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ヴァルハラの戦神  作者: 零楓うらん
第四章 【夏休み】
17/20

一幕【海水浴編】

【前回のあらすじ】

暴走する悠真の元に駆けつける蒼。

対峙するヘルメスを止め、秘策を取り出すと、ヘルメスは驚愕する。

本来の兵装を取り戻した蒼の猛攻は激しく、悠真はなすすべなく倒れる。

そして蒼の秘策により、桂木悠真はオーディンとなったのだった……。



キュー、キュー。


カモメが鳴いている。

それはとても元気に。

だが、俺はカモメほど元気にはなれなかった。

なぜなら………。


「暑い…………」


「暑いくらいでよかったじゃない。絶好の海日和よ」


夏の日差しが俺達を燦燦と照らしている。

照らしているだけならいいのだが、下からの照り返しが暑さを増している。


「いいんだか悪いんだか………俺には判断がつかねぇよ……」


「何、悠真(ゆうま)って暑いの苦手なの?」


特別苦手ではない、とは思う。

だがしかし、直射日光にジリジリと肌を焼かれ、それが下からも感じられるとさすがに暑いと言わざるを得ない。

むしろ俺には、なんでありすが元気そうなのかがわからん。


「ありすは元気そうでなによりだよ。でも俺達、昨日まで病院にいたんだぞ?少しは療養とか……ってこれ昨日も聞いたな」


「遊ぶと決めたら遊ぶ!じゃないともったいないでしょ!………それに優斗は私達に気浸かってんのよ。私達が楽しまないと意味ないじゃない」


優斗の気持ちはわかる。

だがしかし昨日の今日でいきなり海で直射日光を浴びてるやつの気持ちも考えてほしい。


「まぁ……文句ばっか言っててもしょうがないか」


「そうそう、前向きに行きましょ」


「あぁ」


俺とありすは、夏の海辺に来ている。

来ているのは俺達二人だけではない。


君丈(きみたけ)を除いた俺ら四人、俺とありすと縷々(るる)(あお)

それにロキ一派のロキ、ヨルムンガンド、フェンリル、ヘル。


海に行こうと言い出したのはもちろん蒼だ。

蒼が俺達を気遣っての事と言うのは心の片隅では理解している。

なんで心の片隅かって?

それは発案者の蒼が一番はっちゃけて楽しんでいるからだ。


絶対に自分が来たかっただけだと思う。




事の発端は昨日まで遡る。






◇◇◇






挿絵(By みてみん)

