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ヴァルハラの戦神  作者: 零楓うらん
第三章 【桂木悠真】
15/20

五幕【暴走の果てに】

【前回のあらすじ】

精神の限界が来て、理性を保てなくなっていた悠真とありす。

落ち着かないといけないと冷静になろうとするが、状況は二人を待ってくれない。

千里に補足され、なんとか逃げ延びる事には成功する。

だが、逃げた先で悠真の暴走は始まって……。



◆◆◆




「くそ、遅かったか……」


ヘルメスを食い止められなかった俺はすぐに冥界にやってきた。

冥界へのゲートに魔法をかけられ、解除に時間がかかってしまった。

なんとかやってきたのはいいものの、ヘルメスの姿も見当たらない。

すぐには悠真達にたどり着かないだろうと踏んで、俺も悠真達を探した。

だが見つけるのはヘルメス達の方が早かったようだ。


遠くで戦闘音と火花が散っているのが見えた。

そこにヘルメスと千里、そして悠真が戦っているのが見える。

その様子から悠真は暴走している状態だとわかった。


「ヘルメスの予測もあてにならねぇな……いや、この状況下でそれも狂ったか……」


ここまで長引く予定はなかった。

だがヘルメスを抑え込むだけで今の俺らには精一杯だ。

実力差がありすぎる。


悠真の暴走まではヘルメスの予測でもまだ少しかかる予測だったが、そもそもの原因がわかっていない以上ヘルメス達も無理に刺激をしてこなかった。

いつこうなってもおかしくはなかったんだ。


「戦っているのは……悠真だけか……ありすはどこだ?」


ある程度近くにいればありすの気配は辿れる。

自分の中にあるありすの気配を辿った。


あまりにも薄い。


「まさか………」


ありすの方角へ俺は一目散に飛び立った。

そこには洞窟があり、ありすは横たわっている。

ありすの物と思われる血だまりの中で。


「ありす!!!!」


急いで駆け寄って状態を見る。

ありすは俺に気が付いたのか、うっすらと目を開けた。


「悠真を………………助けて…………………」


その言葉を残し、ありすはまた目を閉じてしまう。

このままでは確実に数分で死んでしまう。


「死にゆく体の時を操りし万物の知恵よ。我が盟友に力を貸したまえ。求めるは不滅の体。死して生きゆく永遠の命。悠久のその彼方、永遠の時を力に望まん。黄昏の中に思うは来世への絶望。世界の終りに残るは不滅のその体。時空を歪めしその力で此方の時を止めん。解放せしれり神の力。秘術【悠久の黄昏の君】」


悠久の黄昏。

本来は自分の命を凍結する為に開発した魔法だ。

他人に使う為に作られていないため、これでありすの命は救えない。

だが、今のありすの身体の時を止めることくらいはできる。

この状態でフレイヤに見せればギリギリ治療は可能だろう。


「問題は悠真か……」


上空ではすでにヘルメス達と悠真の戦闘は始まっている。

万が一にも悠真が勝てる見込みはない。

今の状態の悠真をヘルメスが生きたまま捕獲するとも考えにくい。


悠真を助け出せるのは俺だけだ。

何もヘルメスに勝つ必要はない。

今の俺にそんな力はないからな。


だが悠真を助ける方法はある。


手には一本の木でできた八角柱が握られていた。

俺の手の中に納まってしまうほどの小さな物だ。

これがあれば悠真を助けられる。


俺は決意と共に八角柱を握りしめ、空高く飛び立った。






挿絵(By みてみん)

