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ヴァルハラの戦神  作者: 零楓うらん
第三章 【桂木悠真】
11/14

一幕【夏休みの始まり】

【前回のあらすじ】

悠真は謎の力に覚醒し、ジークフリートを打ち倒す。

暴走しようとする力もありすによって止められ、事なきを得た。

だがその力の正体は……。

悠真の日常はまたも変わっていくのだった。

「いやぁー学生ってのはいいなぁ!夏休み最高だぜ!」


「あんまりはしゃいでると先生に見つかって怒られるぞ」


ジークフリートの一件で寝ていた俺、桂木悠真は、次の日には病院を退院していた。

その二日後には終業式を迎え、俺達は夏休みに入っている。

今は幼馴染三人で遊んでいる所だ。


「先生なんか無視無視!俺らは学生を満喫するために生まれてきたんだ!ひゃっほぉーい!」


さっきからなぜか無駄にテンションが高いのは新庄君丈。

俺の幼馴染の一人で、最近俺が関わっている神様騒動の一因だ。

神の名はトール。

雷を操る雷神だ。


「君丈く~ん?そ~やって遊んでてもいいけど~、今回の宿題は全部自分でやるんだよねぇ~?」


おっとりとした話し方をするのは埜口縷々。

縷々も俺の幼馴染の一人。

縷々の中にも神様がいて、名はフレイヤという。

魔法が得意な神様らしく、この前の一件では助けてもらった。

ちなみに縷々は神の眷属的扱いで、フレイヤは縷々とは別の人格だ。

だが眷属であるはずの縷々がフレイヤの神器を使っていたり、俺にはよく知らないことがまだ沢山ある。


俺はこれからそこら辺をいろいろと知っていかないといけないだろう。

だけど今日くらいは君丈と一緒にはしゃいでいてもいいだろう。


「あの、ほら、皆で宿題やった方が楽しいだろ?これも夏休みのイベントの一つだと思うんだよ、俺は」


「君丈はいつも俺らに任せて寝てるだろ」


そんなこと言うなよ~。と若干うざいテンションで絡んでくる君丈をよそに、俺達は目的地のゲーセンについた。

最近はもう二人の面子とも遊ぶことが多かったが、俺達が集まって遊ぶ時はよくゲーセンに遊びに来る。

正直、この間はこのゲーセンから出る時から騒動に巻き込まれていたみたいで少し警戒してはいるが。


「あ、この前言ってたダンスのやつ設置してあるよ~」


この間は空きスペースになっていた場所には、ダンスで得点を稼ぐゲーム機が置いてあった。

正直かなり遅い導入なのだが、ここら辺におはなかった為か少し人だかりができている。


「すごいね~。あの人ダンスキレッキレだよ~」


踊っていたのは、いかにもスポーツが得意そうなポニーテールの女の子だった。

髪はそこまで長くないが、踊るのに邪魔だったんだろう。

耳にはヘッドホンをしている。

おそらく無線でゲーム機の音を聞いているんだと思う。

人が集まっているのは単にゲームが物珍しいだけじゃないようだった。

その子のダンスがとにかく綺麗なのだ。


「すご、パーフェクトだぜ」


つい感嘆の声を漏らす君丈。

その子は軽くちらりとこちらを見たが、次の曲を選び始めている。

俺達もそれを境にゲーセン内をうろつき、いろんなゲームをして楽しんだ。


俺達の夏休みは始まったばっかだ。






挿絵(By みてみん)

