プロローグ「彼と彼女」
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人間。
そう呼ばれた種族が世界の覇者から落ちて早百余年。世界に存在する人間という種族はもう百ほどしか居らず、世界は狩り狩られるような世界『弱肉強食』の理念が現実に蔓延っていた。とはいっても動物たちにはその概念はないが。
そんな中でも過去、人間たちが造った遺産とも呼べる建物などは各地にかろうじて残る民家や城などの国の残骸。その城内の広い一室。
一人の少女が長く放置したであろう所々がほつれ、ボロボロになったドレスを着て、欠けた姿見の前でポーズをとっている。短く紅い髪、中学生くらいの身長の美しい少女に黄ばんではいてもかろうじて白く見えるドレスはよく映えている。少女もドレスも決して綺麗とは言えないが、二つの組み合わせは本物のお姫様のようである。
「フミ、きれいか。」
誰もいない部屋の中、少女は誰かに聞いていた。一秒後の少女の表情は笑顔で彩られ、まるで誰かに褒められたように普通より長い犬歯が強調されていた。そのまま少女は部屋のベッドの脇にある個人用の小さい本棚の中から一冊の本を取り出した。『ALBAM』とタイトルが表記された本を開くと、いろいろな写真が入っている。その中で一際目立つように保管された一枚の写真に紅髪の少女の眼は行く。荘厳な衣装に身を包んだ壮年の男性と美麗なドレスに身を包んだ妙齢の女性、その間に挟まれた満面の笑みを浮かべる可憐な少女が幸せそうな雰囲気を醸し出している一枚。紅髪の少女の眼にはただただ羨望のまなざしが浮かんでいた。少しの時間その写真を眺めていた少女はやがて本を閉じると立ち上がった。その瞳に決意を込めて。
◇ ◇ ◇
少年の毎日は変化などなかった。朝起きて朝食を食べ学校へ行き授業を受け帰宅する。友達はいるが学校外で一緒に遊ぶほど仲が良いわけでもなく、部活動に精を出すわけでもない。何かに全力を尽くすということに意義を見出せないだけなのか、それとも全力を出したいことが見つからないだけなのか、少年にもわからなかったが、少年はこのルーチンワークのような日々がたまらなく嫌だった。変化がないということがつまらないという人間共有の価値観と言えるものが強迫観念のように少年を苛んでいた。
「つまらないな」
少年は溜息を吐く。『つまらない』などと心に思っている言葉をわざわざ口に出すことに意味ないことに気付き、さらに精力的に何かをしようとしない自分がそのようなことを呟くこと自体がおこがましいと感じたから。
目標のない人生。少年は高校三年生の進路を考え始める時期にこのことを考え出したが、いつまでたってもやりたいことなど見つからなかった。自分はこんなに淡白な人間だっただろうか。小学生のころ、野球をやっていた時は勝ったら嬉しかったし、負けたら悔しかった。やっていて楽しかったと感じていたはずだ。だが今はどうだろう。何をやっても面倒くさいと感じ、運動などは全力でやることなどなくなり、常に自分に言い訳できるような力加減を覚えた。そのことに気付いたとき少年は愕然とした。周囲の大半がやっていたことをまねしていたことが自分をこんなつまらない人間に仕立て上げていたなどということに。それから少年は周りとの付き合いをやめた。今まで一緒にカラオケやゲーセンなどに行っていた友達や、家族との当たり前の団欒なども避けるようになった。あくまで周りに違和感を与えぬよう慎重に。それからの少年は今までしなかった読書をして感性を磨いてみたり、朝二十分程度ジョギングをしたりして普段しないことで自分を変えようとした。
しかし少年は変わらなかった。
何をやっても子供の頃感じた熱を体に感じることは無く、本の影響を受け変に理屈っぽくなってしまったせいで体の中に感じる熱とは何なのかとか意味のないことに脱線したりしていた。そんなことが長く続けばそれが習慣となり、少年は完全に冷めた人間になっていた。それが大人になるということだと信じて。