三幕【肝試し編】
【前回のあらすじ】
縷々の提案で幼馴染三人とお祭りに行く悠真達。
昔のように楽しむ中、変わったものと変わらないものに思いをふける。
綺麗な花火を見て、楽しいお祭りの時間は過ぎていくのだった。
お祭りを楽しんだ翌日。
俺の元には蒼から一通のメールが届いていた。
「夜11時、成神高校の校門前に集合!」
メールの文面はそれだけで、正直無視しようか少し迷った。
しかし、また蒼が俺達の事を考えて何かを催そうとしているなら、それは不義理な事ではないだろうか。
そう思って俺は行くことには決めたものの、夜11時に出るには家族の目を盗まなければならない。
縷々に連絡を取り、スキーズブラズニルで迎えに来るように頼むと、縷々にも蒼からの招待が来ていたようで、あっさりと承諾してくれた。
―――――
「悠真君連れてきたよ~」
「縷々ちゃんご苦労様!よし、これで全員揃ったな」
校門前にはどや顔の蒼。
そして傍らに呆れ顔のありすだ。
「それで?今日は何するの?……って聞くのもアホらしいけど」
「わかってるならわざわざ聞くんじゃねぇよ~♪」
蒼はかなりうきうき顔だ。
夜の学校ときて真っ先に思いつくことはある。
俺もメールが来た時点で想像はついていた。
「どうせ肝試しでしょ」
さらに呆れた顔になるありすに対し、蒼の顔は一層と輝いた。
「大正解!やっぱ夏と言えば肝試しだろ!」
そんなに肝試しがしたかったのだろうか。
夏に怪談系は確かに定番だ。
だからと言って夜の学校に来たくらいじゃ特に何が起こるわけでもない。
きっとその辺は蒼が何かを画策してるのだろうけど……。
「じゃあ早速このクジを引いてくれ」
「四人でチーム分けか?3人と1人とかじゃないだろうな」
「そんなわけないだろ~。ちゃんと二人チームだ!」
すでに楽しそうな蒼の手から俺は一本の棒を引いた。
棒の先は赤く塗られている。
「悠真が赤、ありすも赤か。じゃあ俺は縷々ちゃんがコンビだな」
「あれ?優斗も参加するの?てっきり驚かす側かと思ってたけど」
俺も蒼は驚かす側だと思っていた。
なら幽霊役はいないという事か?
何かトラップ的な物を設置しているなら自分で把握している物を怖がるわけもない。
という事は……。
俺は校内で何が起こるかなんとなく想像できたが、変に詮索するのも野暮だろうと思ってこれ以上考えるのをやめた。
「もちろん俺も参加するぜ。本当は君丈も誘ったんだがな。断られちまった」
君丈が参加しない理由はよく知っている。
部活の事もあるだろうが、君丈はこういった肝試しやお化け屋敷にはあまり参加しない。
場所が学校ではなく、心霊スポットなら話は違っただろうけど。
後は噂や怪談話が好きな君丈なら、百物語とかなら参加したかもしれない。
「それで蒼君~、私達はどこに向かえばいいの~?」
「よくぞ聞いてくれた。俺達は魔術研究会をを目指す。最初は悠真とありすのコンビだ。俺と縷々ちゃんは10分後くらいに出ようか」
「は~い!」
君丈と違い、縷々はこういうイベントが大好きだ。
むしろ縷々のせいで君丈は参加しなくなった、とも言えるのだが……。
「それじゃあ行きましょ。何が待ってるかは大体想像つくけど」
ありすも大体の予想は出来ているようだ。
それでも蒼の遊びに付き合うのは関係が長いからなのか、それとも蒼が俺達の事を気遣ってくれていると言うのを考えての事か。
………いや、蒼がただ肝試しをしたかっただけなのは明白だし、前者かな……。
―ヴァルハラの戦神―
四章 三幕【肝試し編】
校内に入ると、一瞬で空気がひんやりとしたものに変わった。
なんだかおどろおどろしい雰囲気まで感じる。
「なんかいつもと違うな。これが夜の校舎か」
