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龍の乗り心地  作者: 睡眠学習の難しさ
本編だと思う
18/18

一(はじめ)は知らない。

ノワールさんが講義してきたので、もう少し書きます。

魔法という物は、維持するのに大量の魔力を消費するが、操作する魔法はそこまで魔力を消費しない。


例えば、召喚魔法。境界門と呼ばれる異世界を通過する時に通る門を出しっぱなしにすると膨大な魔力を消費するが、一瞬だけ開いて、すぐ閉じれば魔力はそこまで消費しない。


と言っても、出しっぱなしに比べて少ないだけであり、それでも大量の魔力が必要になるのだが。


さらに、それを詠唱を用いて消費を減らし、さらに魔法陣を書いて減らしてようやく勇者召喚となる。


実は、勇者召喚は一種のリサイクルである。取れすぎて、余り誰も使わなくなった魔石。放っておくと、ダンジョンができるので、きっちり消費しなくてはならない。


戦争が起きれば、魔法兵器に搭載するが、戦争のない時の使い道は限られている。


国にある言語を統一する魔法陣を維持するのに使っても、余りは多少は出る。なので、それを貯めて勇者召喚するのだ。


これが、勇者召喚が定期的に行われる理由である。


使わないゴミどころか、余ったそれはただの有害物質。それを使い、勇者を召喚し己の国の戦力として保持できる。勿論、とんでもない性格や能力の持ち主を呼ぶこともあるが、それでもダンジョンができるリスクよりはましである。


