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ヴァルハラの戦神  作者: 零楓うらん
第三章 【桂木悠真】
16/20

ヴァルハラ外伝1 ロキと眷属



神。



神とは、英知を司り万物を創造する者。




だが、俺様が知っている神と言う存在はそんなものではない。

確かに万物を創造できる神は知っている。

いや、神達を知っている。




だが、【俺様達】の事ではない。




俺様はロキ。

悪名高いトリックスター。

俺様を天才だと称賛する者もいれば、悪神として忌み嫌うものもいる。

だが、そんな周りの評価など俺様には無価値だ。

俺様は俺様。

ロキと言う存在はそういう存在だ。

そうあるべきなのだ。



この世は俺中心に回っていて、俺様の成す事は理解される必要がない。

そうやって今までも生きてきた。



神には身寄りがないものが沢山いる。

正確には親元が不明なものな者が多い。

いつの間にかそこにいた。

なんて事はよくある話だ。




いや、あった話か。




最近では世界の均衡がなんだかんだとゼウスが色々としているらしい。

今と昔では環境が違う。

ただそれだけの話だ。


俺様的には何故人間の都合に合わせなければならないのかと思うが。

だが基本的に人間にバレないように生活しているのは事実だ。

それも現代だからという側面が強い。


何千年も前は平然と正体を明かしていたが、今ではそうはいかない。

人間の都合に合わせるのはめんどうだが、ただの頭のおかしい奴と思われてもめんどうなのだ。


だが自分の眷属には正体を明かす。

それは当然と言えば当然なのだが。

眷属と言うのは神ごとに素質がある者が決まっている。

どこの誰でもいいというわけではない。


それを俺様達は直感で理解できる。

理屈など不要だ。




さて、何の話だったか。




つまりだ。


俺が言いたいのは、今回の輪廻転生において俺様には身寄りがいたのかどうかだ。


本来そんな事はどうでもいい事だ。

俺様は俺様であるために行動する。

もし、親と言う存在がいたとして、何かしらの配慮をするかと言えばNO。

だが俺様がロキだと自覚した時、そう、今の状況的にそれが気になっただけだ。


俺様は今森の中で一人寝転んでいる。

何故そんな事をしているのか。

むしろ俺様が聞きたい。


世間ではまだ赤子とされる年齢。

当然ながらそんな俺様が一人でこんな森の中にたどり着けるわけがない。

親に捨てられたか、ここにいるのが当然かのようにいきなり現れたか。


どう考えても前者だろう。


こういう事は今回が初めてではない。

どうにも俺様を生んだ親は、生んだ時点で忌み子として嫌う時がある。

人間なりに関わっていけない存在と言うのがわかる者がいるのだろう。


だが正直そんな事もどうでもいい事だ。

俺様は俺様であるべきなのだから。






さあ、今回はここから始めよう。






ロキとして、悪名を世界に連ねよう。
















『世界よ、震撼せよ』
















挿絵(By みてみん)