思っていたよりも怖い雰囲気だ。
よく知っている学校と言っても油断はできないかもしれない。
「夜の学校だからってわけじゃないわよ。これは結界張ってるだけ」
見た目があまりにも変わっていないので気づかなかった。
確かに言われてみれば結界の中にいるような感覚がある。
「でもなんで結界なんて」
「そりゃあ一般人に見られないようにするため……と、仕掛けの為でしょうね」
何かしらの仕掛けがあるのはすでにわかっていた。
かといって結界内となると普通に魔術研究会にもたどり着けないだろう。
魔術研究会に行くだけとかなんて簡単な肝試しだと思ったが、驚かしてくるだけではないらしい。
「それにしてもありすはこういうの怖くないのか?」
「逆に聞くけど、怖がるように思う?」
そう言って先頭を歩き始めるありす。
俺も特段怖いという事はない。
これでは企画崩れもいいとこではないだろうか。
だが蒼はありすの事もわかっているだろうし、ちょっとした仕掛けではないだろう。
と言うか……むしろ心配なのは蒼達の方だな……。
だって縷々は――
「ん?なんか冷たいものが……」
考え事をして歩いていると、突然足に何かが当たる感覚があった。
足元を見ると、そこには半透明の手が俺の足をがっしりと掴んでいる。
「んぎゃっ!」
あまりに唐突だったので変な声が出てしまう。
廊下から生えているその手は明らかに幽霊の手だ。
不気味に発行し、俺が驚くと同時に手を放してスゥっと消えていく。
「あはは!ビビってるの?こんな子供騙しに引っかかるなんて悠真もまだまだね~」
羞恥で顔が真っ赤になるとはこの事だ。
特に驚くこともないと思っていたが、不意に来たせいで驚いてしまった。
またありすに笑われないためにも少し気を引き締めないとな。
「そんなんじゃこの先が心配だわ~。って、つめた。まさか上からこんにゃくとか言うんじゃ……」
次はありすに異変があったようだ。
ありすはよそ見していた顔を前に向けると……。
「シャー」
「へみぃ!?」
目の前にいたのは上から伸びてきた蛇だった。
「あっはっは!へみぃって!さすがにへみぃはないだろう~」
「くっ……うるさいわね……さすがに蛇が目の前にいるとは思わなかったのよ……」
俺が笑っている間に蛇はいつの間にか消えていた。
想像はしていたが、これでほぼ確定だ。
「まぁ……予想はしてたけど、当たったみたいね」
「お化け役はロキ達だな」
幽霊はヘル、蛇はヨルムンガンドの能力だろう。
魔術研究会がゴールの時点でほぼ確定はしていたが、ロキが参加することが想像つかなかった。
まあ少なからずロキの眷属達はノリノリのご様子だ。
だが改めて思うのは、この状況下でのロキ達が持つポテンシャルは恐ろしい。
そもそもロキの眷属はありすや俺と違って兵装を使わない。
その代わりそれぞれに変身能力と固有スキルが与えられている。
これは蒼から聞いた話だが、その固有能力はちょっとした神なら超えてしまうような強力な能力だと言う。
まあ、その強力な能力がこんなお遊びに使われていると思えば少し虚しくもなるが……。
「とりあえず慎重に進みましょう。ロキ達の結界内なら何が起きてもおかしくはないし」
「そうだな。お互い恥はかきたくないしな」
―――――
だがその決意とは裏腹に、大量の亡霊や幻術を使った仕掛けでその後も結構驚かされた。
何かされるのがわかっていても、普通のお化け屋敷とは違ってかなり怖い。
最初はそこまで楽しめないのではないかと思っていたが、案外楽しむことはできた。
ありすも同じようで、次第に二人の顔は笑顔が出始める。
これが蒼の作戦なのだとしたら、さすがとしか言いようがない。
「さーて、次は何が出てくるのかしら!」