―ヴァルハラの戦神―

四章 一幕【海水浴編】






「退院おめでとう」


「それ、俺も言わなきゃ駄目か?」


「当たり前でしょ」


平然とありすに言われ、少し訝し気な顔になりつつも、俺は丁寧に腰を曲げた。


「ありすさん、この度は退院のほど、まことにおめでとうございます」


「かたっ。しかもなんで他人行儀なのよっ」


俺とありすが退院したのは入院の次の日だ。

病院の先生は検査入院だのなんだのと言っていたが、俺達二人はフレイヤの魔法ですでに回復している。

怪我も何もかも完全完治だ。


それよりも病室で二人になる気まずさったら。


それに神堕ちの騒動で貴重な夏休みはすでに半分以上が過ぎている。

病院が退屈なのもあるが、さらに休みを無駄にしたくないと言うのが二人ともの本音だ。

すぐに退院を繰り返す謎の患者になりつつあるが、少し前にも入院したこともうやむやになっていた。

神様の力だかでどうにでも誤魔化せるようだ。


そう言った神の事を知る為にも貴重な夏休みはこれ以上消費できない。


だがある意味では濃すぎた夏休みの前半だったと思う。


ジークフリートの一件から始まり、俺の神堕ちが発覚。

なぜかありすと眷属契約がされていて、二人ともが天界から追われる立場に。

俺達二人はヘルの冥界に逃げ込んだが、結局俺が暴走。

ありすを瀕死に追い込み、ヘルメスや蒼と戦った。

蒼によってその戦いは終わり、俺は蒼のオーディンの名を継ぐことになる。

俺とありすは正式なオーディンとその眷属として認められた。


並べるだけでも具合が悪くなりそうな濃さだ。

蒼は自分のせいなんて言っていたが、今回の事はほぼ蒼一人で片づけたと言ってもいい。


いつか蒼には恩返ししなきゃな。


そんな蒼は今、下級の神の名を貰い、日々忙しい日々を送っているのだと言う。

何か手伝えることはあるだろうか。

だが正直に言うと、俺がオーディンになったせいか神の知識がざっくりと伝わってきて自分でも処理できていない。

このままでは手伝うにしろまた迷惑をかける結果になる。


「なんかそう思うと少し憂鬱になってきたな」


知りたいとは思っていたが、あまりにも神の情報が膨大なのだ。

全てを把握しようとしたら人の一生では足りないだろう。

必要な時に必要な情報を。

辞書的な扱いで情報を確認する方がいいのだが、基本くらいは押さえておきたい。

だがそもそもどれが基本的な情報なのかもわからない。


「退院直後に何言ってんのさ」


俺の状況を正確に理解していないありすがさらっと言ってのける。

人の気も知らないで、と言いたい

だが、ありすならこの情報量の中でもそれこそさらっと知りたい事を整理できそうな気がする。

どうにも神の力だけじゃなくてそもそものスペックが高そうなんだよな、ありすは……。


「いや、これからオーディンとして色々考えなきゃいけないと思うとな」


「どうせ対して考えなくてもいいわよ。優斗だって対して考えてなさそうだったし」


「………そうかぁ?」


それはそういう風に見せていただけな気がする。

最初こそ蒼の印象はいい加減な奴だった。

しかし、今では常に周りの状況や最善を考えていたように感じている。

もしかしたらこれもオーディンになった影響なのだろうか。


「あ、その優斗からメッセ来てる」


「俺の方にも来てるな。………魔術研究会に今すぐ集合??こいつ何やってんだ」


忙しいのではなかったのか。



―――――




そんなこんなでやってきた魔術研究会。

相変わらずカーテンは閉め切ってある。

ここは魔法で拡張された教室だ。

そもそも本来の部屋には窓もあるのか疑わしい。

この部屋から見える窓の景色は一体何が見えるのか。


そして中央奥にはすでに定位置となりつつあるロキがドンと座っている。

この魔術研究会はロキが勝手に発足し、魔法によって隠されている秘密の部活&部屋だ。

怪しさ極まりないこの部活に、なぜか俺とありすも入部させられている。


目の前にいる蒼によって。


「よく来たな。まあ座れよ」


部屋に入ると見慣れぬソファが置いてあった。

会議室にするなと言っていたロキが気を利かせたのかと思ったが、奥から睨んでくるロキの視線から違う事がよくわかる。


「座るな。即刻帰れ」


最近はロキこと遼平(りょうへい)君しか見ていなかったが、今日はロキの眷属達もいるようだ。

だがロキのように構えているでもなく、むしろ寝そべったりして自由に過ごしていた。

ロキ一派、唯一の良心そうなヘルこと椿(つばき)さんだけはなんだか頭を抱えている。

色々と大変そうだ。


「帰れとか言うなよ遼平君。せっかく来てくれたんだ、お茶でも用意してあげなさい」


「てめぇが一番帰れ!!!」


ロキの代わりに椿さんがお茶を運んできてくれた。

そこまで気を使わなくても俺らは気にしないんだけど……。


「それで?呼び出した要件は何だ?また問題発生か?」


最近ではここに来るのは何か問題がある時だ。

というか部活として何をするかも知らないし、そもそも悠長に部活をしている時間も俺達にはなかった。


「はっはっはっ、何を言ってるのかね悠真君。夏休みはまだまだ始まったばかりなのだよ?」


確かに蒼に君付けされるとなんかイラっと来るな。


「んな事言っても忙しいんだろ?俺もオーディンの事とか神の事とか、色々知っていかないといけないし。……まぁ遊びたい気持ちはあるけどよ」


「そうだろうそうだろう。うんうん」


今日の蒼は一段とうざいな。

やっぱり何も考えてないかもしれない。


「優斗、うざい。帰るよ」


「おいおいガチギレすんなよ。俺はお前らのためにと思って計画したのによぉ~」


「なんでもいいからその本題に入って」


「オーディン様の眷属は怖い怖い」


今ブチって音が聞こえた気がする。

しかもその眷属はこの前まであなたの眷属だったんですけどね。


「お前ら碌な夏休みを過ごしてないだろ?だから夏っぽい事しようぜ」


キランと効果音が鳴りそうな笑顔でこっちを見る蒼。

突っ込みたい気持ちを抑え、ありすがこれ以上怒らないうちにさっさと本題に入る事にしよう。


「夏っぽい事って?」


「そんなの決まってるだろ!海だよ海!!」


「はぁ?私達退院したばかりなのよ?少しは療養させようとか考えないわけ?」


ありすが怒りを通り越して呆れていた。


「療養なんて必要ないだろ。むしろ海に行く方が療養だ。お前らの傷は全部フレイヤの魔法で直してんだから。なぁ縷々ちゃん?」


「は~い!私とフレイヤが治しました~!!」


どこから現れたのか縷々がひょっこりと出てくる。

蒼のうざさで気づいていなかったが、君丈も隅っこに立っていた。


「今まで大変だったんだ。たまには息抜きしたっていいと思うぜ。悠真は真面目だから神うんぬんも色々考えてるんだろうけど、俺なんかは神の事情何てむしろ知る気がないくらいだ」