―ヴァルハラの戦神―

外伝 【ロキと眷属】











と、言ったものの。




こんな赤ん坊の姿ではどうする事もできない。

神として生まれたこの身体は、寿命以外で死ぬことは滅多にない。

腹が減ったとしても、謎の病原体が身体を蝕もうとも、多少は苦しいだろうが。


しかし、それで死ぬことはない。


だからそこは問題ない。

だが何もできないというのはかなり暇なのだ。

こうやって俺様が無駄に思考を回転させ、輪廻転生や眷属の事を考えているのも、ただの暇つぶしだ。



「あうー」



この通り、言葉も満足に話せない。

悪名高いロキである俺様が何たる醜態だ。

だがどんな状況でも耐えなければいけない時はあるのだ。

今はひたすら耐えるのみ………。






…………………………………………。






それにしても暇だな。






◇◇◇






そんな生活から数年後。

俺はなんとか動けるようになり、近くにあったボロ小屋を寝床にしていた。

森という事もあり、適当に散策すれば食べられるものは割とある。

例え人間には毒でも俺様には関係ない。

生きる分には特に困る事はなかった。


周りを適当に散策してわかったことだが、ここは森と言うより山らしい。

麓には村や町があるだろう。

だが俺様は群れるのが嫌いだ。

何よりこんな年端も行かない姿で出ていった時には何を言われ、どこに連れていかれるかわかったもんじゃない。


そもそも人間は嫌いだ。

いや、正確には誰よりも人間を愛していたんだろう。

誰よりも人間を愛してたが故に、誰よりも人間を憎んだ。

まあそんな遥か昔の話はどうでもいい。


それに、人間と群れたければ、そもそも麓に降りる必要もない。

山の中の一角に教会があるのだ。

正確には教会の形をした孤児院。


どうせ忌み嫌われた者たちの集まりだろう。

そういう意味では俺と相性はいい。

だが教会と言うのが好かん。

なぜ神である俺様が他の神に祈らねばならんのだ。


だから俺様は山の中、一人で行動することに決めた。

数年山で過ごして分かったことは、ここは所謂子捨て山だという事だ。

しばらくそんな物は聞かなかったが、未だにそんな事をする者がいるようだ。


全く、人間は愚かしい。


その捨てられた子を定期的に探して育ててるのがあの教会。

何度か教会の子供やシスターと鉢合わせしそうになったことがある。

その時の会話から得た情報だ。

そもそもそんな協会がどうやって生計を立てているのか。

おおよそ育てた子供でも売り捌いてるのだろう。





だが俺様には興味の無い事だった。




◇◇◇




事が起きたのはそれから更に数年経った頃。

世間では小学生と呼ばれる年齢の時だ。


俺様はいつものように食料を調達してボロ小屋でのんびりしていた。

街中に降りて神の力を使い、適当に過ごすこともできただろう。

だが神の力もある程度の年齢に達しないと安定しない。

正直、この生活にも飽きてきていたが、少ない神の力で色々と改変するのもめんどくさくい。

故にずっと同じ生活を続けている。




だがこれが悪手だった。




「ほら!やっぱり子供だ!」


むしろ今まで気づかれなかったのが奇跡だったのだ。

見つからないように行動していたつもりだったが、慣れと言うのは注意力も散漫になる。

その日は小屋の扉も開けっ放しだった。


「ほんとにいるなんて……葉月(はづき)の視力はすごいね」


「ねえねえ!一緒に遊ぼうよ!」


年齢はどちらも俺とそう変わらない。

一人は無邪気なガキそのもの。

もう一人はお姉さん的立場と言った所か。

実際はさして年齢は離れていないだろうが。


だが見知らぬ子供、しかもこんなボロ小屋にいる俺様を見れば、普通不気味だと思うはずだ。

それが遊ぼうとは……。

肝の座った……いや、単純に馬鹿なだけかもしれないな。


「貴様らとは遊ばない。目の前から消えろ」


どうせあの孤児院の子供だろう。

こいつらと群れる気は全くない。

俺様の一言で怖がって逃げ去ると思っていたが、無邪気なガキは目を丸くして驚いた顔で質問をしてきた。


「なんで?みんなで遊んだ方が楽しいよ?」


さもそれが当然かのように言ってのける。

確か葉月とか言ったかこのガキ。

その度胸だけは認めてやろう。

だがそもそも俺様は遊んでいるわけではない。


「知るか。消え失せろ」


「そんな汚い言葉遣いしてると神様に怒られちゃうよ!」


俺様も神の一人だがな。


「葉月、ここは椿(つばき)に任せて!」


もう一人の娘が胸高々に出てきた。

そして俺様に近づき、精一杯の笑顔で―――


「ねぇねぇ君、ここで生活してるの?ここじゃ冬も越せないし、皆で暖かい場所にいこ?」


