(嫌と言いました。ここ最近のロキには……いえ、遼平にはついて行けない。一度痛い目見たらいいと思う)


俺様はつい頭を抱える。

こんな所で裏切りが発生するとは。

しかもヘルが言う事を聞かないなら俺が加勢に行くこともできない。

ここのゲートを操作できるのはヘルだけだ。

おそらく葉月が倒されたら椿はオーディン達をここまでの道を開けるだろう。

そうなってしまえば俺様一人であいつら全員を相手することになる。


「………ふっ……ははっ………わかった。いいだろう。ならばフェンリル、桂木悠真を人質にとれ。そしてオーディン達を倒せ!」


(わかったよロキ!)


(葉月もどうかしてるよ……遼平のせいだからね)


なんとでも言うと言い。

俺様の提案を断ったのは椿だ。

勝つために手段を選んでいられない。


「さて………不覚にもあいつらと対峙する可能性があるならば……ここでは狭苦しいな。ふさわしい決戦場に作り替えるとするか」


ゲートの権限はヘルにしかないが、異空間の内部だけなら俺様がどうとでもいじる事ができる。

俺様が腕を一振りすると、部屋は広がっていき、岩肌の洞窟へと変わっていく。

中央に玉座付きのピラミッド型の建築物を作る。

王は高き上から愚民を見下ろす者だ。

俺様は玉座に座り、悠然とあいつらを待てばいい。


形勢が不利?

そんな物は知るか。

どんな状況であろうと俺様の威厳を知らしめ、圧倒的に奴らを屠って見せよう。

それが王と言うものだ。


魔法鏡の中では、今まさに桂木悠真を人質に取ったところだった。

フェンリルだけでも勝機はある。

だがただの人間を盾にされればあの二人にはどうすることもできまい。


「玉座が無駄になったかもしれんな。いや、まだトールとフレイヤが残っているか。あいつらならば確実にここまでたどり着くだろう」


さすがに今のフェンリルでもトールには勝てない。

しかも力が弱まっていようとフレイヤの援護があればいくら速くても意味がない。

そもそも速さで言うならトールの方が速いしな。

こんな所で本気を出すとは思えないが、どのみちフェンリルに勝機はないだろう。


「それにしてもあの桂木悠真とか言う人間……見覚えがある気がする……」


最初は何も感じていなかった。

だが何度も顔を見る度に、どこかで見た顔な気がしてきたのだ。

その疑問はまさに今解消されようとしていた。


桂木悠真が何か秘策をだそうとして吠える。

自分の命が狙われていると言うのに抵抗する気らしい。

ただの裏拳程度、フェンリルに当たっても微塵もダメージはないだろう。


だが桂木悠真の裏拳の速度は人間業ではなかった。

確実にSAだろう。

そこまでは予想の範疇だった。

だが明らかに改造チップ。

しかもあのチップは……。


フェンリルは桂木悠真の攻撃を避ける。

本能的に避けてしまったのだろう。

多少ダメージはあっても重症にはならなかったはずだ。

それがわかっても本能的に行動してしまう時がある。

特にフェンリルのような野生の勘を持つ物には脅威だと知覚すればその行動も顕著に表れる。


そしてフェンリルに生まれる隙。

もちろんそこを見逃すオーディンではない。

グングニルにある力の奪取は神器固有の物ではない。

オーディンの固有能力の内だ。

神器ほどの威力はなくとも、模倣されたグングニルで今のフェンリルを戦闘不能にはできる。

だがそんな事はもうどうでもよくなっていた。


「SA……SAか………。くくく………。これは何の因果だ……桂木悠真があのチップを……くくくく………」


出力が普通の比ではないSAチップ。

俺様はあのチップをよく知っていた。

轟のチップほどの出力はない。

だが限界まで出力をあげているあのチップを……。


「くくっ……くはっ……くははははははっっ!!面白い!!面白いぞ人間!!僕の事をこけにしてくれる!!オーディンも!桂木とか言う人間も!!俺様が一人残らず消し去ってくれる!!!」





