タイトル未定2026/01/03 20:30
毎年、ゆきちゃんはおじいちゃんと一緒に、喫茶店「チューリップ」に行きます。
いつも、ゆきちゃんは大きな「フルーツパフェ」を、おじいちゃんはホイップクリームをたっぷりのせたコーヒーを注文するのです。
ところが、今日ゆきちゃんとおじいちゃんがチューリップに行くと、「お休み中」の看板がドアに下がっていました。
「ええーっ、お休みなのー」
ゆきちゃんはがっかりしました。おじいちゃんが言います。
「店主さんも、年をとったからね。たまにはゆっくり休みたい時もあるんだよ」
「そうなの……」
二人が帰ろうとした時、喫茶店のドアが内側から開きました。
「おや、ゆきちゃんに、おじいちゃん」
「チューリップおじさん!」
店主さんは、いつもどおり真っ白な服に長いコック帽を被っています。胸元には、チューリップの刺繍がありました。
「おじさん、今日はお休み?」
「うん、ごめんね。今日は、パフェにひつような材料が、一つどうしても届かなかったんだ。それさえあれば、ゆきちゃんの大好きなフルーツパフェを作れるんだけど……」
「どんなものが足りないの?」
好奇心旺盛なゆきちゃんは質問しました。
「それがね、よく分からないんだよ」
「ええっ?」
店主さんは、困ったようにほおをかきました。
「足りないのは、真珠のきらきらパウダーなんだ。いつも、真珠の妖精さんが届けてくれるんだけど、今日はなぜかまだ来てくれなくて……」
「きらきらパウダー……」
ゆきちゃんは、いつも食べるパフェを思い出しました。つやつやしたいちごやりんご、メロンやみかんなどのフルーツがてんこもりで、大きなアイスクリームやたっぷりの生クリームもそれはそれはおいしいのです。それに、思い出してみればたしかに、パフェはきらきら光っているようでした。
「真珠の妖精さんは、どこにいるの?」
ゆきちゃんの疑問に、おじいちゃんが答えます。
「海ではないかな」
けれど、おじさんは首を振りました。
「この町の、どこかで楽しくくらしているらしいんです。でも、お家のありかは教えてくれなくて」
ゆきちゃんは、言いました。
「じゃあ、あたしたちが探してあげる!」
ゆきちゃんとおじいちゃんは、手をつないで真珠の妖精探しにでかけました。
「妖精さん、どこにいるのかなあ」
「おじいちゃんは、真珠のお店にいると思うよ」
そこで、二人は「チューリップ」の近くの真珠屋さんに向かいました。
真珠屋さんでは、初売りセールを開いています。お月様のように輝く大粒の真珠のネックレスが、ずらりと並んでゆきちゃんたちをお出迎えしました。これらの真珠が、どれだけのお値段がするのか、ゆきちゃんにはわかりません。
「おおい、妖精さんはいませんか」
ゆきちゃんとおじいちゃんは、小さな声で呼びかけました。けれど、返事はありません。
「ここにはいないのかなあ」
二人は、店内をぐるりと見て回ってから、お店を出ました。
道の駅「きさいや広場」の真珠コーナーにも、商店街の真珠屋さんにも行きましたが、真珠の妖精らしき人はいません。たくさん歩いて、ゆきちゃんもおじいちゃんも疲れてきました。
商店街のベンチに座って休憩をしていると、雑貨屋さんで飼われているゴールデンレトリーバーのジョンが、しっぽをふりふりやってきました。
「あけましておめでとう、ゆきちゃん!」
「あ、ジョン! あけましておめでとう」
ゆきちゃんはジョンをたっぷりなでてあげました。
「ゆきちゃん、ぼくのお店にも、遊びにきてよ」
「ありがとう。でも、今は探し物をしてるの」
「何を探してるの?」
ジョンはひくひくと鼻を動かしてみせます。
「ぼくが見つけてあげるよ」
「あのね、真珠の妖精さんなんだけど……」
ゆきちゃんが、「チューリップ」のパフェのことを話すと、ジョンはバウと元気に吠えました。
「それなら、知ってるよ! ぼくのご主人が、去年真珠を買ったんだ。ついてきて!」
ジョンに引っ張られ、ゆきちゃんとおじいちゃんは雑貨屋さんに飛び込みます。
明るい店内では、素敵なお皿や置物、靴下や帽子なんかがところせましと並んでいます。けれどもジョンは、売り物の間をひょいひょいと通り抜けて、お店のご主人一家の家に入っていきました。
「おじゃましまーす……」
「おや、ゆきちゃんに、おじいちゃん。あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます!」
皆でお正月のあいさつをしました。こたつの前のテレビではちょうど箱根駅伝の復路をやっています。
こたつにぬくぬくと入っているのは、雑貨屋さんご一家と……それからきらきらとかがやくまあるい顔をした小さなこびとが、やはりテレビを夢中になって観ていました。
「真珠の妖精さんだ!」
ゆきちゃんが思わず叫ぶと、真珠の妖精さんはびっくりして振り返りました。
「あ、ゆきちゃん。どうしたの?」
「あのね、パフェに振りかけるきらきらパウダーがほしくて……」
「しまった、忘れてた」
真珠の妖精さんは、すきとおる羽でふわふわと飛んで、ゆきちゃんの手のひらにおりたちました。そして、どこからともなく袋を取り出して、ゆきちゃんにくれました。
「これ、きらきらパウダー! あたしは今駅伝見てるから、ゆきちゃんがチューリップに届けてあげて!」
「うん、いいよ」
ところが、ゆきちゃんが袋を受け取った時、おじいちゃんもテレビに夢中になっていました。
「行こうよ、おじいちゃん」
「うーん、もうちょっと」
「チューリップが閉まっちゃうよー」
駅伝に見入るおじいちゃんをなんとか引っ張りだし、ようやくゆきちゃんは、チューリップに向かいました。ジョンも一緒です。
チューリップにきらきらパウダーを届けると、店主さんはそれを使って、とびきりおいしいフルーツパフェと、おじいちゃんのホイップクリームのせコーヒーと、ジョンのためのおやつを作ってくれました。