君丈は以前、蒼に神の事情を任せて学校の宿題をやらせていたことがある。

ロキと戦っていた時も俺の事を考えて最後まで正体を現さなかったくらいだ。

君丈のように軽く考えていてもいいのかもしれない。


でもこれは焦りなんだ。

やっと君丈や縷々と同じ神になった故の焦り。

今までは手の届かない存在だった。

神として対等になっても、まだ肩を並べて横に立てると思えない。


「………まあ深く考えるな。今は蒼のおふざけに付き合っとけよ」


「………そう……だな……」


きっとこれから考える機会なんていくらでもある。

だからこそ蒼は俺達の事を考えて遊びに行こうと言ってるのかもしれない。

横を見るとありすが呆れたような、でも嬉しそうな表情をしていた。

文句を言いながら、ありすもそれをわかっているんだろう。


「それに俺と縷々は部活あるからいけないんだ。俺達の分まで楽しんできてくれよ」


「えっ!?……ぁぅ……そう…だね……部活……あるもんね……」


君丈の言葉を聞いてしょんぼりする縷々。

きっと行く気満々だったのだろう。

夏休みと言っても部活組は色々大変だ。

しかも二年生の俺らは部活の中心人物になりやすいしな。


「君丈と縷々ちゃんは来れないのか……じゃあ俺と悠真とありす。それとロキ達の四人で、七人だな」


「おい!俺様達を勝手に数に入れるな!」


ロキは反対しているが、蒼は全く気にしていないようだ。

と言うより、後ろで聞いていたフェンリルとヨルムンガンドはむしろ海に行きたがっているようで、ロキと口論をし始めた。

最初に出会った時が嘘のような拍子抜けの光景だ。


「………ま、待って!」


俺とありすはやれやれと言う感じで承諾しようとしていた時だ。

何かに耐えかねたように縷々が声をあげた。


「わ、私も行く!ほ、ほら、スキーズブラズニルがあれば行くのも楽でしょ?だから私がついていってあげるよ~」


そんなに海が好きだっただろうか。

確かに数日位部活を休んだところで問題はないだろうけど、そこまで無理してついてくるような事でもないと思うが。


「別に海くらい電車使えば早いし、そんな無理する必要ないと思うぞ?」


「いいの!私も行くの!」


こうなったら縷々は聞かない。

それは俺と君丈が一番わかっていた。

奥で君丈もやれやれと言う顔をしている。


「行きたいなら止めはしないけど……。そんなに海好きだったか?」


「好きだよ好き!超絶好き!私以上に海が好きな人なんてこの世にいないくらいじゃないかな!!」


「そ、そうか……」


謎の熱量が怖い……。

なんでそこまでついてきたいのかはよくわからないが、縷々なりになにか考えがあるのだろう。

あったらいいな……。

話してくれる雰囲気でもないし止める理由もない。

まあ別に一緒に居て助かる事はあっても問題になる事はないもんな。




かくして、海に行くのは俺とありすと蒼、ロキ一派の四人、そしてなぜか張り切っている縷々を含めた8人で行くことになった。






◇◇◇






と言うのが海に来ることになったいきさつだ。

そして来て早々はしゃぎまくった蒼に振り回され、疲れた俺とありすは浜辺で小休憩していた。

蒼はまるで元気が有り余った子供のようだ。

今はロキ一派と楽しそうに(?)一緒に遊んでいる。


遊び疲れたのか縷々もこちらに歩いてきていた。

縷々も蒼と一緒になって相当はしゃいでいたから海が好きなのは嘘じゃないんだろう。


「悠真君とありすちゃんはもう遊ばないの~?」


「少し休憩してるだけだ。縷々は遊んでていいんだぞ?」


