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白色パレット  作者: arien
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3 「時計探し」前編

第3話です。

「キャンバス」がヘスティアに到着して、一週間が経った、ある日のこと。




「……全員、揃っているな」


 –––––––「キャンバス」の船首部タラップの前に、百人ほどの人間が集められていた。その百人をまとめているのは、アルの海軍時代の教官である、ウッド隊長(・・)だった。集められた百人の中には、ソラとアルもいた。

「ソラ……どうして、こうなったんだろうな……」

 すぐ隣にいたソラにギリギリ聴こえるくらいの小さな声で、アルが不満を漏らした。それを聞いて、ソラもまた、小さな声で答えた。

「どうしてって、それは……」




 それは、ヘスティア到着の四日前までさかのぼる。


 二人が、初めてヘスティアを目にした日の、夜七時。メールの一斉送信による配属先の発表があった。–––––––––「キャンバス」の搭乗者は全員、十個存在する「隊」のいずれかに所属することになっていて、この発表により、自らが所属する「隊」を知ることになっていた。


 書物室にいた二人にも、そのメールが届いていた。

「さて、俺はどこかな……」

 アルは自分の端末を開き、早速内容を確認した。

「どこだった?」

 ソラもメールを確認し、アルに尋ねた。

「俺はな……」

「俺は?」

 アルは続きを言うことなく、ソラに端末の画面を見せた。

「地理隊……?」

 ソラは、自分に届いたメールをもう一度確認した。

「……ソラは?」

 そして今度はソラが、アルに端末の画面を見せた。

「僕も。地理隊だよ」

 偶然か、必然か。ソラとアルは、ヘスティアでも行動を共にすることになったのである。

「ソラ、俺たちは大当たりを引いたぞ!」

 アルが興奮気味に言った。

「大当たり?」

 どういう意味だろうかと、ソラは首をかしげた。

「ソラはあんまり興味なかったみたいだけど、なんとその『地理隊』はな、あのヘスティアを、全人類の誰よりも早く冒険できる隊なんだよ!」

「マジ……?大当たりじゃん!」

「だろ?これはいよいよ、楽しみになってきたな!」

 ヘスティアを冒険できる。新たな世界を知ることができる。二人にとってそれは、他のどんなことよりも喜ばしい事実だった。


 –––––––しかし、その「地理隊」の隊長を、アルの元教官が務めるという事実を、このときの二人には知る由もなかったのである。



「ああ、もう、この先が思いやられる……」

 アルはため息をついた。そこまで嫌なのか、とソラが苦笑いをすると、


「アルバート!何か言いたいことがあるのか!!」


 突然、ウッドの怒号が飛んだ。周りの人間が一斉に、アルのほうを向いた。

「げっ……地獄耳め……」

 アルがぼやくと、ソラは思わず吹き出してしまった。よくも笑いやがったな、と言いたげにアルが睨むと、ソラは慌てて目をそらした。

「アルバート、今からこの調子では、この先が心配だ。さて、どうするかなあ……」

 そう言いながら、ウッドがアルの方へ歩き始めると、誰もが避けて道を開けた。腕立て四百回の件は、ソラも噂で耳にしていたので、ここでやるのか?と、少し期待しながら二人のやり取りを見守った。


「……」

 アルはひたすらに黙っていた。余計なことを言って、回数(・・)を増やしてしまわないために。

「よし……」

 ウッドのこの言葉に、アルの拳には自然と力が入る。

「そういえば昨日、俺はどこかで腕時計を落としちまったみたいでな。それが今も見つかってないんだが、今晩(・・)俺は大事な、とても大事な会議に出席する予定があるんだ……」

 ウッドはゆっくりと、アルに歩み寄っていく。

「一隊長として、そんな会議に、腕時計をしていかないというのは……」

 アルの隣に来ると、ウッドは足を止めた。アルは相変わらず黙っている。


「みっともないよな?情けないよな?」


 その言葉のあと、場は静まり返った。ウッドは、アルの返事を待っていた。


「その、腕時計というのは……」

 しばらくして、アルが口を開いた。

「一体どこで、落としたのでしょうか……」

 それを聞くと、ウッドはニヤリと笑った。


「俺が腕時計のことに気がついたのは、確か、船の外で昼食をとっていたときだったな……その日は、船の食堂で朝食を済ませてからずっと外にいたが、大体の時間は、船尾部タラップの方で作業していたな……」