にっこりと笑顔を作る娘。

お姉さんとしていい所を見せたいんだろう。

笑顔の裏にはこれで大丈夫と言う自信が見える。

若干鼻息も荒い。


だが俺はこういうガキのくせに大人ぶろうとするやつが大嫌いだ。

むしろその鼻をへし折りたくなる。


「貴様らと一緒にするな。俺様は一人で生きていく。誰の手も借りない。この場からいなくならないなら貴様らを皆殺しにするぞ」


子供相手に言い過ぎた。

なんて思うわけもなく。

子供相手でも容赦はしない。

そもそも俺様が子供の姿だから大人げなくもない。


俺の予想では怒ってこの場からいなくなると思っていた。

暴力に訴えてくることも考えたのだが、目の前の二人は俺の予想外の反応をした。

自分達を受け入れてもらえない事に驚き、俺の威圧に予想以上に怖がったようで、目には涙がみるみると溜まっていった。


存外、あの教会では優しく育てられているのだろう。

こんな言われ方をしたのも初めてなのかもしれない。


二人は泣くのを堪えながら小屋を出ていった。

これでまた静かに暮らせる。

と、思ったのだが………。


「君か、問題児は。こんなボロボロで……いつからここに住んでたの?」


シスターだ。

少し叱るような、だが優しい表情のその女は俺の一番嫌いなタイプだ。

俺は子供達に気づかれた時点でねぐらを変えるべきだった。


「ちっ。うるせぇばばあ」


「こーら!そんな言葉遣いしないの!ほら、とにかくこっちおいで。教会で綺麗にしてあげるから」


「やめろ!離せ!!この人間風情が!!!」


「どこで覚えたのそんな言葉……こんな所でよく今まで生活できてたわね……」


首根っこを捕まれ、外に引きずり出されていく。

これだから嫌いなのだ。

人の話を聞かず、他人にお節介を振りまく女と言うのは。

外に出ると、先ほどの二人が泣き腫らした目で待機していた。

おそらくシスターと三人で近くを回っていたんだろう。


そのまま教会に連れてこられた俺様は、服を剥ぎ取られ、風呂場に放り込まれた。

何度も抵抗したが、暴れる子供を風呂に入れること自体、シスターにとっては日常茶飯事なんだろう。

俺様の抵抗は、いとも簡単に押さえつけられる。

神の力を使おうかとも考えたが、次第に馬鹿らしくなり諦めた。


多少の予想はしていたが、この教会には電気も水道も通っているらしい。

ただでさえ教会を維持するのが大変なはずがここはインフラが整っている。

100年も違えばこうはいかなかっただろう。

だがそれにしてもおかしい。

やはりこの教会は裏がある。


一見慈愛に満ちているこのシスターはどうせろくでもない人身売買の仲介役とかなのだ。

ここで全てを暴き、ここに来ることになったクソガキ共に現実を見せるのも面白い。

その時にあいつらはどんな顔をするだろうか。


だが逆に考えればこの教会は裏社会と繋がっている。

それを利用して、そちら側から世界を征服するのも面白いだろう。

機会を逃さず取り入れば、むしろ表の世界よりも俺様にはあっている。


俺様はその機会を狙う為、この教会に滞在することにした。

それからは温かいご飯、暖かい寝床、そして偽の慈愛を振りかざし、一見無償の愛で包み込むシスターとくそ生意気なガキどもと過ごした。

どうやって世界を征服してやろうか考えながら……。









だが、事はそううまく運ばなかった。









◇◇◇




結論から言えば裏社会などに繋がっていなかったのだ。


「いつもありがとう」


「いいんですよ。シスターとこの教会に僕達は救われたんですから」


シスターの元には定期的に二人の男が訪問してくる。

最初は裏社会の人間かと思っていた。

だが聞き耳を立ててみれば、どうやらこの教会から出ていった元孤児のようだ。

教会で育ち成長したその男達、いや孤児達は、その恩返しとして寄付を集めている。

それをまとめているのがいつも来ている二人。


こんな山中に教会があるのはここが子捨て山だからだろうし、金もインフラも元孤児が支えてくれている。

話を聞くに、何百年と前からこの教会はあるようだ。

最初こそどういう生計をしていたかわからない。

何百年も前となると当時の状況も勝手も違うだろう。

もしかしたら俺様の思っていたような裏社会から始まった可能性はある。

だがしかし、今のこの教会はそんなものと一切の関わりがなく、まっさら綺麗なものだった。


インフラも食料も衣服も、ある程度の期間で業者が来る。

今後生活に困窮し、裏社会に繋がる様子すら微塵も感じられなかった。

シスターもこの教会の出身なのだろう。

そうやって受け継がれてきた教会。

そんな綺麗すぎる場所に、俺様が心底嫌気がさしたのは言うまでもない。


だが俺様はここを離れる気はなかった。

なぜか?


