始まりは突然に-12
一章終わりです。
「先輩、渚もう9時ですよ。」
「じゃあ、帰ろっか、山口ちゃん」
「はい。」
といった感じで、二人は帰り、家には俺と由依の二人きり。
ちょっと寂しい。
女の子と二人きりで、その感想はないだろ、と思うかもしれないから言っときますけど、俺は一時期、由依の家に住んでました。
理由はあるよ?俺の親が二人とも死んだから、引き取ってもらってた訳。
だから、二人きりでも特に感慨はない。
「ナギっち、ホント変わってないね。人の前で仮面被るとこ。」
「いや、今日はけっこう素だったぞ?」
俺の部屋のベッドに腰かけて、会話する。由依は寝転がっている。
「嘘つき。」
なんてストレートな言葉なんだ!
「正直言うと少し仮面被ってる。」
「今は?」
由依が体を起こして、俺の横に座る。
「仮面被る意味ないだろ。お前は全部知ってるんだから。」
俺の過去を。
俺が小学生の頃の話だ。
1つ俺の人生を変える出来事が起きた。
親父が犯罪を、大犯罪を犯した。
殺人。
全部で6人殺した。その事件の最初の死者は俺の母親だった。
なぜ殺したのかは、わからないが、殺した。
そして、逮捕。
死刑判決。
俺が、中二の時に死刑執行。
それが理由でいじめられることになった。まぁ、オタクだったのもあったかもしれない。
死刑執行が行われたことを報道された日から、俺はクラスの人気者からいじめの被害者に成り下がった。
毎日、何か隠され、ハブられた。
そんなとき、唯一味方してくれたのが由依。
でも、いじられてるやつの味方をすると、いじめの対象になってしまう。
由依はそうだった。
それでも味方になってくれた。
嬉しかった。
だから、由依に暴力を振るった連中が許せなかった。
クラスや学校の連中は俺ではなく由依に暴力を振るう。
俺は男だし、喧嘩も強かったから。
由依はしばらく学校を休むことになった。
俺は由依にこれ以上迷惑をかけたくなかったから、あいつが休んでる間に終わらせることにした。
由依を殴った奴らを全員呼び出して病院送りに、それ以外のいじめた連中には由依には二度と手を出さないと誓わせた。
ただ、俺は当然のごとく、警察のお世話になった。少年院に入らなかったのは奇跡だと思う。
それから、俺は受験少し前まで学校にもいかなかったし、由依とも会わなかった。
家でずっとゴロゴロして中学時代を過ごしたわけだ。結局は。
でも、俺としては、由依がちゃんとクラスに戻れたからあれで良かったと思っている。
ただ、由依は俺に対して罪悪感を持っていたらしく、今まで通りの中学時代の時の友達以上恋人未満な関係には戻れていない。罪悪感なんて持つのは俺だけでいいのに。
昔とは違う点。
そう、例えば、前はナギっちなんて呼ばなかった。
態度は今も昔も変わらない様な気がするけど、でもなんか無理してる様な気がする。
そんな出来事があったから、俺は仮面をつける。
心を隠す為。自分の弱さを隠す為に。傷を人に見られたくないから。
またいじめられるのは嫌だから。
「そだね。」
「あのさ、無理して前みたいに戻ろうとしなくてもいいんだ。」
見ていて辛い。こんな由依は見ていたくない。無理して前みたいに振る舞うのは俺も由依も辛いんだ。
「俺のことを避けてもいい。俺は何も言わないから。俺はお前にこれ以上迷惑をかけたくないんだ。またお前が傷つくなんてもう嫌なんだ。俺は犯罪者の息子で親父と同じ犯罪者だ。正直、俺と関わるだけでも、辛いだろ?」
心の奥にしまっていた言葉を出していく。
犯罪者だぜ?しかもクラスメート殴って殴って病院送りにした奴だ。
更に親父は殺人鬼みたいなもんだ。
お前は俺が近所でなんて噂されてるか知ってるのか?
凶暴な暴力ばっかの不良ならまだいい。勝手に噂というのは一人歩きしている。
同級生殺しの高校生。しかもコネで釈放されたってことにまでされてる。
俺はもう慣れたから気にしないけどな。
でも、由依は気にするかもしれない。
久しぶりに思い出したらか、由依と一緒に住むことになったからか、感情のダムは決壊している。
「だから、もうよくないか?俺とお前の関係はあのときに崩れた。無理してまで戻すもんでもないだろ?戻してもまたお前が傷つくだけだしな。だから、もういいよ。終わろう。」
傷ついてからじゃ遅いんだ。今ならまだ引き返せるんだよ。
俺と同じ思いはして欲しくない。
そう思って顔を由依の方に向けると・・・・・・由依は泣いていた。
目を真っ赤にして泣いている。
「どうして?どうしてそんなこと言うの?」
制服の袖で涙を拭きながら言葉を綴る。
「俺と関わるだけでも、お前に迷惑がかかるだろ。」
「迷惑なんかじゃない!全然迷惑なんかじゃない!迷惑なんかじゃないんだよぅ・・・だから、だから、そんなこと言わないでよ。」
由依が叫ぶ。最後の方は勢いがなくなり、声も弱くなっていた。
「でも・・・」
「いいの。私はナギっちと・・・・・・大好きなバカ凪と一緒にいたいの。」
由依・・・・・・
「今も昔も私は凪に迷惑なんてかけられてないよ?むしろ、凪は私をいつも助けてくれたよ?救ってくれたんだよ。だからさ、だから、終わろうなんて言わないでよ。まだ始まってもいないんだよ?崩れたなら、新しく作るから、もうあんなこと言わないで」
由依は涙をこぼしながら、俺の袖を弱々しく掴む。
泣いているせいで顔はひどいことになっている。
いつも救ってくれた・・・か。これほど嬉しい言葉はない。
救われたのは俺の方だ。おかげで、心が軽くなった。
お礼に今度何かプレゼントしようかな?何が欲しんだろ?
「ごめん。悪かった。忘れてくれってそうはいかないよな?」
「うん。だから仕返し。」
そう言うと、由依は俺の横から移動して、前に立った。
もうあまり泣いていない。ただ涙のあとが出来ているだけだ。
「目を閉じて」
「えっ?」
「いいから!」
俺は言われた通りに目を閉じる。
すると、唇に暖かい感触がきた。
「!!!!??????」
驚いて目を開けると、目の前に由依の真っ赤な顔があった。
由依は俺が目を開けたのに気が付くと、サッと離れ、俺が口を開く前に
「仕返しだからね」
と言って両手で顔を抱えて部屋から出て行った。
「今のは・・・・・・キスだよな?」
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