―ヴァルハラの戦神―

三章 五幕【暴走の果てに】






「私の計算違い……それともこれもイレギュラーのなせる業なのでしょうかねぇ」


「ヘルメス様、もうこの者は助かりません。討伐の許可を」


「そうですねぇ。この方には悪いですが、そうさせてもらいましょう。千里だけでは厳しいでしょうから私も加勢します。任務変更、拘束から討伐へ」


「了承」


ヘルメスと千里の声が聞こえる。

あの二人の役割は神にあだ名すもの、神同士の戦いの鎮圧、今回のようなイレギュラーの制圧、解決だ。

それだけの事が行える権力も武力もあいつらは持っている。

もちろん神だって殺すのは厭わない。

今の悠真は神堕ちで暴走し、かなりの力を手にしている。

だとしてもあの二人には勝てないだろう。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


悠真が吼え、ヘルメスへ向かっていく。

今の悠真に理性などはないだろう。

千里は足を兵装し、ヘルメスは大鎌の武器を構える。


あの大鎌はヘルメスの神器の一つ、ハルパーだ。

ハルパーに斬られたものは問答無用で命を刈り取られてしまう。

そんな事も知らない悠真は一直線にヘルメスに向かって行ってしまう。


手にはありすを刺したであろう、赤に染まるグングニルを携えて。


「悠真!!!駄目だ!!!」


「オーディン、追ってきたのですね。でももう遅いですよぉ。この者はもう助かりません。邪魔をしないでもらいたい」


千里が悠真をいなし、ヘルメスが一撃で終わらせるだろう。

悠真の攻撃も相当に早いが、速度で千里の蹴りに敵うわけがない。

悠真の攻撃は空振り、千里に足で弾き返される。

今にも止めなければヘルメスは決着をつけてしまうだろう。


「ヘルメス!!話がある!!」


「私にはありませんねぇ」


ヘルメスは俺を無視し、悠真に斬りかかる。

悠真は本能でハルパーを危険と察知したのか、すんでの所で攻撃を避けた。

2対1でも不利なのにヘルメスの一撃は必殺の一撃だ。


「くそっ……」


今の俺では今の千里にすら敵わない可能性がある。

千里の靴はヴァルキュリアの靴。

ヘルメスのタラリアと言う神器の模倣品だ。

攻撃にも防御にも優れ、一番の特異性はその速さにある。

移動速度も攻撃速度もタラリアを抜くことは難しい。

そもそもヘルメスの持つ神器は全てがチート級だ。


だからと言ってここで見ているわけにもいかない。


「兵装!スタイル、ヴァルハラ!!」


青い騎士服、だが鎧の類はない。

片手には神器グングニル。


「そんな兵装で勝てると思ってるんですか?随分と余裕ですねぇ」


「ヘルメス様。通常の兵装を封印したのは私達ですよ」


「そうでしたそうでした。あの時は本当に手を焼かれたものです」


悠長にこちらに語り掛ける余裕があるヘルメス。

俺にはそんな余裕はない。


「だがそれでも、俺はお前らを止めなきゃならねぇんだ。オーディンの実力、また見せてやるよ」


自分への意気込みでもあった。

兵装は自身の強い意志にも反応する。

俺が強く思えば、この兵装でも少しは力を引き出せるだろう。


悠真:俺:ヘルメス達、1:1:2の構図だ。

悠真に理性がない為、悠真は俺すらも攻撃してくる。

グングニルでそれを防ぎ、その隙を狙った千里の蹴りを間一髪で回避。

千里はそのまま悠真に蹴りかかり、悠真は怯んだ。

そこにヘルメスが追撃をかける。

だが俺はそれを阻止するためにグングニルでヘルメスを攻撃する。


完全に乱戦だ。

最終的には体力勝負にもなってくるだろう。

だが、俺の目的は一旦でも戦いを止めることだ。

ヘルメスと交渉できればそれでいい。


おそらくヘルメスはその交渉に乗ってくる。


「しぶといですねぇ。さすがは神堕ちと言った所でしょうか」


「それよりもヘルメス様、ここはあの邪魔なオーディンを倒してしまうのはどうでしょうか」


これはチャンスだ。

俺に集中するという事は悠真を大威力の魔法で引きはがそうとするだろう。

ヘルメスとの交渉はここしかない。


「来なさい、ケーリュケイオン」


ヘルメスはハルパーから大杖のケーリュケイオンへと神器を変える。

あの杖はゼウスの許可した魔法を無制限に繰り出せる杖だ。

だがゼウスの許可がなければ杖を取り出すことすらできない。

逆を言えば今回の戦闘に許可が下りているという事だ。


「千里、援護頼みましたよぉ」


「承知しました」


千里が悠真の注意を引き留めるために攻撃を仕掛ける。

俺はその様子を一旦見ている事にした。


「おや?あなたは下がるのですか?この技であの者が死んでしまうかもしれませんよ?」


杖からバチバチと音を鳴らす。

本来大型魔法には長い詠唱や準備が必要だ。

だがそれすらもあの杖は短縮できる。


「今の悠真がそれで死なないことくらいお前が一番わかってんだろ」


そうでなければハルパーなど出してこないはずだ。


「それはごもっともですねぇ。あなたの考えている事がいまいち読めませんが、邪魔をしないというのなら結構。では行ってみましょうか。詠唱省略、奥義【天の御霊・雷神招来】」