それは今の俺様に外で生活できる基盤がないからだ。

今すぐにでも森の小屋に戻りたい気持ちはある。

だがそれはシスターやクソガキ達に見つかり、また連れ戻されるのがオチだ。


では麓の街に下りてみる。

そうするとどうだ?

小学生がふらふらと出歩いてれば今の世の中すぐに声をかけられ捕まってしまう。

身元などないし、神の力で誤魔化したとしても今の俺様ではすぐに矛盾がばれて暗示が解けてしまう。


神の力は万能ではない。

よく神が多用する偽装や暗示の魔法は力が弱いとすぐに見破られてしまうのだ。

偽装と言うのは疑うから騙せるのであって、いくら力が強くても確証を得られるとすぐに綻びる。

それ以上となると幻術の類だが、今の俺様には簡単な幻術すら使えない。


ならばこの教会で成長を待つのが合理的なのだ。




◇◇◇




さて、そんなただただ成長を待つだけの日々。

悪名高いロキ様がただじっと過ごすだけなのもつまらない。

俺様達神に引き継がれるのは神としての知識であって、人間界の勉学などの知識は基本的に受け継ぐことはない。


だが俺様はロキだ。

人間の勉学など一瞬にして覚えることができる。

その知能によって俺様は教会内の勉学では優等生となり、クソガキ共の鼻をへし折りまくってやった。


もちろんその代償はクソガキ共に嫌われ、優等生ながら優等生の扱いを受けず、問題児として扱われるようになる。

だが俺様はそもそも人間と群れる気など毛頭ない。

何一つとして困る事はなかった。


遼平(りょうへい)君は皆と遊ばないの?」


声をかけてきたのはシスターだ。

一人になっている俺様を気遣っているつもりなのだろう。

だが残念なことに俺様は自分でこの状況を作り出している。

無駄な気遣いだ。

そもそも俺様に勝手に名を与え、遼平君などと呼ばれるのはひどく心地が悪い。


「なんで奴らと遊ぶ必要がある」


「じゃあなんで遊びたくないの?」


俺様の態度は一貫している。

このシスターは最初こそ言葉遣いや態度に文句を言っていたが、最近では何も言ってこない。

ここ最近の目標は俺様を他の皆と遊ばせる事らしい。

一緒に遊べば次第に心を打ち解き、皆仲良くハッピー!とでも思っているのだろう。

だが俺様はここの連中と仲良くするつもりなど一切ない。


「低能な人間と遊ぶ理由がどこにある」


「そうかなー?確かに遼平君は優秀で頭はいいけど、皆で遊んだら楽しいと思うけどなー」


「じゃあ逆に聞こう。俺様があいつらの元に行けば、あの人間共をいじめ、問題を増やすとは思わないのか?」


「うーん……そこは仲良くしてほしいんだけど。それに色んな人と話したり何かをするのって、自分と違う価値観とか発想とかがあって楽しいと思うよ?」


「はっ。子供に言うセリフではないな」


「少し難しい事でも遼平君なら理解できるじゃない。それならあの子達と一緒に遊んでそういう可能性がある事もわかるんじゃない?」


「わからないな。いや、必要ない。俺様にとっては無価値だ」


「そっかぁ……じゃあ私と一緒に見ていようか」


そう言うとシスターは俺様の横に座り始める。

このシスターは意外と頑固だ。

文句の一つでも言いたくなるが、言っても無駄な事を俺様は理解している。

シスターもいい加減理解してほしいものだ。


「ねぇねぇ!シスターも遊ぼー!」


奥の方で花を摘んでいるクソガキの一人が声をかけてきた。

俺様を最初に見つけた葉月と言う少女だ。

活発的な行動を取り、いつも男子と積極的に遊んでいる。

そのため、最初は男だと思っていたが、あんなのでも一応女らしい。

今はいつも遊んでいる三人で花冠でも作っているようだ。


「私はここで遼平君と見てるわー!」


シスターは葉月に聞こえるように声を大きくして答えた。

それを聞いて何か話している。

大方俺様の悪口だろう。

シスターが俺様を気にするせいで一部のクソガキからシスターを独占しているように見えるらしい。

それを含めてもこのシスターは俺様をどうにかしたいみたいだが。


しばらくすると三人の内の一人、その中でも一番背の低い子供がこちらに近づいてきた。

手には出来上がった花冠を持っている。


「シ、シスター………その…これ、作ったの」


可愛らしく、子供らしく。

そんな愛くるしい子供のような所作で花冠をシスターに渡す。


「ありだとう、那覇(なは)君」


シスターが笑顔で受け取り、自分の頭に乗せると、那覇はにへらと笑って二人の元に戻っていった。


一見すると可愛らしい女の子のようだが、那覇は男子だ。

葉月と那覇の性別が逆なのではないかと常日頃から思う。

だが、そんな可愛らしいのは表の顔で、何度いじめても仕返そうとしてくるくらいには腹黒なのが那覇と言う少年だ。


よく葉月と一緒に俺様に報復に来るが、もちろん俺様はその全てを上回っていじめ返している。

那覇自身はその性格をシスターに隠せていると思っているようだが、当然の事のようにシスターは知っている。

知ってて見守っているのだ。

叱るだけが愛情や教育ではないと言わんばかりに。


……思い出したら虫唾が走ってきた。

どこまでもこのシスターはいけ好かん。


那覇がグループに戻ると、もう一人の少女が那覇の頭を撫でていた。

あの三人の中で唯一見た目も中身もまともな良心。

ボロ小屋の時に葉月と一緒にいた椿と言う少女だ。


俺様をいじめに来た葉月と那覇をいじめ返したにも関わらず、俺様ではなく葉月と那覇の二人を怒るような性格だ。

おそらくシスターのようになるのが目標なのだろう。

ちなみに椿だけ年齢が一つ上で、俺様と葉月と那覇は同年代に当たる。

これは神の力で教会の事を軽く調べた時にわかったことで、シスターも知らない事だ。


俺様が教えてやる義理も意味もないしな。


そんな事を考えていると何やら三人が口論をし始めた。

あの三人が口論しているのは別に珍しい事ではない。

悪ガキ二人にシスターかぶれが一人。

どういう口論かは毎回想像に難くない。


いつもの事と興味なく眺めていたが、次第に決着がついたらしく、椿が花冠を持ってこちらにやってきた。

シスターに追加の花冠かと思えば、用事があるのは俺様にらしい。


「これ、この前のお詫び。二人が迷惑かけたから。もし遊ぶ気になったら一緒に遊ぼうね?」


子供らしい可愛い笑顔で勝手に花冠を俺様の手に持たせ、さっさと戻っていってしまった。


「よかったじゃない。一緒に遊んで来たら?」


ニコニコ笑顔でこちらを見るシスター。

なにもかもうざくてめんどくさい。


「行くわけねぇだろ」


そっかぁ、と残念そうに三人の方に向き直るシスター。


本来の俺様ならそれぞれの心の内を神の力で覗いて真意を読み取り、いじわるの一つでも言う所だ。

だが、こいつらは心の内に本音を隠すことがない。

最初の内こそ色々暴いてひっかきまわしてやろうかとも思ったが、そのうちに馬鹿らしくてやめた。


唯一那覇が本音を隠しているが、シスターが見ていない所では隠していない上にシスターも理解している。

ひっかきまわしがいが無くてつまらん。




◇◇◇




そんな平和で退屈な教会暮らしだったが、事件は起こる時には起こる。

今日はクソガキ共がずっと騒がしい。

当たり前と言えば当たり前なのだが。


「おい、遼平。お前の仕業だろ」


噛みついてきたのは那覇だ。


「何を言ってる。いくら俺様でも子供一人で大人と子供をどっかに隠せるわけないだろう」