「ノリノリだな。また驚いて変な声出しても知らないぞ」
「それは悠真もでしょ?それに、ちょっとゴーストバスターみたいで楽しくなってきたのよ」
「ゴーストバスターと言うより化物退治だけどな」
軽く笑いあう二人。
そんな二人の後ろから、大きな物音が突然なり始める。
俺とありすは音を聞いて振り向くと、そこには一体の骸骨がいた。
「骸骨……?でもちょっと遠くない?」
「仕掛けミスか?」
骸骨がいるのは俺達のはるか後方。
廊下が結界の影響で長くなっているため、ちゃんとした距離はわからないが、10メートルくらいは離れていそうだ。
特に何かをしてくる様子もなく、少しの間眺めていると、骸骨は唐突に姿勢を変え始めた。
「なにあれ。クラウチング……?」
「骸骨が追っかけて来るってか?でもそれくらいなら今更何も怖くは―――」
俺が言い終わる前の事だった。
骸骨はクラウチングスタートを決め、風のごとく迫ってくる。
「はやっ!?」
「ちょ、ちょっと悠真!!早く逃げるわよ!!」
俺達は必死に走った。
異常なものに異常な速度に追われると言うのはわかっていても怖いもので、二人して死に物狂いで骸骨から逃げる。
それこそ上に下に、右に左にと。
階段も分岐する廊下も、どうやって逃げても全速力で追っかけてくる骸骨。
さすがに全速力で逃げるのは体力がもたない。
「あれ、いつまで追ってくるのよー!!」
「しらねぇよ!!いっそのこと迎え撃つか!?」
「んー……そうね!そうしましょう!」
二人は一斉に後ろを振り返った。
だが、そこには骸骨の姿はなく、先ほどまで聞こえていた骸骨のカタカタと言った走る音すらも聞こえない。
「………どこいったの?」
「………さあな」
「はぁ……無駄に疲れたわね……」
その場に座り込むありす。
俺も壁を背に座る事にした。
「さっきのはフェンリルね……」
「だろうな……。まさか骸骨の姿で、しかも全速力で追ってくるなんて思わなかったが……」
「骸骨に全力で追われるのって案外怖いものなのね……」
「そうだな……」
息を整えるために俺達は少し話す事にした。
だが、話している途中で急に大きな悲鳴を聞くことになる。
「ぎゃああああああああああああああああ!!!」
聞こえてきたのは蒼の悲鳴だ。
「優斗の奴、驚いて悲鳴まで上げてるし。いい気味ね。そんな悲鳴を上げるほどじゃないでしょうに」
「……いや……多分あれは縷々のせいだ……」
「え?縷々ちゃんがどうかしたの?」
縷々と俺と君丈は、昔は肝試しもよく行っていた。
夜の学校や、墓地なんかも行ったもんだ。
そしてそこに君丈がお化け屋敷などに行かなくなった理由がある。
「縷々は昔から自分で驚かしに来るんだよ。いきなり消えたと思ったら変な所から現れたりするし。縷々といると必ずと言って心霊現象も起きてたしな」
「それって……フレイヤの神器を使ってたって事?」
「今思えばそうだったんだろうな」
縷々に憑いている神、フレイヤの神器、スキーズブラズニル。
どこにでもワープできる、まさに神器と呼ぶにふさわしい神器だ。
だが、聞いたところによると、スキーズブラズニルは移動できることが本質ではないらしい。
時空を切り取り繋げる、つまりは手や頭なんかも切り取って別の場所に出すことができるらしい。
昔の心霊現象は縷々がスキーズブラズニルを使ったトリックだったんだろう。
おそらくは今頃蒼も……。
そう思うと気の毒だが、蒼が主催だし。
一番楽しみにしていたので本望だろう。
君丈がお化け屋敷などをつまらないと思うようになったのも、俺の肝がある程度座ったのも縷々のせいだ。
作り物や少し驚かしに来る程度など、縷々の驚かしに比べれば何も怖くない。