冥界の紫の色の空に、出来るはずのない黒い雲が集まってくる。

雲はすぐに俺達の上空にとどまり、一つの大きな塊となると、大型の雷撃がいくつも悠真に降り注いだ。

その全てが当たったわけではないが、悠真はその威力で地面に落ちていった。


「それではオーディン。あなたから対処させていただきますよ。心配しなくても命まで取るつもりはないので安心してください。それにあなたを殺すとなったら命がいくらあっても足りませんからねぇ」


ヘルメスの元には千里がすぐに駆け付ける。

今にも襲い掛かってきそうな雰囲気だが、俺は交渉ができればいいだけだ。


「お前らと戦う意思はねぇよ。俺がしたいのは交渉だ」


「交渉なんてできる余地があると思ってるんですかねぇ。今の彼を助ける方法なんてもうないのですよぉ?」


「方法ならある。これだ」


俺は懐から先ほどまで握っていた八角柱を取り出す。

真ん中には呪文がただ一言書いてある。

これの意味するところはヘルメスならわかるはずだ。


俺の予想通り、ヘルメスは笑っていた目元を驚愕に見開いた。

うつむき、モノクルを直しながら何事かを考えているようだ。


「あなた、それの成す意味をわかってるんですか?」


「もちろんだ」


ため息をつくヘルメス。

だがその表情は真剣そのものだ。


「ヘルメス様、あれは何なんです?」


「……後で千里にも説明しましょう。一旦引きましょう。ここはオーディンに任せます」


「ですが……」


「いいのです。あれはオーディンの覚悟の証でもある。その覚悟まで踏みにじるつもりはありません」


千里はわけがわからないという困惑の表情を浮かべた。

それも当然だろう。

この八角柱はヘルメスの眷属でも滅多に見ることができない。

そもそもこの存在を知っている物は神の中でもごく一部だ。

俺にとっても因縁がある代物。


ゆっくりとその場を離れ、静観の姿勢を取るヘルメス達。

俺は悠真の方に向き直る。

悠真は地上から俺達めがけて飛んできている最中だ。


ほどなくして悠真は俺の前にやってくる。

理性など残っていないだろうが、悠真はすぐに攻撃を仕掛けてくるつもりはなさそうだった。


「悠真、ごめんな。俺達はお前に謝らなきゃいけない。こんな苦難の道を歩ませる俺達をどうか許してくれ……。いや、恨んでくれてもいい。でもありすや君丈、縷々ちゃん達はお前の味方だ。だから恨むなら俺だけを恨めよ」