「ん~、私も少し休憩しようかな~。いっぱい遊んだし」


そう言うと俺の横に座り始める縷々。

俺はありすと縷々に挟まれる形になってしまった。

学年のマドンナ二人に囲まれているこの状況を他の男子が見た時には血の雨が降りそうだ。

かく言う俺も、可愛い美少女に挟まれて緊張しないでもない。


ありすとはこの間の洞窟の一件で微妙に気まずい空気がまだ残っている。

お互い気まずくなるのがわかっているため、口に出さないだけだ。

一方縷々はありあまったダイナマイトボディの水着姿だ。

正直ありすならまだしも、縷々の水着姿は目のやり場に困る。


「悠真?今なんか変なこと考えた?ねぇ?」


にこやかにこちらを向くありす。

どうやら神の力で多少心を読む事ができるらしい。

ロキに心を読まれた事もあったため、察しはついていたが。

縷々や君丈も昔から変に鋭かったのはこれが原因だったのだろう。


「別に……な、何も考えてないぞ……」


眼を逸らした先には縷々がいた。

こちらもにこにこ笑顔だが、縷々の場合はどういう意図の笑顔か俺にはわかなかった。

どっちを向くのも怖いから蒼達を見ていよう……。


それからなんとなく沈黙が続いていたが、それを破ったのはありすだった。


「悠真はさ……これからやっていけそう?」


「なんだよ唐突に」


「オーディンとしての今後を考えるとか言ってたからさ」


昨日俺が言っていたことだ。

正直昨日の今日でどうこう考えられる事でもなかった。

だけど、オーディンになった以上は俺にも考える責任がある。

君丈は深く考えるなと言っていたが、神としてやっていくなら多少なりとも考える必要はあるだろう。


「それを言うならありすはどうなんだ?蒼の眷属から俺の眷属になったわけだろ?……その、眷属をやめたりとか……」


俺の事は自業自得だと思う。

だがありすは俺の自業自得に巻き込まれたようなものだ。

眷属と言うのがどういう物か今の俺にはわからない。

けれど、ありすには俺の眷属をやめると言う選択肢だってあるんじゃないだろうか。

そう言いだした時は俺に止める権利はない。


「………やめないよ。私はオーディンの眷属。優斗にはいろいろとお世話になった。だからこそ私は私の責務を全うしたいの」


ありすからはずっと使命感のような物を感じていた。

だからこそ、その思いは俺ではなく蒼に向けるべきものではないだろうか。


「悠真は責任を感じる事なんてないんだよ。むしろ私が居なくなったら誰が今の悠真を支えるのさ」


助けてくれる人はいくらでもいる。

君丈や縷々、蒼だって助けてくれるだろうし、ロキ達もなんだかんだ協力してくれる気がしている。

でもありすが言う支えるのはまた意味が違うのだろう。

オーディンの眷属として。

ありすが眷属であることに誇りをもって俺を支えてくれると言うなら、俺がそこに口を出すのは野暮というものだ。


「そっか。……ありがとな」


今はありすの言葉に甘えておこう。

俺がこれからオーディンとしてやっていくにも、眷属としてのありすは大いに力になってくれるはずだ。


「なんか二人だけの世界作ってますけど、私もいるの忘れてな~い?」


頬を膨らませた縷々がこちらをじ~と見つめていた。


「え……そんなつもりはなかったけど……すまん……」


「別にいいですよ~。でもさ、支えるって言うなら私と君丈君も同じだからね。……そもそも私達がフレイヤとトールだって隠してなかったら、悠真君が危ない目にあう事もなかったかもしれないんだし……」