 このときウッドは、明らかに「ゲーム」を愉しんでいた。いくつかのヒントを与えて、アルに腕時計を探させるつもりなのだ。


「分かりました。その大事な会議までに、腕時計を見つけ出します」


 アルは、意を決したように言った。すると、ウッドは満足そうに頷き、元の場所へ戻っていった。



 –––––––––それからしばらくして、アルとソラは船首部タラップの外にいた。


「さて、ソラ……お察しの通りこれは、ウッド隊長様(・・・)の思い付きで始まった、宝探しゲームだ。日没までに、このだだっ広い平原のどこかにあるという腕時計を探し出せとのことだが……」


 なんとなく言葉の続きが分かったソラは、少し渋い顔をした。

「一人では、無理難題であることは、ジメイノリ、である」

 アルは「自明の理」なんて言葉、普段は絶対使わないのに。ソラは心の中で、こっそり笑った。

「アル、もう分かってるよ。僕も探すよ」

「ソ、ソラ!いいのか?」

「ああ、いいよ。早いとこ探し出そう」

 断ったとしても、同じ結果になることは分かっていたので、ソラは素直に了承した。

「本当にありがとう!ソラ、これで一つ借りができたな」

「借り、ね……」

 いつか返してくれるのだろうか。ソラは黙って、そのときを待つことにした。



 それから六時間ほどが経ち、ヘスティアの太陽が落ち始めた頃、二人は船尾部タラップから少し離れたところの、草むらの中を探していた。


「……ったく、一体どうしてこうなったんだろうな」


 手がかりも痕跡も何一つ見つからず、アルのぼやきが徐々に増えてきた。

「さあね……でもあの人は、根は優しいんでしょ?」

「優しい?とんでもない、あの人はいっつも鬼みたいな教官だった!」

 アルはきっぱり言い切ると、それからは何も言わずに草むらの中を探した。


 それからまた一時間が経ち、二人は船尾部タラップからさらに離れたところを探していた。既に日は完全に沈んで、腕時計など探せるような状況ではなくなっていた。

「アル、今日はもう……」

 ソラが、七時間に及ぶ捜索に疲れ果て、諦めることを提案しようとした、その時だった。


「あっ……あった!」


 アルはすぐさまソラに駆け寄って、拾い上げた物を見せた。暗くてよく見えなかったが、それは確かに腕時計らしかった。

「よかったあ、やっと見つかった……」

 アルは安堵のこもった声をもらした。

「ホント、良かったよ……」

 ソラもホッとした。



「それじゃあ、帰ろうか!」

 すっかり上機嫌のアルが、そう言った瞬間。

 ソラは自分の背後に、何かの気配を感じた。


「僕の後ろ、何かいない……?」


 最初、(かす)かに感じる程度だった気配は徐々に強くなり、やがてそれは、悪寒に変わった。

「どうした?別に何もいないぞ……?」

 アルは何も感じていなかった。


「フーッ、フーッ」


 歯と歯の間から、息が抜けるような音。明らかに人のものではないと分かる、荒い息の音。これにはアルも気が付き、拾った腕時計を左ポケットにしまい、携帯用のナイフを右手に構えた。


「ソラ、俺から離れるなよ……」


 アルの声色は、殺気を帯びていた。

 こんなときのソラにとって、アルはこの上なく心強い存在だ。何しろアルは、かのアメリカ海軍出身の、精鋭軍人なのだ。


 暗闇の中で気配は少しずつ近付き、ついに草を踏みしめる音まで聴こえ始めた。


「フーッ!フーッ!」


 息はさらに荒くなり、気配はもう目の前に迫っていた。


 ……来る!!



 二人が直感した、その刹那。



 背後で、強烈な光が炸裂した。

読んでいただきありがとうございますm(_ _)m

今回初めて、前編と後編に分かれます。

ぜひ、後編も読んでみてください!

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