ちなみに縷々は幽霊などを怖がったりは微塵もしない。
なんなら昔行った心霊スポットで、ガチの幽霊らしきものと出会ったこともあるのだが、縷々は怖がるどころか友達になろうとまでしていた。
……やめよう……思い出したら寒気がしてきた……。
「あ……」
俺が昔の事を思い出していると、ありすが間抜けな声を出した。
「そんな間抜けな声出してどうしたんだよ」
「上見て」
また何かが来たのかと思い、少し覚悟して上を見たのだが、そこには何の変哲もない教室のネームプレートがあるだけだ。
だが、よく見てみると……。
「あ……」
次に間抜けな声を出したのは俺の方だ。
そこに書いてあったのは『技術準備室』の文字。
その場所は、今は使われなくなった学校の歴史などを収めた資料があると言われている学校の端にある小さな資料室の名前だ。
俺達が最近よく立ち寄る部屋。
『魔術研究会』の部室だった。
走り回っている内に目的地に辿り着いていたらしい。
だからフェンリルは追いかけるのをやめたのか。
「……入ろっか」
「……そうだな」
立ち上がり、俺達は教室の扉を開けた。
開けた瞬間にも何かあるかとも思ったが、中にはよく見慣れたロキが部屋の中央でいつものように椅子にふんぞり返っている。
「ゴールおめでとう」
やる気のない声で祝福の言葉が贈られる。
手元には「ゴールおめでとう!」と書かれた紙を持っていた。
おそらく蒼が用意した物だろう。
「さっさと受け取れ」
そっけなく渡される紙を受け取ると、ロキは不機嫌そうな顔を浮かべる。
「ありがとよ。それなりに楽しかったぞ」
「そりゃよかったな。ほら、締めの握手だ」
そういって右手を差し出すロキ。
今までの仕掛けより今のロキの行動の方がよっぽど不気味だ。
「……いきなりなんだよ……らしくないな」
「俺様だって握手なんかしたかねぇ。くそオーディンもどきが結界の解除を俺様との握手に設定しやがったんだ。わかったらさっさとしろ」
「びっくりしたぞ……それにしてもそんな事もできるんだな」
俺は素直に感心し、何の疑いもなくロキの手を握った。
蒼的にはロキとも仲良くしてほしいのかもしれない。
ロキを許す気にはなれないが、これから長い付き合いになるかもしれない事を考えると、少しは友好的にしといてもいいだろう。
「……ロキ、なんかお前手汗すごくないか、おわぁ!?」
ロキの手を握るとなぜかロキの手はひんやりしていて、水っぽい。
手元を見るとロキの手が溶け始め、次第にロキの身体も溶けていった。
「くっくっく……間抜けめ。今日は貴様の間抜け面を見れたからよしとしよう」
いつの間にか部屋の隅に立っているロキが意地悪く笑う。
仲良くしていこうと思っていた俺の気持ちを返してほしい。
「握手で気づきなよ」
ありすはわかっていたようで、呆れた目でこちらを見ていた。
「くそ……最後までやられた……」
ロキにもありすにも馬鹿にされ、俺が悔しい気持ちを味わっていると、教室の扉が静かに開いた。
そこには縷々が一人で立っている。
「ついた~!さすがに一番のりじゃなかったか~。ちょっと残念」
縷々はにこにこ笑顔で教室の中まで入ってくる。
そこに蒼の姿はない。
「縷々……蒼は?まさか置いてきたのか?」
「さすがにそんな事しないよ~。ほら、ここにいるよ~」
縷々が振り返り、教室の扉の方を見ると、ふよふよと浮かされた蒼がゆっくりと入ってきた。
蒼は気絶しているようで、魔法を使って運んできたのだろう。
「ちょっと驚かしたら気絶しちゃってさ~。悠真君より度胸ないんだよ~?まあ久しぶりに新鮮な驚き顔が見れたけど♪」
縷々恐ろしい子。
よく見ていると縷々の頬や蒼の服に赤い物がついているのが見える。
………トマトジュースか?