縷々と君丈が神だと知ったのはロキの騒動に巻き込まれてからだ。

今でも色々と思う所はある。

でも、今では同じ立場に慣れた事の方が俺には嬉しい。

経緯はどうあれ、ちゃんと横に立てる存在になれたのだから。


「縷々こそ気にする事ねぇよ。俺はこれでよかったと思ってる。色々あったけど、それでもお前達と本当の意味で肩を並べられるのは嬉しいよ」


「……悠真君がそう言うのもわかってる。……だからこそ……ううん、私から言える事じゃないね」


縷々にも思う所はあるのだろう。

それはおそらく君丈もだ。

二人の気持ちをわかってもなお、俺はよかったと思ってしまう。

俺は多分、まだまだ子供のままなんだ。


「……やめだやめだ。海に来てまで辛気臭い雰囲気になる必要はないだろ。十分休憩もしたし、ひと泳ぎして来ようぜ」


俺は立ち上がると二人の方を振り向いた。

二人とも何かを言いたそうな顔をしている。

だが、それを呑み込み、賛同してくれるようだ。


俺達にはまだ時間が足りない。

ゆっくりと解決していけばいい。




◇◇◇




「いつの間にこんなホテル予約してたんだ?」


夕方になり、そろそろ戻ろうと言う話になった時だった。

行きと同じようにスキーズブラズニルで帰ると思っていたのだが、蒼がホテルに泊まると言い出したのだ。

やれやれと呆れていた一同だったが、特に用事がある者もいなかったのでそのままホテルに歩いてきた。

だが目の前のホテルは予想していたより遥かに豪華で立派なものだ。


「俺こんな所に泊めれるほど金ないぞ」


「大丈夫だ。皆がお金を払う必要はないさ」


「蒼が奢ってくれるのか?それにしたって全員分って大丈夫なのかよ」


ありすが言うには蒼は何百年も生きているらしい。

どういう人生を送ってきたのかはわからないが、多少の蓄えくらいはあるのだろう。

かと言ってそれに甘えてしまうのもどうなんだろうか。


「オーディンもどきじゃねぇ。俺様が手配してやったんだ。感謝しろ、愚民ども」


ロキは蒼の事を名前で呼ぶつもりはないらしい。

それなら新しく貰った神の名前で呼べばいいものを。

だがしかし、ロキなら今までの迷惑料と言う感じで奢ってもらってもそんなに心は痛まない。

でもロキはロキでどうやってそのお金を作っているのやら。


「ロキが……払ってくれるならいいか」


「はぁ?なぜ俺様が貴様らに金銭を提供してやらないといけないんだ」


「は?だってお前が用意したんだろ?」


と、聞いてしまったのがいけなかった。

ここ最近でロキの事を甘く見ていたのかもしれない。

いや、甘く見ていた。

ロキと言う存在がどういう存在なのか、俺はこれから先よく知る事になる。


「もちろん、ハッキングだが?」


なにがもちろんなのだろうか。

聞かなければよかったと後悔しても後の祭りだ。


「もちろんじゃねぇよ!バレたら警察もんだろ!」


「バレるわけないだろ。貴様はその効力をよく知ってるじゃねぇか」


「は?……何を言って……」


違和感は感じた事があった。

それはありすや蒼の事だ。

ありすが入学してきたときは普通の事だと思えた。

だが、蒼が入学してきたときはどうだったか。

普通ならもう一つのクラスに行くだろう。

だけどその疑念はいつの間にか消えていた。


あの時は他に色々考えることもあったし、神だから、でなんとなく考えるのをやめてしまった気がしていたが、よくよく考えるとそこに一つの疑問を持たなくなっている。


「まぁ……俺やありすが転校してきたのもある意味ではハッキングだからな……簡単に言うと認識阻害の魔法だ。俺達神が日常的に使ってる魔法だよ」


オーディンになった事でその知識が流れ込んでくる。

ロキほどではないが、神は一般人に紛れ込むためや、一般人に気づかれた時に不都合がないように魔法をかける。

それが認識阻害魔法。

病院ですぐに入院したのがうやむやになっていたのもその魔法だろう。


「いや……だとしてもこれは犯罪では……」


「はっ!学校に不正に入学するそこの二人と何の違いがあると言うのだ。貴様の正義を振りかざすな」


言われてみればそうなのだが……。

なんとも納得できない所だが、神と言うのはそういうものなのかもしれない。


蒼に「まあ気にすんな」と言われて俺達はホテルに入っていった。




―――――




「ふぅ……」


部屋に入り、荷物を置く。

一人一部屋与えられた部屋は、学生にはもったいないくらいの広い部屋だった。

ベットもシングルではなく、明らかにダブルの大きさだ。

外見でも豪華そうなホテルだったので、予想はしていたが、さすがに引け目を感じてくる。


「せめて普通に払ってるとかなら……いや、それでもこれは贅沢に感じるな……」


すでに入ってしまったものはしょうがない。

気持ちを切り替えてベットで一旦落ち着くために寝転がった。


「神か……思ってたより俺の常識外の存在……なんだろうな……」