―ヴァルハラの戦神―

三章 一幕【夏休みの始まり】






次の日。

俺は蒼に魔術研究会に来るよう呼び出しを受けていた。

魔術研究会はロキという神様が自分の潜伏場所としてうちの学校、成神第一高校に勝手に作った部活だ。

ロキは俺が神様の一軒に関わる事になった要因の一人、いや、一神様だ。

正直、ほぼロキのせいであるともいえる。


縷々や君丈を襲い、何の力も持っていない俺すらも手にかけようとした。

蒼はロキに何かしらの思いがあるようで、温かく見守ってやってくれと言われたこともある。

だが、俺はまだロキの事を許したわけではない。

これからもこいつの事を許すことはないだろう。

だからと言って一方的にいつまでも敵視していてもしょうがない。

俺の中ではいったん保留にしてあるだけだ。


「それで?話ってなんだよ」


早々に本題に入ろうとする俺に、蒼は憎たらしい顔で指を振って見せた。


「まあそう急くなよ。悠真、あの後も身体に異常はないか?」


蒼樹 優斗。

通称、蒼

君丈や縷々と同じでこいつも神の一人だ。

昔から知っている君丈や、そもそも神じゃない縷々はしょうがないとしても、どうしてもこいつの事を神としては思えない。

そもそもきちんとした神様としての力を見ていないのもある。

一応はオーディンの名を冠した神で、グングニルという神器を持っている。

グングニルには相手の力を奪う能力があるようで、ロキ戦ではその力で乗り切ったと言っても過言ではない。

そもそもオーディンというのはかなり格の高い神様のはずだ。

だがしかし、それらを合わせても俺にはこいつがすごい奴だとは思えない。


「大丈夫だ。何も問題ねぇよ」


俺はジークフリートの一件で蒼から渡されたオーディンチップを使ってジークフリートと対決した。

その際に腕を斬られ、俺は意識を失ったのだが、どういうことか神の力に覚醒し、ジークフリートを討ち破った。

だがその後俺は暴走したようだ。


「優斗、結局あれの詳しい事はわかってないんでしょ?」


そんな暴走状態の俺を助けてくれたのがオーディンの眷属である姫野川ありすだ。

どうやって助けてくれたのかはなぜか未だに教えてくれない。


蒼の事を優斗と呼ぶのは蒼とありすは昔からの付き合いで親しい間柄だからだ。

むしろ俺も優斗、と呼ぼうと思っていたのだが、俺と蒼の名前は似ている。

ゆうまとゆうと。

蒼がそう呼んでくれと言ったので、俺や君丈や縷々は蒼と愛称で呼んでいるわけだ。


「あぁ。それについてはちんぷんかんぷんさっぱりの助だ」


意味不明だった。


「まあ悠真が何もないって言うならいいんだ。じゃあ本題に移るぞ。今日呼んだのは二つの話があるからだ」


もったいつけて話をする蒼の奥、魔術研究会の中にはロキが不服そうな顔で、いかにも社長が座りそうな椅子に座りながらこっちを見ていた。

その眼には「なんで、ここにいる。早く出ていけ」という意思が汲み取れるが、蒼には見えていなければ気にする様子もない。

というかそれに関しては俺の方が聞きたい。


「一つ目は悠真とありす、まあ俺もだが、お前らはこの魔術研究会の部員となった」


「うわっ!!」


俺とありすが驚愕の声をあげようとする前に、驚愕して椅子をひっくり返したやつがいた。


「ちょっと待てオーディン!そんな話聞いてないぞ!」


「あぁ、言ってないからな」


「言ってないじゃねぇ!てめぇ勝手に決めやがって!そもそもここは俺達の居城であって、お前達が自由にしていい場所じゃねぇんだ。それなのに会議室みたいに使いやがって―――」


ロキは蒼に抗議を続ける中、俺とありすは反応する機会を奪われ、困った表情で見つめあうこととなった。

ここに集められた理由はこれではっきりしたが、なぜに魔術研究会なのか。

そもそもここは正式な部活ではなかったのではなかったか。

それにここの部員になるというのはロキの一派に入れという事なのか?

蒼の考えが一向に読めなかった。


「ちっ。くそめんどくせぇ。だがな、お前らがこの魔術研究会に入るっている言うなら俺様の言う事を―――」


「まあ遼平君の事は置いといて、俺達は簡単に言えばこいつらの監視役だ」


ロキの話を遮り、それについてロキがまた講義を始めるが、もう蒼は聞いていない様子だった。

ちなみに遼平というのはロキの人間での名前だ。


「監視役ってこの間みたいにならないようにって事?」


ありすが当然の疑問を口にする。

この前の一件ではロキは死に目に会ったともいえる。

オーディンの監視下におかれているロキになにかあったら、責任はオーディンである蒼に降りかかるのだろう。


「まあそういう理由がないとも言えないが、今回は元々の遼平達ロキ一派が悪さしないようにだな。この前の一件でさすがに力を制限しすぎていると問題がありそうだったから限定的に力が解放されることになった。基本的には自己防衛か、俺が許可した場合のみ力が使えるようになってるが、こいつの事だ、悪知恵を使って何をするかわかったもんじゃない。だからこその監視役ってわけだな」


