月夜の出会い
まだ冬の冷たさが残る4月。僕は今、不思議な体験をしている。深夜にも関わらず、森の方から歌声が聴こえてくる。しかも、女の子の声だ。ちょっと恐怖だったり心配だったりと色々な感情が入り乱れるなか、静かに森の中へと足を踏み入れた。
やっぱり森の中は暗いし、何も見えない。僕はポケットから携帯を取りだし、電源を点け、画面から出る光を懐中電灯の代わりに道を照らした。
地面は色々な雑草が生い茂っていて、一種の人工芝みたいな感じだった。僕は慎重に足を進めて行く。相変わらず周りは真っ暗で何も見えないが、歌声がどんどん大きくなってくる。大分近くに来ている事が分かった。
その時、突然空から光が照らし出されてきた。どうやら、雲に隠れてきた月が顔を出したようだ。森の隙間から月の光が漏れる。
「!!」
その時、僕は見てしまった。幾つものの光が森を明るくするなか、その光がちょうど当たる場所に一人の女の子が歌を唄いながら草が生い茂る地面に座って、何か手を動かしている姿を・・・。
僕は木の陰に隠れて、その子の様子を眺めた。人間なのか?僕はそう思いながらあの子の容姿を確認していく。年齢は外見から判断して、15~16才位だろ。遠くて分かりにくいが、眼がとても蒼いのは確かだ。そして、その腰まであろうエメラルドグリーンの髪は月に照され、どんな宝石よりも綺麗に見える。服は今の季節に合わず、何の色彩もない白いワンピースを身に纏っている。一緒に聴こえてくる声はとても癒され、嫌なことなんて忘れられる位のものだ。だけど、その綺麗な声はどこか悲しげに聴こえる。まるで、作り笑いをして、他人に今の自分の気持ちを悟られまいと必死に誤魔化しているかのような感じだ。
一体何やってるんでしょうか?
僕は彼女の行動を必死に確認しようと体重を前へと移す。その時、
パキッ
と木の枝が折れる音がした。思わず下を見ると、折れた木の枝が足下を転がっていた。どうやら、体重を前へと移動させたせいで靴の下に落ちている木の枝を踏んでしまったようだ。また、身体中の血が引いていくのを感じる。
視線を少女の方へと移動させると、「えっ?」と言いたそうな、戸惑った表情をしながらこちらを見ていた。
さぁて、ここからが二択。
1.このまま猛ダッシュで森を駆け抜けて帰る。
2.「やぁ、お嬢さん!こんな所で何やってるんだい?」と気恥ずかしさを堪えながら言う。
自分の恥を晒したくないのなら、1を選ぶが、正体不明だが一応あの子は女の子だ。こんな夜中に一人で居させる訳にはいかない・・・。あーー、どうするんだ僕はーー!
「私が見えるの?」
脳内で自問自答を繰り返してるなか、女の子はちょっと人を怪しむような目でこちらを見て言った。一瞬、話の意味が理解出来なかったが・・・取りあえず、
「あぁ・・・はい、余裕に見えます」
女の子はちょっと驚いたような顔をして「・・・そう」と消え入りそうな声で言った。
一体何だかよく分からないけど、取りあえず何か話した方が良いな。でもネタがない!何話せば良いの!?女の子と会話するなんて小学校の低学年以来ないよ!うぅ・・・何を話せば・・・。
そうやって考えていく内に僕は頭が真っ白になり、
「貴女は精霊ですか?」
と言ってしまった。