少し前ならそういうものかと思っていただろう。

だが、身近な存在である幼馴染二人が神だった事や、神とは思えないほどフランクな蒼を見ていたせいで、どうにも感覚が狂っていたようだ。

ロキのような神こそが、神としては普通の存在なのかもしれない。


日常生活一つとっても常識外れ。

それに転生や半神化や神堕ち、天界なんかも俺にはまだわからない情報だ。

今までの説明やなんとなくのイメージで一応の理解はしているつもりだが、それが正しいのかも疑わしい。


同じ神と言う立場になっても俺にはまだまだ遠い存在だった。


「……なんというか……謎の重圧感があるな」


神としての責任。

神としての行動。

そんなものが求められる気がしている。

きっとそんなのは気のせいなのだ。

それは蒼や君丈、縷々を見てもわかる。

だが、これはオーディンの宿命でもあるのかもしれない。


オーディンになって最初に流れ込んできたのは三神の知識だ。

オーディン、フレイヤ、トールは三神と呼ばれ、世の中をいい方向に導くための存在。

そしてオーディンは三神のリーダー的立ち位置。

だからこそ色んな事を考え、責任を持たないと思うんだろう。


「すぐ後ろ向きになるのは俺の悪い癖だな。今考えててもしょうがないだろ」


口ではそう言いつつも頭の中では考えてしまう。

そんな時、部屋のチャイムが鳴らされた。


「悠真、いる?」


この声はありすだ。

俺は気持ちを切り替えて部屋の扉を開けた。


「どうした?」


「えっと……その……海での話の続き……と言うか……」


妙に歯切れが悪い。

いや、ばつが悪そうな顔をしていた。

海での話と言うと、眷属についての話だろうか。

やっぱり眷属をやめたい……ってわけじゃないだろうが、何か話があるようだ。


ありすを部屋に入れ、机の椅子に座ってもらう。

俺はベットの方に座り、ありすの言葉を待った。


「……なんていうかね……私もオーディンの……いや、悠真の眷属としてちゃんとやっていこうって思うの。だ、だから……その……」


「お、おう……」


なんとなく何が言いたいか察してきた。

これも神としての力なのだろうか。

ありすが気にしているのは洞窟での事だろう。

あの時はお互いの精神状態がおかしかった。

しかもその後に俺の力も暴発し、お互いに罪悪感が残る形となっている。

だからこそ、その話題には触れないようにしていたのだ。


「眷属として悠真を支えていきたい……その気持ちは本当……だからこそ、禍根は残すべきじゃない……と思うのよ……」


「……そう、だな……」


かと言って、あの日の事をお互いどう処理すればいいかわからない。

だからこそ放置していたのだ。


「だから……洞窟での事は……その……お、お互い忘れよう!……じゃ駄目……だよね……」


ありすにもいい解決策は思いつかないのだろう。

だけど前を向こうと必死なのだ。


そんなありすを心から尊敬した。


「……いいんじゃねぇか。俺も変な空気になりたくないし。それに俺はありすを刺しちまったのもあるし……お互い忘れようでも」


「悠真は……本当にそれでいいの?」


「…………」


いいんだろうか。

いや、きっとよくはないのだろう。

でも前を向こうとするありすを、【俺の眷属】を困らせるようなことを今はしたくない。


「いい。それでこの件は終了。お互いの行動についてはお互いに非があった。だから忘れようぜ」


「……うん、わかった。ありがと」


「俺もありがとう。それから、よろしくな」


俺とありすは握手を交わす。

これで正真正銘、俺とありすはオーディンとその眷属という事だ。


「じゃあ部屋に戻るね。悪かったわね、急に押しかけて」


「気にするなよ」


「じゃあね」


「ああ」


そんな普通のやり取りをして部屋を出ていくありす。

俺はありすを見届けてから扉に背をつけた。


今のは俺の言葉なんだろうか。


ありすを困らせたくない。

あの件について俺も心の整理をつける必要があると思っていた。




だが、何か違和感があるのだ。




今までの自分と違うような。




今の俺は桂木悠真なのだろうか。









それとも、オーディンなのだろうか。









ベットに横になってから眠るのは早かった。

いつもなら、もっと色々考えて寝つきが悪くなるはずだったのに。
















俺は、オーディンになったのだ。
















四章

 一幕【海水浴編】

    ―完―




どうも零楓うらんです。

夏休みを満喫しながらも色々考えこむ悠真。

この先悠真はどう行動していくのか……。


遅い夏休みが始まりました。

この章は少し休憩な章でもあります。

短めになりますが、是非楽しんでください。

ではまた次のお話で!

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