「……それ私達必要?もしロキ達が力を取り戻した場合、私と悠真じゃそこまで戦力になれるとは思えないけど」


「まあ人手は多いほうがいいだろ?」


俺を戦力に数えられても困るのだが。

確かに俺は皆の役に立ちたいし、首を突っ込む癖はある。

だが決して邪魔しようってわけではない。

それにこの間の一件で迷惑をかけた事で俺も少しは分別をつけるつもりだったのだが……。


「それよりもう一つの話の方が重要だ」


蒼がもう一つの話をしようとする中、ロキは諦めて座っていた椅子に戻っていった。

片肘を机につき、頬に手を当ててかなり不満そうにこちらを見ている。

俺の方を見られても困るが、俺にどうにかしろという意味なのだろうか。


「最近噂話が出てる。喧嘩を鎮圧している謎の少女がいるってな」


喧嘩を鎮圧する謎の少女と言われ、俺たちの視線は自然とアリスに向かう。


「私じゃないわよ!」


と叫ぶありす。

ありすは昔、蒼を探すために不良グループを練り歩き、ひたすらに狩りまくっていた。

そしてついた異名は不良狩りの女神。

その事を知るのは俺達関係者だけなのだが。


俺が神に関わるきっかけになったのもありすが不良狩りをしていた時に出会ったからだ。

そこで俺はありすの正体を見破ってしまった。

あれが関わるきっかけになったのは間違いない。


「俺もありすだとは思ってない。あの時のありすは俺を探す為の行動だったわけだし、今更ありすがそんな事するとは思えんからな」


ありすが何か反論しようとしていたが、顔を真っ赤にするだけで止まった。

蒼が言った通り、ありすの行動は蒼の情報を探していたからだ。

蒼が目の前にいる今、ありすがそんな事をするとは思えない。


「で?それが何だってんだよ。ありすじゃないならこの話は終わりなのか?」


「察しが悪いな人間。オーディンがその話をするという事は神が絡んでるって事だろうが」


「俺の名前は桂木悠真だ。その人間って言うのやめろ、遼平君」


俺とロキは目で威嚇しあった。

本気で戦いになった場合、ロキに勝てる気はしないが、どうにも蒼のせいで毒気が抜かれている。


「まあ遼平の言うとおりだ。どうやらその鎮圧に使っている力が人間離れしていると噂になっている。なんか分身とかするらしいぞ」


「なんだそれ。くノ一かよ」


神の次は忍者か。

いや、女神の次は、と言った方がいいだろうか。

ちらりとありすの方をうかがうと、噂の女神さまはなにやら真剣に考えこんでいるようだった。

こんな真面目なのになぜ不良狩りなんて発想が出てきたのやら。


「とりあえずそいつを探し出すのが今回のミッションだ」


「ミッションって、どんなやつかもわからないのに大丈夫なのか?」


「んー……まあ大丈夫とも言い難いが……多分大丈夫だろう。俺の予想通りならな」


蒼には何か心当たりがあるのかもしれない。

それならいつものように荒事にはならないか。


「じゃあどこから探すんだ?人手も多いんだし、見つけるだけならすぐ見つかるだろ」


頭の中で商店街や工場跡地、駅から外れた郊外など、色々と考えていたが、その考えは蒼の一言で霧散した。


「いや、今回は悠真とありすの二人で捜索してくれ。だから探す場所も二人に任せる」


「「はぁ!?」」


俺とありすの声が重なった。


「別に人探しくらいなら確かに俺でもできる。だがさっきもそうだったが俺も戦力に数えてないか?今の俺にはそこまで期待されるほどの活躍はできないぞ」


蒼が俺に期待してくれるのは嬉しい。

だが、この間のような迷惑をかけたいわけじゃないんだ。

その期待に応えられるだけの働きをできる自信は今のところ皆無だった。


「悠真にはオーディンチップがあるだろ?」


まさかの解答で俺は頭痛がしてきた。


「ま、待て待て……またこの間みたいに暴走したらどうするつもりだ……」


「暴走したらまたありすが止めてくれるさ」


な?とありすににやけ顔で同意を求めてくる。

ありすは一気に顔を真っ赤にして―――


「私にもう一回あんなことしろって言うの!?」


いったい何をしたというのだろうか。

いい加減教えてほしい。


「まあもし暴走したら俺もその時はお前らのところに飛んでいく。これは悠真が問題ないかどうかのテストでもあるんだよ」


「テストって……蒼は探さないのかよ」


蒼が大丈夫というならとりあえずは大丈夫なのかもしれない。

だが、正直言ってかなり不安だ。


「俺も探すさ。だがやらなきゃいけない事が残っててな」


「縷々と君丈は?まあ部活があるだろうけど」


「できる限り情報を集めたりしてくれるとよ。まあ今回のは簡単なミッションだと思ってくれていい。悠真の事を俺も把握しきれない以上、危険に晒したくない。だがいつまでもこのままってわけにもいかないんだよ」