いや……縷々なら血糊くらい平然と用意しそうだ……。
最初のくじ引きの時にこの結果は見えていた。
蒼的には縷々を驚かしてへらへら笑う予定だっただろうが、蒼を気絶させた本人は屈託ない愉悦の笑みを浮かべていた。
その後、気絶している蒼に、ロキと縷々が散々いたずらをし、愉しんだロキは魔術研究会の奥の空間に去っていった。
ロキ達は未だに魔術研究会から繋がる異次元の空間で寝泊まりしているらしい。
俺とありすも、縷々によってスキーズブラズニルで家に帰る。
驚かされ、しまいには走り回り、なんだかんだ楽しかった肝試しだった。
こうして蒼によって企画された肝試しは幕を下ろした。
今日はぐっすりと眠れそうだ。
◇◇◇
「急に呼び出してどうしたんだよ」
俺は蒼にまた呼び出されている。
また夏休み満喫計画の話かと思ったが、今日は真面目な雰囲気だ。
「まあ座れよ」
そう言って蒼が手招いた場所は公園のベンチだ。
「自分の家みたいに言うなよ。普通に公園のベンチだからな」
「細かい事は気にするなって」
真面目な雰囲気を漂わせてはいるが、あくまで顔は笑顔だ。
俺は大人しくベンチに座った。
男子高校生が二人で公園のベンチに座っているこの光景は、青春と呼ぶのだろうか。
普通の高校生なら青春だったかもしれないな。
「それで?話って何なんだよ。今日は遊びの話じゃないんだろ?」
「……お前も神らしく察しがよくなってきたな」
「これが神らしいと言われるとなんとも言えない気持ちになるのが今の俺の素直な感想だけどな」
「……そうだな……」
「……なんだよ今日は。やけにしおらしいじゃねぇか」
最近ははしゃいでいる蒼しか見ていなかったせいだろうか。
今日の蒼は笑顔の裏に哀愁のような物を感じる。
何かあったのだろうか。
「まあ……その……なんだ……今までごめんな」
「ごめんって……今更なんだよ。別に蒼が謝る必要はないだろ。俺が首突っ込んだのが悪いんだ」
「そうだな……。悠真からしたらそうだろうな……。でもこれは俺の責任なんだ。後悔しても起っちまったことは変えられない。俺のけじめ的な謝罪だ。重く捉えなくてもいいさ」
「別に蒼の責任ってわけでも……。まあ蒼がそう言うならとりあえず気にしないでおくけど……」
むしろ蒼は俺を助けてくれたくらいだ。
感謝こそすれど、謝られる筋合いはない。
「ま、大変なのはこれからだけどな。悠真には悪いとは思ってはいるが、オーディンになっちまった以上オーディンの仕事はしてもらわないといけない。って言っても現代において俺達がする事なんてほとんどないんだけどな」
それは流れ込んでくる知識で理解していた。
オーディンの仕事、いや、三神の仕事は主に人間達の荒事への対処だ。
だが昔ならいざしれず、割と平和になった今の世の中では俺達が関わらなきゃいけない出来事はそうそうない。
それこそロキやジークフリートのような神の関係者絡みの対処の方が多いだろう。
「まぁ、気楽にやっていけよ?」
あくまで笑顔で俺の肩をばしばしと叩いてお茶らけている。
その顔を俺は何度も見ている。
「お前は心配するな」、そう言って裏で解決する君丈と同じ顔だ。
蒼と君丈は似ている。
だがそれは相手を思いやるといった表面的な事だけだ。
君丈は誰にでも優しくはない。
「そんな事より蒼の方が大変なんじゃねぇのか?神様の下っ端って何するのかは知らないけどよ、下っ端って言うからには雑用とか色々させられるんじゃないのか?」
「まあそうだな~。でもいいんだよ。これは俺が決めた結果の責任だ。そこに悠真が責任を負う必要はねぇよ」
「そんなこと言ってもよ……」
「いいって言ってるだろー?俺の事は考えるな。もう終わった事なんだから」
ふとベンチから腰を上げる蒼。
軽くその場で伸びをしてから歩き始めた。
「またいつか会えたらいいな」
「……なんだよその言い方。いくら忙しいったって会う時間くらい作れるだろ?」