悠真に言葉は届いていないはずだ。


だが悠真は俺の言葉を聞くように留まっている。


悠真の瞳の奥に恨んだりするわけがないという意思が見えた気がした。


俺の願いかもしれない。


でも、俺は悠真に生きててほしいんだ。


どんな辛い道だとしても。


俺と同じ道を歩もうとも。


これは俺のけじめでもある。


歪んでしまった、いや、歪ませてしまった俺のけじめだ。


この歪んでいる世界に、歪んでしまった悠真の人生に。






どうか、幸あれ。






「行くぞゆうまぁぁぁ!!!これが最後の戦いだ!!!!こころしてかかれ!!!!」


「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


それに呼応するように悠真が叫ぶ。

どちらともなく俺達は攻撃を仕掛けた。


槍と槍がぶつかり合い、激しい金属音と火花が散る。

防壁など捨て去り、お互いの身体に傷がついていく。


グングニル同士のぶつかり合い。

そのぶつかり合う音が、悲鳴にも聞こえる。


悲しき運命への悲鳴だ。


俺と悠真の心の叫び。


そしてこれから歩む事になる苦難のファンファーレ。


「ゆうまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


俺と悠真は叫びながら槍をぶつけ合った。

お互いの全力と全力のぶつかり合いだ。

血が飛び交い、お互いのグングニルを血に染めていく。


戦いの最中、俺の身体には懐かしい感覚が沸き上がってくる。

これはヘルメスからの最後の贈り物と言った所か。


「感謝するぜ、ヘルメス」


俺は悠真を全力で引きはがし、距離を取った。


「解き放て、俺の記憶。今一度、俺に力を与えろ。兵装!!スタイルチェンジ!魔剣グングニル!!!」


槍を掲げ、俺の言葉に呼応するように槍は光に満ちていく。

俺の身体も光に包まれ、俺の服とグングニルは形を変えた。


服は羽織に袴。

手には一本の日本刀。


真の兵装。

昔、ヘルメスに封印された、本来の形。

俺の因縁とけじめの姿だ。


「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


悠真が俺に向かって突進してくる。

だがこの姿になってしまえば今までのような結果にはならない。


「うがっ?」


悠真の目の前から一瞬で背後に回る。

瞬間移動にも見える、俊足の移動。

攻撃を空振り、混乱する悠真に剣での一撃を加える。


「がぁぁぁぁっっっ!!」


呻き、振り向く悠真。

だがそこに俺の姿はない。

俺はまた背後から一撃を浴びせる。


「うぎっっっっっ!!!!」


三回目ともなると学習する。

背後に槍での攻撃を加え、警戒している。

だがその一撃も弾き返し、次は正面から一撃。


「うがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


痛みに叫ぶ悠真。

だがこれくらいで今の悠真が死ぬこともない。

神は神同士の戦いでそう簡単に死なない。


一撃。


さらに一撃。


何十回と悠真を斬りつけていく。

さすがに力を消耗したのか、動きが鈍くなる。

その隙に俺は力を溜めた。

それはすぐに満たされ、剣は淡く光り輝いた。


技名などはない。


ただの大振りの一撃。


剣を振り切ると衝撃波が起こった。


悠真を斬りつけ、さらには奥にあった山が吹き飛ぶ。


真正面からの最大威力の一撃。


だがこれでも悠真は死ぬことはない。

神の力で守られている悠真には斬り跡は付こうとも、身体が引き裂かれるほどではない。

しかしさすがにこの攻撃で身体の自由が利かないレベルにはなったようだ。

悠真は身体を痙攣させ、その場に留まっている。


もっと本気を出せば悠真を、神を殺すことも可能だ。

だがそれは俺が異常であるが故。

普通はハルパーのような神殺しの神器が必要だ。

これは俺が化け物となり果てている証明に他ならない。


戦局は決した。


俺の勝ちだ。




「すまんな……」




悠真に謝りながら八角柱を押し当てる。

八角柱はずぶずぶと悠真の身体にゆっくりと入っていった。

その全てが入り切ると、悠真の身体は輝きだし、兵装が解ける。

その体をしっかりと受け止めると同時に、ヘルメス達がやってきた。


「オーディン。後悔はないのですね」


「今更何を後悔しろって言うんだ?もう事は終わったんだよ」


「全くもってその通りですね……。またいつか会える事を期待してますよ……」