ミッション自体は大したことないんだろう。

重要なのは俺の方か。

暴走を起こそうと起こさまいと、どうなるか結果が見えない以上何もできないわけだ。


「ちなみに遼平君。君は手伝ってくれないのかい?命の恩人達が目の前で作戦会議しているわけだけども」


嫌味ったらしく蒼はそういうと、ロキはさらに不満をあらわにした。


「俺様は助けてくれなんて言ってない。俺様は俺様で勝手に動かさせてもらうぞ」


その言葉を最後に、ロキは背もたれを反対にしてしまった。




◇◇◇



そんなこんなで二人で調査することになった翌日。

俺とありすは街で待ち合わせをすることになった。


だが、特にどこに行くと決めたわけでもなく、とりあえずぶらぶらと探索することになったのは言うまでもない。


「はぁ疲れた。クレープでも食べない?」


「そうだな、少し休憩するか」


「私キャラメルナッツ~♪」


お互いにクレープを買い、適当なベンチに座る。

夏休みだからか、日曜日だからか、人通りはかなり多かった。

天気もいいし、外に出るには絶好の日和だろう。

そう言えば去年は三人で海にも行ったっけ。


「ありすってこっちに来るまでは何してたんだ?学校とか言ってたのか?」


と、何気なく聞いてから馬鹿な質問をしたと思った。

俺がそう聞いたのは蒼と一緒に行動をしていたと言っていたからだ。

もしかしたら学校にも行っていない生活をしてそうだな、と。

俺の蒼のイメージでは放浪の旅とかしそうな感じだったのだ。

だが冷静に考えて、あんなに成績優秀で運動神経も抜群なありすが学校などの教育機関に入っていないわけがない。

それこそ学校に行っていなかったら稀代の天才———


「行ってなかったよ」


稀代の天才だった。


「まあ優斗と一緒に旅とかしてたからねぇ。毎日修行して世直ししてみたいな感じだったかなぁ」


本当に旅もしていた。


「え、じゃあ勉強とかはどうやって……」


「自分で学んだのもあるけど、ある意味これも神の力の恩恵って奴なのかな。割とすんなり入ってくるんだよね」


本当に神の力だけなのだろうか。

確かに、今までの話を聞いても何でもできそうな感じはある。

だが単にありすのポテンシャルが高いだけな線も捨てきれなかった。


「そういえば蒼の事を親代わり……的な事行ってなかったか?」


「あー……言ったっけ?」


俺が確か聞いたのは最初にありすから神の話を聞いた時だ。

その時は縷々が倒れたことで頭がいっぱいで正直に言えばきちんと覚えてはいない。

だが蒼の年齢的なことも考えて、親というのも不自然な話だ。

親しくしてて忘れがちだが、俺は蒼やありすについてまだ何も知らない。

それこそ神の話と同じレベルには。


「気になる?」


「まぁ……気にはなるが……別に無理に聞こうってわけじゃないし……」


自分から話を振ったのは確かだ。

だが、なんとなく疑問を口にしただけで、二人のプライベートな部分に踏み込みたいわけではない。

蒼を親代わりなんて言うくらいだからきっと明るい話にはならないだろう。


「じゃあ機会があったらね。聞いてて楽しい話じゃないし。ほら、クレープのアイス溶けちゃうよ?」


つい考えこみすぎて、手元にクレープがある事すら忘れていた。

すでにアイスは溶けだしていて、今にも俺の手にかかりそうだ。

慌てて食べながらアリスの様子を伺う。

そこには年頃の女の子が嬉しそうにクレープを食べる姿があった。


今はこの笑顔の少女の横に居る事を少しうれしく思っておこう。

ありすは可愛いし、正直周りの目線が痛いくらいだ。

そんな子と、デートのような事をしているんだ。

少しは楽しまないと。


と、ふと思ってこれはデートなのかと気づく。

いや、これは蒼から与えられたミッションであって、そういうつもりは……。

真昼の日曜日の街中。

目の前にはクレープ屋さん。

もちろん周りにはカップルもたくさんいる。


あれ……俺達の内心はともかく、これってデートに見えるのでは……。


おそるおそるありすの方をもう一度伺った。

そこにはクレープを食べて満足そうな笑顔の彼女がいた。


まあそうだよな。

ありすは蒼の事が好きなんだ。