召喚魔法について話していたが、召喚魔法はかなり珍しい物だ。


もっと、簡単な魔法で説明しよう。


例えば、土魔法。


土の壁を作る時は、多くの人が地面の土を利用している。だから、地面が石の場合、石の壁が出来上がる。


この場合、魔力を使う場面は土を動かしている時のみである。


それとは別に、土の壁を無から作ることもできる。


これには、作る時には勿論魔力が必要だし、何より維持するのに魔力が必要なのだ。


空気を燃やすより、何も無いところに炎を出す方が。


風を作るより、空気を作る方が。


雲の静電気によって生まれた雷を使うより、雷を生み出す方が。


影を操るより、影の面積を増やす方が。


人間誰しも持っている自己再生能力を促進するより、腕を生み出す方が。


などなど。


魔法は出すよりも、利用する方が賢い魔法の使い方である。




勿論、その事を彼が知らない訳がない。


クリケット・ノワール。賢者と呼ばれ、魔法を知り尽くした男とも呼ばれる男だ。




「グハッ...!」




息子を逃がす為、生き延びさせる為、何より報告の為に。飛んできた岩を自らの身体で受け、彼は墜落した。


砂漠の中に。


あたりは、岩だらけ。


恐らく、生み出した岩ではなく、これを飛ばしたのだろう。


巨大な牛のような悪夢は、森で見た時は黒かったが、日の下に出れば濃い青色だった。


ノワールはもう動けないだろう。


岩を受けた時に何枚も障壁を張り、自分を強化し、耐性もつけてなお、このザマである。



「はぁ、長生きするのも、良くないもんじゃなー」



ドスンドスン


近づいてくる巨大な真っ黒な牛は、まさに悪夢そのもの。



「色々、思い出ができすぎたのう」



何人もの妻に囲まれたハーレム生活。彼がハーレムを望んだ訳では無いが、断って美しい女性を傷つける方が、嫌だと思った結果だ。


彼の妻に立候補する者は大量にいる。実はその殆どが現妻に消されている。


物理的には消していないので安心して欲しい。



「息子や娘を残し、先に逝くのは大人の特権かのう?」


ドスンドスン


「ブモォ...」



ノワールの近くの巨大な岩が、何十と浮き始める。



「.......?」



この絶望的な状況下で、彼は立ち上がった。


牛から見れば、瀕死の状態で立ち上がった彼は馬鹿に思えたのだろうか。何もしなければ、楽に死ねたのにも関わらず。


子供にしか見えない体を、杖を使いなんとか持ち上げる。



「沢山の妻を持ち、子も沢山持ち、自慢じゃがわしは幸せじゃった」



右足はもはや使えそうになく、



クリケット・ノワール。彼は様々な魔法の開発に取り組んだが、蘇生や不老不死だけは研究しなかった。


他の研究者によれば、彼ならば作れたのかもしれない。


だが、彼は人の一生を、大事にした。永遠よりも、一瞬を望んだのだ。テッドがなぜかと聞けば、彼はこう答えた



『人間は死があるからこそ、守る者がいるからこそ、輝ける』


『何かに一生懸命になれる人間は美しく、尊敬に値する』



実は彼は既に不死の研究を終えていたのだ。いや、まだ未完成なのだが、彼は自分に試してみた。その結果が魔力を利用した若返りであった。


彼は全力で魔法を使う時、全盛期である11歳の時に体を若返らせる。


つまり、現在子供の姿の彼は、全力で戦闘する証である。




「わしは、わしに出来る事をしようかのう...」


腕の片方があらぬ方向に曲がり、足ももはや片方は使えない。顔にも血が流れている。


今の自分の全力を使えば逃げ切れるだろう。残りの魔力を回復に当てて、すぐに飛び立てば。


だがそれでは、怪物、悪夢が息子の方に行ってしまう。


元々そちらに向かって進んでたのだ。


ならば、自分に出来るのは命を燃やしての足止め。



途端、当たり一面に端まで見えない程の魔法陣が展開される。



『我が求むるのは、破壊。


爆裂と破壊を用いて、対象を撲滅せよ。


ただ一片の肉片を残さず。


ただただ、破壊し、溶かし、


求めるは、対象の死のみ』



悪夢には多少の知性があった。彼は、ノワールが何ができるのか見てみたくなった。


故に、動かない。


強者の余裕だろうか。



『植物が築いた大自然も、


動物が築いた営みも、


人間が築いた文明も、


全てを無に返そう。


膨大な熱量を伴い、


膨大な光を伴い、


膨大な突風を伴い、


全てを消滅させよう。



『太陽の落下(ヘリオス・ダウン)』」



悪夢を前にしたショタは、たった状態で急激に老化を始めた。


女が羨むほどのキメの細かい肌に、シワが大量に入り、あっという間に彼はおじいさんと成り果てて、なって果ててしまった。


そして、その場に静かに倒れた。







「妻たちには悪いことしたのぉ...」


「じゃが、わしの人生は実に、天晴れじゃった...」



悪夢は不思議そうに見ていたが、ふと上を見上げるとそれに気づいた。



太陽が2つあった。












その日、帝国の北東に位置する砂漠に、太陽が落ちた。










当然、大きさは本物と比べるとかなり小さいく、わずか10mに過ぎない。が、その威力は相当だった。


魔法を超巨大な魔法陣を用いて、さらにかなり長い詠唱も行い、自慢の高級な杖を使って発動した、ただの暴力の塊の魔法。










その日、砂漠が半径数kmの円状にくり抜かれ、文字通り"消滅"した。





















一たちが街を歩いていると、やはりと言うべきか、軽蔑と言うか、敵視と言うか、そう言った目線が向けられる。


だが、それらを一が気にするかと問われれば、気にしない。


彼はそういう人だ。


何かされない限り、無視をするが、された場合、されそうになった場合、彼は容赦なく立ち向かうだろう。いや、殺すだろう。








それが原因かどうかは知らないが、結果としてリリィが攫われて、別れ離れになってしまった。


そして、攫われたリリィに対する対応は、当然のように無視となった。


と言うより、リリィが買い物に行くと言い、その後一らを案内していた団長の団員の兵士たちが担がれて行ったところを目撃し、一らに知らせたのだ。


相手はかなりの実力者らしく、追いつくのも無理だったらしい。



「すみません、私たちのせいで...」


「予定通りに行きます。この国で最も強い人に会い、強ければ勧誘、弱ければ次の国へと向かいます」


「そうですか」



一の決定に、テレサは特に否定しなかった。


危険な旅だと知っていたし、今更知人が捕まった所で、どうにも思わない。


彼らは所詮、その程度の関係なのだ。


だが、彼だけは違ったようだ



「済まない、ハジメ君。僕には無理なようだ。か弱い女性が攫われたのを平然と見ているのは」


「だとしても、悪夢を倒すのが先ではないんですか?」


「だとしてもだ!例え彼女が戦力にならなくとも、切り捨てるべき対象だとしても、僕にはそれができない!それをしてしまっては、僕は僕では無くなる!」


「ではこうしましょう。自分らがアルバに相応しい人を探しに行きます。一応、1週間ここに滞在した後に、出発します。それまで彼女を連れて帰って来てください。遅れれば、自分らは出発しますので」


「あ、あぁ!」



あまりにもあっさり許されたので、少し驚いたが、彼はすぐに出発した。


1人の小さな女性を救うために、最強の一角、Sランクの冒険者が動いた。






















その数日後、彼は路地裏で遺体として発見された。


街で暴れ回った跡がどこにも無いため、相手は一瞬で彼を殺したのか、もしくは空で戦ってたのかは知らないが、彼の顔は驚愕と絶望で染まっていた。


それ程までに、実力が開いてたのだ。












この事を、一が知ることは無かった。





















円形の巨大なクレーターの中心には、真っ赤になった牛型の物体だけがあった。


人形のはなく、ノワールは蒸発したのだろう。








ピキッ









真っ赤になった皮膚はもはや原型を留めていなく、ただの焦げた肉塊となっていたが、それが割れて中から別の個体が"無傷"で出てきた。






悪夢(ナイトメア)である。






砂漠そのものを消しそうな程の攻撃をくらい、それでも生きていたのだ。それはまさに、悪夢であった。











と言っても、彼はかなりのダメージを喰らっている。彼は自分の取り込んだ個体を何個も捨てて、身代わりとして生き残ったのだ。




中から出てきたのは、青年だった。




その姿は、勇者そのものだった。




彼は取り込んだ個体を身代わりにしたので、かなり弱体化した。


現在の魔力量は、僅か800万。


約10分の1になったのだ。



ノワールがした事は、決して無駄には終わらなかった。


彼が元の魔力量までに戻るのにはかなりの時間が必要となるだろう。


勇者ユウキの姿をした悪夢は森へと戻り、再び狩りを始めた。





この小説、人死にスギィ!

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