実際にはできるが。


「じゃあシスターと椿姉ちゃんはどこいったんだよ!」


「知るかそんなもん」


目尻に涙を浮かべながら訴えかける那覇。

正直そんな表情は初めて見た。

俺様がいくらいじめてもそんな表情で泣くことはなかった。

子供達の半分が泣いているこの状況では腹黒の那覇も一人の子供だったという事か。


つまるところ、シスターと椿が行方不明なのだ。


問題は昨日から起こっている。

いつものように森に見回りに行った二人はそのまま戻る事がなかった。

普段から家事をしている子供達は、生活に困る事はなかったが、一晩経っても帰ってこない二人にさすがに抑えが聞かなくなったようだ。

こういう非常時にシスターは教会から絶対に出ないようにと言いつけてある。

シスターに何かあってもしばらく生活には困らないし、定期的に来る業者に伝えれば問題が起きているのは知らせることができるからだ。


だが大人が一人もいない状況では生活能力はあっても精神的には立ち行かない。

昨日の晩は比較的大人な子が下の子をなだめていたが、子供達だけで止められるのはせいぜい一晩だけだったようだ。


「遼平、あんたならシスターと椿をどこかにやれるんじゃないの。ここにいる誰よりも頭がいいんだから」


那覇の次は葉月だ。


「だから知らねぇよ。俺様が教会にいたのはお前達が一番知ってるだろ。そもそもそんな事をして何の得がある」


「それは……だ、だって遼平はシスターにも色々言ってたじゃん!だから……えっと……なんかしたんでしょ!」


葉月は身体を動かすのは好きだがおつむは弱い。

何ができるか、何の得があるか、そんな事まで考えが回らないんだろう。


「じゃあお前はシスターを一人で運んだり隠したりできるのか?」


「……できないけど」


「ならお前より非力な俺様ができるわけないだろ」


「でも……」


しゅんとなっていく葉月。

那覇も葉月も本当に俺様が犯人だとは思っていない。

ただこいつらは二人の居場所が知りたくてあがいているだけだ。


だが当たらずとも遠からず。


俺様は二人の所在を知っている。

もちろん犯人は俺様ではない。

いくら無駄に干渉してくるあの二人が邪魔だと思ったとしても俺様にもここにいる目的はある。

それに癇癪で人間を殺すようでは俺様の美学に反する。




俺様は悪名高い【ロキ】ではあっても、殺人狂ではない。




じゃあなぜ二人の所在を知っているか。

それは俺の特異性、その中の固有能力によるものだ。


俺様にはいくつもの特異性があり、そのうちの一つに、周囲の状況把握能力がある。

主に戦場での動きを把握するための能力だが、これを応用して敵と味方がどこにいるかおおよその場所がわかると言うわけだ。


「なぁ……本当に知らないのか……?」


「知るか」


まあ知っていた所で教えるわけではない。

ずっといなくなるのはめんどうが増えるので困るが、今の所死にそうではなさそうだ。

ならば俺様はこいつらが慌てふためくのをもう少し鑑賞していようではないか。


いくら子供とは言えこいつらはある程度の教育をシスターから受けている。

なんとか知恵を振り絞ろうにも帰結はこの教会から出るなと言うシスターの教えが邪魔になっていた。

だがそれ自体は正しい。

大人ならまだしも、クソガキが何人集まろうが大人には勝てない。

しかも相手はおそらく武器を所持している。




最初こそ混乱具合を楽しめたが、それもすぐに飽きてしまった。




早々に飽き、寝室にでも戻ろうかと思った時だ。

俺様の前に涙を拭き、少し目を腫らしている那覇が立ち塞がった。


「遼平」


「なんだクソガキ」


「……今までの事……謝るからさ……だから……知恵を貸してくれ……。お前なら…遼平ならどうにかできるんだろ……?頼むよ……」


今更謝罪をした所で俺様の気分を変えられると思ったら大間違いだ。

と、思ったが那覇は言い終わると地面に座り、頭を擦り付けた。

それを見て葉月も走り寄り、那覇をまねて土下座をする。




滑稽だ。




だがクソガキにしては礼儀をわきまえている。


藁にもすがる思いなのだろう。

俺様にひれ伏す奴は嫌いじゃない。

自分のプライドを全て投げうって俺様に助けを求めているのだ。

普通ならいくら頭がよかろうが何の意味もない。

せいぜい勇敢に立ち向かって犬死が増えるだけ。




だが俺様は【悪名高いロキ】様だ。




「……めんどくせぇ。那覇、葉月、ついてこい」


俺様は早足に教会を出た。

二人は少し躊躇いがあったようだが、早々に決意を固めて俺様の後を追ってくる。

だが何も語らず、ただ森に進んでいく俺様を見て不安になったようだ。


「ちょ、ちょっと待てよ……どこ行くんだよ……」


「助けに行きたいんだろ」


「でもどこにいるのかもわからないんじゃ……」


「場所ならわかる」


「はぁ!?なんでだよ!やっぱりお前が―――」


「信じるも信じないもお前達次第だ。俺は場所を知っている。その理由にいちゃもんつけるなら俺は知らん。当然二人は助からない。それだけの話だ」


「ぅぐっ………」


那覇は葛藤しながらも俺様についてくる。

意外と冷静なのは葉月の方だった。


「那覇、ここは遼平の言うとおりにしよう。私達にわからなくても遼平なら考えがあるんだよ」


冷静さは買うが、根拠もない俺についてくる無謀さはただの馬鹿だな。

だが葉月はそれでいいのだろう。

俺様は目的地に着く前に足を止めた。

確認しておかなければならないことがあるからだ。


「ところで。助け出したいって言うからには相応の覚悟はあるんだろうな」


「覚悟?」


不思議そうな目で尋ねたのは葉月だ。

那覇も意味は理解していないようだった。


まあ何もわからないガキに期待しても無駄か。

本来ならもう少し先にしようと思っていたんだが。


「わからないならそれでもいい。だがお前らは俺様の眷属になれ」


「なにそれ?」


「けん…ぞく……?」


眷属なんてものがわかるはずもなく、混乱する二人。

逆にわかっていたらそれはそれで罵倒が飛んできただろう。

だがこれは俺様にとって必要な儀式だ。

わからずとも確認を取らなければならない。


「なるのか、ならないのか。早く決めろ」


「な、なるよ……」


「シスターと椿を助けられるなら私もなる!」


半強制的だがこれでいい。

後は椿か。

この三人は俺様の眷属候補だ。

神と眷属候補は惹かれあう。

この地に俺様が捨てられたのも因果なのだろう。


今後この三人には俺様と一緒に悪事を働いてもらうつもりだ。

その為の布石。

半強制的でも本人の意思なしでは眷属にできない。






それからすぐに目的地にたどり着く。

それは俺様が寝泊まりしていたボロ小屋だ。

改めて見ると今にも壊れそうだが、何らかの力が働いているのか壊れる気配は一切ない。


おそらく相当昔に神の関係者が建てた物だろう。

遥か昔では神の社だったのかもしれない。

だが今はそんな事どうでもいい。


中には縄で縛られたシスターと椿。

ご丁寧にさるぐつわ付きだ。

その近くに三人の男。


おそらく強盗でも生業にしているチンピラだ。

身代金だの教会の金だのと騒いでいる。

現在は無事なようだが、今日の夜には強姦にでもあっているだろう。

衝動的に攫ったようで、昨日はそこまで余裕がなさそうだった。

なぜ知っているか?