俺を意識することもないだろう。


「男としてはそれも寂しいが……」


「ん?なんか言った?」


「なんでもねぇよ。さ、食べ終わったなら調査の続きと行こうぜ」


「そうね。もっと人気のないところとかも回ってみましょうか」


なんだか今までデートなどと考えていたせいで、ありすの発言を意味深に考えてしまう。

これではまるで俺が意識しているみたいじゃないか。




◇◇◇




調査もそろそろ切り上げようかという夕暮れ。

俺達は適当に郊外まで練り歩き、帰路につこうとしていた。

そんな時だった。


「悠真、止まって」


ふいにありすの表情が険しくなる。

ありすが見つめる先には、夕日に照らされながら歩いてくる一人の人物がいた。

その光景に何か嫌なものを感じ取ってしまう。

そう、それはフェンリルと出会った時だ。

その時もこんな夕暮れだったはずだ。


身長はありすと同じくらい。

髪をポニーテールにくくりあげている姿は、どこか見覚えのある姿だった。

その人物が近づくにつれてその正体がわかる。

首にかけているヘッドホンは、俺が見かけた時には耳につけられていたものだ。

その少女は俺達三人が先日出会ったゲームをしていた少女そのものだ。


「あの子がどうしたんだ?」


ありすは未だに警戒したままだ。

これだけ警戒する相手だ、おそらく神の関係者なのだろう。

ならなぜあの時に縷々や君丈は気づかなかったのだろうか。


「あの子、神の力が駄々洩れなの。まるで私達にアピールしているみたい」


「じゃあ……あいつが噂のくノ一だってのか?」


「わからない。でもあまり友好的とは考えられないわね」


夕日で見えなかった表情が、近づくにつれてだんだんと分かるようになっていく。

その表情は確かに友好的なものではない。

冷静に、ただ淡々と任務をこなす狩人の目。

くノ一どころか暗殺者の物腰だ。


「この間はどうも。目標があなただって知っていればもうちょっと探す手間が省けたのだけれど。まぁあの時はどうしてもはずせない用があったし。最初にパーフェクトを取るのは私じゃないと嫌だったし」


謎の少女は明らかにこちらに話しかけていた。

俺達の周りには人っ子一人いない。

俺はこの状況をよく知っている。


これは、結界の中だ。


「悠真、知り合いなの?」


「知り合いってほどじゃねぇよ。ちょっと見たことがあるだけだ。あっちも認知していたなんて驚きだよ」


「よくわからないのだけれど、あなた達も私を探してたってことでいいのかしら。残念ながら、私はくノ一ではないけれどね」


ピリピリと張り詰める空気。

神の気配がわからない俺でもわかる。

これは殺気だ。

どこが今回は安全だ。

あいつらの狙いは俺達じゃねぇか。


一触即発の状態だった。

ありすも何が起こるかわからない為、警戒を解かない。

相手は相手で余裕の表情だ。


「あなた達二人を拘束します。できれば抵抗してほしくないのだけれど。もし抵抗するなら少しくらいは遊んであげるわ」


戦う姿勢を取らない以上、話し合いの余地もあるかと思えた。

だが、あれは取らないんじゃない。

お前ら二人など、相手ではないという余裕そのものだ。


「悠真、拘束される気ある?」


「もちろんないな」


俺も身構えると、少女はわかりやすくため息をついた。


「そう。では、任務執行。二人を迎撃後、捕縛します」


その言葉を機に、少女の目は無感情そうな冷徹な目から、獲物を見定めた残酷な目へと変わる。

冷たい瞳の中には、確実に俺達を捉えながら……。




三章

 一幕【夏休みの始まり】

    ―完―




どうも零楓うらんです。

しれっと魔術研究会に入れられる悠真達。

新しい敵も現れ……悠真達の運命やいかに!!


という事で三章開幕です!

いつもの通り自由奔放な蒼ですね。

この章は蒼が結構活躍しているのですが、本編では残念ながら語られることが少ない章です。

外伝でその内投稿する予定ですが、蒼が何をしているのかを想像するとより楽しめるかもしれません。

それでは次の章でまたお会いしましょう。

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