そして俺様はオーディン達と戦い、無様にも負けることになったのだ。











◇◇◇











「―――キ。………ロキってば」


「……ん……なんだ、ヘルか」


俺様は夢を見ていたらしい。

あの忌まわしき夢を。


今世の俺様の全てを変えていったオーディンと人間の夢。


あれから実に一か月が立とうとしていた。

あの後、俺様は天界に連れていかれ、力を制限された。

しかもそれを見計らったように神殺しの襲撃。

さらにそれをあの人間如きに助けられると言う痴態まで晒す羽目になる。

当然感謝などしていない。


だが椿にはしこたま文句を言われた。

ほら見た事か、と。

お礼をしろと散々言われたが無視している。

仮にあの場で俺様が死んでも次の時代に転生するだけだ。

オーディンに負けた時から今世には未練はなかった。


「そういえばずっと気になってたんだけど」


俺がやられてスカッとしたのか、椿は不満顔ではなくなっていた。

前よりも不満を垂れる用にはなったが、前のような覇気のない感じではない。

俺が言う事を聞かないとわかっていても本気で怒鳴りつけてくるようになった。

しまいには俺様にげんこつまで飛ばしてくる。

なんなんだこいつは本当に。


「なんであの時悠真君の攻撃、防がなかったの?」


「………あ?」


まるで今見ていた夢を見ていたようなタイミングだ。

……いや、見ていたんだろうな。

ヘルの力を使えば夢くらい覗くのは簡単だ。

趣味が悪い。

あれだけ人の嫌がる事をしたがらなかった椿がこれか。

いや、俺様にならいいと考えたのだろうか。


「忌々しい事を聞くな。あれは避けられなかったんだ」


「嘘言わないでよ。私、これでも遼平の眷属なんだからロキとしての実力くらい知ってるんだからね」


「………ふん」


確かに椿の言う通りだ。

俺様はあの程度の魔法の矢くらい避ける事も防御することもできる。


それが必中距離だったとしても。


だがあの瞬間。

火の矢の奥。

矢を放った桂木悠真を見た時。

俺様は予感がした。

いや、本当に視たのだろう。


【桂木悠真と言う存在を】


あの場に似つかわしくない人間。

普通に考えればおかしい。

いや、おかしい所の話ではない。

何の運命か、あのSAチップ渡した桂木悠真が。

俺様との戦の決定打を放つ。


これを因果と言わず何と言おう。


その瞬間に理解した。

桂木悠真はあの場所にいる必要があった。

居なければならなかったのだ。

そして俺が視た予想通りにこの一か月で桂木悠真の環境は目まぐるしく変わった。


俺様を助ける為にSAを介して神の力を使い。

起こるはずのない半神化、いや、神堕ちをし。

末にはオーディンとなってしまった。

今後もあの存在は俺様を楽しませてくれるに違いない。


あの元オーディンも俺の視た物と同じものを感じ取ったんだろう。

だからこそ力を譲渡した。

そうでなければあの元オーディンが自分の力を手放すわけがない。

これがあいつの因果の終着点と言うわけか。

なぜならあの桂木悠真は………――――――――


「……まあなんでもいいだろ。野暮なことを聞くな。俺様はあの戦闘で負けたんだ」


「…………そう。ならそういうことにしといてあげる」


椿は沸き上がったポットから二つのカップにお湯を注いだ。

その内片方を俺様の机に置く。


………なぜこうも熱い中、ホットの緑茶なんだ……。


一瞬嫌がらせかと思ったが、椿は平然と飲んでいる。

なんなんだ本当に。


「遼平!いるか!?いるよな!お前暇そうだもんな!!」


勢いよく扉を開け、開口一番叫び始める。

俺様はその存在に不愉快極まりない気分になった。

入ってきたのは俺を敗北たらしめた元オーディン。

いや、もはやこいつはオーディンもどきだな。


「何しに来た。即刻帰れ」


「まあまあ。そんなピりついてると肌に悪いぜ~?そう言えばここソファとかないな。なぁ遼平!ソファ置こうぜソファ!」


「ちっ」


いつまでも騒ぎそうな雰囲気を感じて俺様は開いているスペースにソファを出現させた。

魔術研究会は俺様の結界内だ。

家具を出すくらいはわけない。

だがオーディンもどきの思うがままになってしまう事だけが不愉快だ。


「やっぱお前優しいよな♪」


「これからいなくなる奴へのせめてものはなむけだ。それ以上の意味はねぇ」


「そうかそうか♪それならありがたく♪」


オーディンもどきはソファに座って座り心地を確かめている。

いいソファだと絶賛しているが、俺様が出したソファなんだから当たり前だろ。

ソファにはしゃいでる間に椿はもう一つカップにお湯を注いでいた。


「お茶どうぞ」


淹れたてのホットな緑茶が手渡される。

笑顔で受け取ったオーディンもどきだったが、受け取った後に俺様と同じような顔になっていた。


「で、何しに来たんだ。そろそろ本題を話せ」


「まあまあ。それは皆来てからな」


「ちっ。ここはてめぇらの集会所じゃねぇんだよ。ろくでもない要件だったら追い出すからな」


「いいじゃねぇか。お前も思う所があるなら仲良くしとけよ。きっと楽しい毎日になるぜ?」


全てを見透かしたような笑顔に、心底腹が立った。

どこまでもいけすかない。


そもそもこいつは俺並みに何でもありの野郎だ。

むしろオーディンがそういう存在だからこそ俺様も反則急な能力を持っているわけだが。

その中でもこいつは異質と言わざるを得ない。

底が見えない。


出来るならこいつの全力を俺様の全力をぶつけてみたかった。

お互い力が制限されていようといくらでもやりようはあった。

もう少し長く留まっていれば完成した【あれ】を試せたものを。

こればかりは残念でならない。

まああれについては現オーディンで試させてもらうか。


そうこう考えている内に次々と人が揃っていった。

そしてオーディンが発言したのは夏休みを満喫しよう!だ。

心底どうでもよくて追い出そうかと考えたが、後ろでゴロゴロしていた俺様の眷属達がうきうきしている。

断れば絶対に面倒くさい事になる。


しょうがねぇな………。

今回はオーディンもどきの思惑に乗っかってやるか。




だがそれを後悔するほどにオーディンもどきに遊ばれることになったのだが、その話はまあいいだろう。

その後に情けない姿も見れたしな。








「くひひ………せいぜい面白い物をこれからも見せてくれよ。桂木悠真」








 ヴァルハラ外伝 ロキの企み

 ―完―




どうも零楓うらんです。

ヴァルハラ外伝2 ロキの企み、いかがでしたでしょうか。

外伝1を読んだ方には少し冷たく映ったでしょうか?

それともロキの事をさらに知れてロキを好きになってくれたでしょうか?

ロキ達の事を知ってくれたのなら、筆者としてはどちらでも嬉しい限りです。


次からは五章開幕!

蒼の運命はいかに!!

次の外伝はありすと蒼の過去話になる予定です。

二人の過去がついに明らかに!?

こうご期待!

それでは次のお話でまた会いましょう。

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