ボロ小屋と教会の距離ならば俺様は盗聴くらいできる。

こんなひっそりとした山でなければ雑音がひどいが。


俺様は軽く中の様子を伺うと隠れるわけでもなく正面から扉を堂々と開けた。


「あ?なんだ?ガキが三人?」


「二人を助けにきた勇者御一行ってか?ぎゃっはっはっは!!」


開けた瞬間は警戒した三人だったが、開けた者が子供三人とくれば緊張も一瞬で解けたようだ。

やいのやいのと言っては笑っている。


「お、おい、大丈夫なのかよ」


「遼平ならこんな奴らちょちょいのちょいよ!」


なぜ葉月が自慢気なのか。

そういう間柄でもなかっただろう。


「ちょっと黙ってろ」


普通なら何の抵抗もできずに終わりだ。

葉月が言うように簡単に事は済むが、それはそれでなんだか癪だ。

かといってこんな俗物と血肉湧き上がる死闘を演じるつもりはない。

俺様の領分でもない。

そういうのはどこかのオーディン様がやってくれる。

俺様は狡猾で傲慢なロキだ。


「笑ってるとこ失礼するぞ」


ぎゃはぎゃはと笑っていた強盗を一瞬ですり抜け、椿を掴む。


「「「あっはっは!……はぁ!?!?」」」


その場の全員の注目が集まる。

驚きの表情と何が起こったのか理解できないと言う顔で口をぱくぱくさせている。

そんな中でも一番に動いたのは短剣を持った一人だった。


「て、てめぇ!何しやがった!」


乱雑に振り下ろされる短剣。

だが一瞬で小屋の入り口から内部まで移動できる俺の動きを追えるはずもなく、俺様は椿を掴んだまま短剣を避けて入り口に戻る。

さすがの俺様でも今の身体では一人が限界だ。

せめてシスターではなくクソガキの一人だったらなんとかなったかもしれないが。


「す、すげぇ……」


「ほら!遼平はすごいや!」


驚きの表情の那覇と純粋に喜ぶ葉月。

さすがの俺様も葉月の言動に戸惑いを感じるが、今はそれどころではない。

さっさとシスターも連れて教会に帰る。

扉さえ閉じてしまえば安易に中に入ってはこれないだろう。


「おい、感心してないで椿の縄をほどけ。動けないままだと教会に戻れないだろ」


「わ、わかった!……くそっ!かてぇ!!」


「任せて!!」


子供の握力で縄をほどくのは大変だろう。

シスターの縄もほどくのを考えると少しはこいつらと遊んでやらないといけないな。

少しくらいなら痛めつけても文句はあるまい。

そう思った時だった。


「なんだ……これは………」


強盗達は俺の人間離れした動きにビビって動けないでいた。

俺様の後ろでは那覇と葉月が椿の縄をほどこうと必死だ。

俺様に危害を与える存在はいなかったはず。




じゃあなぜ俺の腕は切れている。




縦一直線。

傷は深くはない。

だがそもそも俺様に人間の刃物で傷をつけられるわけがない。

それどころか傷が癒える様子もなく、さらには身体から力が抜けていっている。


「神殺しの神器っ……!」


神殺しの英雄。

そう呼ばれるものがもつ神器。

神や一部の英雄は固有の神器を持って転生する。

だが、神殺しの英雄が使う神器の一部は使用者と共に消えず、世に残る。

そのほとんどが神に対して有効な武器で、防御結界や守護をやすやすと切り裂く。

しかも先ほどの短剣は一定距離なら必中の短剣だろう。


本来なら武器で応戦するところだが、俺様には神器もない。

一定の距離で振り回されるだけで俺は簡単に死に至る。

そんな物をなぜ強盗のチンピラ風情が持っているのか。


簡単だ。


世の中に残っている神器は美術品として納められている。

どこかで盗み出してきたに違いない。


「一旦引くぞ。事情が変わった」


神殺しの神器を持っているのは想定外だ。

俺様は今死ぬわけにはいかない。

いや、こんなつまらないやつらに殺されてたまるものか。

残念だがシスターは見捨てる。

椿だけでも助けてやったんだ、文句は言わせない。


「待てよ!シスターがまだっ―――」


那覇が叫ぶのは予想通りだ。

だが椿さえいればこいつは言う事を聞く。

この状況を判断できない椿でもないだろう。


「後で助けに来る。今は―――」


適当な理由でも引ければ何でもいい。

俺が移動に使える力を失う前にこの場から撤退しなくてはならない。

その時だった。




シスターのさるぐつわが外れた。






「皆!逃げて!!早く!!!!」







シスターが言う言葉など予想していた。

あの慈愛に満ちたシスター様だ。

子供の事を考えてそういうだろうと。


だが、自分の身の危険も、この後自分がどうなってしまうかも。

おそらく彼女は何もかもわかっている。

わかったうえで言っているのだ。

ただの偽善。




そう切り捨てられたら。






はらわたが煮えくり返る。











俺様はそういう言葉がこの世で一番嫌いだ。
















この世の人間と言う生き物は、やれ他人に優しく、やれ他人の事を思いやれと言うくせに、本心では自分が一番大事なのだ。
















無償の愛など他人に向けることはできない。

それは親であっても簡単ではない。

















自分の危機的状況でそんな言葉を本心で言ってしまえる奴が。





















この世で一番大っ嫌いだっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!





















「……………おいガキども。覚悟を見せろ」


ようやく椿の縄がほどけた所だった。

今ならまだ逃げることができる。


「何すればいいの!」


一番に食いついてきたのは那覇だ。

この中で一番感情的なんだろう。


これは一種の賭けだ。

布石は打った。


状況の利はまだこちらにある。

相手は短剣の事など気づくはずもなく、たまたまかすった程度にしか思ってないだろう。


「ガキども、俺の血を吸え」


「え……な、何言って―――」


「いいから黙って言う事を聞け!!」


さすがに感情的になれても理解が追い付かないことには反応ができない。

人としては当然だろう。

だがチャンスは今しかない。

俺の腕からはとめどなく血が流れている。

三人が俺様の血を吸うのは至極簡単だ。


だが【三人が同時に自分の意志で俺様の血を飲む】事が俺様の眷属の条件。

ロキの、いや、ロキの眷属の特異性。


可能性としてはその場で眷属にする事は考えていた。

だが状況は切迫している。

今この瞬間でなければならない。


「はむっ!」


俺の手に甘噛みするように食いついたのは椿だった。

理解が追い付かなくても、俺の事を信用して俺の指示に身をゆだねたのだ。

この中では一番状況対応力がある。


「椿!?よ、よくわからないけど…えぃっっ!!」


その次に嚙みついたのは葉月だ。

特に考えはないだろうが葉月はそれでいい。

貴様の領分は思考ではない。


「なんだよ……なんなんだよ!!わけがわからねぇよ!!」


二人だけでは意味がない。

那覇は状況に理解が追い付かなくて行動に移せないでいた。


強盗の三人は子供がわけのわからない行動をして笑っている。

シスターは未だに逃げろと叫んでいる。


今しかない。

油断している今しかないんだ。

せいぜい笑うがいい。

契約してしまえば笑うのは俺様達だ。


「那覇!!」


俺の呼びかけに震える那覇は、それでもシスターを助けたい思いからか震える身体を抑えた。


「も、もうどうにでもなれっ!!」


がぶりと渾身の力で噛みつく那覇。






これで三人だ。






俺様は普通の神ではない。

天界の神の基準で言えば神ですらない。

それ故に特殊。

それ故に異質。


俺様の眷属契約はこの方法でしか結べない。

だがそれなりのリターンもある。






俺様の眷属は、そこら辺の神に負けない固有能力を発揮する。






「契約完了。行け、我が下僕達」






真っ先に飛び出したのは人狼に変わった葉月。

名は【フェンリル】。

気高き狼にして強靭な体と速さによって敵をなぎ倒す。


「ひぃっ!?狼!?なんでいきなり!?」


足元には白く大きな大蛇になった那覇。

名は【ヨルムンガンド】。

その巨躯と無数の白蛇、そして神にも劣らない幻術で敵を翻弄する。


「うわぁっ!!蛇だ!!やめろ!!来るなぁ!!」


そして静かに佇む亡霊と化した椿。

名は【ヘル】。

黄泉の軍団、さらには無限とも思える冥界へと誘い、敵を死に追いやる。


「ひょぇぇぇ!?幽霊!?幽霊が出た!?」


強盗はそれぞれに叫びながら小屋を出ていく。

実際に彼らに危害を与えたわけではない。

だが、俺様の眷属は顕現した時点で普通の人間なら逃げ戸惑う。

仮に逃げずに戦っていてもただの人間風情では神殺しの神器を持っていようが勝利は揺るがない。


「すごい!なにこれ!!もっふもふ!!」


「俺なんて蛇になっちまったぜ!どうだこのツルツルボディ!」


「この力って……」


三者三様の感想だ。

ヘルに関しては感情が表現できなくなるためにわかりづらいが。

俺様は賭けに勝った。

だがもうここにはいられない。


化物となり果てた子供達を見ればあのシスターも平常心ではいられないだろう。

自分の育てた子だ。

尚更この現実は受け入れがたい。


愛情があればあるほど、自分の理知の存在になったものには忌避感を示す。

時間をかければその姿に慣れるものもいよう。

だが、俺様はこいつらに秘密を知られた以上今の教会で過ごすつもりはない。


怯えたシスターとこいつらの仲を取り持つ?