「そう、俺は忙しんだよ。会えないくらいにな。だから、次に会うのは……来世かもな」
少し振り返ってこっちを向く蒼の顔は笑っていた。
だが、だんだんとその表情も暗く見えなくなっていく。
「ま……待てよ!!」
ベンチから立ち上がり、歩いていく蒼を追う。
だが、蒼を追って走っているのに、その距離は一向に近づかない。
さらには自分の身体も段々と重くなっていく。
足が上がらなくなっていく。
蒼は先にある光に段々と吸い込まれて。
それでも必死にもがいて体を動かす。
でも手は一向に蒼に届かない。
蒼はこっちを振り向かない。
蒼が光に包まれて消える瞬間
声が聞こえた気がした。
「ごめんな」
「あおー--------------!!!!!」
□□□
自分の声で目が覚める。
蒼を追う為に必死に前に出した腕は、天井に向けられていた。
身体を起き上がらせると、辺りはすっかり夜だ。
さっきまでの身体の重さは一切感じない。
場所も自分の家の自分の部屋だ。
「……………夢………?」
時間は夜中の2時。
今日は蒼に呼び出されたはずだった。
でも、どこから夢だったのか。
はっきりと思い出すどころか、妙に記憶がぼんやりしている。
携帯を手に取り、蒼に連絡をしようとした。
しかし、その指は止まる。
電話をかけようとしていた手を止め、ふとメールを開いた。
そこには蒼からの呼び出しのメールなんてものは存在しなかった。
不安からくる妄想の夢だったのだろうか……。
「夢にしてはやけにリアルだったような……」
考えていても仕方がない。
メールもない以上、こんな時間に電話をかけるのは失礼と言うものだ。
「まぁ……もし蒼がいなくなってもまたひょっこり現れそうだしな」
ロキを倒した後も何事もないように戻ってきた。
蒼はそういうやつだ。
夢では大層な事を言っていたが、きっとすぐ戻ってくるさ。
そしていつもの日常に戻っていくんだ。
夏休みが終わって、秋が来て。
冬が来て、冬休みが始まって。
また馬鹿なことして皆で笑いあえる。
きっと高校が終わった後もいい関係でいられる。
少し先を思って楽しくなってくる。
俺は微笑んだまま、また寝床につく。
起きたばかりだと言うのにすんなり寝れそうだ。
明日は、どんな一日になるだろうか……。
だが、俺はこの日の事を後悔する。
もし連絡を取っていたら。
何も変わらなかったかもしれない。
それでも、何かがあったはずだ。
何かを伝えられたはずだ。
こんな終わり方なんて望んでいなかったのに
四章
三幕【肝試し編】
―完―
次章予告
「優斗……」 「無理……私には無理……」
「ありす!」
「俺の……せいだ」 「合宿だ」
「俺様ももちろん参加する」
「前オーディンから頼まれて私はここにいるのですよぉ」
「神様って……何なんだよ」 「貴様らのせいだ」
「教えてよ!オーディンは、優斗はどこ!」
「夢に出てきたんだ・・・」
「蒼が・・・死んだ・・・?」
次章 ヴァルハラの戦神
五章【蒼希優斗】
どうも零楓うらんです。
情けない蒼の姿で終わった肝試し。
悠真の見た夢の意味とは………。
縷々がどうやって蒼を卒倒したか気になりますね。
要望があればプチエピソードとして書くかもしれませんが、今のところ予定はありません。
皆さんで想像してみてください。
ちなみに私は怖いのが苦手です。
次からは第五章!
の、前に外伝が入ります。
蒼がどうなってしまうのか気になるとは思いますが、一旦外伝をお楽しみください。
今回の外伝は一つ目の外伝の続きから、一章のロキ目線のお話になります。
少し長いですが、外伝は割と長くなりがちなのでたっぷり読めると思って楽しんでください。
一章のロキ一派の動きは不可解な出来事も多かったと思います。
それを思い出しながら見て頂けると幸いです。
それでは次の五章、または外伝で会いましょう。