「お前は俺に会いたくなかったんじゃねぇのか?まぁまた天界に報告に行く。そん時に会えるさ」


「そう言う事ではないのですが……まぁいいでしょう。では、私達はお先に失礼しますよ」


少し残念そうにその場を立ち去るヘルメス達。

ヘルメスが言いたいことなんてもちろんわかっている。

だが俺の事もヘルメスはわかってるだろう。

これはきっと運命だったんだよ。




俺達は、こういう運命だったんだ。





















◆◆◆





















身体が軋む。

ここはどこだろう。

岩の感触はない。

しばらく洞窟の中で生活していたからその感触はよく覚えていた。

柔らかい。

これは普通のベットだ。

俺は夢の中にいるのだろうか。

目を開ければ全てわかる事か。


俺はゆっくりと目を開けた。


「ここは……また病院か」


つい先日も見た光景だ。

俺はまた病院に運び込まれたらしい。


「なんでここに……俺達どうなったんだ……」


記憶が曖昧だ。

ジークフリートの時によく似ている。

という事はまた暴走したのかもしれない。

だが今こうしてるという事は助かったんだろうか。


少しずつ順を追って記憶を思い出す。


俺達はヘルメス達に追われて。


冥界に逃げ込んで。


洞窟に隠れ住み。


ヘルメス達が現れて。


ありすの魔石で逃げ出して。


ありすが……………


「ありす……………ありす!!!!」


俺はありすとキスをした。

二人とも精神が限界でおかしくなっていたんだろう。

だがその後に俺は自分の意識が薄れていくのを感じた。

俺が最後に覚えている光景は、グングニルで貫かれたありすの姿だ。


急いで状況を、ありすを探さなくてはならない。

俺はベットを飛び降りた。

そこで、病室の隅に人が経っている事に気づく。

ありすかと思ったが、その人物は蒼だった。


「起きたか」


神妙な面持ちの蒼。

その近くにはありすはいない。

真剣で少し悲しそうな表情に、俺は悪い予感がよぎる。


「蒼………ありすは……」


「その様子だと少しは覚えてるみたいだな……」


蒼の口が重い。

いや、俺がそう感じているだけなのかもしれない。

その先を聞くのを俺は拒否しているのだろう。


「ありすはな……………あいつは…………」


やめろ。

やめてくれ。

その先を言わないでくれ。


「あいつは………………駄目だった…………」


「なっ………そんな…………」


俺は人一人を殺してしまった。

あんなに助けてくれたありすを。

俺はありすに恩返しもできないのか。

なんで、俺は……。


自然と目からは涙が溢れた。

頬を涙が伝う。

俺のせいで、ありすは……………。


「勝手に殺さないでくれる?」


いつの間にか開け放たれていた病室の入り口には病院服を着たありすがいた。


「んぇ……ありす……????」


「何よみっともない顔して。まんまと騙されてんじゃないわよ」


からからと点滴のついた棒を連れながら、俺の横のベットに座る。

蒼の方を見るとくすくすと笑いを堪える姿が見えた。


「おい、蒼。どういうことだ」


「どう言う事もないわよ!私は少しトイレに行ってただけ。戻ってきたら私が死んだみたいな話してるし。ほんと趣味悪いったら」


ありすはふてくされてベットに寝転がった。

蒼はこらえきれなくなったのか、大声で笑い始めた。

そのままベット横の椅子に腰かける。


「ひひひひ……すまんすまん………ぷっ……あはははは!悠真があまりにもありすありすって言うもんだからよ!少しからかいたくなってな!あははははは!!」


そんなにありすの名前を言っていないはずだ。

……多分。

横では聞いてないふりをしているのか、ありすが俺にそっぼを向いて寝ている。

その耳は少し赤い気がする。


「もう!いいからちゃんと説明して!悠真が起きたら説明するって約束だったでしょ!!!」


「いひひひ………わかったわかった」


ありすも事の顛末を聞いていないらしい。

なんにせよありすも助かっていたならよかった……。


笑いが収まるまで数秒かかったが、蒼は少し落ち着きを取り戻すと話し始めた。


「先に結論から言うとだな、おめでとう悠真」


「は?何が?」


唐突におめでとうと言われても何のことかさっぱりだ。


「お前は、正式に神として認められた。名を得たことによって神堕ちも解除された。今回の悠真の神堕ちは名が無い事での暴走だったからな。名を得たことによってお前は神堕ちから戻ってこられたわけだ」