はっ!ありえないな。

最低限の縄だけほどいてこの場は撤収―――


「みんな……ありがとう……」


いつの時代も俺様の思う通りに事は運ばない。

シスターは少しの忌避感も見せず、化物に成り果てた子供達に慈しむように触れた。


くそくだらねぇ。


どこにでもあるハッピーエンド?


こんなのは俺様の望んでいた結末じゃねぇ。


心底気味が悪い。

俺様の出会ってきた人間に、こんなやつらはいなかった。

聖女と呼ばれた人間ですら……。






俺様が……最初にあっていたのがこんな人間だったら……。






楽しそうにシスターと話す三人。

化物になったと言うのにそれを自慢して見せるなど。


認めたくない光景。

かつて【ロキ】が求めていた、物がそこにはあった。


だが、もう遅い。

遅いんだよ。

俺様には………………。
















こんな光景、くそくらえだ。
















ぱしゃ。

水が破裂するような音が響いた。

正確には水たまりの中にロキが倒れたのだ。

自身の血でできた水たまりに。


この程度では神であるロキは死なない。

だが、神殺しの神器の傷跡は今のロキにはすぐに回復できるものではなかった。

普通の人間なら出血死だろう。

それはロキにとっても、気を失うくらいの重症。


眼を閉じる直前。

彼の元へ必死に向かってくる四人の姿が見えた。

それを見て彼が発した言葉は、


「気持ち悪い」


の一言だ。

その言葉の本意を知る者も、その言葉に気づけた者もそこにはいなかっただろう。











◇◇◇











「………教会か」


目が覚めた。

日付は一日が経ったあたりか。

輸血の必要もなく、それを知ってか否かただそこに寝かせられていただけだろう。

だが近くにはうっとしいほどに抱き着いている三人がいた。

これでも看病をしてくれていたことがわかる。

馬鹿な奴らだ。


三人の姿は人間に戻っており、化物だった面影もない。

俺様の眷属の姿は兵装ではないが、それに近しい部類の物だ。

兵装は自身の投影イメージだが、俺様の眷属は人狼、大蛇、亡霊と決まっている。

本来の兵装であれば眷属の能力に比例する部分が強いが、ロキの眷属の能力はおおよそ一緒だ。


自身の姿を改変するからこそロキの眷属は無類の強さを発揮する。

だがその本質は改変であり、改変できるという事は元の姿に改変することも可能。

兵装とは本質的には違うが、似て非なるものと言える。


「あら、起きたのね。それにしても大した回復力。一応お医者様にも見て頂いたんだけど……少し衰弱してるだけって言われちゃったわ」


「ちっ。余計な事を」


「せっかく遼平君が私達を助けてくれたんだもん。一番の功労者に死んでもらっては悔いが残るわ」


にこやかに微笑むシスター。

三人がうっとおしくて気づかなかったが、ベット横の椅子でシスターも看病していたのだろう。

このシスターが俺の力に驚かないのはもうわかりきっていた。

目の前で化け物になった子供を本気で慈しむような奴だ。

今更俺の力で驚きはしないだろう。


「………聞かないのか?」


「教えてくれるの?」


「教えようが教えまいが、普通は目の前で理解不能な人知を超える物を見たら聞くのが普通だろう」


「教えてくれるなら私は聞きたいわ。でも世の中って不思議な事がいっぱいあるもの。それがたまたま遼平君だった。そうでしょ?」


どこまでも気持ち悪い女だ。

どういう教育で、どういう考え方や人生を送ればこのような人間になるのだ。


「ねぇねぇ遼平君。私もすごい力が使えるようになったりするのかな?」


眼を少し輝かせながらこちらを見つめてくる。

聞かないが興味はある。

という事なのだろう。


「残念だが無理だな」


「そっか……残念……」


本当に心底残念そうだ。

仮に力が使えたらこのシスターはどうするつもりなのだろうか。

子供達に見せた所でそれはもうシスターではなく魔女だ。

この女の真意がだんだん読み取れなくなってきた。


ありふれたような、私がこの力で皆を守る!

