オイシイ話 〜毒薬商ガルドは、悪徳大臣から『王子に食わせる極秘レシピ』の相談を受ける〜
王都の裏通りに店を構える商人ガルドは、表向きは香辛料商だ。
だが裏では毒物にも詳しかった。
どの毒が即効性で、どれが自然死に見えるか。どの薬草を混ぜれば検査をごまかせるか。
そんな知識を求める客は意外と多い。
もっとも、表沙汰にはならないが。
その日、店に意外な客が現れた。
王国財務大臣バルモアだった。
汚職の噂が絶えない男である。
噂によれば純金の像を造らせたこともあるらしい。
しかも隣には幼い王子と護衛まで連れていた。
「城下の見回りだ」
そう言って店内を眺めていた大臣は、ふいにガルドの耳元へ顔を寄せた。
「話がある」
「どのようなお話で?」
大臣は周囲を見回す。
王子に聞かれたくないのか、声を潜めた。
「……オイシイ話だ」
ガルドは目を細めた。
なるほど。
そういう話か。
王子たちが店の品を見て回る間、大臣は別室へガルドを案内させた。
大臣が慎重な手つきで机に木箱を置いた。
質の良さそうな布で覆われ、中は確認できない。
「お前は専門家らしいな」
「……どこでそれを?」
「評判は聞いている」
ガルドは慎重にうなずいた。
「多少は心得があります」
大臣は満足そうに言った。
「実は王子に食わせたいものがあってな」
ガルドの心臓が跳ねた。
やはりか。
「本当に王子に?」
念のためもう一度確認した。
「ああ、王子にな」
大臣は即答した。
ガルドは思わず息を呑んだ。
王子暗殺。
なんという大仕事だ。
「……レシピは?」
「私のオリジナルだ」
「証拠は残らないのですか?」
「もちろんだ。消えてなくなる。王にも誰にも気付かれん」
完璧だ。
ガルドは感心した。
噂は本当だったらしい。
この男は想像以上の悪党だ。
「完成したものを見てほしい」
ついに本題が来た。
大臣は箱の布を取り払った。
ガルドは固まった。
箱の中には、小さな旗が立った料理が並んでいた。
ハンバーグ。
エビフライ。
卵料理。
色鮮やかな野菜。
笑顔の形に盛り付けられたご飯。
「……は?」
「どうだ?食材はどれも一級品だ。金の王子像はお気に召さなかったようだが、これなら王子も大喜びだろう」
ガルドは引きつった笑みを浮かべた。
「実に……オイシイ話でございますな」




