Biginning of the drop - 1
国産アメコミチックストーリー
【 HalfBaked 】の第一弾スタートです
荒い息。
風が耳に当たる小さい地響きのような音。
そして強い鼓動が聞こえる。
左手についた時計の分針を気にしながら家路を急ぐ。
似たような家が並んでいる住宅街の端に、バスケットゴールを庭に置いた家がある。ゴール下を走り抜け 勢い良くドアを開けると、朝食べた 甘すぎるフレンチトーストの匂いがまだ香っている。
これが我が家の匂いだ。
「母さん ただいま! 昼ごはん要らないから!」
キッチンに向かってそう叫ぶと 優しい声が返ってくる。
「どうしたの サミュエル お腹でも壊したの?」
ネームプレートがぶらさがったドアを開け スクールバッグをベッドに投げつける。 そして 足元に転がっているエナメルバッグを肩にかけ 開けっ放しのドアを通る。 家に着いてからまだ5分と経ってないんじゃないだろうか。
そんなどうでもいい事になんとなく自慢気になっていると キッチンから香ばしい匂いと共に母が出てくる
「サミュエル・エコー! 返事はどうしたの!どうして昼ごはん食べないの?」
今度は少し低い 怖い声だった。
「ごめん 母さん この後 アルノーとジムに行く約束したから急いでるんだ 体調悪いわけじゃないから! 本当! いってきます!」
そう言って玄関のドアを開けまた走り出す。後ろから母親の怒鳴り声が聞こえるが 何を喋っているのかはわからない。 もしかすると 喋っているんじゃなく 怒鳴っているだけかもしれない。
左手の時計は 友人との待ち合わせの10分前を示している。 早い鼓動を更に早めて 僕はジムへと急ぐ。
「アルノー! 遅いぞ! 何してたんだよ!」
遅れてきた友人を問い詰める。 友人は金色の地毛の前髪を汗で濡らしながら 息を整えてから言う。
「待ち合わせが早すぎるんだよ サム... 。 それに 50m走 6秒の君と 10秒かかる僕とじゃ いろいろ違うってわかるだろ...?」
僕は軽く笑うと アルノーの肩に腕を回しジムの自動ドアを通過して行く。
「汗をかくのが早くないか? 今から嫌っていう程かくんだ 少し汗を残しておけよ?」
そう 友人に言ってから受付を済ませ トレーニングマシンが並ぶ部屋へと向かう。 片腕の中で 苦笑いをする友人の顔を僕は見逃さなかった。
部屋に入り 近くにあるマットレスの上で準備運動をする。 走り込んで体は温まっているけれど、 友人を少し休ませる為にもだ。
「そういえば アルノー。 昨日の晩の アレ 見たか?」
「え、 き 昨日の晩?」
アルノーの 声が裏返る。
「お前 まだ息切れてんのか? GuardiansLIVE だよ! 昨日の晩 流れたろ? 9時くらいにさ!」
「ごめん... 昨日はすぐ寝ちゃってさ テレビ見てないんだ...」
アルノーは顔を逸らし 小声でそう言った。
「まぁ 寝てたんなら仕方ないけどさ! 昨日の 生放送はヤバかった! 特別放送でさ マクウェンビル の前にオオカミ男が現れてさ Mr.J が追い払ってたんだけど 最高にかっこよかった!」
息を少し荒げながら、友人に向かって力説する。 少し大きな声を出したせいで ランニングマシンに乗った中年の男が イヤホンを少し外し こちらを見たが すぐに前を向いて走り出した。
「そうなんだ。 Mr.J って あの赤いコスチュームの人? っていうか あの番組 悪者が出た時しか放送しないんだから 全部 特別放送じゃん...」
そう言ってアルノーは屈伸を終え ランニングマシンに乗り込む。 マシンは少しづつ動き始め 早くなると共に アルノーの顔が少しづつ汗ばんでいく。
僕も隣のマシンに乗り スイッチを押し速度をあげていく。 こっそり隣のマシンの速度をあげたが アルノーにはバレなかった。
「そうそう 赤いコスチューム着てるのが Mr.J Jは ジャスティスの J!」
「それだけは散々聞かされたから知ってるよ... サムって本当にガーディアン達好きだよね...」
アルノーの息はもうドッグレースに出ている犬のように荒くなっている。 汗まみれの直毛の髪を揺らしながら 必死に走っている友人を見ながら 更にマシンの速度をこっそりあげてやる。
「そりゃ そうさ! ガーディアンを 嫌いな奴はいないだろ! この国を守ってるヒーローだぜ! 俺も絶対 ガーディアン になる!だからこうやってトレーニングしてるんだろ お前もそうだろ?」
「僕は 君に 半ば強制的に約束させられたから付き合ってるだけだよ... こんなひょろひょろのガーディアン 見たことないだろ? あぁ、 ダメだ! 休憩する!」
アルノーはマシンを降り 倒れるようにベンチに座った。ペットボトルを手に取り 必死に開けようとするが フタが空かない。
僕はマシンを降り アルノーの隣に座り込む。 空かないフタと格闘しているアルノーからペットボトルをとりあげ フタを開け スポーツドリンクを飲む。
汗だくのアルノーの口は開いたまま塞がらない。
「このボトルは俺のだ 俺が閉めたから お前には開けられないんだよ お前のはそっち。」
そう言って ベンチから転がり落ちたらしいペットボトルを指差す。
アルノーは少し笑った。
「あぁ!! 疲れた... 疲れたよサム...」
帰り道でアルノーがそう叫ぶ。
学校で美少年だと噂が回るほどの顔が、今は汗まみれで崩れている。
「最後に走って帰るか...?」
そう言って笑うと アルノーは水から出た犬のように顔を大きく横に振って 僕の目を見てくる。 顔が笑っていない。
しばらく歩いていると近くから電子音が流れる。 聞いたことのない音に焦り、、自分の携帯電話を確認してみるが、待ち受け画面のMr.Jはいつも通りポーズをとっているだけだった。
「はい!! あ... わかりました.... ブルーハウスでいいですか...? はい。 じゃあ...」
自分の携帯電話を見ている間に電子音は止み、アルノーは誰かと通話をしていた。まだアルノーの顔が笑っていないので 義父からの電話だろうと予想し 話を変える。
「アルノー 携帯変えたのか? 俺 新しい電話番号聞いてないぞ?」
そう笑って見せると アルノーは大きな目をさらに広げて 視線をそらす。 そして新しい携帯電話を水切り石のようにカバンに投げ入れる。アルノーの視線が八の字を描く。
「こ これ新しいバイト用なんだ... だから前の番号のままで大丈夫だよ! 携帯二つだから だから あの...あ... 僕行かないとだから... ごめん」
アルノーは義父の話をする時、いつも道化師のように挙動不審になるが今日はいつにも増してピエロのようだ。
「わかったよ。 遅れるとアレだしな。 また明日な!」
「サム 今日から夏休み 学校では会わないよ」
二人で軽く笑った後 アルノーは小走りで、高いビルが建ち並ぶゲネン地区へと消えていった。
小さい友人の背中をしばらく見つめた後僕も家に向かって住宅街を歩く。 普段のトレーニングのおかげで家まで走ることのできるくらい体力は残っていたが、怒った母親の顔を思い出しさっきまで軽かった足が 急に筋肉痛よりも重くなった気がした。
初めての小説なので読みづらいかとは思いますが 超長編シリーズになるので作品と共に成長していきたいと思っております。