とかであればよかったのだが、このシスターは本心から興味本位で化け物になれたら楽しそうだとか考えているのだ。

わけがわからない。


「んー………あ……遼平!起きたの!」


葉月が起きた事により他の二人も起き上がってくる。

口々に心配をしてきたりあの力はなんなのか聞いてくる。

これが普通の反応なのだ。


「やかましいやつらだ」


「遼平、本当にありがとう」


椿はシスターに似た微笑みで笑う。


「俺からもありがとう!遼平って凄かったんだな!」


眼をキラキラさせるのは那覇だ。


「へへん!遼平はすごいでしょ!」


だからなんで葉月が得意げなんだ。


ここは暖かい。

だからこそ、俺には居心地が悪かった。


「慣れあっているところ悪いが、俺様には不要だ。今回の記憶は消させてもらう」


「えぇ!?なんで!!私あのもっふもふ好きなのに!!」


「そうだよ!俺もかっこいい蛇になりたい!!」


「なんで消さなきゃいけないの?やっと仲良くなれたのに……」


「うるせぇガキども。そんな甘い世界じゃねぇんだよ」


今の俺様にとって眷属を手放すのは痛手だ。

眷属の力さえあれば今すぐここを出ても何の不自由もなく暮らせる。

だがそれを許せば俺の根幹が揺らぎそうなのだ。


「もしかしてここを出ていくつもりなの?でも急に遼平君が居なくなったら皆びっくりすると思うなぁ」


「んなもん記憶を消すんだ。なんも問題ねぇ」


「じゃあなんでそれを説明するのかな?私、それを説明するって事は理由があるんだと思うんだけど」


「………ちっ」


このシスターは無駄に鋭い。

本当は女神か何かの生まれ変わりなのではないだろうか。

いや、神の方がもっと腹黒いか。

このシスターは全てを察したうえで俺と皆の為にここに居て欲しいと思ってるのだ。

どこまでもいけ好かない。


もちろん俺様が説明したのは理由がある。

ただの優しさなどではない。


眷属になった者はもちろん、深い繋がりをもってしまった相手の記憶は完全には消えない。

むしろ全く消えないという事もある。

記憶が消えると納得したなら、その状態から消すことは可能だった。

俺様達の理では本人の了承というのは色んな面で関わってくる。

それをシスターは封殺したのだ。

忌々しい。


「わかった。しばらくはここにいてやる。でもいずれ俺はここを出る。その時は知らないからな」


「えぇ、わかったわ」


それぞれが歓喜してはしゃぎまわる。

まだまだこいつらは子供だ。




◇◇◇




子供と言うのも重要な要素だ。

シスターはともかく眷属になった三人は今だから記憶が消しやすい。


「俺が素直に言う事を聞くと思ったか馬鹿共め」


俺様はその日の夜にこっそりと教会を抜け出した。

今の状態でも多少の記憶は消えるだろう。

本人がいないのであれば時間と共に諦めもつく。

俺様が完全に力を取り戻してから消しにくれば何の問題もない。


「せいやー-----!!!!」


「っが!!」


教会から去ろうとした瞬間、後ろから強烈なタックルをくらった。

俺様はタックルしてきた張本人と一緒に教会前を激しく転げまわる。


「一緒にいるって言ったじゃん!!」


予想通り、タックルをかましてきたのはフェンリルになった葉月だ。

葉月の眼は潤み、今にも泣きそうだった。

これが俺様じゃなかったら確実に相手は死んでいたぞ。


「くそめんどくせぇな。なんで起きてんだよ………」


がっしりとフェンリルの腕で抑えられているが、さらに体には無数の蛇がまとわりつく。

その中にはひときわ大きい大蛇もいた。


「行くんじゃねぇよ!このヘタレ野郎!」


大蛇はもちろんヨルムンガンドになった那覇だ。

ヨルムンガンドは幻術でステルスされた蛇を使い、隠密行動や情報収集を得意としている。

おそらくは俺が出ていくかもしれないと思って見張られていたんだろう。


「私もいるわよ」


どこからともなく黒ずくめの亡霊が現れる。

ヘルになった椿だ。

その声と同時に周りの地面から骨の手が生え、俺様の身体をがっちりと固定した。

ヘルの力は夜になると増す。

正確には暗闇であればヘルはその力を最大限に引き出せる。


先に眷属の力を奪っておけばよかったか。

今更後悔しても遅い。

それに一度契約した眷属契約を簡単に破棄できないのも俺様はよく知っていた。


「皆、遼平君が大好きなのよ。いっつも愚痴を零していたのは遼平君の事なんだから」


教会からシスターがゆっくりと歩いてきた。


「「「シスター!!」」」


三人は恥ずかしいのか一斉に叫んだ。

感情表現の乏しくなっているヘルですら今はその感情が読み取れる。


そんな事、俺様が知らないわけないだろ。


「ねぇ、遼平……本当に出ていくつもりなの?」


うるんでいた瞳からはついに一滴二滴と涙が溢れ出ていた。


「俺様はお前らと違う存在なんだ。俺様は悪名高きロキ。いわゆる神だ。悪いほうのな。………何もかも、お前らと違うんだよ」


「神様なら私達を守ってよ!また昨日みたいなことになったら誰が助けてくれるのさ!!」


「……そんなのは知らん。自分達の身ぐらい自分たちで守れ。俺様は人間風情を守るうんぬんとは程遠い神なんだ」


「でも昨日は助けてくれたじゃん!!」


「………それは気まぐれだ。神は気まぐれな物なんだ。お前らの信じてる神とも違う。俺は人間を助けない」


「気まぐれでいいから私達のそばにいてよ!………私達、遼平の下僕なんでしょ……?」


ボロボロと泣き崩れ、俺様を引き留めようとする少女に、俺様は何を言ったらいい。

何と答えたら………納得してくれる。


だがその答えは出ない。

俺様が生きてきた世界に、こんな奴らは存在しなかったのだ。


「………お前らは………俺様の下僕でいいのか」


「「「いい!!」」」


三人が口をそろえて叫んだ。

俺様にはその光景さえも眩しくて。


「はぁ……めんどくせぇ。わかったからのけ。今度はいなくならない。神に誓う」


「神様なのに神に誓うだって。ぷぷ」


こいつハブ酒にでもしてやろうか。


だがこれがこいつらなんだ。


「なにもおかしくねぇよ。だってここは教会だ。教会は神に祈るもんだろ?神に噓をついたら天罰が下るからな」


天罰など怖くはない。

だがしかし、今の言葉に嘘はない。

もう少しくらい、こいつらとつるんでみてもいいと思えた。

いや、思っていた。




俺様も甘くなったもんだ……。





















今世はここから始めよう。




俺様の、いや、俺様達の。




世界を震撼させる物語をな。











ヴァルハラ外伝 ロキと眷属


    ―完―



どうも零楓うらんです。

ヴァルハラ外伝1 ロキと眷属、いかがでしたでしょうか?

ロキの事がより深くわかっていただければ幸いです。

ロキはどこまでいってもロキ。

こういう存在なのです。

少しでもロキの事をわかった気になったそこのあなた?

そんな気でいるとロキにゴミを見る目で分かった気になるなと言われてしまいますよ?


という事で外伝でした。

以降も章の最後に外伝が入ります。

いろんな話を掲載予定ですが、次の外伝もロキの話になります。

今回の続きから一章の裏側、ロキ目線でのお話です。

ロキを好きになった方は楽しみにお待ちください。

それでは次の章で会いましょう。

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