「名を得たって……それって難しいって言ってたじゃねぇか。どうやって」


「細かい事はいいんだよ。俺が何とかするって言っただろう?」


確かに神になる方法は言っていた。

名を受ける事。

だがその場合神堕ちがどうなるかもわからないと言っていたはずだ。


「神になっても堕ちた事には変わりないんじゃなかったのか?」


「まあ状況が特殊だからな。さっきも言ったが、悠真の神堕ちは名がないせいで起きた症状だ。普通は起こりえない。だから名を与えて悠真も戻ったってわけだ」


そんな簡単な事だったのだろうか……。

あの時の蒼はもっと深刻そうな……。


「名を受けたって、悠真は何の神になったの?」


そうだ、そもそも名を受けたと言っても何の神なのかわからない。

俺は一旦神堕ちの事は忘れ、蒼の言葉を待った。

すると蒼はにっこり笑って―――


「オーディンだ」


と言った。


「ちょ、ちょっと待って……じゃあ優斗は!?」


神の名を俺に譲渡したのだろう。

すると問題は振り出しに戻る。

蒼に神の名が無くなるじゃねぇか。


「まあ今回の件は俺のせいでもある。罰として俺の方に下級の神の名が与えられたんだよ。誰も知らないような低級のな。いわゆる降格って奴だ。そしてありす、お前はオーディンの眷属、悠真の眷属だ」


「待てよ……蒼はそれで……」


「いいんだよ。じゃあそう言う事で、俺は神の下働きとしてやる事が沢山あるんだ。ここらへんで失礼するぜ」


「おい、蒼!!」


またもや俺の静止も聞かず病室を出ていく蒼。

俺とありすは聞かされた事実に唖然となっていた。


「なんなのよあいつ……今度一発殴ってやろうかしら」


「まぁ……あいつなりの決断なら俺は何も言えねぇよ。みんな助かったんだし、むしろ俺は蒼を手伝ったり礼をしないとな」


俺に何かを言う資格はない。

そもそも俺の名と蒼の名を交換してくれと言ってもそういうわけにもいかないだろう。

オーディンとなったせいか、軽くだが神の世界の常識が流れてきた。


「それより……ごめんな……」


「…………何がよ」


重苦しい雰囲気が流れる。

今の俺達はあの洞窟の後すぐにこの病室で目が覚めたような記憶の流れだ。

つい鮮明に思い出せてしまう。


「腹の傷……残ってないか?」


俺にはどんな状態なのかはわからない。

少なからず、俺の最後の記憶ではとても助かるような出血量ではなかった。


「あー……それは大丈夫。フレイヤが完全に治してくれたから。明日には全快してるわよ」


それはそれで病院にいる意味は何なのだろうとも思うが、前と同じで念のためなんだろう。

そうじゃなくても俺達は精神を限界まで減らした生活をしていた。

なにかしらのケアは必要なのかもしれない。


ありすの傷の件を聞いて俺もそれ以上は言うのをやめた。

あの日の出来事は今の俺にはどう触れていいかわからない問題だ。

先送りにはなってしまうが、俺とありすは契約関係の神と眷属。

これから言葉を交わそうと思ったらいくらでも交わせるだろう。


そして俺は本当の神となったんだ。

君丈や縷々、蒼と同じ神に。

まだその実感は沸かない。


だが、ここからが本当の俺のスタートなのかもしれないな。
















◆◆◆
















病室の扉を閉める。

俺はふぅと息をついた。

これでよかったんだ。

いや、これが運命だったんだ。


蒼希優斗はオーディンではなくなった。

その意味を成すところは………。


「後一週間か……」


長い旅だった。

本当に長く険しい旅だ。

ここがオーディンとしての終着点だったんだ。


まだ夏休みも残ってる。

悠真達とめいっぱい遊ぼう。

それくらいは許されるだろう。

許されなくても遊ぶけどな。





蒼希優斗は、少し寂しげな表情で病院の廊下を歩き始める。

最後に残された道を歩むために…………。






三章

 五幕【暴走の果てに】

    ―完―



どうも零楓うらんです。

なんとか助かった二人でしたが、なにやら蒼は一人神妙な面持ち。

今後二人は、そして蒼はどうなっていくんでしょうか……。


今ままでちゃんと戦う姿のなかった蒼ですが、初めてその実力を発揮しましたね。

その実力は圧倒的!

だがなにやら色々と秘密を抱えてそうです。

次からは第四章!

四章は少し休憩な回です。

そしてその前に外伝が入ります!

外伝では予告通り過去話や悠真達以外の話が主になります。

他のキャラクターたちも好きになってくれると嬉しいです。

第一個目の外伝はロキの話です。

謎多きロキの過去話!

この章でロキに親しみを覚えた人もいるのではないでしょうか?

是非外伝も、そして四章もお楽しみください!

それではまた次のお話で会いましょう。

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