第12話 新たな旅立ちと、世界に散らばる古き者たち
魔王──いや、クロノが仲間になった翌朝、王都の屋敷は異様な静けさに包まれていた。
魔王軍の崩壊は一夜にして世界に知れ渡った。
黒い霧が消え、闇に染まっていた地域の空が青く戻り、
各地で「魔王が消えた」という噂が瞬く間に広がった。
王宮からは感謝状と金貨の山が届き、
冒険者ギルドは「ユウキの赤ちゃんパーティ」を公式に「世界平和貢献者」として認定した。
だが、俺たちはそんな栄誉に浸っている暇はなかった。
庭に集まった八匹の仲間たちを見ながら、俺は静かに言った。
「これで魔王軍の脅威はなくなった。
でも、世界にはまだ、長く生きすぎて苦しんでるやつらがたくさんいるはずだ。
俺たちは……それを救いに行く」
クロノが少年の姿で頷いた。
黒髪が風に揺れ、赤い瞳が穏やかに輝いている。
「俺も……一緒にいく。
数万年、ただ破壊しか知らなかった俺に、
お前は『生きる意味』を教えてくれた。
だから、今度は俺が、お前たちを守る」
モミジが枝を優しく伸ばしてクロノの肩に触れ、
ルビーが小さな炎をぷすぷすと灯して歓迎のサインを送る。
タコ丸は触手を伸ばしてクロノの指に絡みつき、
ピヨは頭上で小さな炎の輪を描いて喜びを表現し、
ソラは風を起こしてみんなの髪を優しく撫で、
クロは尻尾を振ってクロノの足元にすり寄り、
シャドウは闇の鱗を少しだけ光らせて「仲間だ」と示した。
全員が、静かに、しかし強く同意している。
リリアが地図を広げて言った。
「王都の図書館で調べたんですけど……
世界の各地に、まだ『古き守護者』と呼ばれる存在がいるみたいです。
彼らは魔王軍とは関係なく、数千年~数万年生き続けて、
孤独と疲労で動けなくなってるんです」
俺は地図を覗き込んだ。
北方の氷原に眠る「永遠の氷竜」、
南方の砂漠に埋もれた「砂の守護精霊」、
東方の深海に沈む「海底の古王」、
西方の山脈に佇む「天空の巨鳥」……。
どれも伝説級の存在。
どれも、長すぎる生に疲れ果てている。
「よし、まずは一番近いところからだ。
北方の氷原へ行こう。
永遠の氷竜……あいつを、救う」
その日の午後、俺たちは王都を出発した。
王女様が涙目で見送りに来て、
「絶対に無事で帰ってきてくださいね!」と抱きついてきた。
王様は「王国はいつでも味方だ」と約束してくれた。
旅の馬車は、ギルドが特別に用意した大型のもの。
中は赤ちゃん軍団専用のクッションだらけで、
みんながじゃれ合って遊べるようになっている。
道中、クロノが静かに話しかけてきた。
「ユウキ……お前は、なぜこんなに優しいんだ?
俺は……お前を殺そうとした側だったのに」
俺は笑って答えた。
「最初は、ただのゴミスキルだと思ってた。
でも、モミジを若返らせた瞬間、
『生きすぎて苦しんでるやつを、楽にしてあげられる』って気づいたんだ。
それが、俺の生きる意味になった」
クロノは少しの間黙ってから、
「俺も……そうなりたい」
と呟いた。
数日後、北方の氷原に到着した。
吹雪が荒れ狂う中、巨大な氷の洞窟が見えた。
その奥に、青白い鱗に覆われた巨竜が横たわっている。
【永遠の氷竜 年齢:推定1万2千年】
巨竜は目を開け、俺たちを睨んだ。
「人間……何用だ。
この身は、もう動けぬ。
去れ」
声は低く、疲れ果てている。
俺は一歩前に出て、右手を翳した。
「俺は、救いに来た。
若返りの一撃──マイナス一万二年!!」
青白い光が洞窟を満たし、
氷竜の巨体がゆっくりと縮んでいく。
鱗が輝きを取り戻し、
体が若返り、
最終的に……
子犬くらいのサイズの、青い子竜になった。
「きゅう……?」
子竜がキョトンとして、俺の足元に寄ってきた。
みんなが一斉に駆け寄る。
モミジが枝で優しく包み、
ルビーが暖を取らせ、
タコ丸が触手で抱き上げ、
ピヨが炎で温め、
ソラが風で浮かせ、
クロが尻尾を振ってじゃれ、
シャドウが闇で守り、
クロノがそっと手を差し伸べた。
子竜が、ゆっくりとクロノの手の上に乗る。
「きゅう……ありがとう……」
俺は子竜を抱き上げて言った。
「名前は『ヒョウ』でいいか?
氷のヒョウ……似合うだろ」
「きゅう♪」
ヒョウが嬉しそうに鳴いた。
頭の中にメッセージが響く。
【スキルレベルアップ:レベル6】
【新機能解放:複数同時操作(一日一回に限り、2体まで同時若返り可能)】
俺はみんなを見回した。
「これで九人目。
次は砂漠だ。
まだ、まだ救えるやつがいる」
吹雪の中、九匹の赤ちゃんたちが俺の周りに集まる。
小さな体で、大きな世界を変えようとしている。
クロノが微笑んだ。
「ユウキ……俺たちは、もう家族だな」
俺は頷いた。
「ああ。
これからも、ずっと一緒に」
赤ちゃん軍団が一斉に鳴いた。
「きゅう!」「きゅる!」「ぷにゅ!」「ぴよ!」「くぅん!」「くぅん!」「くぅん!」「きゅう♪」「くぅん!」
九つの声が、氷原に温かな響きを広げた。
旅は、まだ始まったばかりだ。
第12話 終わり。
(次回、灼熱の砂漠へ──
砂の守護精霊との出会いと、新たな仲間誕生!?)




